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銀行税敗訴で石原都知事の次のウルトラC  (週刊文春2月13日号)
http://www.asyura.com/2003/ishihara2/msg/121.html
投稿者 アーヴ 日時 2003 年 2 月 09 日 00:22:04:

 東京都と石原慎太郎都知事を被告とする外形標準課税条例の無効を求める控訴審が1月30日、東京高等裁判所で開かれ、判決が下された。
「本件条例による事業税の税負担は、『所得』を課税標準とした場合の税負担と比較して、『著しく』均衡を失している可能性が大きい。よって本件条例は地方税法72条の19には違反しないが、同法72条の22第9項に違反するものであり、違法なものである。よって無効である」

 昨年3月の一審判決に続いての敗訴。このままでは銀行が納付した事業税は、誤納金として還付しなくてはならない。この日の判決は、財政難に喘ぐ東京都として再び痛恨の結果であった。
 午後2時40分、「都側敗訴」の一報が東京都庁に伝えられる。総務局職員、主税局職員は判決文の分析に追われる。裁判に負け、職員の顔には暗い影が漂うはずだが、実際はそうでもなかった。安堵の表情さえ浮かべている者もいる。一体どういうことか?
 午後3時30分、外形標準課税の生みの親・大塚俊郎前主税局長(現出納長)が石原のもとを訪れ、判決内容を伝える。午後4時15分、第一庁舎七階ホールで都知事は、やや緊張した面持ちで立ったままの会見をはじめた。
「日本の国家の体質を変えるために地方分権というものを進めなくてはいけないという、正当な歴史認識を今度は裁判所側も持ってくれたという、そういうものを強く感じましたね」
 自身に敗訴判決を下した裁判長をほめる石原慎太郎。しかもその顔には笑みさえ浮かべている。都知事を半円状に囲む記者は、その姿を見て明らかに怪訝な表情を浮かべている。この日の会見に立ち会った記者の一人が振り返る。
「はじめ15分ほど、裁判の結果について話したのですが、負け惜しみを言っているのかと思ったくらい強気でした。だが次第にそれが本気だとわかって、不思議に思いましたよ」
 切羽詰った財政難に陥って、いつ倒れるかわからない東京都。4パーセントの利子を加算した2066億円という巨額の誤納金返還が命じられたのだ。しかも次の最高栽で負ければ、総額約4200億円という金額の支払いが生じる可能性がある。もしそうなれば地方自治体として大失政であり、外形標準課税を導入した石原の政治責任は決して免れない。石原の象徴的な政策の失敗は、すなわち石原都政への全否定にもつながる。
 にもかかわらず負けた側が司法を讃える。その異様な光景を、知事周辺は、「法律論では勝訴し、技術論で負けただけだから」と説明した。
 実は今回の判決のほとんどは、都側の主張が認められている。税の性格については、銀行側が主張している所得を基準にした「応能税」が退けられ、都側の主張する一律網をかける「応益税」に基づく考え方が認められた。さらに「資金量5兆円以上の銀行」という大銀行を狙い撃ちした点についても高裁判決は「都側の立法裁量であり合理的な区分」として適法という判断を下した。
 石原が勝利だと繰り返す理由はここにある。しかし判決の中で唯一認められなかったのは、都にとって最も重要なカネに関わる部分だった。今回の敗訴につながったのは、税率の設定ミスによる税負担の不均衡を招いてしまったことで、その結果平成13年の事業年度比較で、所得基準と外形基準の間に最大で3652倍の差がついてしまった。これが裁判で敗れた最大の根拠である。筑波大学名誉教授の土本武司氏はこう話す。
「高裁判決は外形標準課税を無効だとしたわけではありません。税率が税負担の均衡を著しく失するとして税の返還を命じたが、均衡を失するかどうかは訓示規定であって、選挙における一票の格差と同様、絶対的な基準はなく、課税権者が一定の幅を持つ概念といっていい。都がすぐ議会を開いて均衡を失しない税率へと条例を改正すれば、最高裁で改正後のものは認められる可能性もあります」
 ある主税局関係者が嘆く。
「導入した時は、3パーセントという税率は妥当だった。大蔵省は10兆円の投入で『不良債権処理は終わった』と言っていたし、銀行側も『健全化計画』を出して問題はないと繰り返していた。その報告に沿って設定した3パーセントは、決して高いとは思わなかった。その後の経済状況がますます悪化して、結果として不均衡になっただけだ」
 とはいえ、仮に最高裁で負けたら都は利子をつけて銀行にこれまでの税金を返さなければならない。しかし忘れてはならないのは、この税の背景には、銀行だけが「不均衡」に国から優遇されてきた事実があることだ。
「銀行は、西武、ダイエーといった大企業に対しては、何千億円もの債権放棄をしているのに、われわれ公共自治体へ支払う1000億円という税金に関しては裁判を起こしてまで返還を求めてくる。それなのに中小企業については5兆円規模の貸し剥がしを行っている銀行もある。おかしな話だ」(都関係者)
 2000年4月に施行された東京都の「外形標準課税」(銀行税)は、銀行を狙い撃ちした課税として、石原都政の象徴的な政策のひとつだった。バブルのツケで莫大な不良債権を抱えた大手銀行は、10兆円にものぼる国民の税金を注入されることによってどうにか「延命」した。大蔵省(当時)は、「不良債権処理は終わった」と高らかに宣言し、当事者である銀行もそろって、経営の健全性をアピールした。
 しかし、大蔵省と銀行の宣言はまやかし以外の何ものでもなかった。政府は、なりふり構わない「銀行救済」に走る。収益が上がっているにもかかわらず、赤字経常だとして所得税課税をゼロに抑え、他業界からの嫉妬を受ける優遇処置を与え続けてきたのだ。そのカラクリが国民の目にも映り、銀行批判が湧き起こる。その空気をうまく利用して、銀行を狙い撃ちにして導入したのが「外形標準課税」だった。

