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平成14年12月28日
こんどは本気か北朝鮮の核開発計画
年末も押し詰まってから北朝鮮が強引に核施設再開に踏み切り、同時にイランの秘密核施設の存在が明らかになった。ブッシュ米大統領がイラクと並べて「悪の枢軸」と呼んだ3国が、実は「核の枢軸」だったことになる。これは分かりやすいグループだ。
このうちイラクのフランス製オシラク原子炉は完成前の81年にイスラエルが空爆して破壊し、そのあと91年の湾岸戦争時とそれ以後も英米が徹底して関連施設を破壊してきたので、今では核開発計画と呼べるものはもう残っていないと思われる。
イラクと並んでイランも世界有数の石油・天然ガス産出国である。将来にわたって原子力発電が必要だとは思われない。したがって原子炉建設の目的は核兵器の取得か、そのための原料を自前で蓄積しておくことだろう。それ以外には考えられない。
北朝鮮は事情がだいぶ違う。94年当時は金日成主席が核開発計画を交渉材料にしてアメリカを引き回した。93年3月の核不拡散条約(NPT)脱退表明から危機を巧みに盛り上げ、カーター元大統領の訪朝を受け入れて一気に緊張緩和を演出してみせた。
その20日後に金主席は急死するが、遺志が受け継がれた形で「米朝枠組み合意」が成立し、軽水炉2基の建設および完成までの燃料油供給と引き替えに、北の核施設はすべて封印された。
このときクリントン政権は、「核計画を凍結しないなら核施設を攻撃する」と通告した。そうしておいてカーター特使が訪問したわけだが、実際には北が報復のために行動を起こせば韓国の一般市民にどれだけの被害が及ぶかを考えれば、米軍の先制攻撃の可能性は極めて低かったと思われる。
さて今回の危機も「また得意の瀬戸際外交を始めた」という見方が支配的のようだ。しかし、そう見ない方が無難であろう。今回は違う可能性が強い。
いかに何でも同じブラフを繰り返して同じ成果が得られるとは考えないだろう。それだけでなく、94年当時は金日成主席が急死し、後継者の正日書記は喪に服すという理由で3年も雌伏し、その間に権力を確立することに専念したのである。
情報を総合すると、北は98年からウラン型の核開発計画を始動したらしい。金正日が独裁者として自立したときから、その象徴として核開発を指令したとしたらどうだろうか。国際合意によって封印されたのはプルトニウム型の核計画だったから、その裏をかいて別個にウラン型の設備を作り始めてもしばらくは気づかれない。
それが明るみにでたのは、昨年の同時テロのあと、アメリカがパキスタンを半ば脅して味方に引き込み、隣国アフガニスタンのタリバン政権退治を本気で実行したためである。パキスタンはもともとタリバンを送り込んだ親元でもあったから、アメリカの軍事力に楯突くつもりはないというアリバイのために、北朝鮮との核協力の証拠を洗いざらい提供したものと思われる。パキスタン製のウラン濃縮機器の代金請求書コピーを、ケリー米特使が動かぬ証拠として北側に突きつけたという。その背景はこういうことのようだ。
金正日はいずれバレると思っていたに違いない。そのときがくれば堂々と(?)核計画の存在を認めてしまえばいい。父親の「瀬戸際外交」再演のフリをしながら時間を稼ぎ、早いとこ核兵器を完成させてしまえば勝ちだ。ウラン型はまだ完成にはほど遠いから、手っ取り早くプルトニウム型の再開で行く。
核兵器は持ってしまえばもうこっちのものだ。インドもパキスタンも持ってしまったらアメリカといえども手が出せない。既成事実を認めるしかないのだ。
金正日の思惑はこんなところだろう。彼がいま必死でアメリカに相手をしてもらいたがっているのだ、ときめてかかったらとんでもない誤算を犯すことになるのではないか。
イランの核計画を見ても分かるように、核兵器を持ちたいという誘惑には御しがたいものがある。核アレルギーの日本人が見逃しがちな落とし穴であろう。
北朝鮮が核装備した暁には、自前のミサイル能力とあいまって、インドやパキスタンを遙かにしのぐ核戦力を保有することになる。韓国は政治的に耐えられなくなるかもしれない。中国もロシアも対応の仕方を変えざるを得まい。
そうなると、日本とアメリカはどうだろうか?
94年当時、米政府は北が1個か2個の核兵器ないしその原料(精製プルトニウム)を開発済みという見方を公表していた。それにわざと目をつむって「枠組み合意」を成立させたという推測もかなり根強く流されてきた。それが裏目に出てしまったのだとしたら、こんどはどういう態度に出るだろうか。
日本に対して拉致を認めるという予想外の譲歩をみせたのも、こういう流れの一部だったと考えるのが妥当だ。拉致さえ認めれば日本は軟化して早期に国交正常化が実現し、「親朝派」政治家・文化人などが後押しして巨額の援助が入ってくる。それがあれば短期間で核計画を推進できる、と皮算用したのではないだろうか。これほどの日本の世論の盛り上がりは全く予想できなかったのだ。
昨年の年末は、年初に想像もできなかったアフガン戦争で締めくくられた。今年の年末も年初には想像もできなかった「核の枢軸」の開き直りでカウントダウンになる。来年の展開が恐ろしい。(02/12/28)