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イラク問題 揺らぐ国連の権威
国際基督教大 最上敏樹教授に聞く
世界的な反戦世論の盛り上がりを背景に、フランス、ドイツといった米同盟国が、イラク攻撃に待ったをかけ、国連安全保障理事会が割れている。米国は武力行使容認決議がなくとも、攻撃する構えを崩していない。イラク攻撃は国連の権威ばかりか、存在意義さえ危うくしかねない。国際機構論の第一人者である最上敏樹・国際基督教大教授に国連体制のあるべき姿について聞いた。(外報部・松川貴)
――現在の割れた安保理をどうみるか。
米英の決議案と、国際世論が大きな後押しとなり仏独の査察継続案が提出され、安保理を通じて事の是非を明らかにしようとしてはいる。ある意味で安保理が機能しているということであり、それは評価してよい。
――その裏で多数派工作が行われ、非常任理事国が揺らいでいる。
米国が経済援助をちらつかせ、多数派工作を行うのは湾岸戦争の開戦決議の際もあった。当時のベーカー国務長官が説得のために世界中を回った。それでも反対したイエメンは即座に七千万ドルの援助を打ち切られた。小国にとって経済援助には抗し難い。安保理のもう一つの現実でもある。
――米国は決議案が通ればよし、通らなくても攻撃する。
今回、決議が採択されれば、「安保理は結局、米国の道具にすぎない」となり、国連への信頼が揺らぐ。決議が否決されても、攻撃が行われれば、安保理の権威は失墜するが、決議なしの攻撃は現在の国連体制では許されない。仏が拒否権を行使するのは相当強硬な手段だが、手続きにのっとっており、行使が不当だとは言えない。どんなにおおざっぱな決議でも、武力行使にお墨付きを得たから攻撃してよい、となれば悪い先例を残す。ここで考えなければならないのは、安保理決議はすべて合法かということだ。それは国連体制にある根本的な問題を考え直すことでもある。
――具体的には。
ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で、(武器禁輸を決めた)安保理決議七一三をめぐり、この決議が(武器で劣る)イスラム教徒に対するセルビア人勢力による大量虐殺(ジェノサイド)を引き起こした、として訴える裁判が国際司法裁判所(ハーグ)で行われた。英国の国際法学者が弁護に立ち、決議は国際法違反と主張した。
そこで問題提起されたのが、安保理決議がいつも合法ではない、ということであり、決議は吟味する必要があるということ。国際司法裁の機動力を高め、安保理決議に関しても、一般の裁判にある「差し止め」請求のような仕組みを考える必要があるのではないか。
――世論調査では、戦争も反対だが、フセイン大統領もいやだと。
それはそうだろう。ただ国連の認める武力行使は、侵略行為の鎮圧を想定したもので、政権打倒のための武力行使が国際法で許されているわけではない。迫害される人々の生命に差し迫った危険がある場合は、「人道的介入」として、国連決議があれば介入できる、という解釈もある。だがその目的は、人を迫害から守ることであり、独裁政権を倒してよい、ということではない。
――独裁政権が増えている。
一九八〇年代、ナミビア、アンゴラといったアフリカの独裁政権が静かに倒れた。多機能型平和維持活動として行政支援を含む受け皿を準備するなど、国連の積極的な関与が奏功した。そういう本気の取り組みをしなかった、あるいはさせてもらえなかった地域がいくつかあり、それがイラクであり、北朝鮮だ。
侵略行為をするなどの場合はともかく、そうでないなら国連や影響力を行使できる国が国際包囲網をつくり、独裁政権を長期的にゆっくりと変えていく。そのための方法論は国連創設以来いくつも編み出されたはずだ。安保理決議があれば独裁政権の打倒も可能、というのは好ましいやり方ではない。決議さえあれば、何でもできることになりかねないからだ。悪い先例は悪い国際法へとつながるおそれもある。
◆もがみ・としき 一九五〇年、北海道生まれ。東京大学大学院博士課程修了。専門は国際法、国際機構論で、著作は「国連システムを超えて」「人道的介入」など多数。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/kakushin/20030303/mng_____kakushin000.shtml