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研究討論会:今後の沖繩米軍基地と日米関係
主 催:東海大学平和戦略国際研究所
会 場:東海大学校友会館(東京 三井霞ケ関ビル33F)
日 程:1996年11月15日 (金)
出席者(順不同):
ポール・ジアラ 米国防総省顧問,国防大学戦略研究所=NDU・客員上級研究員
マイケル・グリーン 国防問題研究所=IDA・主任研究員,ジョンズホプキンズ大学政治大学院講師
小川和久 国際政治・軍事アナリスト
渡邉昭夫 青山学院大学教授
宮里政玄 獨協大学教授
佐々木芳隆 朝日新聞記者
伊奈久喜 日本経済新聞記者
坂口 一 沖繩県企画開発部国際都市形成推進室・副参事
大塚聖一 外務省大臣官房海外広報課長
佐々木卓也 立教大学法学部助教授
武見敬三 東海大学平和戦略国際研究所次長・教授
白井久也 東海大学平和戦略国際研究所教授
榎 彰 同
安藤 博 同 (司会)
武田洋平 同 助教授
山田清志 同 教養学部助教授
旦 裕介 同
立原 繁 同 政経学部助教授
松井完太郎 国際武道大学講師
【武見】 東海大学平和戦略国際研究所を代表いたしまして,一言ご挨拶を申し上げます。本日は「今後の沖繩米軍基地と日米関係」をテーマにご議論いただくわけでありますが,日米同盟というものが将来,より不確実になる可能性があるとするならば,その発信源は日本においては沖繩,アメリカにおいては米国議会だろうと私は考えております。日米安保と沖繩の問題について,われわれはこの面からも,研究を進めていく重要性を認識しているわけです。それではまず最初に,ポール・ジアラさんから本日の討議のたたき台となる安保ならびに沖繩問題に関するご意見をお聞かせ下さい。
【ジアラ】 武見先生それにご出席の皆さん,ありがとうございました。このシンポジウムに参加できて,非常に嬉しく思っております。私は日米の安全保障関係について,この10年ほど関わってきました。その経験から言いますと,沖繩の基地の問題は,日米両国間の安全保障対話の中で,非常に重要な地位を占めるようになってきています。そこで沖繩の基地の問題に対するこれまでになかったような新しいアプローチについてご紹介したいと思います。基地の問題を話し合うときに,得てして沖繩の問題だけが個別にローカルな問題として捉えられがちです。本当は,日本におけるアメリカの基地という幅の広い見方をしていかなければなりません。
しかしながら,この今現在の論調を日本の側で変えていくというのは非常に難しいことかと思います。それは,日本にアメリカの基地を持っていながら,地域全体の安全保障ないしは世界規模の安全保障に対して日本が貢献しているということについて,十分に認識されていなかったからです。アメリカ国内ではある程度決定の方向に動いていて,しかしながらまだ十分に論議されていない問題というのがあります。冷戦後のアメリカ軍の海外前方展開部隊が同盟軍,同盟国とともに行動する際の役割についてです。この件についての日米間の話し合いの結果は,今後のアメリカの海外戦略に大きな影響を与えることになると思います。この問題について私なりに三つの提案をしてみたいと思います。
沖繩米軍基地の日米共同利用を
まず第1番目の提案ですけれども,沖繩の基地を含めた日本に存在する米軍基地全体を日米が共同利用できるようにオープンにするべきであると考えます。たとえば那覇空港とか,嘉手納空軍基地を日本の商用航空機がアクセスできるようにする。危機が発生した有事の際には,軍がこのような施設を独占的に使えることを十分確約したうえで,有事でない平時には商用及び軍用の併用が可能であると考えます。
ハワイに旅行された方はご存知かも知れませんが,ホノルル国際空港は,同時に空軍基地としても機能を果たしています。三沢基地は日本の民間機が離着陸しています。その一方でアメリカの空軍の戦闘機もここを使っているという両用が成立しているわけです。
2番目の提案は,アメリカ軍の基地と自衛隊の基地の統合です。日,米両軍間の相互運用性について色々な話が持ち上っていますが,実際には共同演習することはまれです。この統合案にそってたとえば日本の航空自衛隊あるいは海上自衛隊が嘉手納,横田空軍基地などで米軍と一緒に演習することにより,在日米軍基地の問題が自分自身の問題であると日本側も認識してくれるのではないかと思います。今の状態ですとアメリカが非常に苦労しているのを傍観しているにすぎません。
3番目の提案は,沖繩米軍基地の行動あるいは能力,あるいはその部隊をある程度本州のほうに移すことです。例えば嘉手納基地に現在置かれている空軍部隊の中の偵察部隊,これなどは三沢基地に移転することは可能だと思います。また陸軍についても移転することは可能であると考えます。しかし,移転には限度があります。嘉手納に現在展開している空軍部隊のほとんど,それから海兵部隊のほとんどは,やはり継続的に一貫した形で連携しながら運用していく必要があります。
以上のように,考えうる提案にはいずれも限界があります。私としては,米軍の前方展開部隊は他のどこよりも沖繩に駐留している必要あると考えます。したがって,問題を沖繩の中で解決しようとしても限度があり,強いて代替案をあげれば,米軍の撤退以外にはないことにななってしまうわけです。
数日前にアーミテジ氏(元米国防代官補)が海兵隊の規模縮小に賛成するという発言をされました。この発言には一つの前提があり,朝鮮半島がかなり安定した時点であれば,海兵隊は沖繩にそれほど必要ないであろうということです。アーミテジ氏と私はほとんどの点で同じ意見ですが,この発言については反対せざるをえません。というのは朝鮮半島の問題が解決した時点において,海兵隊の必要性は低下するどころか,むしろ必要性が高まると考えているからです。
日本に駐留する米軍の役割は多岐にわたります。その一番目として,日本を防衛するということ。2番目に危機に対応する能力を提供すること。3番目に,アジア太平洋地域の安定を維持していくこと。そして4番目にペルシャ湾岸までの作戦行動を支えるということです。1960年代も,また「砂漠の楯」,「砂漠の嵐」の作戦でも,湾岸地域に一番乗りをしたのは沖繩の海兵隊でした。そして空軍の中でも第5空軍部隊がかなり早い時期に乗りこみました。この事実に加えて非常に残念なことですが,日本が湾岸戦争に対して130億ドルも拠出する貢献をしたにもかかわらず,また,湾岸戦争で果した沖繩米軍基地の役割について,全く感謝もされなかったわけです。
沖繩問題は幅広い問題の一つの代表例,象徴です。沖繩の海兵隊や空軍のプレゼンスを幅広い戦略的な観点から見ることによって,はじめて沖繩の問題は解決されると思います。
* * *
【司会】 最初お二人の方に5分程度のコメントをお願いいたします。渡邉先生と佐々木さんに。
【渡邉】 ジアラさんがおっしゃいました「アンコンベンショナル・アプローチ」(斬新な対策)というのは,大変おもしろく拝聴いたしました。日本とアメリカは国際安全保障という名の公共財を共同で提供すべきものである,というのが私の立場であります。従って,日本とアメリカのパートナーシップというものを,あらゆる可能な形で表現することが必要だと考えています。基地や関連施設のあり方についても同じことが言えると思います。従来の日本とアメリカとの間の安全保障の関係というのは,非常に簡単に言えば,日本が基地や施設をアメリカに提供し,アメリカがそれを使って,いろいろな行動するというものであったと思いますが,そのような形態というものは,もはや使用に耐えないようになってきた,というのが私の考え方であります。
従ってそういう,日本とアメリカが国際安全保障の共同提供者の言う見地から,幾つかのことが改めなければならない。二つの大きな仕事があると思います。一つはガイドラインとか日米役務相互提供協定(ACSA)とか,ということに関連して今行われていることであって,日本がある種の緊急事態発生の場合にどう行動するか,というたぐいの話になります。
もう一つが,先程からいわれている基地の使用と管理の形態について,共同利用,ないし共同管理という形に変えていくということだと思います。この二つのことは私も関係いたしました防衛問題懇談会のレポートの中に,少なくとも部分的には含まれていると思います。ということで私にとっては,ジアラさんの今日の提案の基本的な方向というのは,大方異論のないところであります。ただジアラさんの提案はある意味ではよりラジカルだと思います。というのは二つの点で。一つは,単に日本とアメリカの間の,あるいは米軍と自衛隊の間のパートナーシップということにとどまるのではなくて,民間とのパートナーシップ,という考え方を全面的に出されているからであります。
もう一つ注目すべきことは,同じく政府レベルと言っても中央と地方の間のパートーナーシップという問題を,もっと正面から取り上げなければいけないということを非常に強く出されている点であります。この二つの点で私の考えていた線を超えた非常に斬新な提案だと思って,大変啓発される所が多かったというように申しあげます。これが第一点。基本的に異議なし。非常に私は勇気づけられた。その上に立って2つ3つ具体的な問題について質問したいと思います。第一はジアラさんがさきほど,個人の立場としてご意見をおっしゃったことは分かっていますが,その上でこういう考え方がどの程度アメリカの国防問題専門家たちの間に行き渡っているのか,あるいは,これからそうなって行くのかということについて,もうちょっとご意見をお聞かせ願えればと思います。
さっきアーミテジさんの事に触れておっしゃったこととも関係するわけでありますが,アメリカではまだ在日米軍基地問題についてはコンベンショナル(旧来の)な考え方というのが支配的であって,ジアラさんのようなアンコンベンショナル・アプローチというのは,国防問題専門家全体としていえば非常に異端的な少数者の見方という事になるのかどうかであります。この問題に関連して,特に海兵隊の存在意義についていろいろ議論があり,アーミテジさんだけじゃなくてマイク・モチズキとかいろんな人が発言しています。
この点についてジアラさんは,冷戦後のアメリカ海軍の新しい基本戦略の方向として,海からの戦力投射という考え方が非常に強調されるようになってきて,その中では海軍と海兵隊の間の連携の問題が議論されているという説明をされました。そういう意味からすると海兵隊の存在というのはあまり狭く考えるのでなくて,むしろ新しい状況において新しい役割が見直されているということらしくて,これまで私,あまり聞かなかった説明ですので大変感謝しております。アメリカの国防問題専門家たちの中で,最近発展しつつある考え方をジアラさんのこの説は代表したような考え方なのか。それとも依然としてコンベンショナルな見方が支配的なのか。
第2点は質問というかコメントですが,基地は民間の経済的な要素を阻害するものではなくて,むしろそれにプラスになるような形にもっていくことが大事であるという議論。これは非常に新しい考え方だと思って,興味深くお聞きしました。そこで基地の問題を考えますと,大雑把に言って地理的に二つに分かれるのではないか。一つは人口密集地域,もう一つは人口の少ない地域,つまり過密と過疎の地帯の基地問題です。過疎の地帯は基地ウエルカムですね。ほかに収入の途が少ないわけですから,むしろ基地があるということは一般に歓迎されるわけです。
もちろん騒音問題とか基地に伴う公害をどうするかという問題はありますけれども,基本的には歓迎です。問題は人口密集地の基地ですね。たとえば横田とか横須賀とか厚木,いわゆる首都とその周辺地域の基地をどうするかという問題と,もう一つは沖繩です。こういう所では基地の存在は民間の生活と摩擦を起こす。そういう意味で基地はマイナスだとなってくるわけで,沖繩ではそれが今問題になってきているのです。私が2,3年前沖繩に行った時に,従来型の基地反対ではなくて,沖繩の日常の市民生活をもっとスムースに行うために,町のど真ん中にある基地が邪魔になるということを聞きました。民生と基地をどう両立させるかという問題です。
この点ジアラさんの考え方は,そういう民間のニーズと基地とが共生できるような形でいくべきであるという,大変新しい考え方だと思うのです。基本的に私は大変勇気づけられるのですが,具体的にそれを実行に移していこうとするときに,いろいろな問題がでてくるだろうという気がするわけです。例えば嘉手納をどうするとか,普天間をどうするとか,那覇軍港をどうするとか,という個々の問題についてはいろいろ甲論乙駁があるところだろうと思うのですけれども,大筋においては大変建設的で,これから長期的に基地問題を考えていく場合,大変示唆に富むお話だったと思います。
【佐々木(芳)】 私は今の渡邉教授の話との重複を避けつつ,かつジアラさんが指摘した,日本の国内における安保論議の硬直性といいますか,後進性といいますか,そのことを恐れずに,そういう角度の物の見方をする日本人はまだ数多くおりますので,そういう立場からコメントを申し上げたいと思います。
不徹底に終った議論
まず第1点は,日本国内における安保ないし基地問題の議論のしかた,という観点からアプローチしたいと思います。私個人としては,この4月に橋本首相とクリントン大統領が署名した日米安保共同宣言の方向性,つまり日本が米国との同盟を踏まえてこれから生きていくという方向性は好ましいものだと基本的に考えております。しかし,この日米安保共同宣言は,1960年に改定されました安保条約の条文,その他付属規定を見渡してみましても,明文としてはまったくどこにも書かれていないことを言っているわけです。にもかかわらずその実は国会では,条約の批准に相当するような議論の手続きがとられておりません。
