★阿修羅♪ 現在地 HOME > 掲示板 > 国家破産23 > 334.html
 ★阿修羅♪
次へ 前へ
2003年経済展望 〔プライオール投資顧問〕
http://www.asyura.com/2003/hasan23/msg/334.html
投稿者 PBS 日時 2003 年 3 月 10 日 20:38:58:

2003年も暗い年明けとなった。
株価はバブル崩壊後の安値どころか過去20年来の安値、円相場も120円割れ、加えて、イラクと北朝鮮情勢が緊迫の度を深め、原油を始めとする国際一次産品価格も不気味な上昇を見せているからだ。
こうしたなか、ひとり国債相場のみが史上最高値を更新して気を吐いている。そして、国債相場が堅調なので小泉首相は優雅に正月休暇を楽しむことができた。
首相にとっての関心事は小泉政権の延命だけで、そのために如何にして国民からの支持率を上げるかだけだ。ロシア訪問、次期日銀総裁の人選、消費税増税の否定発言、デフレ退治発言、靖国参拝、解散・総選挙の可能性などなど、全ては小泉内閣への支持率を高め、9月の自民党総裁選で再選を果たすために狡猾に計算されたものである。
ゆえに、総裁再選と首相続投に向けた小泉氏の戦略が本年の経済と政治の大半を決定すると見ている。従って、今年の前半は嵐の前の静かさ、後半から嵐が始まると予想する。

首相になるまでは威勢のよかった小泉氏も、首相に就任してわずか数ヶ月で首相としての覚悟のないことが露呈し化けの皮が剥がれたが、それでも歴代の首相よりかはまだましかも知れないとの期待もあった。しかし、小泉氏の発想や行動パターンが分かるにつれ、いまや小泉首相は非常に性質の悪い、戦後最悪・最低の首相だと確信するに至った。
そこで、このレポートでは極めて辛辣に小泉批判をしたつもりなので、小泉シンパの方々には読む前に予め心の準備をしておいて頂きたい。

<<本レポートの内容>>
1、小泉改革の実態
<道路公団民営化とは> <竹中プランは、新たな銀行救済策>
<自己保身のための税制改正>
2、小泉政権とは?
<小泉支持層は高齢者と主婦> <自分には甘く、他人には厳しく>
<経済政策は財政再建のみ> <経済を知らない法律屋の集まり>
<国家権力の増強に異常な関心> <スローガン政治>
<主役でいたい為に首相を続ける>
3、本年の金融市場の動向
<次期日銀総裁決定後から動き> <対外要因は改善の可能性も>
<2004年危機とは>
<円相場の見通し> <株価の見通し> <国債相場の見通し>
4、日本は自力では変われないのか
<国債暴落は避けられない> <最後に>

1、小泉改革の実態
税制改革、郵政改革、健康保険改革、年金改革、特殊法人改革などなど、改革と呼ばれるものは多々出てきたが、一体何が改革されたのだろうか。単に呼び名を変えるだけや、表面的な組織変更で改革のポーズを見せるだけで、実態は国民に負担を押し付けるだけのものである。全てが同じ構造なので、小泉改革の代表として高速道路公団改革から先ずは見てみよう。

<道路公団民営化とは>

マスコミによく登場することで名を売った作家を委員にするなど、鳴り物入りでスタートした政府の道路4公団民営化推進委員会は、予想通り散々な結果で幕を引いた。
中長期的には現行より悪くなるのが確実な道路公団民営化を唯一の代替案として、現行制度の延長との選択しか提示しないのだから、まともな答えが出るはずがない。高速道路利権を漁ることしか頭にない道路族も論外だが、永久に有料制を維持しようとする高速道路民営化を推進する小泉内閣の面々の方が、本質的には道路族より罪が重いだろう。

