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米軍が検討する対「北」作戦
<02/10/2003>毎日インターナショナル
◇空爆オプションも念頭に◇
〜ワシントンDCから〜
米メディアはスペースシャトル「コロンビア」の事故報道一色だ。だが、イラクと朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に対する米軍の増強の動きは、事故に関係なく進んでいる。危機対応力を高めたブッシュ大統領は、むしろ戦争への決断を下しやすくなったようにもみえる。
特に最近では、北朝鮮に向けた動きが顕著だ。1月31日の米CBSテレビによると、米太平洋軍(司令部・ハワイ)のトーマス・ファーゴ司令官がラムズフェルド国防長官に対し、韓国に駐留する空軍兵力を約2000人増強するように要請した。同長官は最終決定を下していないというが、国防総省当局者によると、ファーゴ司令官の要請は認められる方向だという。
具体的な動きもある。三沢基地(青森県)にあるF16戦闘機と関連要員に対し、韓国内への派遣命令が出された。日本と韓国の米軍はともに太平洋軍の傘下にあるから、ファーゴ司令官の判断で動かせる。在日米軍が韓国へ派遣される初めての例だ。
同様な動きは今後も続くだろう。米国内のB1、B52の両爆撃機それぞれ12機に対しては、数時間以内にグアム島に出発できるように待機命令が出ているし、嘉手納基地(沖縄県)にもF15戦闘機が追加配備される動きがある。
こうした動きについてアーミテージ国務副長官は「米国がイラク問題に集中している状況を、北朝鮮が悪用する事態に備えるため」と説明した(2月4日の米上院公聴会)。
つまり、対イラク戦争で米軍が手一杯になっている時期に、北朝鮮がミサイル発射実験や燃料棒再処理などの動きに出ると米国は警戒している。それを封じるために、北朝鮮に向けた即応態勢を高め、2正面で戦える能力を示そうとしているのだ。
一方で、米国防総省当局者は「対『北』の軍事態勢はバランスあるものにしたい」とも強調している。臨戦態勢をとりすぎて、逆に北朝鮮を硬化させたくはないのだという。
横須賀(神奈川県)を母港とする空母「キティホーク」を中東に派遣した場合、代替として「カールビンソン」が極東に来ることになっている。しかし、日本海など北朝鮮に近い海域に展開して北朝鮮を刺激することは避ける計画だという。
◆特殊部隊による制圧も
ところで、米軍の動きは「抑止」――北朝鮮の動きを封じるための安全弁――のためだけとは思えない節がある。
ブッシュ大統領は、「北朝鮮を侵略する意図はない」と繰り返している。「侵略」(invade)とは地上部隊が攻め入ることで、言葉の裏には、「『侵略』はないが、空爆や、特殊部隊がピンポイントで核施設を制圧する事態はありうる」というメッセージも隠されている。
米軍の動きをみれば、ブッシュ政権が、特に空爆オプションを念頭に入れていることが垣間みえる。韓国での2000人増強もすべて空軍要員だし、F15、F16、B1、B52など東アジアでの動きが指摘される飛行機もすべて空軍のものだ。一方で沖縄の海兵隊はこの時期、フィリピンや沖縄沿岸で演習を行なうなど、北朝鮮に向けた動きは見せていない。
これらの事実から、対北朝鮮では空軍が主体となって、作戦を遂行する米軍の戦術がみえる。例えば、寧辺(ニョンビョン)の黒鉛炉の近くにある核再処理施設を限定的に破壊すれば、北朝鮮が燃料棒からプルトニウムを抽出できなくなる。
ニューヨーク・タイムズ紙(1月31日)は、北朝鮮がトラックを使って、燃料棒を貯蔵庫から再処理施設へ移動していると、米偵察衛星情報を伝えた。米情報当局は、イラク攻撃とほぼ同時期に3月にも、兵器級プルトニウムの生産が始まるのではと疑っており、アーミテージ副長官は先の公聴会で「再処理施設の再稼動で、4〜6個の核兵器を製造するのに十分なプルトニウムを25〜30キロ抽出することができる」と警戒感を示した。
先制攻撃ドクトリンこそ、ブッシュ政権の核拡散防止政策の根幹である。ニューヨーク・タイムズへのリークや、議会でのアーミテージ高官発言からは、「場合によっては先制攻撃をも辞さない」との米政府の密かな決意を感じる。
注目されるのは、昨年暮れぐらいから、米軍が対北朝鮮の作戦計画を見直していることだ。国防総省当局者は「計画の見直しは状勢の変化によって行なっているし、変化がなくても2年に一度は見直すことになっている」という。
対「北」作戦は通常、太平洋軍が責任機関となるが、今回は核に関する作戦と運用を総括する戦略軍(司令部・ネブラスカ州)が加わっている。これは、今回の作戦計画見直しでは、核施設に対する限定攻撃を想定していることを示している。
国防総省担当の米テレビ局の記者によると、空爆オプションだけでなく、特殊部隊を使った施設の破壊作戦も検討の俎上にあがっているという。核物質飛散の危険を回避するためだが、北朝鮮の各技術は外国に頼っているため一部を破壊するだけで再生不能になる事情を考慮しているようだ。
◆事故で立場を強めたブッシュ
一方、イラクではすでに9万人の兵力が集結し、2月末には倍になると見積もられている。コロンビアの事故にも関わらず、ブッシュ政権の戦争準備は止まらない。
米大手紙は、事故と戦争の関連を説明する記述を避けていたが、一部の地方紙には鋭い分析が載っていた。一例はミシガン州のデトロイト・ニューズ紙で、「シャトルの事故で、戦争への動きがペースダウンすることはない」との趣旨だった。
同紙に寄せた中東政策研究所(ワシントン)の客員研究員、レイモンド・タンター氏によると、国家的な危機が大統領の立場を強めることはよくあり、スペースシャトル「チャレンジャー」事故時のレーガン政権、コロンバイン高校乱射事件のクリントン政権もそうだったという。
同氏は、外交面でも対イラク戦争に懐疑的なフランスが事故に哀悼の意を表したのをきっかけに米仏関係が好転する兆しがみえるなど、事故はブッシュ政権のアジェンダへの追い風になっていると分析する。
支持率の反転や、国際的な支持取り付けに成功すれば、ブッシュ大統領は武力行使に向けますますフリーハンドを得る。それは「イラクだけでなく、北朝鮮も」との判断が下しやすくなる状況でもある。
★在ワシントンDCジャーナリスト・森暢平=サンデー毎日2月23日号(2月10日発売)連載中。
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