そのせいもあって日本の国内においての議論が不徹底に終わっているわけです。先般行われました総選挙でも,この点についての与党側の本格的な問題提起はもとより,野党側の挑戦もなかなら見当らないというのが現実であったことを指摘しなければなりません。従って,このような安保条約再定義の目ざす基本的な方向が好ましいものであるとしても,そのための日本国内における議論,あるいは米国の議会などでも議論がもっと行われなければいけないのではないか。特に日本国内における議論の停滞を指摘しておきたいと思います。
第2点は,ジアラさんのお話の中のアンコンベンショナル・アプローチについて申し上げたいと思います。非常に大胆なことをおっしゃっていただいて,興味深くお聞きしましたし,ペーパーも読ませて頂きました。ただここにある民間,米軍,それから自衛隊の共同利用の概念を沖繩にあてはめますときに,自衛隊が入ることが,おそらく障害になるのではないかと感じております。ジアラさんもこのペーパーの中に縷々申されておりますように,沖繩地上戦の歴史がありまして,沖繩の人々はあの大戦以来,戦争や基地の重圧にさらされ続けてきたわけです。その中で,沖繩の人々は自衛隊というものを,必ずしも好ましい存在だとは思っていないという実態がありまして,事実現地に行きますと警戒や嫌悪の声が聞かれます。
そういう意味で沖繩固有の条件を考えます時に,自衛隊が米軍基地に乗り入れることは,民間が米軍基地に乗り入れて経済開発に開放していくという方向とは,はたして同義語でありうるかどうか疑問に思われるわけです。しかも,今のお話の全体像を見渡しますと,日本本土の沖繩化といいますか,そのような感じを受けます。こうした点についてかなり掘り下げた議論を日本国内でしておくべきでしょう。こういう話が突然国民の目の前に登場しますと,もともとある観念と新しく提起されたものとの間の落差が非常に大きくて,国民的な混乱をもたらすのではないかという懸念を持ちます。
【司会】 ジアラさん,渡邉先生からご質問があった点について,お答えお願いします。
【ジアラ】 私の考え方が主流にまでなっているのかということについては,中々申し上げるのは難しいところがあります。非常に詳細の論議がこの問題について行れておりますが,官僚側が新しいアイディアを採用するのはなかなか難しいだろうと思います。これが第1点です。次に海軍のドクトリンについてですけれども,海軍と海兵隊を統合するという意味合いは,冷戦時代と現在とは違うというように思います。海兵隊の前方展開はこのドクトリンの中でこれまでないほど,重要性が高まってきていると考えています。
海兵隊のプレゼンスの規模縮小の議論は,そういった意味で戦略的な重要性を見逃しているのではないかと思います。まず第1点としまして,海兵隊は艦艇に乗ったり降りたりするということが一つあるわけですけれども,それ以外にも心理的な抑止力として,海兵隊が前方展開の上で非常に大きな価値を持っているということについて,十分な認識がなされていないのではないかと思います。演習上,作戦上の柔軟性もそうですし,また部隊を十分に使いこなすという意味での,重要性が誤解されていると思います。
ここから導ける結論というのは二つあると思います。まず第1番目の結論としまして,沖繩というのは基本的に海をベースとした一つの土地であるということで,ここにプレゼンスを置くことで艦艇に乗ったり降りたりしなくても,沖繩から直接効果的に展開できることです。海兵隊が艦艇に乗らなければならない事態が発生するのは,例えば沖合にプレゼンスを置かなければ目的地に行くことができないとか,あるいは陸から海に対して何らかの攻撃があった場合
とかに限られます。これがまず第1番目の結論です。
第2点目の結論ですけれども,沖繩に前方展開部隊があるということは,政治的にも心理的にもアメリカ軍が日本の防衛,それから地域の安定,さらにアジア太平洋地域からペルシャ湾に至るまでの作戦,演習に対しても,コミットしているということを表わしています。つまり沖繩の海兵隊は危機に対応することをすでにコミットしていて,この部隊の実際的な行使は,事前に認識されている事実であるということです。そういった意味では,日米両国にとって沖繩の海兵隊の前方展開部隊の存在というのは,非常に大きな価値をもっている。ということは,ハワイに移転したり別の場所に移転したときの場合と比べて,沖繩の海兵隊の前方展開部隊の価値は非常に大きいと言えます。
【司会】 佐々木さんのコメントに対して,ジアラさんいかがですか。
【ジアラ】 私は佐々木さんがさきほどおっしゃった点については,その通りだと思います。一般市民の議論,あるいは国会での議論をもっと刺激していく必要があり,それは非常に重要なことだと考えています。 佐々木さん指摘されたように,4月の日米安保共同宣言の戦略的な意味合いは,日本が一つの安全保障協定を越えて,今後地域の安全や,グローバルな安全保障に対して貢献をしていくということであったかと思いますけれども,それを実現するためには一般国民の間で,また国会の中で硬直的な話し合いでなくて,もっと自由な話し合いをすすめていく必要が出てくると思います。
そのための合意を得るための唯一の方法は公開された討論をしていくということであって,秘密裡の閉鎖的な環境での話し合いによって,これを実現することはできないと思います。それからもう一つ。もしかしたら誤解を招いたのではないかと思われる点について,確認させて頂きますと,自衛隊とアメリカ軍の統合についてですけれども,これは新たに自衛隊を沖繩に持ち込んで,それと現在あるアメリカ軍と統合していこうという提案ではありません。すでに海上自衛隊と航空自衛隊が那覇に存在しております。
沖繩でもすでに自衛隊がいるのに,これを別々の分離した構造にしておく理由はないと思います。例えばアメリカ軍機が那覇から飛び立って,自衛隊機が嘉手納から飛び立つというようなことがあってもいいのではないかと思います。あるいは嘉手納にありますP3機,これを那覇から使うということがあってもいいのではないかと思います。例えば那覇にもF15があって,嘉手納にもF15がある。だからそのための修理施設を別個に二つ用意する,あるいは物資供給のための倉庫を別々に二つ用意するという必要はないのではないでしょうか。防衛に関するガイドラインの理解が正しければ論理的な結末は,アメリカ軍と自衛隊の新しい統合ということではないかと思います。
【佐々木(芳)】 一つだけお尋ねしたいのですが,ジアラさんがこの論文の中でレシプロカル(互換的)という言葉を使われて,米軍基地を自衛隊が使えるようにするのだけれども,米軍が自衛隊基地を使えるようにもするという趣旨のことを言っておられます。危機の場合として,この事を研究されてますね。つまり全体的にとらえると,日本本土の沖繩化といいますか,そういう基地の使い方につなげていこうという,そういう発想ではないのですか。
【ジアラ】 いや,違います。将来的には軍が縮小の傾向にあるということは,アメリカでも日本でも明確だと思います。冷戦が終焉したということで,脅威が低下した。しかし,少なくともアメリカ側においては,作戦上の責任というのは,決して低減してきたわけではありません。そういう中での一つの方法として,日米双方が持っていてそれぞれ提供できるものを共用していこうという考え方が生まれてくるわけです。これは経済的にも意味のあるものとなりますし,また同時に日本の貢献の度合いを増加させていく点でも,意味があると思います。ですからガイドラインが作られた動機の一つには,日本の貢献の度合いをどのように高めていくかということがあります。
【宮里】 私はこの中で唯一の沖繩出身で,沖繩で生まれ育った者です。現在は本土に住んでいますけれども,この場では沖繩の人の意見を代表する形になります。ただいくつかの点を指摘しておきます。一つはジアラさんやほかのアメリカ人の話を聞いていますと,日米安保は非常に変質した。つまり安保は中東まで,とにかく範囲が広まってきたということです。事前協議は問題とはならない。これはおそらく日本の国民の間では十分に意識されていないし,討論されていない。
もう一つは基地縮小なんですが,沖繩基地を移転するといっても,それには限界があるということです。海兵隊の存続を前提にした上での基地の共用利用は賛成できない。日本の防衛力の貢献の問題にも憲法上の制約がある。こういったことを前提とした上で,沖繩の人にこの沖繩基地というのが,安全保障のために必要だからがまんしてくれということを説得することは,非常に難しいと思います。これで思い出すのは,キャラウエイ高等弁務官です。キャラウエイはこう言っています。結局沖繩の自治というのはあり得ない。
反共基地である沖繩に生活している住民というのは,米軍と同じであって,米軍に協力する義務があると。だから復帰とか自治拡大とか言わずに,もっと経済的な問題に専念すべきであると。(逆説的には)沖繩の復帰を最も助けたのはキャラウエイの政治である,そういう意味でキャラウエイは沖繩に非常に大きな貢献をした。現在の状況で私はジアラ氏の提案が沖繩に受け入れられるかと言うと,おそらく無理だろうと思います。日本本土の沖繩化という言葉自体にもかなり抵抗があるんです。どうして沖繩化がダメなのか。
変質した日米安保
【大塚】 個人的な意見を述べさせていただきます。3点あります。第1点目は政策レベルでの議論なんですけれど,米軍の前方展開の意義付けが変質したということは,日本の国民一般にも広く理解されているだろうと思います。しかし,日本にとって日米安保条約がどのように変質したかについての議論はまだ十分ではなくて,国民レベルでの議論が必要だと思います。
その際,重要なことはジアラさんもおっしゃいましたけれども,日本は今後対中関係で安保条約の意義をどう考えていくのかという点が,いろいろなタブーもあって,不明確な部分がある。その一番いい例が,先般尖閣諸島に安保条約が適用されるかどうかという議論がありました際に,ワシントンの考え方と東京サイドの考え方,受けとめ方にだいぶ差があった。それをどんどん拡げていくと結局日本の対中関係,あるいは米国の考えているアジア,特に安保条約の意義に関する認識について,日米間に食い違いがあるのではないかと思います。
それからもう一つの視点としては,国連平和維持活動(PKO)協力法によって地域紛争に対
して自衛隊の参加を含めた行動のあり方が法制化されているわけですけれども,日本としては在日米軍についても地域紛争抑止のための勢力,あるいは軍事力としてPKOに近いものと捉えていくのか,あるいは依然として在日米軍とPKOによる地域紛争抑止というのは,どこまでも両者を明確に分けて考えていくのか。そういうところが議論のポイントかと思います。第2点目ですが,ジアラさんが言われた民間と軍事のインフラ共同利用という考え方は,非常に新しい要素を含む興味深いものであると思います。
理念的には極めて賛成できるものです。ただし,私は沖繩の基地問題解決に関して,この民間と軍事施設の共同利用を考えていく場合に,まず米国としてやるべきことは,4軍が施設を共同利用するなどして,少しでも基地の縮小を図ることであると思います。例えば奥間レストセンター,これは空軍のレクリエーション施設です。それから嘉手納マリーナ,これも空軍の施設ですね。泡瀬ゴルフ場,これは海兵隊だと思いますが,そういった施設をまず民間と共同で活用していく。あるいは4軍が共同で使えるような態勢にしていくことが,第一歩ではないかという気がいたします。
それから3点目ですが,自衛隊との施設の共同利用,あるいは有効利用という点についても観念的には賛成ですが,さきほどからの議論と同様,沖繩問題の解決策としては,このアプローチは現実にはとれないのではないかと考えます。沖繩問題について自衛隊の施設の話を持ち込むことは,問題解決をかえって複雑にします。また自衛隊の施設との共同利用ということは,最終的には日米安保条約について日本側と米側の考え方の食い違いがある場合には,現実的にはうまく進まないのではないか。
【安藤】 私が朝日新聞の記者で鹿児島にいた当時,沖繩の高等弁務官だったキャラウエイはタイラント(専制君主)として有名だった。宮里先生はジアラさんのペーパーを読んで,タイラント・キャラウエイを思い出したと言われたけれども,ジアラさんはこのコメントをどう思われますか。
【ジアラ】 タイラントになろうと思えばなれますが,ならないように気をつけています(笑)。
【宮里】 私が言ったのはタイラントという面ではなくて,要するに沖繩は基地と共存していかなければならないということです。沖繩の人はそれによってかなり崇高な義務を果たしているのだということを受け入れて協力させようというように聞こえるわけです。それはキャラウエイが言ったように反共基地の住民は,アメリカに協力すべきであるということと同じではないか。
【小川】 このアンコンベンショナル・アプローチは,私が後で話すものとわりと重なるのです。ですから私は日本政府が雇ってくれないからアメリカ政府に雇ってもらえるのではないかと思っているんですが(笑)。こういう中で,ジアラさんの方から日本は戦略的問題に関する議論を避ける傾向があるというご指摘がありましたが,これは私自身がずっと日本国内で指摘した問題でもあります。
日本側で戦略的な問題をきちんと研究をし,ジャーナリズムも含めて,きちんと議論を重ねていれば,日米安保条約の変質というものについての議論も変ってきたのではないか。あるいはアメリカが何かを命じて,日本がそれを受け入れるだけの関係からとっくに脱出することが出来ていたのではないか。それが私の考え方であります。しかし,日米安保の本質は,安保条約締結以来,一貫して変わっていないという認識を日本が持つことが,まず議論の出発点になるだろう。
それを日本としてどのように受け入れるのか,どのように日本側のイニシアティブで変えていこうとするのか,それが問われているわけです。戦後一貫してタイラントに支配をされてきた時代の意識で,日米関係の新時代を築くことはできません。沖繩の方々が味わった苦しみというのは,私は体験しておりませんので,同感できるとは言えないわけであります。