高速道路は、民営化しても何の意味もない。距離当りにしてガソリン代の倍以上もする高速料金が日本の高コストの元凶だが、この高速料金を1割値下げしたところで何の解決にもならない。料金所が関所となっていること、および高速道路の有料制によりJRが異常に高い鉄道運賃を設定できることなど、そして物流コストの異常な高さが問題だからだ。また、どんな手段を使っても移動にコストがかかり過ぎるから、都内の土地が異常な地価になる原因ともなっている。デフレ、デフレと騒ぎながらも日本の物価がいまだに高いのには、こうした構造が根底にあるからだ。
道路公団民営化の議論が盛り上がり始めた昨年8月、テレビ東京の看板番組「日高レポート」は、ドイツ鉄道とJR東日本を比較する番組を報道した。ドイツ鉄道はその営業距離数がJR東日本の5倍、従業員数が3倍もあるのに、売上高はJR東日本の6割しかないという。日高氏は、これをドイツ鉄道が非効率だからと結論づけ、JRの民営化を絶賛した。道路公団民営化委員でJR東日本会長の松田氏も番組に登場して、多くの反対を押し切ってJRを民営化した結果だと自画自賛していた。
しかし、JR東日本の売上高が営業距離ベースでドイツ鉄道の8倍以上もあるのは、異常に高い有料高速道路があるためであるのは明らかだろう。ドイツ鉄道は少ない運賃収入でも赤字にはなっておらず、列車内もゆったりしている。ドイツのビジネス列車など設備もスペースも申し分なく、列車内で充分に仕事ができるようになっている。利用者にとってどちらの鉄道の方が優れているかは一目瞭然だが、番組の主張は180度異なっていた。

高速道路は、国の豊かさを表している。G7の中では、英・米、独・加が基本的に無料、仏と伊は有料だが料金は日本の5分の1程度だ。ゆえに、ガソリン代の倍もする日本は極めて貧しい国と言わざるをえない。ガソリン代が日本の半値以下のアメリカでは、人件費を除く物流コストは日本の6分の1以下だ。ガソリン代が同じ程度の英国と比較しても日本の物流コストは英国の3倍である。これに加えて、料金所手前での渋滞を主因とする渋滞の時間コストが、国土交通省の試算でも年間12兆円にも達する。こうしたコストがあらゆる物品の価格に転嫁されているのである。特に、鮮度が重要でまとめて輸送することが難しい生鮮食品の価格が異常に高いのは物流費のためであろう。
年間2兆円超の高速料金収入を得るために、政府はこれだけのコストを国民に負担させている。道路のような社会的インフラは採算に合わないからこそ、国民が支払う税金で国が作る必要があるのだが、これは高速道路とて同じである。それをムリヤリ採算ベースに乗せて企業が行うとなれば、今の利権構造をたとえ壊すことができたとしても非常に難しい。必要な高速道路を作っても、高い高速料金を続けざるを得ないのだから。
そして最悪なのは、民間企業が高速道路事業を行うとなれば、それは永久に有料制が続けられるということなのだ。

私たち国民は、道路整備のために使われる税金として、年間6兆円以上を払っている。ところが、その道路関係諸税が余ってきているから、小泉首相は他に転用できるよう画策している。しかし、高速料金収入2兆円の内、高速道路建設に向けられているのはたかだか4〜5千億円程度だ。その程度なら、高速道路も年間6兆円の道路関係税の中から出して作ることに何の問題もない。百歩譲って、高速道路建設に充てる税金が足りないというのなら、別途の道路税収の増税策を考えるべきであろう。
というのは、高速道路有料制の最大の弊害が、料金所が関所になっていることだからだ。誰しも関所を通る回数を減らしたいし、余分な料金など払いたくない。都内では一般道の方が空いているかも知れないと思っても、再び首都高に入らないといけなくなるかも知れないと思うと、また700円の高速代を払うのが躊躇われて首都高上での渋滞を我慢するということが度々ある。すなわち、料金所は人と車の移動の自由を制限しているのである。
その典型が本四架橋であろう。わずか10kmの瀬戸大橋の往復に1万円の料金を払ってまで、四国と本州の間を行き来するとなれば、よっぽどのことがなければ行き来はしない。本州と四国は物理的にはつながったが、料金所が関所となって逆に人の往来を制限しているのである。

自分の名前を売ることしか興味のない作家は論外として、道路建設で儲けている鉄鋼会社の会長や、高速道路が無料開放されなくとも料金が大幅に安くなるだけで経営が成り立たなくなるJRの会長が、改革派の代表とは聞いてあきれる。
国民に貧しい生活を強いながら、政治家や役人が海外で大きな顔をしたいという理由や、それが大きな利権になるという理由で政府開発援助(ODA)は世界一だが、他国に無駄に援助する金があるなら、まともな高速道路を税金で作ってもらいたいものである。
高速道路の民営化は、行き詰まった現行制度の破綻を隠蔽し、目先を変えることで実質的な現行制度の延命を図るだけの国民をより貧しくするものでしかないのである。


