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【イスラマバード春日孝之】パキスタンが朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に高濃縮ウランによる核兵器開発に必要なガス遠心分離装置を提供した疑惑で、同装置は98年6月、殺害されたパキスタン在住の北朝鮮外交官夫人の棺を運ぶ特別機に隠され、北朝鮮に搬送されていたことが28日、明らかになった。装置が搬送されたのは、パキスタンがウラン型(広島型)の核実験に初めて成功(98年5月)した直後で、北朝鮮がパキスタンの開発成功を確認した上で導入を決断したとみられる。
毎日新聞が入手した情報によると、北朝鮮に提供されたのは遠心分離装置のサンプルと装置の設計図など。遺体と一緒に棺に詰められた。北朝鮮は遺体搬送を名目に平壌―イスラマバード間に特別機を飛ばしたという。
専門家によると、高濃縮ウラン製造には大量の遠心分離装置が必要だが、サンプルと設計図類があれば、北朝鮮自ら装置の材料を調達し、開発を進めていくことは可能だという。
遠心分離装置の搬送には、パキスタンの核開発機関「カーン研究所」のカーン所長と複数の研究員が直接関与し、見返りとして北朝鮮当局から多額の現金が支払われたとされる。
一方、殺害されたのは、当時の在イスラマバード北朝鮮大使館経済担当参事官の夫人(当時54歳)。英国のサンデー・テレグラフ紙などによると、この参事官は北朝鮮最大手の兵器輸出会社「チャンワン・シンヨン貿易公社」のパキスタン代表を兼ねており、事件後まもなくパキスタンから姿を消したという。同紙によると、98年6月7日、自宅に覆面をしたグループが乱入、夫人を射殺した。また同紙はパキスタン警察当局者の話として、夫人が北朝鮮の武器取り引きの情報を西側外交官に提供していたとの見方を伝えている。
現在、北朝鮮の核兵器開発をめぐっては、国内の実験用黒鉛減速炉の封印撤去に伴うプルトニウム型(長崎型)製造への懸念が高まっている。だが、米国務省は今年10月16日、ケリー国務次官補(東アジア・太平洋担当)が同月、北朝鮮を訪問して行った米朝高官協議の際、北朝鮮側が兵器用の濃縮ウラン計画の存在を認めたとの声明を発表した。複数の米政府高官によると、ケリー次官補が協議で、北朝鮮が遠心分離装置を入手していた証拠書類を提示したところ翌日、北朝鮮側が計画を認めた。米紙は遠心分離装置はパキスタンが提供していたと報じている。
米中央情報局(CIA)が連邦議会へ提出した報告書は「北朝鮮が年間2個以上の核兵器を製造できるウラン濃縮工場を建設しており、米朝枠組み合意が破棄された場合、早ければ05年に全面稼働する」と警告している。
■高濃縮ウラン 天然ウランは、核分裂して大量の熱エネルギーを出すウラン235(含有率約0.7%)と非核分裂性のウラン238(同約99.3%)で構成される。兵器級ウラン製造にはウラン235の組成を高濃度にする必要があり、大量の遠心分離装置を使って濃縮を繰り返す。装置は円筒状で、洗濯機の脱水槽の原理で高速回転させる。軽いウラン235は中央にたまり、その濃度が高くなる。これが高濃縮ウラン。重い238は「カス」として外側にたまる。この割合が多いものが劣化ウランと呼ばれる。これも硬くて重く貫通効果があることから、爆弾に利用できる。
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●ミサイルと核を「物々交換」
【イスラマバード春日孝之】パキスタンから朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)への濃縮ウラン製造に向けた核技術移転疑惑をめぐり、北朝鮮外交官夫人の殺害事件を利用した偽装工作が28日明らかになった。米政府はパキスタンに「疑惑が証明されれば制裁を科す」と警告していたが、「対テロ戦争」に協力しているパキスタンへの圧力は、「過去」よりも゛再犯の防止゛に重点を置きたいというのが本音とみられる。
パキスタンと北朝鮮の軍事的連携は70年代に始まり、90年代初めのブット政権時代に本格化。ともに外貨不足に悩む中、北朝鮮はミサイルを、パキスタンは核技術をそれぞれ提供するバーター取引(物々交換)が成立したとみられている。
米紙ニューヨーク・タイムズ(11月24日付)によると、今年7月にパキスタンのC―130輸送機が北朝鮮の空港で弾道ミサイルの部品を積み込むところを、米国の偵察衛星がとらえていた。
北朝鮮からパキスタンへの弾道ミサイル提供疑惑については、99年7月にも北朝鮮船籍の貨物船がインド洋でインド当局に拘束され、パキスタン向けのミサイル部品などが押収されるなど、いくつかの「証拠」が上がっている。米国は、パキスタンが「国産」と公言するガウリ・ミサイルが北朝鮮のノドン・ミサイルだと断定している。
しかし、パキスタンから北朝鮮への核技術移転疑惑に関しては、韓国の情報機関が最近、米国に何らかの「証拠」を提供したとされるものの、具体的な事例が発覚したことはなかった。
米国はパキスタンでアフガニスタンから逃れてきた「アルカイダ」の掃討作戦をパキスタン治安当局の協力を得て展開している。このため、仮に米国が「証拠」を入手していたとしても、パキスタンの「疑惑」を突き詰めるのは、こうした協力関係に亀裂を生じさせかねず得策ではないと判断しているフシがある。
実際、米国のパウエル国務長官は先月、パキスタン政府に対し「北朝鮮との不適切な接触は重大な結果を招く」と警告。ムシャラフ・パキスタン大統領から「今後、接触はしない」との確約を取り付けた。
[毎日新聞12月29日] ( 2002-12-29-03:01 )