ただ,少なくとも私は終戦の年に生まれて,先ほどジアラさんにもお話ししましたが,我が家はアメリカの海軍司令官の宿舎として,12年間接収をされております。しかし,そのもとであっても,私の母親はアメリカのジェネラルやアドミラルを英語で怒鳴り飛ばしていました。彼らは「イエス・マーム」なんて,敬意を表してました。つまり,私が親から教わったのは,アメリカ人は80パーセントぐらいはリーズナブルな意見なら,耳を傾けるということです。そのへんも日本はもう少しきちんと整理をしないと,まともな議論の前提条件は築けないと感じがしています。
* * *
【司会】 グリーンさん,大塚さんが言われた2番目の問題点,米4軍の施設の共同利用についてどうお考えですか。例えば海兵は海軍と一緒のゲートを入って同じ施設を使うのは嫌だという,このことが全体として施設用地をたくさん取る元になっているという話なのですが,この問題について何か話していただけませんか。
【グリーン】 外務省の方が通産省に入りたくないのと,同じではないでしょうか(笑い)。縦割行政というのは,やはりどの国にもどの社会にもあります。海兵隊は誇り高いし,空軍は軍でないというような冗談を皆言いますけれども。ただ,最近の国防総省では,四軍の統合性がものすごく重要なテーマで,例えば国防大学の最近出している本は,カバーが紫で,緑でもない,青でもない。要するに海軍でもない陸軍でもない(笑)。4軍の統合性の象徴として最近は全部紫です。紫はあまり軍事的な色ではないかもしれないけれども。
【ジアラ】 私は,海軍が最高の軍だと思うわけです(笑)。海軍の中には陸上兵力もあります。また,空軍力もあります。これは我々が抱えている内部的な困難な問題でもあるのですけれども,こういうことがあるから人生は面白いとも言えるのです。しかし,こういう問題は日本の自衛隊の将来の問題でもあると思います。特に新たな戦域ミサイル防衛などを考えていきますと,将来でも起こり得る問題だと思います。
新しい戦域ミサイルのスピードというものがどれくらい早いかということはなかなか想像しにくいので,難しい問題ですけれども,実際に陸上自衛隊が海上自衛隊に連絡をとって,また,そこからほかの自衛隊に,さらにアメリカ軍にも連絡をとるというようなことを同時に行わなければならない。ミサイルの早いスピードに対応して,迅速な連絡が必要だということが,効果的なミサイルの運用にとって必要になってくると思います。
ですので,こでの議論の重要な点としては,今後の軍の形というもの,システムというものを十分に機能できるような形に導くこと,また,政府の中にあるシステムを機能できるようなものにしていくことだと思います。正直に言いまして,沖繩には地元の利害関係が二つに分かれていると思います。一つの利害というのは,もちろん沖繩に住んでいる住民の利害です。そしてもう一つの利害というのは,軍に関連する利害です。どちらの利害を代表している側も非常に頑固であって,あとに引かないということで,これが問題の解決を難しくしています。
だからこそ,私が申しましたように新しいタイプの解決法というものが求められているのだと思います。この新しい解決法が見出されなければ,今現在の行き詰まり状態を抜け出すことはできないと思います。しかし,変化も起こり得るものです。アメリカにおきましてはグリーンさんがおっしゃいましたように,軍の紫色化というのがあり,これが12月に10回目の誕生日を迎えます。確かに変化に対する抵抗は残っていますけれども,しかし,アメリカ軍の上層部のほうから変化が出てくるはずです。
もうキャラウェイ時代ではない
【渡邉】 私が言いたいことの初めのところは,小川さんがおっしゃっていただいたのですが,ちょっと補足させていただきます。それともう一つの点。宮里さんの気持ちはよく分かるのですが,やはりいまはキャラウエイ時代ではないと思うのです。かつては沖繩と言うより,日本とアメリカとの間に,そういう心理的な関係があったと思うのですけれども,今やそれは変わらなければいけない。そういう新しい心理的な状態の中で,日米の安全保障関係をどう考えるかという時代に入っているのだと思います。
日米安保再定義をめぐる議論で,少なくとも私はそちらの立場にいたと思うのです。こういう議論が全くないと新聞の方がおっしゃるのは,私は大変反対であって,それは怠慢だと思います。まさにそういうことを議論してきたのではないでしょうか。関心がないというのは,政治家が安保問題をさきの選挙の争点から外しただけであって,それはそれなりの理由があったわけです。だからといってそういう問題意識が消えたわけではないし,今さらまた元に戻って,アメリカがこう言うから,しょうがないから,我々もこうしようかなと,そのような受身の議論をいつまでもやっていたのでは,私は今後の日米関係はあり得ないと思うのです。これが第1点。
この点はもっと上手な仕方で,小川さんがおっしゃっておられたので,それは言いませんが,その上に立っていえば,これは佐々木さんの説に私は賛成だし,残念ながら沖繩の人は,反ワシントンより反東京なのです,ある意味で。そこが沖繩の人の心理の非常に複雑なところであって,したがって,反米軍というよりは,反自衛隊であるというところがある。
だから,この問題を処理するときに,自衛隊を変な形で絡めると難しくなるだろうというのは,私は残念ながら事実だと思うのです。だから,そこのところを実際にもっていくときにどう扱うかということは,相当微妙な問題だと思うので,それをあまり無神経にやると,かえって逆効果になることは考えておかないといけないだろうというのが,私の意見です。
【宮里】 要するに沖繩側からみますと,沖繩の選択肢は2つしかないと思うのです。一つは,今小川さんがおっしゃった,経済問題を主にやっていくということです。日本政府に期待しながら,しかも基地の機能を減らしていく。しかし日米間では恐らく基地の縮小に合意するのは難しいかもしれない。そうした場合には,恐らく大田知事は危機に直面するだろう。もう一つの選択肢は,日本政府を通じて沖繩基地を維持するという主権の枠をはずしてしまうということです。つまりそれは沖繩の独立です。問題は多くあるかもしれませんが,少なくとも日本政府を通じて基地が維持されるということがなくなる。恐らく沖繩にとってそのほうがやりやすいかもしれない。それは沖繩にとってのオプションの一つです。
【佐々木(芳)】 メディアの側が戦略思考が不得意である,鈍感であるという面,それからメディアの側に怠慢があるというご指摘,実は私メディアの一員としての立場から,まことに共感しています。そのために私はコメントの冒頭で,後進性と硬直性についてあえて申し上げたのです。しかし,それでもなお,安保条約の決定的な変質について国民的の議論をしておかないと,それが非常に重要な問題であるだけに,もろい体質を露呈してしまうのではないかということを再び指摘しておきたいと思います。
【司会】 伊奈さん,それから坂口さんも一言ずつお願いします。
【伊奈】 二つちょっと言いたいのです。一つは,日米安保の変質という話についてです。小川さんは日米安保条約の変質と言われ,宮里先生は日米安保の変質とおっしゃったけれども,何が変質したかということです。それは日米安保条約が変質したこととは,多分違うのだと思います。むしろ日米安保体制というのが変質したのかもしれないと思うのです。
ただ,もっと変質したのは,日本の安全保障を考える要素といいますか,安全保障環境が変質したのだというのが,もっと正確な理解ではないかと思うのです。つまり,渡邉先生がおっしゃったように,日米というのは国際的な公共財とおっしゃったかな,そういうものを提供する義務があるかどうか知りませんけれども,そういう立場に立つとすれば,提供する手段が日米安保条約に基づいたものだけではないということで,日本の安全保障環境が変質したといえば変質しただろうというように,僕は頭を整理しながらご議論を聞きました。
それが1点です。もう一つは,安保再定義について議論があるないという話です。佐々木さんがおっしゃったことを,渡邉先生がちょっと批判されたようですけれども,私も佐々木さんと同じメディアの一員で,率直に言えばこういうことだと思うのです。私は論説委員ですけれども,何か事が起ったときに,そのことを肯定的に書くことを,新聞記者はあまり好きではないのです(笑)。ですから,肯定的に書くときは,何か否定的の要素を見つけて書かないと気がすまない,こういうことではないでしょうか。
【小川】 ちょっと1点つけ加えます。日米安保の変質とか,条約の変質というのは言葉の表現の問題なのです。ただ,体質の変化としてながめた場合には,変質していないという言い方でいきたかった。つまり,日本側が理解している日米安保の役割とか位置づけと,アメリカが期待し,理解しているものとは全く大きな乖離のもとにあった。アメリカは海軍国なのです。だから,海軍と海兵隊が一番担当区域が広い。
空軍は(北東アジア,南西アジアなどの)戦域なのです,担当は。陸軍はもっと狭いのですけれども,海軍を中心にしてながめた場合,戦略的根拠地である日本列島をもとにした海軍の展開範囲というのは,もともとの第7艦隊の守備範囲で言うと,ハワイからケープタウンまでなのです。そういう中でのパワー・プロジェクション(戦力投射)として,アメリカは一貫して考えてきている。ただ,日本側の認識とすりあわせるために条約の条文については,これまで極東の範囲とかいうことを言ってきた。それは変わったというだけです。
【坂口】 今までいろいろな議論が行れてきましたが,沖繩にとっては,米軍の世界戦略上,沖繩が必要かどうかは,どうでもいいことです。どうでもいいというのは変な言い方なのですけれども,沖繩はいわば戦後50年間,どういうわけかその主体的思想とは全然別個のところで決められた役割を果たさせられてきた。そういうことは50年以上我慢してきたのだから,もうここらへんでやめさせてくれというのが,今回の沖繩の言い方です。
だから,いくら日米関係の重要性とか,アジア地域の安定のためとか,あるいは沖繩の戦略的位置が重要だからとか強調されても,そういう形で米軍がいる必要があると頭から言われると,それはやはり我々にとっては関知しないことですよ,と言わざるを得なくなるわけです。従来から沖繩県としては,何とか少しでも,行政として最初からオール・オア・ナッシングのような話はできませんので,沖繩のいわゆる基地問題,それから生ずるさまざまな問題について,少しでも緩和できる,あるいは良い方向に向かうやり方はないのですかと,そいうことをずっと言い続けできたのですが,日本政府は安保条約があるから一切何もできないということを言い続けてきた。それなら沖繩側としては,そのような条約ならば,安保そのものに反対せざるをえないじゃないですか,という話が,今回のそもそものきっかけになったわけです。
9月に大変不幸な事件が起きたときにも,これは日本の外務大臣ですけれども,その物の言い方が,全県民的な非常に大きな怒りを生んだ原因になっているわけです。ところが実際にふたを開けてみると,話し合いでできることがいっぱいあることが分ってきて,何でこんなすぐにできることが,今までできなかったのかなということになったわけです。まだ結論は出ておりませんけれども,ある程度基地の縮小,少なくもその方向に向かって努力するということで,最終的な調整がなされているのが,現状です。それがどの程度のものになるにせよ,今後10年間は返還後の基地の跡利用の問題で,県政は多分忙殺されることになるだろうと思っています。
議論の場がほしい
ただだからといって,沖繩の基地問題がすべて解決されたわけではありません。沖繩の米軍基地返還については,われわれは,ジアラさんのペーパーにはイデオロギー的なプランだと書かれてあるようなプランを作成しました。向う20年で基地を全部なくせという例のプラン(基地返還アクションプログラム)です。私もこのプランの作成者の一人ではありますけれども,あれは要するにある意味では沖繩県にとっての知恵なり,願望を示したものであって,本当に20年後に確実に基地がなくなることを想定して作ったものではありません。
もっとも日米関係が変な意味で変に転がったら,もっと早く宮里先生のおっしゃった日米安保解消論等を含めて,そういう事態にも対処する指針が必要だということも含まれております。いずれにしても,私どもが言いたかったのは,米軍基地の存在,あるいはその在り方,基地は地域にとってどうあるべきかということを常に日本政府と議論する場がほしい,あるいは沖繩から日本政府に言ったことを通じて,アメリカ政府と議論するということにもなりますけれども,常にそのような議論の場がほしいということを,ああいう形で提示したものだとお考えをいただければいいのではないかと私どもは考えております。
そういう意味で,SACOの中間報告にある最初の返還の話が終われば,嘉手納とか,残された基地の問題が次の10年後ぐらいに必ず出てきます。われわれが返還された基地を有効に跡利用すれば,さらに別の基地の跡利用をしたいという話が必ず出てくると思います。逆にわれわれが失敗すれば,もっと基地として残してくれという話になるかもしれません。我々はそうならないように少なくとも努力はしておると思っております。そのときに県民がもっと残りの基地も返せというのか,あるいは先ほどジアラさんがおっしゃったように,うまく沖繩側と,あるいは沖繩側でなくても,別の側の民間であっても構いませんけれども,一種の共同利用的な話が進み,それが地域にとって従来のようなひどい迷惑施設ではないという認識が住民にかなり行き渡れば,その話は少し変わってくるかもしれないと思います。
いずれにしても,われわれがどうせよこうせよというのではなくて,これは県民が選択すべき問題であると思います。そのような形にきっちり問題をもっていってもらったほうが,沖繩にとっても,日本にとってもある意味ではアジアにとっても一番いいことになるのかなと思います。そういう意味では,ジアラさんの提案は,もしそれが実現されるなら,大変すばらしいことではないかと思います。
