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米ミサイル防衛:北朝鮮と中国を意識 配備の規制事実化狙う?
ブッシュ米大統領は今月17日、弾道ミサイル攻撃から米本土などを守るミサイル防衛の
初期システムを04年〜05年に実戦配備すると発表した。川口順子外相、石破茂防衛庁長
官が訪米中というタイミングに合わせたのは明らかだったが、ミサイル迎撃実験に失敗した
直後でもあっただけに、無理に急いだ印象を強く残した。その背景やミサイル防衛計画の実
態、日本との関係を探った。
◆未完の技術
太平洋上空での大陸間弾道弾(ICBM)迎撃を想定した今月11日の実験が成功してい
れば、ブッシュ政権下での実験は地上発射型が5回連続、イージス艦からの海上発射型を含
めると8回連続で「失敗なし」の快記録になるところだった。
しかし結果は、迎撃ミサイルから弾頭破壊装置を切り離せず、前政権下で起きたのと同じ
失敗を繰り返した。国防総省幹部は「正しく飛ばないものは使えない」と悔しさをあらわに
した。
ミサイル防衛構想には85年から02年まで総額657億ドルを注ぎ込んだ。現政権下で
は予算が倍増し、00年の36億ドルが02年には78億ドルになった。
それなのに、深刻な技術的課題が多数ある。04年〜05年の初期配備について、ラムズ
フェルド国防長官自身は「ないよりまし」な程度だと率直に認めている。野党の民主党など
が「配備は時期尚早」と批判したのも無理はない。
◆大義名分
では、決定に踏み切った大義名分は何か。ラムズフェルド長官は、ロシアとの弾道弾迎撃
ミサイル(ABM)制限条約から脱退し多様な試行錯誤が可能になったことを強調しなが
ら、「ミサイル防衛は進化する計画だ」「何年も後で完成した時、多くの国が参加してもい
るだろう」などと語っている。
ホワイトハウスや国防総省当局者は、ミサイル防衛によって「米本土のほか在外米軍、友
好国、同盟国を守る」と強調し、日本との共同技術研究のほか、英国やデンマークへの早期
警戒レーダーでの協力要請、高性能パトリオット「PAC3」の海外配備、イスラエルの迎
撃システム「アロー」の共同開発、ドイツやイタリアとの防空システム開発などを進めてい
る。「テロとの戦争」を世界規模で進める発想と酷似している。
もう一つ強調されているのは、北朝鮮の脅威だ。米政府も今回の決定の背景として、北朝
鮮の核開発やイエメンへのミサイル輸出などに触れ、結果的に「北朝鮮の核ミサイル」への
警戒感を米国民の間に広げた。
◆既成事実化
しかし今のところ、北朝鮮のミサイルは米国には届かず、核弾頭を保有している可能性も
ほとんどない。米紙ワシントン・ポストは19日付の社説で、完成にはほど遠いミサイル防
衛システムの早期配備を正当化するような脅威は存在しないと指摘し、「性急な動き」は政
治的理由によるものだろうと述べている。
つまり、ミサイル防衛推進派にとってこの計画は至上命題であり、ブッシュ政権1期目の
任期内に、配備の既成事実化を狙っている、という見方だ。
また、現政権のミサイル防衛構想は、米国の将来的なライバルと目される中国を主たる対
象にしているとの見方が強かった。「北東アジア」からの弾道ミサイルを迎撃するシステム
を構築しても、今なら中国ではなく北朝鮮への対策だと釈明することも可能だ。【ワシント
ン中島哲夫】
■弾道ミサイル 46カ国が保有
弾道ミサイルは核兵器などの大量破壊兵器搭載が可能で、高高度を高速で飛行する。保有
国は69年には米国とソ連の2カ国だけだったが、02年時点では46カ国が保有してい
る。
米国の弾道ミサイル防衛は、ミサイル発射直後(ブースト段階)、弾道飛行中(ミッドコ
ース段階)、到達直前(ターミナル段階)の3段階で、それぞれ迎撃システムを構築する。
