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反戦運動が盛り上がっても報道されない米国
2月5日の夕方、ニューヨークのタイムズ・スクウェアに1000人を超す人々が集まり、米国のイラク攻撃に反対するデモを行った。「イラク攻撃をやめよう」「戦争するお金があるなら雇用の創出を」。氷点下の寒さの中、10代前半の少女から、大学生、70代の男性まで、様々なバックグラウンドの人たちが、プラカードを手にブロードウェイを行進した。同日、米国務長官のコーリン・パウエルが、イラクは大量破壊兵器を保有しているという根拠を国連で発表するのに合わせて集まった。
主催したのは様々な平和団体の連合体である「インターナショナルA.N.S.W.E.R」。ANSWERとは「今行動しよう、戦争をストップさせよう、人種差別を終わらせよう」の頭文字を取ったものだ。参加者は、元米司法長官で湾岸戦争に関する著書で有名なラムゼー・クラークから環境政党の「緑の党」、カトリックの僧侶達、プロテスタントの牧師達、ユダヤ人の反戦活動グループ、イスラム教徒の平和運動グループまで実に幅広い。
●数万人規模の大規模なデモが相次ぐ
反戦と反差別がANSWERの最大の主張だ。「テロを憎む気持ちは私も同じだが、イラク攻撃は別の問題だ。中東などイスラム世界出身の人に対する差別もひどくなっている」。イラン系の米国人でニュージャージー州に住む32歳の女性教師、アナはデモに参加した理由をこう話す。テロ後、中東出身者やイスラム教徒に対する差別が米国では強まり、不当逮捕や暴力事件が後を絶たない、と多くの人権団体は主張している。
テロ後の米国は反戦運動があまり盛り上がらない国という印象が強かったが、最近ではそんなイメージは様変わりしつつある。昨年10月に同じANSWERが開催した反戦デモには10万人が参加、今年1月18日にはワシントンDCに20万人が集まった。同じ日にはサンフランシスコでも10万人が集まる反戦集会が開かれた。これはいずれも主催側の発表した数字だが、警察発表による数字でも数万人規模の大規模なデモだったことは裏づけられている。「ベトナム戦争以来の大規模な反戦運動が米国でも繰り広げられている」。多くの人がこうした見方をするようになってきた。
しかしながら、有力テレビ局などの主要メディアでは、こうした反戦運動があまりクローズアップされないのが現実だ。触れられても、わずかな時間しか割かれない。とりわけ米最大のニュース専門チャンネルとして有名なCNNは反戦運動に冷淡で、批判が強まっている。
●反戦CMの放映を拒否したCNN
1月下旬、米人気テレビドラマ「ジャッジング・エイミー」の主演俳優であるエイミー・ブレネマンらが出演する戦争反対の30秒スポットCMが撮影された。「私は自分の国を愛しているし、米国は安全であってほしい。しかし私たちは米国の兵士と罪なきイラクの人を殺す戦争は望みません。査察を継続することでサダム・フセインを押さえ込むことはできると私は信じています。私たちは戦争することなしに勝利することができます」。こうしたメッセージのCMだったが、制作者サイドによると、CNNは放映を拒んだという。
代わりにCNNが番組の合間に毎日頻繁に流しているのはこんなCMだ。「イスラエルは米国の友人です。イスラエルは同じ地域にある他の国々と違って民主的で、宗教の自由が保障されています」。このCMが流れる一方で、反戦運動のCMは放映しないというのであれば、多くの人がCNNは公平さを欠いていると感じても仕方がないだろう。ロサンゼルス・タイムズなど複数の地域の有力紙がこの問題を取り上げ、米国の有力テレビの姿勢を批判している。反戦を訴える様々な団体は、新聞やケーブルテレビなどの地域メディアに広告を出すことで、自分たちの主張を伝える方針を取っている。
「影響力の大きなテレビなどのメディアが反戦運動を取り上げないのは、米国にとって非常に大きな問題だ。政権寄りの偏向報道には辟易している」。タイムズ・スクウェアのデモに参加していたニューヨークのクィーンズ区に住む65歳のドミニクは不満をあらわにする。
●攻撃正当化の世論を盛り上げようとする米政府
イラク攻撃に関しては、クウェート侵攻という明白な侵略行為があった湾岸戦争と比べて、正当性を持たせるのは簡単ではない。確かにサダム・フセインは、過去に化学兵器の使用やクルド人の迫害などで数々の問題を起こしている。しかし「大量破壊兵器を多数隠し持っている」「テロを支援している」といった主張について、米国が今までに示した根拠はあまり直接的でないものが多い。しかも差し当たって、イラクが大量破壊兵器を他国への攻撃に使用する危険が高まっているわけでもなさそうだ。
これらの理由から、欧州ではドイツやフランスのように、大部分の国民も政府もイラク攻撃に批判的な国が少なくない。両国の最近の世論調査では、国民の約8割が国連決議なしのイラク攻撃に反対する姿勢を取っている。英国のように、政府は賛成でも国民の大部分が国連決議なしのイラク攻撃に反対している国もある。米国内においても、単独の武力行使については慎重な姿勢を取る人は決して少なくない。
それでも、もはやイラク攻撃は秒読みの段階に入ったことは間違いない。ペルシャ湾岸に既に大量に軍事力を集結させている米国は、今さら何もせずに引き揚げる考えは毛頭ないようにも思える。そのためには、イラク攻撃を正当化するような世論を盛り上げ、反戦運動はなるべく無視することが重要になってくる。世論形成のために米国は、外国人記者に金をばらまいてでも、好意的な記事を書かせようと考えていたことまで明らかになっている。財政的に困っている国には資金的な支援もちらつかせて支持を取りまとめようとしている。
●ナチスのゲーリングが語った言葉とブッシュ大統領
元ナチス・ドイツの幹部で一時はヒットラーの後継者に指名されたこともあるヘルマン・ゲーリングは、死刑判決を受けた1946年のニュルンベルグ裁判でこんな言葉を語っていた。
「もともと普通の人々は戦争をしたいと思っているのではない。しかし結局のところ国の政策を決めるのは、その国のリーダーたちである。民主主義であろうと、ファシズムの独裁であろうと、共産主義であろうとそれは同じだ。『自分たちの国が攻撃されている。愛国心のない平和主義者が国を危険にさらそうとしている』と訴えさえすればいい。この方法はすべての国で同じように効果的だ」。
米大統領、ブッシュはこのような政治的戦略の効果を極めて良く理解しているようだ。(文中敬称略、山崎 良兵=ニューヨーク支局)
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