* * *
【司会】 さきほどジアラさんから提案がありました斬新な対策,これについて大変貴重な提案であるというご意見がある一方,実現の可能性,あるいはその前提となる考え方に対して,強い異論も出されております。小川さんから,沖繩米軍基地問題の解決の条件ということで,やはり今日のセミナーの題であります「沖繩における米軍基地の今後の在り方,並びに今後の日米関係の在り方」に関連して,お話をお願いいたします。
【小川】 私がこれからお話をしますことは,日本の意見を代表するというものではなくて,日本的な議論の中ではまさにジアラさんの言われる「アンコンベンショナル・アプローチ」ではないかと思っています。ただ,そのような対策をとることが,恐らく将来の日米関係にとって重要ではないかという立場から,特に沖繩の問題を解決するための条件ということで,絞り込んでお話をしてみたい,そういう立場であります。私がこの考えを述べる問題意識としましては,最も望ましい解決策を描き,そこに段階を踏みながら近づいていくという姿勢を持つことで,沖繩の基地問題の解決のみならず,日米関係の信頼性を高めていく,また,そのことによって日本が掲げてきた平和主義を貫くということを実現をし,そのことによって世界の信頼を得ていく。そのようなある意味でのナショナル・インタレストの側面からの意識もここに込めているつもりです。
沖繩の住民を大変苦しめてきた米軍基地の重圧,重荷というものを解決するためには,さきほど宮里先生からもお話がございましたけれども,理論的には三つの選択肢が私どもにはあるのではないか。ただ,それが現実的であるのか,あるいは日本の国益から見ていいのか,悪いのかというところで,恐らく選択肢は絞り込まれていくだろう。そこからお話を申し上げたいと思います。
沖繩基地問題を日本全体で受けとめる
私は日本にとって一番望ましいのは,沖繩の基地の問題をやはり日本全体で受けとめて,日本本土に分散する部分は分散する,アメリカに戻していく部分は戻す,そういうことをやはり絶えることなく続けていくことだろうと思います。
とにかく基地にかかわる被害というものが極小化されるように,かぎりなくゼロに近づくように人間の知恵を絞ってマネージメントしていくことだろう,そういう立場であります。ただ,ついでながらあとの二つの選択肢を言いますと,沖繩の基地問題を解決するためには,日本側から日米安保条約を破棄するという選択肢も理論的にあるのです。日米安保条約第10条を適用いたします。日本が日米安保条約をやめるということを言いますと,1年後には米軍基地はなくなります。
ただ,これは残念ながら,日米関係を結んでいる日本であれば一定の信頼を寄せてもいいという条件つきの信頼関係でしか結ばれていないアジア諸国の不信感を呼び起こすという意味で,日本の国益を損ねる側面が強い。だから,私はこれは選択しないという立場をとります。また,日本の国民が大変エゴイスティックで,沖繩の基地を本土に受け入れるなどということは嫌だと,いわゆる総論賛成,各論反対という立場をとった場合,沖繩は自ら基地問題を取り除くという選択をせざるを得ない,そういう考え方も成り立つ。これが,私もこれまで書いてまいりましたし,宮里先生のお話にもありました沖繩独立論であります。
沖繩が日本からの分離独立を宣言した瞬間,基地問題に関して沖繩はアメリカと直接交渉をする立場に立ちます。その場合,沖繩の交渉能力によっては,リスクは若干伴うかもしれませんが,基地を維持するという選択,あるいは基地を全くなくするという選択,これを選ぶことができるわけであります。仮に若干の基地を維持しながらアメリカとの関係を続けるということになりますと,それをカードといたしまして,かなり大きな政治的,経済的自立に関するアメリカの支援というものも自ら勝ち取る可能性はあるわけであります。
また,そういうものをきちんと主体的に積極的にマネージメントすることができたとき,沖繩はその条件をかぎりなく生かすことができるでしょう。そこにおいては,シンガポールのレベルの通商国家として繁栄を遂げていく道もあるかもしれません。ただ,日本全体という立場で考えますと,国内問題である沖繩の基地問題を解決できないような国が,どうして国連の安全保障理事会の常任理事国になれるかという問題にぶつかるわけであります。沖繩に独立されてしまった日本は,世界からの評価も信頼も大幅に低下するでしょう。
そこにおいては,やはり世界の信頼を自らの安全の基盤とし,経済的な成功の基盤としなければいけない日本の国益は大きく損われるだろうと考えます。ですから,私は日米安保条約というものを日本が掲げてきた平和主義にかぎりなく近づけるように,アメリカに積極的にかかわるという道を選ぶ。その中で沖繩の基地問題を解決していく方向を考えるべきである。そういう立場で後段のお話をさせていただきたいと思うわけです。
レジメの中にABCDとありますが,具体的にお話をしたいのは,BとCのところです。にありますのは,沖繩の米軍基地問題を解決するために三つの条件があり,それを同時にクリアするということが最も望ましい解決策を描くための条件であろうという意味で,列挙させていただいたわけです。もちろん,日米同盟を維持していくという立場ですから,アメリカの軍事的プレゼンスが維持されなければ,アメリカが日本側の要求を受け入れるわけがない。そこにおいて1の条件が出てまいります。しかし,同時に沖繩に集中した米軍基地の整理と縮小を実現しなければ,沖繩の住民の苦しみというものは一向に改善されないわけであります。
そして同時に,沖繩県が日本の地方自治体の中でやはり経済的にも低いレベルにあえいできたという現実にも目を向けたとき,沖繩県の経済的自立を可能とするような抜本的な振興策を同時に立案できなければいけないだろう。この三つの条件をできれば同時に満たしたい,これが最も望ましい解決策を描く前提になってくると思います。このようなアプローチというのは,日本では理想論だといって役人に笑われるのがおちであります。
しかし,理想的な解決策を描きながら,一歩ずつ近づいていくというのが世界的に通用するようなアプローチではないか。まさしく行政の壁を越えてそのような議論ができる場として,この研究会があるのではないかということで,このようなアプローチをあえて提示をさせていただきます。その場合,このBにあります三つの条件を可能とするための基本的認識というものが,やはり極めて重要になってくるだろうということで,二つの問題について若干のお話をしたいと思います。
これは主に日本側が抱える問題でありますけれども,アメリカの世界戦略における日米安保条約と,それに伴う在日米軍基地の位置づけについて,日本側が果たしてアメリカと共通した認識を,同じ事実とデータをもとにした共通認識をもっているかどうか,そのへんを少し考えてみる必要があります。日本の官僚機構,これはアカデミズムやジャーナリズムも若干そういう傾向があるのですけれども,特に外務省は湾岸戦争が終った時点ですら,北米局の責任者たちがフィリピンのスービック基地がアメリカの戦略にとって一番重要だということをテレビカメラのインタビューに対して堂々と言っていたわけであります。
スービックにおかれた戦略的能力は,横須賀におかれた能力の50倍も巨大であって,アメリカがフィリピンから撤退することはないと,担当の課長,局長が言っていたのです。これは有名な人たちです。私は彼らにその根拠を問いました。私が12年前に調査をした結果では,日本列島は戦略的根拠地の位置づけにあるけれども,フィリピンの基地は第一線のフィールドベースの性格のほうが強い,おかれている能力も次元が違うのだということを言いましたけれども,外務省の高官たちは自分たちの認識は違うということを言ったわけであります。
その根拠を聞きましたら,データは持っていない。フィリピンの基地に行ったことがあるかと聞きましたら,行ったことがないという答えでした。なぜそういうことが言えるのかと聞きましたら,アメリカ政府が日本側の担当者である自分たちにそういう言い方をしているから,それを信じているのだということでありました。これは日本として由々しきことであります。外務省北米局の友人に,どうしてそういうことがまかり通っているのかと聞きましたら,外務省にはアメリカを軍事的に,あるいは戦略的に研究をするセクションが,世界に通用するレベルで存在していない。
その結果,そういう錯覚に陥っているのだということだったのです。このような日本の中心的な役所の錯覚というものが,日本の政治家の間違った認識というものを生み出している。そこにおいて日米関係が健全に維持できるわけはないというのが,私の立場なのです。今も申し上げましたけれども,フィリピンにあった米軍基地,あるいは今も韓国にある米軍基地は,その地域での戦争に対処するための役割を持った軍事基地であります。
それに対して在日米軍基地は,先ほどのアメリカ海軍の第7艦隊,今は第5艦隊という部隊も展開しておりますけれども,基本的には第7艦隊の任務区域であった西経160度線,これはハワイであります。それから東経17度線に位置するアフリカ最南端の喜望峰まで,つまり,地球の半分で行動する米軍を支える任務と,その能力を備えているわけであります。それを私たち日本国民は巨額な税金で支えているという側面がある。この日本列島の在日米軍基地は,アメリカの戦略においてパワー・プロジェクション(戦力投射)を行うための戦略的根拠地という性格であるわけです。
在日米軍基地は米の戦略的根拠地
そこの認識をきちんとアメリカ側と詰めたうえで,日米安保条約の再定義というものを本来は行わなければいけない。ところが,残念ながら日本の官僚機構にはそのへんの問題というものがどれほど理解されていただろうかという疑問が残るわけであります。そういう中では,湾岸戦争においても40億ドルプラス90億ドル,合計130億ドルのお金を出してしまうというおろかな振る舞いをしたというのが,私の考え方であります。
お金を出す前に,これはジアラさんのお話にもありましたように,戦略的根拠地である在日米軍基地を通じた日本の戦略的役割分担は,7万人近い兵力を湾岸に展開をしたイギリス軍と比べても,劣るものではないわけであります。日本から出撃した部隊の貢献にジアラさんは触れられましたけれども,それとは別に湾岸危機,湾岸戦争の7カ月間,日本と中東の間を往復した米軍の船は,延べ113隻にのぼります。その大部分がオイルとそれから弾薬類を積んでいた。
そして57万人近い米軍が使った燃料と弾薬の,私は80パーセント以上だと言っていますが,大部分は日本から補給をされた。それだけの能力を在日米軍基地は備えている。そして,そのデータはすべて公表されている。それにもかかわらず,日本の官僚機構も政治の世界も,また,ジャーナーリズムもアカデミズムも,そういう事実を踏まえて日米安保を考える姿勢に欠けてきたのは,非常に残念なことであります。そういう中で日米安保条約に関する片務性の議論も,日本においては錯覚に満ちたものが通用してきたということは,日本側で大きく反省をしなければいけないと思います。
日米安保条約が片務条約であるというのは,これは現実です。しかし,片務条約であるから,アメリカに対して肩身が狭いのだという劣等感を抱く国は,アメリカの同盟国の中で日本だけであります。なぜかというと,アメリカが同盟関係を結んでいる大部分の国は,軍事的にはアメリカが一方的に面倒をみるという形になっているわけです。そこにはアメリカ国民の税金が使われていますし,場合によってはアメリカの若者の血が流されるかもしれない。その片務的な状況がアメリカにとって利益がないのだとすれば,そういう片務条約をアメリカはやめればいいのです。
なぜやめないのか,それはアメリカの国益にとって意味があるからです。だから,片務条約だからといって,それを劣等感として受けとめる国はこの東洋の君子国以外にないわけであります。ただ,日本として押えなければいけないのは,片務条約を放置していいのかという問題です。その場合,基本的なスタンスとして押えなければいけないのは,軍事的にアメリカと対等になることができる国はないという現実とは別に,軍事的な貢献以外に,その国が最も能力を発揮できる分野において,双務性に近い状態をつくっていくことを基本的なスタンスとすべきだということです。
それは日本国民の血の結晶である金銭による貢献かもしれません。あるいは戦略的な軍事基地の提供かもしれません。そういうことを基本に考えながら,同盟関係の双務性を高めていくことが重要だろうと思います。当然ながら,憲法の制約によって自衛隊を米軍との共同行動に派遣することは,日本の防衛以外にはできないことであります。しかし,日本国民は昨年度1年間で見ても,5兆円の税金で役割分担を行っています。
そしてその上に,そのお金によってお金に換算できないほどの価値のある戦略的根拠地を維持し,それを守るということをやっている。その役割分担の巨大さというものは,やはり日本国民自らが自覚をし,アメリカの国民と共通した認識を持たなければいけない問題ではないかと思います。しばしば日米関係においては,在日米軍基地の維持経費だけが金銭的な役割分担として取り上げられます。
これは昨年度1年間で6,257億円です。しかし,アメリカの立場でながめますと,自衛隊は日本の国防の任務を帯びていると同時に,アメリカの戦略的根拠地を守るという任務を帯びている軍事力であります。そのために昨年1年間,4兆7,000億円余りの税金を使ってきた。これをならしますと合計5兆円であります。そこのところを押えたうえで私たちは日米関係のより発展的な将来を議論すべきだ。その中で沖繩の基地問題を最善の方向に解決していくということを,考えなければいけないのではないのかと思います。ですから,先ほどはジアラさんのお話のあと質問をしようかどうか迷っていたのですが,例えば日本との同盟関係を抜きにしてアメリカは世界のリーダーたり得るのか,という確認はしておきたい。