●タスクフォースの分析

 当時の大蔵官僚のひとりが語る。
「金融危機を恐れるあまり、大蔵省はなんとしてでも銀行を潰したくない。だから10兆円という税金を使ってでも銀行を救済し、さらに体力をつけるために所得課税で秘かに優遇したのだ」
 その実情をついたのが石原だった。大蔵省と銀行のその「不良債権処理の終了宣言」は裏目に出た。東京都が、過去に一度も使われたことのない地方税法72条の19を武器に課税自主権(外形標準課税)を行使してきたのだ。
 外形標準課税の生みの親である主税局長(当時)の大塚俊郎は、当時、石原に対してこう語っている。
「がんじがらめの地方税制の中で、この部分だけがフリーハンドなわけです」
 だが一審、控訴審ともに、結果は「敗訴」だった。17人の原告弁護団の一人、岩倉正和弁護士が語る。
「均衡論だけが問題とされたのではない。条例は違法で無効だとハッキリ判決文で述べられている。地方財政の苦しいなかの窮余の一策についての政治的評価は様々あるでしょうが、常識のある法律家なら誰しもあの条例が適法だと思う人はいません。一審も二審も落ち着くところに落ち着いたと思います」
 法律論でいえばその通りかもしれない。しかし石原は銀行への不均衡な優遇とそれに対する国民の疑念を背景に新税を創出し、都議会からも圧倒的な支持を受けた。司法はこの民意を十分に考慮する必要があるのではないか。一審終了後、石原は裁判対応への反省に立って法務長を更迭、二審に備えることにした。大塚の下に地方税訴訟の専門家や自治省OBを組織したタスクフォースを発足させ、この日の判決を迎えたのだった。
 実はこのタスクフォースにより、判決の前に綿密なシミュレーションが行われた。驚くべきことに、このチームは今回の判決を事前にほとんど予想していたのである。
 高裁判決は我々の勝利になる。しかし一点「税負担の均衡」についてだけは不確定な要素がある。負けるとしたらここの部分かもしれない。チームからこのような報告を受けた石原は、ひとまず安堵した。
 そしてこの日の判決は実際その報告通りになった。石原及び都側の不思議なまでの自信は、このチームへ寄せる信頼にすべて理由があったのだ。知事周辺が笑顔で話す。
「あの一審は『ゼロ審』みたいなものだ。次の最高裁が『二審』、そこが本番だよ」
 チームの相談にも乗った税法の専門家である日大法学部の北野弘久名誉教授は高裁判決を批判した上で、今後の戦術について次のように語る。
「日本国憲法の本来的租税条例主義から言えば、都税の外形標準課税の税率をどうするかは基本的に都議会の判断に委ねられる。裁判所も条例を尊重せざるを得ない。二審の判決はこの点で税法学的に誤りだ。外形標準課税をどのような場合に、どのような形で行うかについては、地方税法は何も規定していない。これは、法律的に都議会に任せる趣旨だ。大銀行の『所得』課税の『常態』と比較すべきであって、都が15年間の実績から税率を定
めたことは、合理的だ」
 都の関係者は、「最高裁判決に向けて財政調整基金などを増やして、誤納金の返還に備える。それだけが我々東京都にできる準備です」と淡々と受け止めているが、石原のタスクフォースは、上告後の戦術を練り直し、準備を着々と進めている。
「次の裁判では、来年にある国の外形標準導入が追い風になる。今回のうちへの判決は、90パーセント勝ったようなものだ。負けた部分も、国の基準と同様過去十年の収益で算出すれば、3パーセントという税率設定はまったく問題ではない」
 石原周辺は、こう明るい見通しを語った。

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