中心となるのはミッドコース段階での迎撃。標的の識別や迎撃に使える時間が長く、軌道
の予測も容易だからだ。「地上配備型ミッドコース防衛(GMD)」は赤外線衛星やレーダ
ーの位置情報をもとに、地上発射の迎撃ミサイルで弾道ミサイルを撃ち落とす。05年まで
にアラスカ州に16基、カリフォルニア州に4基の迎撃ミサイルが配備される。
イージス艦から迎撃ミサイルを発射する「海上配備型ミッドコース防衛(SMD)」も計
画されている。こちらは05年までに、短・中距離ミサイルを標的とする迎撃ミサイル20
基を配備する。
17日の発表で実戦配備リストに挙がった迎撃システムとしては、ほかに「地対空誘導弾
パトリオット3(PAC3)」がある。これはレーダーと射撃管制装置、発射機を組み合わ
せた地上配備システムで、米本土や在外米軍基地への到達直前の弾道ミサイルを撃ち落と
す。湾岸戦争で注目されたパトリオットを大幅に改良したものだ。
PAC3と似たシステムで、より高い地点でミサイルに対応できる「戦域高高度防衛ミサ
イル(THAAD)」も開発が進んでいる。
究極の目標は発射直後の迎撃だ。「航空機搭載レーザー(ABL)」のセンサーで弾道ミ
サイルをとらえ、高出力レーザーで撃破する。すでにレーザー出力試験が終わり、飛行試験
に入った。しかし、迎撃時間が短いうえ、発射が想定される地域に常時、航空機を配備しな
ければならないという難点がある。【ワシントン斗ケ沢秀俊】
■日本、法・財政問題整理へ
ミサイル防衛計画の中で日米が共同技術研究しているのは、短・中距離弾道ミサイルをイ
ージス艦発射の迎撃ミサイルによって大気圏外で撃ち落とす「海上配備型ミッドコース防
衛」(SMD)だ。
ケイディシュ米ミサイル防衛庁長官は17日の発表で、SMDについて「05年末までに
イージス艦3隻に最大で計20基の迎撃ミサイルを配備し、さらにイージス艦15隻にミサ
イル追尾能力を持たせる」と表明した。ただ、今回発表された初期段階のものと、共同技術
研究の対象となっている高性能で長期計画に基づいたSMDは別だという。
日米共同技術研究は、98年8月に北朝鮮が中距離ミサイル「テポドン」を発射したのを
受けて、99年度から始まった。具体的には「標的を直撃し破壊するための弾頭」など迎撃
ミサイルの主要4構成品を対象とし、設計・試作を進めている。
日本政府はミサイル防衛計画への参加形態について「調査・研究」「開発」「量産・配
備」の3段階を設定。現在の「研究」から「開発、配備」段階への移行は「別途、判断す
る」(98年の官房長官談話)としている。開発、配備を決定しない理由の一つは、法的・
財政的問題が整理できていないためだ。
法的には、敵のミサイルの標的を早い段階で判断するのは難しく、結果的に米国など第三
国を狙ったミサイルを迎撃すれば憲法解釈で禁止している集団的自衛権の行使にあたる恐れ
がある。米国に供与した武器技術が第三国に利用され、武器輸出三原則に抵触する可能性も
指摘されている。
財政面では、技術研究だけでも5、6年で200〜300億円かかると試算され、開発、
配備となればさらに膨大な額を要するため、費用対効果への疑問が出ている。
石破茂防衛庁長官は17日、ラムズフェルド国防長官との会談で「開発、配備を視野に検
討を行いたい」と表明。SMD以外の、既に製造段階にあるPAC3の導入なども含めて検
討する考えを示した。日本政府は今後、法的・財政的問題の整理を含めて検討を本格化させ
るとみられる。【ワシントン佐藤千矢子】
[毎日新聞12月26日] ( 2002-12-26-01:55 )
http://www.mainichi.co.jp/news/flash/kokusai/20021226k0000m030180000c.html