(米国軍事思想家)アルフレッド・マハンと同じような考え方で恐らくアメリカは戦略を立案してきて,これからもそうしていくだろうと私は思っています。そのアメリカが日本のような戦略的根拠地なしに,リーダーシップを発揮することが可能なのか。仮に在日米軍基地という戦略的根拠地を失ったとすれば,その瞬間,中国はアメリカの言うことを聞くだろうか。北朝鮮はアメリカの言うことを聞くだろうか。ロシアはアメリカに従うだろうかという問題があるわけであります。これはアメリカに対して恫喝しようということではないのです。
その価値というものを共有しなければいけないという立場で,お話をしております。ですから,日米安保条約を維持するという立場で言いますと,沖繩の基地問題に関しましても,戦略的根拠地としての日本列島全体として基地問題を考え,本土への分散,あるいは基地の再配置やデザインをよりよい方向で描いていくことが重要ということを申し上げざるを得ない。それを前提として,Cのお話に入っていくわけであります。
簡単に申し上げますと,このCの1から5までのステップを愚直なまでに忠実に踏むことによって,アメリカとの間で基地の整理縮小,統廃合に関する交渉の条件を日本側が備えることができるということなのです。だから,例えば普天間基地の代替施設の県内移設は,やはり一つのステップとして重要だろう。それを抜きにして前進できるのかということを,沖繩の県民の方々には沖繩の琉球放送のテレビに出るたびに問いかけています。1回も反発の電話がかかってきたことはない。
また,沖繩の県内での講演においても,そのへんの反対の意見を聞きたいということを問いかけても,1回も反発されたことはない。そして,呼ばれなくなるかというと,そうではなくて,また沖繩から呼ばれるのです。このCに書いた具体的なお話については,説明いたしませんが,議論の中でお答えを申し上げていきたいと思います。とにかく官僚機構にこの問題を預けますと,例えば沖繩の県民の抵抗が一番少ないから普天間基地の代替施設は嘉手納基地の中に作ってしまおうかとか,そういうことをしてしまいがちなのです。
ただ,Dにも書きましたように,嘉手納基地に普天間の代替施設を統合したら,嘉手納基地は日米安保体制が続くかぎり未来永劫,軍事基地として固定化される。そして沖繩のハートランドとも言える場所に,軍事基地として居座り続けるわけであります。それを沖繩の経済振興の目玉であるハブ(中核)空港として転用することも不可能になります。ですから,やはり官僚機構が限界の中で小さく小さく答案をまとめようとする傾向に対して,アカデミズムやジャーナリズムや政治は,本来どうあるべきかという提案をし,より望ましい方向に問題を展開していくことが重要だろう,そういう感じがしております。
【司会】 非常に重要な問いかけが小川さんからありました。日本との同盟関係抜きに米国は世界のリーダーたり得るかという問いかけであります。その前提として,在日米軍,日本列島はどういうものであるか,米軍基地はどういうものであるか,米国の世界的な戦略的根拠地であるということ。このことについて,日米双方が共通認識を持たなければならないということをおっしゃったわけです。前提,並びに先ほどの問いかけについて,ジアラさん,グリーンさん双方からまずお答えを聞きたいと思います。
【ジアラ】 私がイエスと答えても,それを受けとめてくださることを希望しております。少なくとも先ほどおっしゃいました基本的なコンセプトについて,つまり,日本の貢献の性格につきましても,また,この同盟関係が将来効果的に機能しなくなったときに,どういう結果がアメリカに訪れるかということについても,イエスというように答えたいと思います。
それからまたアメリカの戦略上,非常に日本にある米軍基地が重要であるという,その価値についてもそのとおりだと思います。それからバードン・シェアリング(役割分担)についても日本の貢献は,非常に大きいことは確かなのですが,問題はやはりそれに対して日本が十分に感謝されていない,評価されていないということです。
日本の同盟関係に対する貢献,それからアメリカ側の貢献というのは,やはりおっしゃったように片務的だと思いますけれども,バランスというのは存在していると思います。バランスがなければ安全保障関係は継続していくことはできません。ですから,政治と同じようにやはりこのバランスというのは必要だと思います。おっしゃるとおり貢献の内容が違うからといって,貢献の重要性が違う,その度合いが違うということになってはならないと思います。
それから,やはり私も同意見なのですけれども,基地の重要性,そして日本の貢献の大きさというものについて十分合理的な話し合いが持たれないかぎり,効果的な解決法というものは見つからないと思います。日本なしにアメリカがやっていけないのと同じように,日本もアメリカなしにはこのまま続けていくことはできないというように思います。
【グリーン】 僕は通訳さんの通訳しなかったところをちょっと通訳します。ジアラさんが一番最初におっしゃったのは,小川さんのおっしゃったことに全く同感で,日米安保は非常にアメリカの利益になること,そして日米安保を強化するためにジアラさんは日本部長になる大分前から努力している。さっきちょっと外務省バッシングがありました。
私は政府の者ではないのですけれども,うちの研究所は国防総省に近いというか,国防総省のための研究をやってます。ですから,外からだけれども,今両国政府の中で努力している官僚さんたちのことを,近い立場から見てきたのです。在米日本大使館にしても,在日米国大使館にしても,国防総省にしても,防衛庁にしても一日18時間とか,20時間働く例が多いのです。それをなぜ指摘するかというと,この日米安保関係,日米安保条約を維持するために数千人の人々が命をかけるというと言い過ぎになると思いますけれども,命をかけてこの安保関係を維持してきたのです。
外務省でいうと安保派,防衛庁でいうと防衛局ですか,国防総省は国際政策局(ISF),あるいは国防省の日本部,要するに非常に少数の人々が一生懸命にこの安保関係を維持しようとしてきたのです。小川さんがおっしゃるように,もっと広い意味でもって広い分野,政界にも学会にも日米安保の維持の責任があるのではないかと思います。
日本は本当に知りたいのか?
ですから,小川さんが在日米軍基地の役割についてもっと情報を交換して,正直に国民とか国会議員に両国政府は説明する義務があるということに,私は全く同感です。問題はアメリカ側が知らせようと思っても,日本側は本当に知りたいですかというところです。例えば9月のイラク攻撃の前例を見ますと,アメリカの行動を支持した国は英国と日本だけです。アメリカの国防省がその支持を高く評価した。
政治的な支持を評価した。ただ,日本の運用の面の支持に触れてないのです。特に日本における米軍基地の役割です。もしそれにアメリカ側が日本にサンキューするならば,日本は本当にウエルカムと言えるかどうかはちょっと疑問に思っているのです。その箱を開けると,当然日本の責任が増えるのです。かなり意識改革が必要ではないかと思います。小川さんたちは,それはもう責任を果たせると思いますけれども,日本の国会議員とか,指導者は本当に果たしたいですかということを聞きたいです。
【小川】 今のことで,僕はこういう認識を示した前提のようなところを,グリーンさんのご質問に沿ってお話したいと思うのです。個人的なことを言いますと,この12年間,私は日米安保で生計を立ててきたような面がある(笑い)。だからアメリカに足を向けて寝られない立場です(笑い)。なぜかというと,12年前に私はジャーナリストから今のミリタリー・アナリストに独立をした。そのとき最初の仕事として在日米軍基地のリサーチをやりました。
北は三沢基地から,南は嘉手納基地まで全部歩いて基地司令官に聞取り調査をやって,説明を受け,公式な資料をもらいました。それを分析した結果,それまで日本の外務省や防衛庁が言ってきたような取るに足らない基地ではなく,巨大な戦略的根拠地だということが分かった。それをずっと指摘する中で,少しずつ小川の考え方が正しいといろいろな立場の人が認めてくれるようになった面があるのです。
その中で,いまのような認識を繰り返してお話することになっていますけれども,それこそほとんど反発はありません。ですから,もし日本の国会議員がグリーンさんがお感じになっているように,そのへんを受け入れていくだろうかという非常に不確かなところがあるとしたら,国会議員が遅れているのだと思うのです。そのへんをきちんと政治の場に伝えていくとこによって,日米関係はよい方向に前進できるのではないかと思っています。
* * *
【宮里】 幾つか基本的なアプローチ,問題意識については,かなり私は納得できます。特にBの1については,参考になると思います。問題はBの2あたりからあると思います。先ほどジアラさんは,基地の縮小には限界があるといっています。ということは,小川さんの案がアメリカ側に受け入れられるかどうかという問題がある。それからもう一つは,日本の中でどういう人が,先生のおっしゃるような新しい基地の建設を支持してくれるのか。
さらにもう一つ,安保条約の第6条に従って米国に提供される施設は沖繩だけに限るものではなくて,本土にもありますけれども,その主たるものは沖繩にあるということをご理解いただけるのではないかと思います。ですから,本土分散とか,再デザインという場合の実現可能性,それをだれが押すのかという問題です。
本土の人びとは米軍基地に関する限り,現状に不満がない。それを変えようとすれば,新たな安保論争に発展しかねない。だから,基地の本土への分散を押してくれる勢力として,本土でどういう人がいるのか。それからもう一つは,3番目は,Cの方ですけれども,沖繩の久志あたりに,大規模な代替空港をつくるということですが,それはかなり大きな規模なものになります。それから那覇軍港の代わりとして別のほうに作るということにもなっている。かなりの施設を作ることになります。
それと嘉手納のハブ空港が対になっているような感じなのです。しかし,問題は両方とも米軍が使うことができる。だから,これが果して縮小と言えるのか。要するにおっしゃるとおりでいけばいいのですけれども,そうではなければ,それは大規模な基地の拡大とも言えると思うのです。ですから,これには相当なアメリカ側の事前の約束が必要です。それが具体的にはっきり示せないと,これは恐らく基地拡大ではないかと,僕は思います。それからもう一つは,4番目の空軍部隊の北海道への分散という場合です。
今までの状況では考えられないような感じです。そのへんをどう説得するのか。それから確かに,小川さんはよく沖繩にいらっしゃる,僕よりもずっと頻繁に沖繩に行っていらっしゃると思うのですけれども,確かにいろいろとあるのですけれども,質問がないというのは,賛成ということではないと思います。
【小川】 質問ではなくて,反発されたことがないということです。
【宮里】 私の聞いたかぎりでは反発です。
【小川】 僕はよっぽど恐いのでしょうね。
平時は米,有事は日本が得
【伊奈】 小川さんのおっしゃったまずBのところにあります日米安保のいわゆる片務性をめぐる錯覚とか,劣等感の印象というのは,全くそのとおりだと思います。いわゆる片務性をめぐる議論というのは,いろいろな視点があるのだろうと思うのです。例えば条文を見れば,多分それはだれが見ても片務的なのでしょうね。
アメリカ本土を日本が守る必要はないという意味で。小川さんがここで指摘されているのは,湾岸戦争のときも日本が非常に戦略的に重要な拠点だった。したがって,全くそういう片務的であるというようなことは当たらないのだということをおっしゃって,それは事実だと思います。ただ,片務的か,片務的でないかというのは,多分に,感情の問題だと思うのです。湾岸戦争当時,私はワシントンにいたのですけれども,日本は40億ドルでしたか,最初に資金協力を決めて,多国籍軍に20億ドル,周辺国に20億ドル出すことになったときに,日本の大使館が国務省の記者団に説明をした。
多国籍軍の20億ドルはどうということはなかったのですが,周辺国の20億ドルが問題になりました。円借款です。非常に有利な条件での円借款ですが,「日本は返してもらおうと思っているのか,アメリカ人の血は返ってこないぞ」というわけです。戦争をやっている時というのは,ジャパン・バッシャーでもない記者が,そういう反応をする空気があるのです。だから,そういうときにはこれは全く片務的ではないのだなどと言う議論は,なかなか冷静に言いにくいものです。
間違っているかもしれないけれども,片務性の認識というのは,多分平時は,これを言うとジアラさんは怒るかもしれませんが,アメリカが得をしていて,有事は日本が得している。したがって,この体制はおおむねバランスがとれているかもしれないと思うわけです。ただ,このままではもちろん感情の問題が,いわゆる有事に出てくるわけですから,恐らく今ガイドラインの見直し作業は,そこらへんのバランスをとる作業だというように考えております。
ただ,どこまでバランスをとるかは,日本の国内問題もあって難しい問題だと思います。例えば後方支援の問題がこのガイドラインの見直し作業の中で議論をされますけれども,アメリカ側には日本が後方支援のコミットメントを小出しにするやり方を批判する人たちもいるようです。僕はそういう批判はあまり当たらないのだとずっと思ってきましたが,認識の仕方の差が生まれているなという気がするのは,後方支援についてです。
恐らく軍人は「ロジスティックサポート」(兵砧支援)というように受け取るが,外務省及び英語ドキュメントもそうですけれども,「後方地域支援」と書いております。つまり,後ろのほうでやる仕事という意味です。そうすると,ではどういう仕事をやるのかと言ったときに,認識の差が出てくる可能性がある。いずれにしても,バランスをとる作業というのは,なかなか難しい作業ではないかという気がします。
