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『統一ペーパー』にみる日本有事の諸問題
1994年6月、内閣安全保障室(現在・内閣官房安全保障・危機管理室)の総括国防班が、ある書類を作成した。作成に携わったのは、防衛庁、外務省、警察庁、運輸省、海上保安庁、国土庁、法務省の7省庁の審議官、課長たちという。麻生(1998)によれば、その書類の存在を知るのは、日本政府でもごく限られており、国家機密レベルの扱いとされるその書類は『統一ペーパー』という符丁だけで呼ばれているらしい。
以後、『統一ペーパー』を元に麻生(1998)が指摘する問題を、簡単に紹介しよう。
94年の北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の核兵器開発疑惑による朝鮮半島危機に対して、当時、アメリカが経済制裁・封鎖だけでなく実際に第2次朝鮮戦争の引き金を引くことを決定し、アメリカによる先制攻撃寸前であったことが、現在では、マスコミ報道でも明らかにされている。アメリカの北朝鮮攻撃という事態は、ギリギリの段階での北朝鮮側の譲歩と、カーター元大統領の平壌入り、金日成主席の死去等により回避された。アメリカのこの手法は、近年繰り返されているイラクへの空爆でも見られるとおり、常套手段である。同じ状況、条件がそろえば、イラクに対して実行できることは、北朝鮮に対しても実行できるはずであり、朝鮮半島に対してだけ、アメリカが特別扱いするということは考えられない。実際、アメリカ国防総省が発表した報告書によれば、これまで「ソフト・ランディング」を想定していた北朝鮮問題、朝鮮半島問題について、アメリカはついに今年になって北朝鮮への「先制攻撃」というポリシーを選択した。
そのアメリカ先制攻撃による、第2次朝鮮戦争の一歩手前であった94年の段階に、アメリカ国防総省は日本の自衛隊を統括する「統合幕僚会議幕僚三室」に「強力要請事項リスト」を送りつけた。朝鮮戦争時に、アメリカが日本に対して要請する協力を約1000項目にもわたってリストアップしたものである。麻生(1998)によれば、それは「掃海艇の派遣」、「港湾施設の一時利用」、「燃料の補給」など、現在実現化しつつある『日米ガイドライン』とほぼ同様の内容であったという。この頃から、アジア有事を想定した「周辺有事」「周辺事態」ということが議論されるようになるのであるが、この『統一ペーパー』にまとめられていることは、このような周辺有事に関する問題ではない。
安全保障室311号室に集まった各省庁の代表が議論し合ったのは、朝鮮有事の際の「日本有事」についてであった。アメリカにいかに協力するかではなく、日本の安全をいかに守るかという、日本のための対策会議であった。この安全保障室311号室での対有事オペレーション会議は、「パニック対策作業部会」と命名されていたという。
朝鮮半島有事に際して、日本が直面する危機は何か。この『統一ペーパー』は、まず大きく3つの事態を挙げているという。
1)原子力発電所へのゲリラ攻撃
2)在日米軍基地への攻撃
3)中距離弾道ミサイル(ノドンなど)による攻撃
その中でも最も大きな問題とされたのは、3)のミサイル攻撃への対処であった。そこでは、日本国民に対する「空襲警報」の可能性について検討された。防衛庁によれば、ノドンはマッハ8.5のスピードで、日本には約20分ほどで到達するという。たとえ米軍の偵察衛星、早期警戒衛星がミサイル発射をキャッチしたとしても、それを日本政府、防衛庁に伝達される時間を除くと、日本政府が対応できる時間は十数分しかない。
そこで、その十数分で何ができるか、空襲警報をどのような方法で、どうやって発するのか、具体策が検討された。しかし、各省庁の意見では、「1発目のミサイルには空襲警報は出せない」と一致したという。化学兵器などが搭載されていた場合のことを考慮すると、「空襲警報は出すべき」という意見で一致したが、実際に対応できるのは2発目以降ということになる。
1)や2)について、北朝鮮のゲリラ部隊、もしくは正規軍による攻撃に対して、問題となっているのは、「地方自治体との関係」であるという。自衛隊が出動するためには、未だに数多くの特例事項の制定や、法改正が必要であるが、この地方自治体との協議という問題については解決策が全くない状態である。日米ガイドラインでも、この「地方自治体への要請」は必要であるが、そのとき地方自治体がどのような対処を行うか、スムーズに協力が得られるか、この問題は全く手がつけられない。
他にも、日本を支える「通信」インフラへのテロ攻撃も想定されている。まず対馬にある米軍施設への攻撃が考えられる。対馬には、日本にあるアメリカ第5空軍と、韓国にあるアメリカ第7空軍を結ぶ「通信基地」があり、戦術データのリンクも行う重要なネットワーク中継施設であるという。先日、98年12月にも、北朝鮮の潜水艇が韓国軍によって撃沈された事件があったが、その撃沈地点も対馬から約80キロの地点であった。その周辺では、これまでも数多くの北朝鮮軍の船艇が出没しており、朝鮮有事の際には、まずここが狙われる可能性が高いという。
また、在日米軍基地同士の通信ネットワークは日本中に張り巡らされており、それは山中深くに敷設されているが、このどこかがテロ攻撃により寸断されれば、在日米軍のオペレーションに大きな影響が出ることは明白である。
このように、情報網を遮断するという手段は、数あるロジスティック・ラインの寸断というゲリラ戦の必須事項であるといえよう。このようなロジスティック・ラインの防御という戦略が必要となっている。
『統一ペーパー』が扱った事項は、多岐にわたる。これらの事態を想定して、空襲警報から、避難態勢、被害者の処置(死者の棺桶、埋葬ほか)まで考察している。しかしながら、常にこれまでもそうであったように、「自衛隊の出動要件」、自衛隊、警察庁機動隊などの武器使用などについては、手がつけられない状態には変わりがなかった。
このことが現体制の限界であり、有事を想定したさらなる法整備、改革の努力が必要であることは言うまでもない。
http://www.iris.dti.ne.jp/~rgsem/paper1.html
◆日本の原発の停止は北朝鮮のテロ攻撃に備えたものである。ミサイル攻撃には先制攻撃しか手はないが、自衛隊にはその能力が無い。