<竹中プランは、新たな銀行救済策>

昨年10月からスタートした不良債権処理の加速策(竹中プラン)も、道路公団民営化問題と同じで、現行制度の延命策でしかない。マスコミは、道路問題では道路族を悪役に仕立て、不良債権問題では銀行経営者を悪役にしているが、どちらも国民の目を問題の本質から逸らすために小泉内閣に操られているだけだろう。
竹中プランは銀行に対して厳し過ぎると報道されているが、どこが厳しいのか皆目分からない。不良債権の査定厳格化は当たり前のことで、金融庁は今まで何度同じ説明をしてきたことか。竹中プランでも、査定が本当に厳格になされるのか甚だ疑問であるくらいだ。ところが、その査定により銀行の自己資本が過少だと判断されると、政府は再び公的資金(税金)を銀行に投入するという。しかもその際に、銀行経営者は単に退任するだけでよく、過去の責任は問われない。そして、たとえ銀行が国有化されても、既存株主も責任を問われないというのだ。
長銀や日債銀の処理では、経営者は粉飾決算や違法配当で刑務所に入れられ、損害賠償も請求されている。株主も保有する銀行株の株価がゼロになり、責任を取らされた。しかし、今生き残っている銀行は、粉飾決算や違法配当をしていないというのだろうか。五十歩百歩であるのは周知のことだ。ところが、今回は単に退任するだけで許されるのである。これのどこが厳しいというのだろう。マスコミが騒ぎ立てて銀行バッシングをしているのは、竹中プランが厳しいとの印象を国民に植え付けるための演出でしかないのだ。
小泉内閣としては、過去の金融行政の失敗を有耶無耶にするには、誰かに責任を押し付けなければならない。そこで銀行経営者を悪役に仕立て、彼らをバッシングすることによって国民の怒りを彼らに向けさせているのだ。そして、金融行政の失敗を隠蔽するために、不良債権処理問題が破綻しないように新たに公的資金を銀行に投入するのである。ただ、柳沢前金融相の時と変わらないと見破られないように、銀行をバッシングして国民の怒りをガス抜きしているだけなのである。

すなわち、竹中プランとは、過去の金融行政の失敗を有耶無耶にして、新たに公的資金を投入するための方便でしかない。マスコミはそうした政府の意図に乗せられて、「悪いのは銀行であり、小泉内閣の責任ではない」という構図を作り上げるお先棒を担いでいるだけである。ところが、その悪役の銀行経営者も単に退任するだけで許されるという。過去の金融行政の失敗を報道するマスコミが皆無なのは異常というほかない。
ゆえに、竹中プランは、従来は2003年までに不良債権問題を片付けると言っていた小泉内閣の公約が破綻したので、不良債権問題を2年先送りするだけのものである。しかし、銀行は自己資本を使い果たし、合併や持ち株会社の設立など会計上の操作で形振り構わず決算を取り繕っているにすぎない。大量に保有している国債も何時暴落し始めるかも知れない。2年の時間が残されていると考えるのは希望的観測でしかないだろう。

そこで、もし小泉内閣が本当に今後2年間で不良債権を処理するつもりなら、処理期間の2年間は個人投資家の株式譲渡益課税を無税にするなどの大胆な政策を出すはずだ。株価の上昇こそが不良債権処理を進める上で最も実現可能性があり、最大かつ最も効果的な策だからだ。株の譲渡益にかかる税収など、元々たいした金額ではないのだから無税にしても税収はたいして減らない。ところが、こうした証券税制の改革も、僅かな税収減をケチってやろうとしない。

もし、今回程度の証券税制改正で株価が上がると考えているなら、日本経済の実態を認識する能力に欠陥があるし、また、それほどの株価上昇を期待していないというのであれば、本気で不良債権問題を片付ける気がないということである。10年以上も解決できていないのだから、株価が予期したよりも上がり過ぎて困るといった嬉しい誤算の可能性を前提にするくらいでないと不良債権問題は処理できないのに、そうしたことすらやらないというのは、やる気がないということである。

ゆえに、高速道路問題も不良債権問題も小泉内閣がやっているのは単なる問題の先送りでしかなく、小泉首相がそれで満足するのは政権の延命しか考えていないからとしか考えられない。