それからもう一つ,Cに関した沖繩の議論ですけれども,沖繩問題の95年9月以来の展開というのは,恐らく日本政府はこれは「日・日問題」といいますか,東京と那覇の問題ということで処理したかったです。だが,一方でやはり「これは日米問題として考えるべきだ」という議論も当然あるわけです。それはどういうことかというと,沖繩にある兵力の意味とか合理性について,当然日本側も発言してしかるべきという議論だと思うのです。それを政府がしてこなかったのは,相当なジレンマがあったその結果だと思うのです。
つまり,そういう議論に入っていくことは,では,沖繩の地政学的な位置づけはどうなのだとか那覇は東京に行くよりマニラに行くほうがずっと近いぞとか,ピョンヤンに行くほうがもっと近いぞというようなことを言われかねない。そういうことが議論になれば,にもかかわらず基地を減らせということが軍事的な合理性から言えるのかどうか。言えるかもしれないと思いますけれども,言えないかもしれない。
【小川】 僕が交渉担当者だったらできますね。
【伊奈】 ああ,なるほど。そこらへんはちょっとあとで聞きたいところです。僕は沖繩については,全般的には楽観的に考えており,沖繩の基地問題の解決については,全体として政治がそれなりの力を入れれば,楽観し得る状況だと思うのです。つまり,どの程度の楽観かによるのでしょうけれども,一番難しい問題だった普天間の代替基地問題も海上ヘリポート案というのは,技術的にどうか知りませんが,技術的に乗り越えられれば,それはいい解決策だと思うのです。
先日出た地域振興策にしても,僕はどの程度の意味があるのか中身はいちいち知りませんけれども,少なくとも今までああいうことはなかったわけですから,それは今までに比べれば,政治の取り組みも全く違うわけで,そういう意味では全般的には楽観し得るのだというように考えております。
* * *
【小川】 宮里さん,伊奈さんに共通したご質問というのは,Cのところだと思います。実現可能性についてというくくり方で言えるかと思います。そこからお話を申し上げたい。これは宮里さんがずっと疑問を抱き続けておられる問題ですが,そうは言うけれども,できるだろうかという点です。ただ,やるかどうかという意思の問題,姿勢の問題なのです。日本側にはこれが乏しかったような感じがいたします。そこを考えていこう。それを実現するための政治勢力をつくっていこうというのが,私の考えなのです。
実を言えば,普天間基地返還の政治決着をつけるとき,私も直接かかわった一人なのです。それまで官僚機構の側でもいろいろな動きはあったのですが,4月2日の夜までに普天間基地返還は日米両政府の合意事項としては存在しなかった。私がかかわったところを申し上げます。私は自民党の政策委員ということもありまして,日米首脳会議に向けて自民党から最終的な緊急提言をするという会合が4月2日の夜6時,自民党本部で持たれることになっており,そこに呼ばれていたわけです。
3月の初めに日程は決まっていました。呼ばれた専門家は,安全保障問題は私一人です。あと二人は経済の専門家で,両方とも大学の教授です。もう一人は,日米関係をずっとやってこられた方です。聴き手は自民党の山崎政調会長。私なりに沖繩の基地問題を解決したいという思いがありましたので,3月29日の夜には那覇に講演に行ったついでに,大田知事と二人きりで2時間半,あそこのオーシャンビューホテルの12階のバーで話をしました。大田さんの思いを聞かせていただいた。
そういう中で,それまで日本政府は普天間にいる海兵隊の航空機を嘉手納基地と岩国に分散するだけでは有事には運用できない,だからノーだというアメリカに対して,言い返すことができないでいた。それに対して,私は専門家の一員として,そんなことはないと主張したわけです。有事にも補強される航空機も受け入れられるだけの代替航空施設を沖繩県内にデザインし直すことによって,それは可能になるのだ,そのステップを踏まえなければいけないということを大田知事にも申し上げた。
その2日後のNHKの日曜討論という番組でも防衛庁長官の横に座って,そんなことはできないと防衛庁長官は言ったけれども,私はできるのだという話をしました。4月2日の夜,山崎政調会長にその話をした。そうしたら,日米両政府間では普天間基地返還はないということになっている,残念ながら無理だという答えだった。私は日米関係を維持していくために,大変メリットのあるテーマです,返ってくるものを取り返さないでどうするのですか,という話をした。そうしたら,そのまま総理に伝えますと山崎さんは答えられた。そういう部分だけ,私は知っているのです。
つまり,こちらがボールを投げて初めて日米安保体制にアクションを起こすことができたということであったろうと思うのです。アメリカ側にも同じように考えて,対応しようとする環境が出来上がっていた。だから,そういうことが可能になったということなのです。日本側がかかわる中で,日米関係を良好に維持するというスタンスのもとにやっていこうとする姿勢と,意思が極めて重要になってくるだろうと,私が言うのはそこなのです。
そういう中で私自身はこのCにあるような,これは一つのたたき台でありますけれども,いろいろなステップを踏まないと具体的に沖繩の基地問題はいい方向に動きませんよということを,沖繩の県民の方にも申し上げています。それなしにできるのだったら,とっくにできているはずだし,「できるのだったら,おやりなさい」とまで言っています。「独立する覚悟があるのだったら,おやりなさい」とまで言っています。とにかく普天間基地の代替施設にしても,海上ヘリポート案というのは,一つの考え方であるけれども,アメリカを説得するためには,本格的な航空施設を作ってあげたほうが,日本側はカードを持ち得るのです。
例えば,ギャラクシーなどを補給のために展開できるだけの航空施設となると,私が思い描いていたのは,普天間基地と同じ規模の基地をキャンプ・ハンセン,キャンプ・シュワブの中に作り直すということだった。ハンセン,シュワブを合わせますと,面積で普天間基地の15倍もあるのです。デザイン次第では墜落の危険性の問題,それから騒音問題を相当コントロールできます。あと環境問題。これはどういう施設を作る場合でも妥協点があるものですから,それも皆で議論しなければいけない。
ただ,それを作ることによって,随分問題は前進するだろうという立場なのです。もう一つ,Cの1番にありますように,沖繩自身も,あるいは日本政府をあげてもですが,やってこなかった問題に手をつけるという姿勢が重要だろう。それが一番の問題なのだという点です。沖繩での戦争が終了すると同時に,米軍が占領して基地を作った。それが沖繩の重要地域を占め続けており,沖繩の発展というものを阻害してきた問題を,どうして解決しようとする姿勢がないのかという話なのです。
沖繩県内だけにかぎってもいいから,沖繩の心臓部を占めている基地を動かすということが,まず基本的になければいけなかった。そういうところをしようということです。そういう中で,やはり沖繩の県民の方々には,海兵隊の地上部隊の人員だけはどこかに行ってもらいたいという思いもある。
これについても,やはりアメリカ政府と交渉して実現していくためには,普天間の代替施設についても本格的なものを作ってあげたほうが,日本側としてはカードを持ち得るだろうということなのです。この海兵隊については,ハンセン,シュワブのような基地はそのまま維持する。装備品は日本側にも置くし,アメリカの領域にも同じものを置く。あるいはMPS(事前集積船)についての維持設備も沖繩に持つ。それから海兵隊については,紛争が起きる兆候が表れる直前に,24時間ぐらいの時間で沖繩に機動展開できるような有事協定を結ぶことになります。
嘉手納空軍基地のハブ空港化を
これはアメリカが受け入るレベルの話であります。そういうことを実現するために,しかも,Aの3の条件,沖繩の経済的自立を可能とするような条件を満たすめには,嘉手納の空軍基地をハブ空港化していくということは,やはり重要だろうという考えを持っております。日米安保が続くかぎり嘉手納基地をアメリカは維持したいと思うでしょう。
それを平和なときにハブ空港として活用しないで,何の沖繩振興策があるのだろうかという立場であります。その場合,ハブ空港として平和のときに嘉手納基地を使うためには,やはりアメリカに呑んでもらうためのカードを持つ必要がある。そのためには,もちろん嘉手納基地の中心的な部隊を北海道の千歳基地に移駐してもらうということはあるのですが,同時に沖繩に駐留し続けなければいけない部隊については,やはり基地を作って,そこに駐留してもらうということが一つのカードになるだろうということなのです。
また,那覇の現在の空港をいろいろ使おうというアイデもあるようですが,私は那覇の飛行場は全部やめてしまって,沖繩の経済的な振興の中心的な地域にしたほうがいいと考えています。そのかわり,那覇空港と同じような空港を沖繩県内のどこかに作り,軍民共用とする。そして,そこに嘉手納の空軍部隊の一部,それから自衛隊の航空部隊を展開する。それが一つの条件になるだろうと思っています。
もちろん民間航空の大部分は平和なときにおいては嘉手納基地を使うわけであります。嘉手納のハブ空港化についても有事協定を結び,千歳に配置される司令部を中心とする部隊は,6時間以内に舞い戻るような形をとることができると思います。これについては,非公開の研究会が95年の11月にあって,私も呼ばれました。そのときに北海道のいろいろなオピニオンリーダーの方と話しましたけれども,空軍の部隊であればウエルカムであるというのがはっきり出ています。
ですから,私はこれを単なるたたき台として示したのですが,このようなステップを踏む必要はあるだろうと。その中で,よりよい形で沖繩の基地問題を解決しながら,次のステップに移っていくということを抜きに基地問題を解決できるのですかと,沖繩の方々にも問いかけをしている。そのようなこととしてご理解いただければと思っております。それから伊奈さんからありましたご質問に,簡単にお答えさせていただきます。
やはり片務性をめぐるパーセプション,日米のパーセプション,あるいは後方支援をめぐる日米のパーセプションというものも,お互いにフランクで,同じレベルの議論ができる場をより頻繁に持つことによって乗り越えられるだろう,そういう感じを持っているのです。例えば片務性をめぐっても,片務条約であることは事実だけれども,内容的に見てアメリカの同盟国の中で最も双務性を高めているのが日本であるということを,日本人が自覚すること,アメリカの国民に知ってもらうことが重要ですが,とにかく平和なときにそういう認識を共通認識として持つ努力をしなければいけないということなのです。
95年も私は10月27日に外国特派員協会で2時間半,そのへんの問題のスピーチをさせていただきました。私の友人が大変すぐれた通訳をしてくれまして,アメリカのシースパンがアメリカ国内で11月12日に繰り返しそれを放送したのです。その中身は総合研究開発機構(NIRA)の出しております『NIRAレビュー』の巻頭に英文で載っておりますが,95年11月のサンクスギビング・デーの直前,ワシントンに行きまして,グリーンさんに時間をいただいて,TBSテレビを通じてこの問題をちょっと日本国民に伝えるという試みをしました。
そのとき帰りに飛行機の便の関係で,デトロイトでトランジットしたのです。3時間ほど空港の中をうろうろしておったら,やはり私のテレビを見たという人がいるのです,アメリカ人で。「そうだったのか,我々は知らなかったのだ」という話をしてくるのです。そういう話を平時にしておくことは重要だろうということが,第一です。
もう一つのことは,有事の状況において,アメリカ国民の感情も非常に高ぶっており,それに対して反論するなどということはなかなかできにくいということは,伊奈さんが自ら湾岸戦争のときに体験されたのだと思います。ただ,同じことを外務省の担当者が言ったので,私は厳しく指摘しました。「あのアメリカ国民の集団ヒステリーの雰囲気の中で,ノーとは言えませんよ」と言うので,「官僚として君は失格だ,おれだったらノーと言う」「なぜ辞表を出さないのだ」と言ったのです。そういうレベルの官僚しか持っていない日本国民は,不幸であります。
それは私たち全員で考えなければいけない問題なのです。後方支援についての認識の差でも,日本は後方はメインでないという考え方が戦前から一貫してある。そういう認識の問題をもう一回整理しておく必要があると思います。どんな精鋭部隊であろうとも,どんな高性能なハイテクの武器であろうとも,ロジスティックス(兵站)のシステムがないところでは,機能しないのです。ですから,日本では正面とか前方とか後方とか差をつけますが,前方も後方もないのです。ロジスティックスとして考える必要がある。そのような認識の乖離を埋めなければいけない。そう考えています。
96年の夏,防衛庁の高官と食事をしたときのことですが,普天間基地返還に話題が及んだとき,ヘリポートというアメリカの言い方に対して,日本側の受け止め方が全然違っていたという話が出ておりました。私は軍事問題を扱ってきた人間ですから,ヘリポートといっても普天間基地と同じ規模の航空施設だろうと思っていたのです。ところが防衛庁の官僚たちはヘリコプターがとにかく発着でき,展開できるような施設であればいいと受け止めてしまった。そこには完全な認識の差があるわけです。
あとでちょっとあわてた,という話もしておられました。やはり,これは日ごろから安全保障について同じレベルで同じデータをもとに,同じ事実をもとに議論する環境が,それこそ日本的に言いますと,官民をあげてなければいけないだろう。そのことが不幸な議論とか,食い違い,ボタンのかけ違いをなくすための処方箋であろうと考えております。
* * *
【武見】 私は昨年7月に国会議員になったばかりであって,政治家としての責任と活動の仕方というのは,まだ極めて未熟なものではあります。しかし,96年4月の日米首脳会談で発表された日米安保共同宣言に関する政策決定の過程では,自民党内の安全保障調査会の一員としてこれに加わり,自分の意見を述べました。
