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現役空将補の米国戦略の認識が出ていました。要約文を掲載します。本文は長文
です、<http://www.apa.co.jp/appletown/fujiseiji/orita.html>
を開いて下さい。
米国追随を容認していない織田空将補の米国観ですが、興味あるご意見です。Ddog
空将補 織田邦男
米国再考―米国政策の戦略性―
1 はじめに
21世紀は2001年9月11日から始まったと言われる。日本にとっても同時多発テロは我が国の安全保障政策に劇的な変化を生み出した。他方、2001年は我が国にとって21世紀の始まりの年であると同時に、パールハーパーから60周年、日米安全保障条約締結50周年という安全保障にとって特別な年でもあった。我々は米国についてどれだけ理解しているのだろう。米国を知らずして、米国とうまくやっていくことは不可能である。日本にとって米国は最も重要な国だが、冷戦時のように盲目的に米国に追随するわけにもいかない。米国が大きな失敗を犯すことだって往々にしてある。米国を知り尽くした上で、国益に照らし是々非々で付き合っていかなければならないのが21世紀の日本の宿命であろう。そのためには改めて米国という国が如何なる国であるかを勉強しなおすことが必要ではないだろうか、というのが本稿を書こうと思い至った動機である。米国は言わばとてつもない大きな巨象であり、多くの側面から見ていかなければ全体像はつかめない。今回は「米国再考」の一回目として、「米国政策の戦略性」といった側面から米国を考えてみたい。米国を理解する一助となれば幸いである。
2 米国の特徴
約20年前、筆者が米空軍大学に留学した時、米国の特徴は次の3点だと学校から教わった。従って、米国とはそもそも市民のボランティアで、必要の無くなった時は本業に復帰する為に大削減をする。米国の代表的知識人キッシンジャーは米国についてこう語っている。米国の外国政策は「ツマミ食い的」「場当たり的」であり、「ポピュリズム的」要素に支配され易い国であるとし、次のように述べる。「米国は長期政策を持っていると考えられがちであるが誤りである」と米国外交政策の戦略性について否定する。米国の特徴として「そもそも米国が200年の歴史しか保有せず、国民は歴史的視点が欠如し、長期的に物を考えるのが非常に苦手である」また「米国の教育は、義務教育でも米国以外の歴史はほとんど教えないし、地理教育もお粗末である」とし、「上院議員でも白地図に主要15カ国を書ける人は5〜6人程度」と手厳しい。留学中、米空軍の同級生から「米国人の大半は日本と韓国の区別がつかない」と言われて驚いたことがあるが、どうやら大げさでもなさそうだ。キッシンジャーは「米国は世界的視点で、しかも歴史的視点に立って米国の長期的戦略を構築することは極めて不得手である」と結論付けている。キッシンジャーはまた、「全ての国は米国のようになりたいと思っているだろう。米国に対する彼の評価はShort sightそのものである。
佐伯啓思京大教授はやや違った切り口で「米国は世界戦略などと言うものは決して持っていない。
3 歴史にみる米国政策の戦略性
(1) 近視眼的事例
ア 第二次大戦の戦後処理
米国の戦略性の無さ、あるいは近視眼的事例として、よく持ち出されるのが第
二次大戦末期における戦後処理に関わる米国の判断である。戦後処理を協議した
ヤルタ会談では、戦後のソ連満州進出やスターリンの領土的野心を見抜けず、ソ
連の真意がどこにあるかも知らず、ドイツと日本を完全に破壊すれば世界平和が
来るとの近視眼的視点で秘密協定を結んでしまったと言われる。原爆投下の時点
で日本はもはや戦う能力もなく、降伏は不可避だったにも関わらず、必要の無い
ソ連参戦を促し、ソ連の満州進出の口実を与えてしまった。記者「将軍は、ト
ルーマンを政治家として落第生であると言われるが、それはどのような点でしょ
うか」
石原「遠慮無く言わせてもらおう。どうだ、その通りだろう」
記者「おっしゃるとおりです」
なるほど、終戦後、関東軍のいなくなった満州は、米軍の力ではソ連の南下を
押えきれず、そのため、米国は日本や韓国から手を引きたくとも引くことができ
なくなった。何故、米国は彼らを救うことができないの?」と言ったことに始
まったと、ある米国人は教えてくれた。 (2) 長期戦略的事例
