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太陽に近づきすぎたイカロス
北朝鮮の核危機のさなか、韓国では金大中(キム・デジュン)政権が退場し、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権が発足した。
北風より太陽で北朝鮮を包容し、北朝鮮との新たな関係を築こうとする金大中政権の関与政策は、00年6月の南北サミットでそれこそ絶頂に達したが、その後、下り坂を転げ落ちていった。金正日(キム・ジョンイル)総書記は最後まで韓国訪問の答礼をしなかった。それどころか秘密に核開発を進めていた。それが明るみに出てからというもの、金大中政権は茫然(ぼうぜん)自失、満身創痍(そうい)でうずくまるだけの痛々しさだった。
金大中氏に対する韓国内の評価は概して厳しい。「落ちた偶像」のような扱われ方ではある。
「彼は急ぎすぎた。5年間に余りに多くのことを達成しようとしたため、金正日に足元を見られてしまった」
「彼は太陽政策に対する超党派の国民的合意をつくることを怠った。その結果、不必要に敵をつくり、政策を効果的に遂行できなかった」
「サミットの時の南北共同宣言では核はおろか安全保障についてまったく触れなかった。関与政策は安全保障政策との均衡を欠いた」
盧武鉉政権は金大中政権の北朝鮮関与政策を踏襲することを表明している。
それは、北朝鮮の体制崩壊を想定した「統一」ではなく政権維持を前提とする「和解」を目的とするだろう。北朝鮮との安全保障関係は軍事より政治として、関係調整は外交より内政としてとらえられることになるだろう。
しかし、前政権の太陽政策をそのままの形で続けることにはなるまい。
まず、太陽政策を裏打ちしたカネが続かない。現代財閥の金剛山観光ビジネスを隠れみのとした北朝鮮への現金供与は条件もつけず、何に使われたかも不明だ。今後はカネの切れ目が縁の切れ目、となる公算も大きい。
次に、北朝鮮との間で新たな取り決めの類を結ぶのは難しい。約束を守らない相手という評判がこうまで定着してしまうと、約束を守るかどうかの確かな検証を最初に取り付けないことには国内世論が納得しない。
それから、南北間の取り決めがもっと釣り合いのとれた内容でなければ取引は成立しない。韓国は北朝鮮に対して「兄貴」らしく振る舞えなどと甘やかしているから「弟」にいいようにやられているのだという不満が国内には強い。
つまり、金大中政権の太陽政策に欠けていたのは、透明性、検証、相互主義、である。
それに人権をつけ加えてもいいかもしれない。金正日体制の北朝鮮国民に対するすさまじい弾圧、迫害や北朝鮮からの難民、さらには韓国国民の抑留や拉致などの人権侵犯に対して金大中政権はだんまりを決め込んだ。
もっとも、金大中政権はアジア経済危機で破滅的な打撃を受けた韓国経済の改革を断行し、立て直した。ワシントンで会った米政府高官は「金大中へのノーベル平和賞は太陽政策ではなく経済政策に与えられるべきだったのでは」と笑いながら語ったものだ。大統領は経済立て直しのためにも北朝鮮との関係安定、つまり太陽政策を必要としたのである。
金大中氏にとっての誤算は、ブッシュ政権になってからの北朝鮮政策の振幅と動揺(とりわけ9・11後の北朝鮮に対する「悪の枢軸」発言)と北朝鮮の秘密核開発の発覚だっただろう。
金大中氏の不覚は、自ら親米派であるにもかかわらず、韓国内の反米主義を引き起こしてしまったことだ。太陽政策がうまくいかないと米国のせいにし、米国を生け贄(にえ)の羊とする新たな政治力学が立ち現れた。
それは北朝鮮に米韓のすき間を突こうとする誘惑を与える。
「北朝鮮が核秘密開発を認めた背景の1つに、それによって米国の対韓圧力の強化とそれに対する韓国の米国批判の激化を引き起こさせ、米韓関係を緊張させようとする思惑があったかもしれない」と米ランド研究所の報告書(『Sunshine in Korea』)は分析しているほどである。そして、同報告書は「核問題を解決しない限り、北朝鮮政策に太陽は二度と上がらないだろう」と断じている。
金大中氏の太陽政策の失速の軌跡を見るにつけ、ギリシャ神話のイカロスの墜落の寓話(ぐうわ)を思い出す。余りにも天空高く飛行したため羽を固めていたロウが太陽光の熱で溶けてしまい墜落したイカロスに似て、彼は余りにも太陽に近づきすぎたのかもしれない。最後は核という人工の太陽の熱線に焼かれてしまったかのように。