このときに私が指摘したのは,まさにこのようなときにこそ,戦略的な議論を本音で,かつ公開をして行うべきであって,特にこの内容はアメリカ側の変化はないけれども,日本にとっては政策の変化を意味している。したがって,まず国民に説明をするときに,日米安保体制の再確認という表現を改めて,日米安保の再定義という言葉を使うべきであるということを強く主張したわけであります。
しかし,残念なことに冷戦後の新しい日米同盟の在り方を,国民的に,しかも戦略的な論議をするという機会を逸してしまいました。これは実は私は社会党も含む連立内閣のときにしっかりやるべきであった,と思っております。この機会を逸してしまい,かつ現在のような閣外協力という政権基盤が極めて脆弱な状況下においては,しかも,社民党のレーゾン・デートルが事この安全保障の問題に関しては,先祖返りすることで再確認できるような認識が持たれはじめている状況下において,この戦略的な議論というものは,ますますしづらい状況下に私どもはなってまいりました。
恐らくは国内のこうした政治状況というものが,改めて変化をして,そして第二ラウンドとして,戦略的な議論をする条件が整うのは,恐らく次の総選挙を経たあとの新たな政界再編の時期になっていくだろうという認識を,私は持っております。さらに戦略目標についての日米間の共有の問題であります。小川さんが指摘されたように,アメリカは実質ハワイから喜望峰に至るまでの極めて広範囲にわたる戦略目標を持っているわけであります。
果たしてわが国の国民は同様な戦略目標をアメリカと共有することを認めるかどうか。私はこの点について,小川さんほどまだ楽観的ではございません。であうがゆえに,こうした議論がさらに必要になってくると同時に,もう一つ重要なことは,ジアラさんからもご指摘があったように,確かに限られた軍事的な資源を効率的に活用するということを考えれば,アメリカ軍と自衛隊がそれを共有するということが好ましいことは明確であります。
この場合は特にその運用をめぐる共同行動というものが,極めて基本的な戦略目標の共通認識に基づいて行れなければならなくなるわけであって,それがまだ実質的にはできていないということが,こうした限られた軍事的資源を共有することを一段と難しくしている。
しかも,こういう共同行動や運用面における共同行動を進めようとすると,当然に日本側として責任が極めて重大になるだけではなくて,そうした共同行動をとる前提の段階で,日米の事前協議がより緊密に行われることが求められるということになるわけでありまして,アメリカのいわゆるユニラテラリズム(一方)的な考え方は,その時点では改めていただかなければならなくなります。
意思決定の共有化を
そこでは意思決定を共有するということですから,単なるバードン・シェアリングだけではなくて,デジション・シェアリングという,そういう考え方も導入されておかなければいけなくなるだろうと思うわけであります。その点についてのまだ十分な心構えが政府内においても,国民の間でもないということが現実であり,それを越えるとハードルはすさまじく,まだまだ大きいということを認識しておかなければなりません。
実は2週間ほど前に北京で,私は中国の熊光楷副参謀総長と会見をして,特に日中間の対立の原因となっている日米安保の対象に,台湾が含まれることについての議論をいたしました。熊光楷将軍は,私に対して3月の台湾海域における自分たちの合法的な軍事演習に対して,アメリカは二隻の空母を派遣した。
そのうちの一隻は横須賀から出港してきたものであって,この事実はまさに日米安保条約が適用され,中国の内政に干渉したことを意味している。それは中国の軍人の立場から見ると,日本がアメリカの戦車の上に乗ってやって来たのと同じことを意味するのだと,こういう言い方をしたわけであります。
私はそのとき実は,「いや,これは日米安保条約が完全に適用されたわけではありません」と言いたかった。なぜならば,事前協議がなかったからであります。しかし,私はこういうときこそ,指導者の責任をきちんと日本の国内で植えつけるためにも,アメリカがそうしたユニラテラルな行動を起こすことなく,アメリカが事前にあえて日本の政府に対して,空母を横須賀から動かすことについて,事前協議の適用対象として論議すべきだった。
それによって日本の政府の立場の持つ意味というものを,日本の指導者も十分に理解せざるを得なくなると同時に,こうしたことを通じた議論というものが国民的に行われることになるからであります。そうしたことを恐れていては,実際にこれから将来の日米の同盟関係というものを適切に発展させていくことは,もはや不可能な状態に入っているというのが,私の認識であります。
【グリーン】 アメリカが日本に空母の派遣を知らせるならば,今度は中国に対して,事前協議がないから,日本はアメリカの戦車の上に本当は乗ってないというような答えはできなくなりますよ。
【武見】 もちろん。
【グリーン】 私は日米安保のファンですけれども,ちょっとストレートに言いますと,日本が英国みたいにそこまで言う気があるかどうかというポイントが,重要です。そこまで事前協議ができると,私自身は非常に健全だと思います。しかし,まだ遠い先のことではないかと思います。
【小川】 グリーンさんがさっき,「9月のイラク攻撃のときの米軍の行動について,日本国民は知りたいと思いますか」と聞きました。実は,新聞である程度知らされているのです。ただ,大きく取り上げられて問題になったかどうかは,別なのです。
逆に,その事実を知っても日本国民は反応しないという側面があるのです。例えば,グァムからB52が湾岸に行って,その巡航ミサイルは当たらなかったと言われるけれども,それに空中給油したのは嘉手納基地にいる15機の空中給油機のうち8機です。
これが南シナ海上空で空中給油をしたとか,横須賀を母港にしている駆逐艦のうち,ヒューイットがトマホーク巡航ミサイルを2発撃ったとか,同じく2発撃った攻撃型原子力潜水艦の,これは第5艦隊の潜水艦部隊の所属でしたが,その司令部は横須賀にあるとか,それは新聞も書いている。ただ,それを知っても,知ったことになってないのかもしれない。国民はわりと無関心なのです。
【伊奈】 米国は事前にかなり通報しているのです。しかし,外務省の条約局あたりは多分,重要な作戦行動,装備の変更には当たらないのだと言うのでしょう。そういう話ですから,事前協議の対象になりようもない,多分そんな話だったのでしょう。小川 ただ,湾岸戦争のあとは外務省の中で議論になった。当時の北米1課長の田中信明さんは,米軍は事前協議を破ったという認識を示していたのです。
【武見】 台湾海峡に空母インディペンデンスを横須賀から回航させたことは,実は重要な作戦行動だった。しかし,これについて事前の通告はなかった。アメリカがアメリカ国民にもそういう意図的な作戦行動だと,実際にはきちんと政府間では公開することなく,そうしたことを事前に通告し協議すればよかった。だけどそれをしなかった。
【小川】 だから,重要な部隊がどう動くかといった日本語の内容的な定義というのは,もっと詰められなければだめなのでしょうね。1個師団規模とか,変な話になってしまっていますけれども。
【武見】 ただ,私が申し上げたいのは,やはりこうした実質的な運用がなされている実態と,それがどのような責任を伴うものであるかということを,政府や政党の関係者にも十分理解をさせるために,むしろアメリカは嫌でも知らせるということにしたほうが好ましいということを,言いたいのです。
【ジアラ】 では,ここで非常に重大な危機が発生し,そして日本の防衛が必要になったことを想定して考えてみましょう。第5条の状況が発生したと仮定しましょう。非常にスタンダードであり,明確な第5条の状況が発生したとしましょう。このような状況のもとにおいては,非常に妥当なシナリオとしては,かなりの数の米軍が日本に来なければなりません。
ここで事前協議といった話に入る前に考えていただきたいのですが,まず沖繩基地を再配備する,あるいは沖繩の基地問題の解決にかかわる政治的な意思の出どころと,日本防衛のために必要な政治的意思というのは,同じところからくるのではないでしょうか。結論から申しますと,私の判断ではこの政治的意思というものは,国民全体からくると思います。
安全保障関係や基地問題の解決について話し合う際には,この国民,そして政治的な意思が何かの貯蔵庫の中にしまわれている状態であると今思いますので,それをいかに鍵を開けて,それを出してくるか,そしてそれをいかに効率的に使うかということになってくるのではないかと思います。こうすることによって,詳細に関しても,一般的なディスカッションに関しても,手順を示す枠組みを示すことができるようになると思います。
現在,表には出ていない国民の意思が,どういうものであるか明確にし,それを理解することによって,どのようなプロセスをたどったらいいかということが,自然に定義づけられてくるのではないかと思います。この国民の意思は,これまでしばしば無視されたり,あるいは後回しにされたりしていましたが,これにアプローチするにあたって,国民の意思を前面に押し出さなければならないと思います。冷戦時代にはこういう国民の意思が組み込まれていなかったと思いますが,今それを真剣に取り扱う時期がきたのではないかと思います。
【佐々木(卓)】 幾つか質問があります。ジアラ先生におうかがいします。私のノートが間違えなければお話の最初で,アーミテジさんの発言と自分は違う考えを持っている,朝鮮半島問題が解決されたときには,アーミテジさんは沖繩からアメリカの海兵隊は撤退が可能だと言ったが,自分はそれと違って,むしろ朝鮮半島問題が片づいても,アメリカの海兵隊の重要性は増すのだとおっしゃったのではないかと思います。そこでアーミテジさんと違うという点について,ちょっと布衍していただけませんか。
【ジアラ】 まず第1番目にそういう状況になった場合にどのような要求が出てくるかということを予測することが,不可能だということです。守れないような公約をしないということが,非常に重要ではないかと思います。この意思決定が行われた心理的な背景というのは,非常に微妙な状況があります。冷戦時代には少なくともアメリカにおいて,すべての人がある一定の合意を形成していたと思います。
つまり,アメリカの米軍,それから政治の意図としても,軍事的配備がアジアの東端から西端に広がるものだという考え方については,合意ができていたと思います。そしてその条件や,いろいろな状況に応じてこの全面の構造を調整するということが,そういう条件下ではできたと思います。今現在のコンセンサスは,それほど強いものではなく,脆弱です。
少なくともこのアメリカにおきましては,このような考え方をもう一度検証していく必要がありますけれども,そのプロセスというのは,少なくともまだ始まっておりません。ですので,これはどういう意味を持つかという私なりの解釈で申し上げますと,今現在部隊の縮小を行ってもいいという原則に立つときでは,まだそういうときではないということになります。現在の状況,あるいは将来の予測に関しては,まだそういう時期がきていないと思います。
最終的にナイ・イニシアティブ(米国防総省東アジア戦略報告)の非常に大きな部分を占めているのが,ここではないかと思います。つまり,アメリカのコミットメントを再確認したのがナイ・イニシアティブですけれども,基本的には東アジアと太平洋地域の10万人の部隊を維持し,また,日本対しても4万7000人,そして日本を母港とする艦艇に対しても,1万3000人の部隊を維持していくというコミットメントを,再確認したことにつながっていくと思います。
私の意見ではアメリカのコミットメントの程度は,かなり下がってきていると思いますが,アメリカのコミットメントをもう一度確認すると努力が必要な時期に,基地縮小の話し合いをするのは逆効果だと思います。さらに実際上を考えた場合には,朝鮮半島の情勢が解決を見た場合に,今現在よりも心理的に政治的に,また軍事作戦上から考えた意味でも,この海兵隊の意味合いというのは,より強いものになると思います。
例えば北朝鮮,韓国,あるいは中国にとっても,海兵隊の削減は,誤解を招く可能性があります。沖繩から海兵隊を撤退させるということになりますと,米軍はアジア地域において作戦を展開することができなくなってしまいます。例えばある都市において危機が発生して,市民を救援しなければならないという非戦闘員救出作戦においても,このような軍事作戦が不可能になってしまいます。ですから,沖繩の基地問題を解決するためには,今現在ありますアプローチの代替的な解決法というものが必要だと考えます。といいますのも,このように部隊の規模を縮小するということは,不可能だからです。
* * *
【白井】 私の専門は旧ソ連,並びにロシアの国際関係と,政治経済問題の研究にあります。沖繩問題や安保問題は,ずぶの素人であります。ただ,きょうの皆さんのご議論をうかがってて,いろいろ感じることがあったので,これからちょっと感想を申し述べてみたいと思います。日本は言うまでもなく独立主権国家であります。
にもかかわらず日本の安全確保を図る名目で外国の大規模な軍隊に土地を提供して,その駐留を認めるということは,日本人の一人としてこれはちょっとおかしいのではないかなと,私は考えております。端的に言えば,独立主権国家の日本は防衛が必要なら,自らの手で自分の国を守るべきだというのが私の持論です。私はですから,安保解消論者,安保を早くやめて,アメリカは日本から出て行ってもらいたい,私はこのように考えるわけであります。
ただ,出て行くに当たって,いろいろ障害が起こることは,否定できません。在日米軍の撤退はアジア・太平洋地域の軍事的な勢力均衡に大きな変化を与えるので,日本としてはその前に片づけておかねばならない問題があると思います。私がまず第一に言いたいのは,日本の過去のアジア侵略に対する真しん摯しな反省が必要なことです。