米国政策の典型的な近視眼的事例を述べたが、他方、米国が「深謀遠慮」あるいは「長期的戦略」を実現した事例も多くある。驚くべき米国の長期戦略性である。
イ 冷戦終結への戦略
81年に共和党のレーガン政権が誕生した。米国滞在中の筆者も、「85年危機説」の真偽のほどはまだしも、まさか89年に冷戦が終了し、91年にはソ連が崩壊しようなどとは想像だにできなかった。79年、ソ連がアフガニスタンを侵攻した時点において、10年後にはベルリンの壁が崩壊し、冷戦が終焉すると予測した人は居るであろうか。
ウ 対日開戦促進計画
1940年10月アーサー・マコーラム海軍情報部極東課長起草による「対日開戦促進計画」がルーズベルト政権によって裁可され実行に移された。マコーラムは大正末期、日本に駐在し宮中にも出入りし、昭和天皇にもダンスを教えたことがある人物であるが、米国国益のための緻密な戦略を提言し、これを実行した米国の戦略性には驚くほか無い。1947年ジョージケナンによって発表され、その後のソ連「封じ込め」戦略の基になった「X論文」、或いは1949・6・15にNSC49として承認され対日政策の基になった論文「日本における米国安全保障要件の戦略的価値」(要旨は日本がソ連側についた場合の軍事的損失は決定的であり、ソ連の利益は計り知れない。まして政策決定者が天才であれば米国の政策も天才的になるのである。
(閑話)
一部のエリートたちが米国を動かすという社会構造がアメリカ社会の貧富の差拡大という負の姿を生んでいることも事実である。
4真の米国像
キッシンジャーが米国政策を「ツマミ食い的」「場当たり的」と、その近視眼性を酷評するものの、上記のような長期戦略性を発揮した事例も枚挙にいとまがない。では、どちらが正しい米国像であろう。筆者の結論は「両方とも正しい」である。その理由は米国社会の特徴にあるといえる。つまり、米国社会は一言で言うと一握りのエリートによる意思決定で動く社会、トップダウンの社会である。従ってトップの意思決定者が幅広い見識、深い歴史観を有し、将来への鋭い洞察力を有する場合は、極めて「深謀遠慮」を示すが、そうでない場合、「場当たり的」政策を平気で犯すということである。「大学進学予定の高校生の4人に1人は北米とアジアを隔てている海が「太平洋」であることを知らない」のが現実であっても、また「上院議員でも白地図に主要15カ国を書ける人は5〜6人程度」であっても、トップの政策決定者が「太平洋」である事を知り、「白地図に主要15ヵ国を書け」れば、さしたる問題は生じない。まして政策決定者が天才であれば米国の政策も天才的になるのである。WASP (White Anglo-Saxon Protestant)という言葉があるように(今では徐々に死語化しつつあるが)、指導者たるべき一部のエリートたちの教育水準はきわめて高いし、また超エリートを育てる社会構造になっている。エリート養成で有名なハーバード大学は応募者が毎年約1万8千人で合格率は11%と言われるが、その応募者の95%は有名高校のトップ10%だそうである。そしてハーバード等、超一流エリート大学卒業者の、その又ごく一部の天才たちが米国を動かすキーパーソンの地位に就き、米国を動かすのである。
5おわりに
米国と言う国について改めて考えてみようとの試みで、今回は「米国政策の戦略性」に焦点を当て拙稿を紹介した。ここから逆に言えることは、政策のキーパーソンの思想、経歴、過去の論文や発言等を子細に分析すれば、米国政策の方向性、米国の行く先は読めるし、日本として先手が打てると言うことである。日米関係は「最も重要な二国間関係」と言われながらも、我々はあまり米国の事を知らぬまま付き合っているのではないだろうか。もちろん米国も同様であり、米国民レベルでは日本の事はほとんど知られていないし、よほどの事で無い限り米国ではニュースにもならない。しかしながら冒頭述べたように、米国にとって日本は"One of them" にしかすぎないが、日本にとっては「運命共同体」であることは、悔しいけれど受け入れなければいけない厳しい現実である。いずれも米国の特徴をうまく表現している。我々は対米関係について米国を知り尽くした上で日本の国益に照らし、先手を打っていくことが求められているのである。21世紀は米国の世紀であろう。冷戦が終わった現在、これまでのような日本の無作為や甘えはもはや許されない。