<自己保身のための税制改正>

他の税制改正についても、何らの理念も感じられない。昨年の年初には、シャープ税制以来の大改革を行うとぶち上げたが、結局は年末の自民党税制調査会の決定によるいつもの辻褄合わせの税制改正で終わってしまった。しかも、その間の議論は、先行減税の額を1兆円にするとか2兆円にするといった細かな議論に終始しただけであった。
先行減税の規模は、自らがもたらした不況の深刻化により、首相が予想していた額を越えて1兆8千億円にまで増額せざるをえなかったが、今度はその先行減税の規模を自慢するのだから始末が悪い。
しかも、その1兆8千億円の先行減税の中身たるや、詐欺的な数字合わせで作った2003年一年だけのものである。何故なら2003年の先行減税1兆8千億円という数字は、配偶者特別控除の廃止を2004年1月から、タバコ税増税を2003年7月から、酒税の増税を2003年5月からと、増税の方の実施時期を細かく遅らせることによって、2003年だけは減税になるよう細かく計算して数字を合わせただけのものだからだ。しかし、小泉首相は1兆8千億円になった先行減税の規模を自慢するだけで、今後の増税については頬かむりを決め込んでいる。

加えて、減税の方がそのほとんどが法人向けのものであるのに対し、増税は全て国民に負担させている。政治献金や利権のキックバックを貰える企業は優遇するが、国民を優遇しても自分には何の見返りもないから、国民には負担させるだけである。国民は、健康保険や失業保険そして年金など、小泉内閣が放置してきたことによって破綻しかかっている社会保障制度の保険料の負担増(2003年には2兆5千億円の負担増)まで押し付けられているから、踏んだり蹴ったりである。

更には、国民を働く者と働かなくてもよい者とに分断し、働く者に集中的に負担増を押し付けている。後に詳しく述べるが、働かなくてもよい者とは主として高齢者や主婦層であり、彼らが小泉氏の支持者の中心であるからだ。よって、高齢者や主婦層から大きな反発を受ける消費税の増税は、小泉内閣では回避されることになった。

証券税制の改正においても、金持ちを優遇する株式配当課税の減税は大きくしたが、全廃してもさしたる税収減にはならない株式譲渡益課税の減税の方はみみっちいものでしかなかった。株価の暴落で不良債権処理が行き詰まっているにも関わらず、それゆえに個人投資家を株式市場に呼び込むことが不可欠であるにも関わらず、そのための最大の政策となる証券税制の改正で、譲渡益課税を時限的にでも無税にするといった方策が、首相の頭に浮かぶことは全くなかったのである。

すなわち、今回の税制改正は、数字合わせと言い訳のためだけに行われたようなものだ。経済界に対しては「先行減税と証券税制の改正をやって景気に配慮しました」、しかし、財務省に対しては「財政再建は最重要事項なので、後に増税で取り返します」、そして、高齢者と主婦に対しては「消費税の増税は回避したので、タバコと酒は少し我慢して下さい」と、小泉内閣に対して影響力を持つ層に言い訳ができるよう辻褄を合わせただけのものである。しかし、誰も褒めてくれないので、首相は「今までにない大胆な改革だ」と自画自賛するが、何とも情けない話ではないか。首相の支持者や、首相を動かす人たちに見捨てられないよう、自己保身を図っているだけのものと言えよう。


2、小泉政権とは?

<小泉支持層は高齢者と主婦>

世論調査はあまり信用することができないので、小泉内閣に対する支持率がいまだに5割を超えていることに違和感を持っておられる方も多いと思うが、事実の一端を表していることは間違いない。ただ、世論調査は平日の昼間に在宅している人の意見が多くなるというある種の偏りがあり、その分を割り引く必要はある。しかし、そうした偏向を調整できるようなデータ(年齢別、性別、職業別などのデータ)を公表している世論調査は少ないので、ここからは個人的な推測も含まれるということを予めお断りしておきたい。

小泉内閣を支持している層の中心は、誤解を恐れずに言えば、高齢者と主婦層であろう。不況下の日本にあって総体として最も元気な層が彼らであり、今のところ小泉首相を非難する必要があまりないのである。昨年9月にオープンした東京駅前の新しい丸ビルのレストラン街は、平日でも高齢者や主婦が客の過半を占めている。丸の内のサラリーマンやOLは顔をしかめているが、高齢者や主婦は働いていないので十分な時間があり、お金も持っている。そして、世の中はデフレだから、物の値段が下がる一方でサービスが良くなっているので、彼らが外で遊ぶ魅力も増しているのである。ただし彼ら自身は、恐らくは自分たちが日本経済に貢献していると考えているのであろう。

