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マクロの視点、ミクロの視点
(2003.03.11)
永井靖敏 (Yasutoshi Nagai)
投資調査本部付
大和証券SMBC債券部出向中
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アメリカ経済の先行きをみる上で、設備投資の動向に関心が集まっている。雇用情勢に陰りが出てきたことで、住宅投資、自動車など、これまで堅調に推移してきた家計部門の需要の伸び鈍化が避けられなくなったからだ。市場では「景気が回復基調を維持するためには家計部門から企業部門へのバトンタッチが必要」との見方がコンセンサスになっている。
エコノミストは設備投資の先行きを比較的楽観視している。90年代後半に話題になった過剰設備の問題はほぼ解消され、景気循環の見地からは設備投資は回復初期の局面に入っている。実際、昨年末に設備投資は9四半期ぶりに前期比増加に転じ、足元受注も上向いている。設備投資の先行指標である企業収益の動向が気がかりだが、生産性の回復、雇用の抑制、底固い需要等、収益環境は比較的明るい。
これに対してアナリストは企業収益を比較的悲観視している。この背景には価格引き下げ圧力に対する認識が強いことが挙げられよう。3月5日に公表されたベージュブック(地区連銀景況報告)でも、企業の価格転嫁が難しくなっている点が指摘されている。
別の表現を使うと、エコノミストとアナリストで見方の違いはマクロ経済分析の一般的手法が原因ともいえる。マクロ経済はリアル(数量ベース)の世界とノミナル(価格ベース)の世界を別物と考え、通常リアルの世界で分析を行う。価格転嫁の問題はミクロ経済の分野で、マクロ経済分析のメインテーマではない。もちろんエコノミストがミクロ分析を無視しているわけではない。優秀なエコノミストはあらゆる角度から経済を分析する。しかし、予測の出発点が異なるのは事実で、この差が結論の違いにつがった可能性がある。
アナリストの中には、リアルの世界を「仮想的な世界」とみなし、エコノミストの議論を空理空論と批判する向きがある。特に企業収益はノミナルの世界の話であるため、アナリストの主張の方が説得的である。足元設備投資の動向に注目が集まるなか、「価格転嫁が困難なため、企業収益が改善しない」のは極めてトピックメーキングな話である。これを事実として議論を発展させると、設備投資の低迷だけでなく、雇用腰折れ→個人消費失速という結論に至る。極端な人はアメリカ経済も日本のようにデフレスパイラルに陥ると主張している。
ただ、ミクロ分析だけで景気の先行きを語るのも危険であろう。マクロ的にみれば「価格転嫁が難しい」状態は、「生産性の上昇により生じた付加価値が消費者に還元されやすい」ことを意味し、その分個人の購買力が向上する。企業部門の回復は遅れようが、家計部門からのバトンタッチの時期が遅れるだけで、必ずしも経済活動全体の低迷にはつながらない。
もちろん日本のように、価格転嫁の難しい状況がデフレにまで発展すれば話は別である。これまで価格(特に賃金)上昇を前提とした経済システムが変化する過程で、少なからぬショックを受けるからだ。ただ、アメリカの物価動向をみると、財価格は下落しているがサービス価格は上昇を続けており、賃金はプラスの伸びを維持している。生産性の上昇基調にも大きな変化はない。目先企業収益の動向に注目する必要はあるが、多少下振れしただけで景気回復シナリオを修正する必要はなさそうだ。
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