それは日本は,明治維新以後百年以上の近代化の歴史がありますが,明治の啓蒙思想家,福沢諭吉が唱えた「脱亜入欧」は単なるスローガンで,日本は明治以後先の敗戦に至るまで,徹底した「侵亜入欧」を行ってきた。つまり入欧はしたけれども,脱亜したことは一度もなく,アジアに対して徹底的な侵略を行ってきました。近代日本が行ってきた対外戦争が日清戦争,日露戦争,日中戦争,それから太平洋戦争といずれもアジア侵略の戦争であったことが,何よりもそれを雄弁に物語っています。
侵略戦争の定義づけをめぐってさまざまな議論があるわけですけれども,日本の国土以外の外地で戦われた戦争は侵略戦争であると,私は規定しております。ところが日本は,侵略戦争に対する反省が非常に不十分であります。同じ敗戦国であるドイツと比べてみれば,すぐ分かることです。
ドイツは過去の侵略戦争を反省して,大量虐殺したユダヤ人や強制労働させた外国人に補償を行っています。しかし日本政府は従軍慰安婦からの補償請求について,冷たい態度をとっております。日本に侵略されたアジア諸国から見ると,「日本は侵略戦争に対する反省が不十分だ」ということになります。日本の戦後補償問題を考える場合,私は,この点が十分でなく,かつ非常に重要だと思います。
欠落している「歴史認識」
こうした中で,今もし安保が突然雲散霧消して米軍が日本から撤退したら,日本はどう動くか。日本は軍事力を拡大するのか,あるいは縮小するのか,それとも現状維持でいくのか……。安保解消後の日本の自主防衛の方策はいろいろあると思うのですけれども,アジアの諸国が一番恐れているのは,もし安保がなくなって米軍が撤退すると,日本はここぞとばかり軍事力を増強,揚句の果ては核武装もして再びアジアを侵略するかもしれないということです。
日米安保に基づく米軍の駐留は,日本の再軍備にブレーキをかける重石になっているという見方が,アジアにあることは否定できません。多くの日本人は明治以後,アジアを侵略してきたことの「歴史認識」が欠落しているので,アジアの人々がそう考えても,無理ないと思います。しかし,日本は独立主権国家である以上,やはり自分の国は自分で守らなければいけないでしょう。そういう自衛権まで放棄することは,できません。問題はどこまで軍備を持つかということです。
そのためにはやはり日本が過去の侵略の歴史をちゃんと反省して,軍備を持ってもそれはあくまでも自衛のためであって,決して侵略戦争はしないということをはっきり声明して,アジア諸国を安心させるとともにその信頼を勝ちとらねばならないと思います。そういう前提条件を満たさないうちに米軍が撤退したら,日本の周辺国は非常に困るわけではないかと,私は思います。
きょうの討論会の主たるテーマは,日米安保体制を現状維持して,その中で日米両国がどうやって責任分担をしていくかということで話し合いが行われました。しかし,日米安保体制は日米両国だけではなくアジア諸国にとっても必要だから,今後さらに10年も20年も,あるいはさらに半世紀も,1世紀も続くというのでは,沖繩の人も大変でしょうし,すべての日本人が望んでいるわけでもありません。
だから,やはりどこかの時点で日米安保は解消すべきでしょう。安保がなくても日米両国は友好的に二国関係を発展させることができる,と私は思っております。安全保障の技術論にばかりこだわって,大局を見失っては,元も子もありません。専門家の皆さん方のお知恵を借りて,日米両国はもちろんアジア諸国も納得する形で安全保障問題の打開の道が開けることを期待しております。非常に大ざっぱな意見になりましたけれども,日本市民の中にはこんなことを考えている人もいるのだということでお聞きいただいたとすれば,大変結構であります。
【宮里】 これはさっきの普天間の返還の決定がトップダウンで上のほうでなされたという話に関連するのですが……。
【小川】 トップダウンというか,日本の官僚機構の限界を政治家が知っていたから,そういう格好になったのではないかと思います。
【宮里】 さっきジアラさんが言ったように,確かに官僚以外に一般の人々の支持が必要である。要するに政府で決め,実行して,それで済むということではない。さっき言われた北海道で受け入れるという件ですが……。
【小川】 北海道新聞は,それを受けて社説で書いたのです。
【宮里】 それはそれで非常にいいと思うのです。しかし,上のほうで決めてそれがそのまま受け取られるという,例えば一般的の支持を受けなくてもいいということなのですか。
【小川】 そういうことではないでしょう。沖繩は大田知事をはじめとして普天間だけは返してくれと言っていたわけです。それに対して日本の防衛庁と外務省はアメリカとの交渉でノーと蹴飛ばされた。だから,それに答えようということで,政治的な決断が必要だろうということになった。私も関わっている一人として,こういう提案をすればアメリカは返しますよということをしただけですから,別に国民に知らせずにやったという問題ではないと思います。
【宮里】 特にCの2の点あたりです。このへんについて沖繩のほうでも議論がある。小川 だから,いろいろなものを提示することが大切なのです。宮里 普天間についてはなかなかうまくいかないだろうと,僕は思うのです。
【小川】 ただ,いかないだろうと思っているだけでは進まないわけですから。この間も岩国で講演したのですが,「沖繩の連中はいい加減にせい」という声が出ているんです。「反対しか言わないのだったら,自分たちで解決策を示せ。それもできないのなら,野垂れ死にしろ」と,そこまでの声が出ている。だんだん怒り始めているのです。沖繩の側としても,反対を叫ぶだけで片がつくのであったら,戦後51年間で片はついているわけですから,やはりそれなりの手順を踏むということで,皆で知恵を出し合っていかなければいけないわけでしょう。だんだん本土側がいらだってきているのです。
【坂口】一つは,沖繩問題というのは,大田知事の代理署名で騒ぎが終ったわけではなくて,あれは入口に入っただけということです。これは橋本総理も非常によく認識をされておるようです。橋本さんがおっしゃったのは,1997年の5月15日ということです。つまり,嘉手納などの使用権原がなくなるというのは,1997年の5月15日ということなので,それまでどうなるかという話は,まだ続いているということです。
さらに,恐らく米軍の使用している土地をすべて強制も含めて買収することはもうできませんので,使用する期間が何年,すなわち3年,5年,10年と三つ普通出してきているのですけれども,その使用権原期間の組み合わせによっては,このような沖繩問題は永久に続いていきます。返還されないかぎり,そういうことですので,これで終ったわけではないということが一つです。
もう一つは,ジアラさんのご意見もあったのですけれども,海兵隊をどうするのかという問題ですが,ああいうご意見は5年前に実行されれば,別の展開はあったかもしれないと思います。ただ,事ここに至った現在において,沖繩の海兵隊をそのまま残すというのは多分県民感情が許さないでしょう。何らかの形で整理縮小して,とりあえずは面積を減らさないと……。機能的には減らないということなのでしょうけれども,このままでは県民はもう収まらない事態に立ち至っていると,私は思っております。
したがいまして,軍事的重要性とか,日米友好とか,有事の何とかという話は別にしまして,沖繩県民が抱いている一般的な希望というのは,海兵隊は平時に沖繩からいなくなってくれるのが一番ありがたい。ただ,空軍とか,ああいうものについては,すぐにはそうもいかないでしょうから,宝珠山さんみたいな言い方になりますが,できるかぎり住みやすい基地の形にもっていってほしいというのが,多分大多数の県民の意見ではなかろうかと,私どもは思っています。
望まれる平時の海兵隊撤収
海兵隊の基地の取り扱いについては,今後いろいろ議論があるとは思いますが,ああいう事件が起こったあとでもあり,少なくとも海兵隊のイメージは非常に悪い。ジアラさんがおっしゃったようなうまい話での解決が県内で説得力を持つのは,かなり難しい問題ではないかなという気がいたします。
それから三つ目は,小川さんの話に悪のりしたわけではありませんが,県のほうで基地返還アクションプログラムなど例の三段階の話を国に持ち出したときに,嘉手納について,跡利用計画を何も県のほうでやっていないにもかかわらず,なぜ嘉手納についてまでそういうことを言ってくるのかという話がありました。
嘉手納町では少し取り組み始めているようですが,嘉手納基地は複数の市町村にまたがっていて,民間がどんな形で利用すればいいのか県として取り組んでいく必要があるので,次年度の調査予算を国に頼らずとりあえず県として単独で要求しております。
今地元は何か航空貨物云々と言っているようですが,航空貨物は,だいたい夜飛ぶことになるので,今地元が夜8時以降戦闘機の離発着はやめろと言っている関係で,それなら民間機だったら,10時でも,12時でもいいというのは,矛盾ではないかという話が米軍関係のマスコミから持ち込まれまして,沖繩はイデオロギーと関係ないと言っているのに,それはイデオロギーでないかというような話もありました。
そうでないとすれば本当に民間機なら騒音が増えても我慢できる程度なのか。そういうことも含めて来年から具体的な話を進めてみたいと思っております。聞くところによりますと,何かワシントンでもいろいろな研究会をやっているようですので,もし協力していただけるのであれば,一緒にいろいろ考えていくことが必要ではないかと思っております。
* * *
【小川】 2点あります。一つは白井さんからお話のあった件です。日米安保が是か非かというところから入っていくのが,アプローチとしていいのかどうかという問題があるのです。例えば,日本という国は平和主義を掲げてきた。その中では,平和をどのようにして実現していくのかという外交安全保障の構想をそれなりに描いて実行しなければ,日本の平和主義はにせものということになるわけであります。
私自身は大変ラフなものでありますが,8年ほど前から平和国家モデルというのを提示して,アジアの専門家にはそれなりの評価をいただいているし,国際政治学会の中でも評価してくださる方もいらっしゃる。その中で,防衛力の整備は適切なところに位置づけなければいけない,同盟関係は適切なところに位置づけられなければ,木を見て森を見ずの議論になるのだといったようなことを主張してきているわけであります。
とにかく,国が一定の安全を確保し,外交に発言力を備えるためには,なまじの軍事力を持つというような議論ではなくて,まず周りの国とどのような格好で信頼関係を築くか,そういう問題であります。ですから,さっき白井さんがおっしゃったお話というのは,まさにそこにあるわけです。安全保障の専門家としても,信頼関係の醸成を基盤におかない防衛力整備はありえないという立場であります。
そういうことをお話する機会がなく,いきなり沖繩の問題に入ったものですから,ちょっと舌足らずだったということで補足させていただきます。それから,もう1点は海兵隊に関する議論です。海兵隊の,特に地上部隊については,沖繩県民は,できれば平時はいないほうがいいという思いが強いというお話がございましたが,まさにそのとおりなのです。これはジアラさん,グリーンさんもよくご存知だと思うんですが,沖繩県内を走ってますと,日本の暴走族みたいな走り方で割り込んでくるのは全部海兵隊なのです。
それも地上部隊のガキどもで,車とめてぶん殴ってやろうと思ったけれども,向こうは大きくて恐い(笑い)。やはりそういう連中は,普段はちょっと違うところに置かないと,県民感情としては良くないだろうという感じがいたします。それに対しては,それなりに日本側からカードをきちっと準備しながらアメリカの国防総省,あるいはもっと狭いところでは海兵隊当局と交渉できるようにならないと,これは実現できないわけです。
そういうところから具体的な話をしようというのが,私の立場なのです。海兵隊については,日本の報道を見ても,ちょっと気になる点があります。アメリカ側でこんな文書が見つかったとか,アメリカはもともと日本の防衛のために海兵隊を位置づけていないとかの議論を紹介したりするのですが,アメリカの軍事力の中での海兵隊の位置づけと任務に立脚した議論がないのです。
例えば,海兵隊は日本の防衛のためにいるのではないという議論ですが,確かに日本の防衛ということを考えた場合,海兵隊を投入する局面というのは限られるし,ないと言える場合もあるのです。ただ,日本という根拠地をもとに,海兵隊の戦力を投射できるということによって,日本防衛も成り立っている側面もある。
それから,根拠地を守る任務が,日本だけではないのですが,海兵隊の任務の一番上にあるということが,日本のマスコミの報道ではなされないのです。アーミテジが何を言ったかという話だけで,動いてしまうのはまずいだろうと思う。アーミテジという人は,僕は6年前にワシントンでちょっと話す機会があって,わりと基本的な認識というのは一致しているのです。
大変すぐれた人です。しかし,彼が言ったことだけが一人歩きするような形の報道とか議論というのはまずい。彼は彼なりの考え方を示しているということなのです。ついでに言うと,彼は僕と同じ年なのですが,彼に言わせると「おれが4月生まれで,お前は12月だから,おれが兄貴なのだぞ,忘れるな」ということになる。
アメリカが兄貴なのだ,忘れるなと言われたような気がして,それが非常に印象に残っています。ただ海兵隊についても,とにかくアメリカ側が表面的な議論をどうしているかということも重要ではありますけれども,同時にアメリカ側の軍事力の中の位置づけについては,やはり押えないといけないだろうという感想を,私は持っております。
【司会】 ありがとうございました。(終)
http://www.tokai.ac.jp/spirit/shuppan/HS01/02_03.pdf