日本の人口構成を大まかに分析すると、未成年者が25%、60歳以上の高齢者が25%、20歳以上60歳以下の現役世代が50%となる。そして、現役世代の半分が男性で残りの半分が女性だから、大雑把には高齢者と主婦が人口の半分を占めていることになる。ところが、世論調査の対象でもある有権者に限ると、75人の内の50人がこの層で占められるから、有権者の3分の2が高齢者と主婦ということになる。すなわち、高齢者と主婦の大半が小泉内閣を支持すれば、現役世代の男性が全く小泉氏を支持しなくても、支持率5割は確保できるのである。
高齢者や主婦層は、特徴的には働く必要がなく、かつ暇のある人たちである。ゆえに、デフレは大歓迎で、今の日本は彼らにとっては「この世の春」とも言える状況だ。他方、住宅ローンを抱え、教育費や生活費のために必死に働かなければならない現役世代の男性(勿論、女性の中にも働かなければならない人も多いが)は暇もなく、また給与削減やリストラに怯えて元気もなくなっている。加えて、人口構成の面で現役世代の男性は、少数派なのである。

ゆえに、昨年の秋頃から消費税の増税問題が浮上してきた際に、小泉首相はすかさず「俺に総理を退陣しろというのか」と拒絶反応を示したのである。消費税増税は、高齢者と主婦層を直撃するからだ。マスコミや世論対策を担当する飯島秘書官の入れ知恵だけでなく、小泉氏自身も自分の支持者が誰であるかを十分熟知しているので、拒絶反応を示したのである。すなわち、狡猾な計算に基づいて税制改正が行なわれているということだ。
小泉内閣に反発する与党内の反対派もこうした状況を知っているからこそ、消費税増税を持ち出して小泉内閣に揺さぶりをかけている。消費税増税問題がこうした政局の道具として使われていることは誠に遺憾だが、百歩譲って増税が必要というのなら、先ずは消費税を増税するのが筋であり、その点では反対派の方に歩がある。税の直間比率や負担能力の問題を考えると、消費税の増税が第一候補にならざるを得ないからだ。
今年に入り消費税増税問題が一段とクローズアップされてきていることに危機感を募らせている小泉氏は、それを打ち消そうと「消費税増税の前に、行政改革で支出を減らすべき」と「正論」を言い出したが、小泉内閣が行革をやるつもりがないのは周知のことだ。しかし、小泉氏の言い訳のうまさ、政局を見る目の厳しさ、といった点だけは小泉氏の能力として評価しておきたい。
話が横道に反れたが、小泉内閣を支持する層が高齢者や主婦層で、小泉内閣の方もそうした層の利益を代表しているとすると、日本を動かしているのは高齢者や主婦層ということになる。そして、これらの層に税金に寄生する役人や役人OB、公共料金を収入源とする会社に勤めている人たちを合わせると、働いていない人たち及び働いていても必死に働く必要のない人たちが日本を動かしていることになる。そして、その皺寄せはリストラや賃下げの不安をかかえながら必死に働かなければならない民間企業のサラリーマンに集中的にきているのである。
政治家としては、自分の支持者を優遇するというのは当たり前かも知れないが、一国会議員ならいざ知らず国のトップがこれではどうしようもない。ましてや、日本経済を支えている現役世代を、少数派ゆえに冷遇するというのは自殺行為にも近いと言えよう。しかし、これが現実なのだと思う。


<自分には甘く、他人には厳しく>

下世話な話で恐縮だが、首相官邸には立派な食堂と腕の良い料理人が居る。しかし、小泉首相は昼食くらいしか官邸では食べない。夕食は、都心の最高級レストランや料亭に連日連夜出かけ、グルメだけあって最高級の美味しい料理を毎日堪能している。趣味も多彩な首相は、オペラや歌舞伎、コンサート、茶会、映画鑑賞といった芸能分野だけでなく、サッカーW杯も数試合を貴賓席で観戦するなど、優雅な生活を楽しんでいる。年明けのロシア訪問でも、わざわざ1日早く行ってボリショイ劇場でのバレエ「くるみ割り人形」を鑑賞して感激していた。
そして、生活時間もゆったりとしている。新聞の首相動静欄を見ていると、一時的には忙しい時期はあっても、年のほとんどは10時ころから仕事を始め、夕方6時過ぎには都心に繰り出している。すなわち、小泉首相は日本で最もリッチな生活をしているのである。

しかし、首相が動けば、膨大な税金が使われる。すなわち、何十人・何百人という警護の警察官や秘書官などが事前に準備をしなければならないからだ。これは半端な金額ではない。しかし、趣味人の小泉氏としては、首相だからこそ金に糸目を付けずに楽しめる最高の生活だから、やめられないのである。
国家の最高権力を持っていることを最も実感できるのが政府専用機だが、自分ではあまり仕事をしないので時間に余裕があることもあって、小泉氏は外遊が大好きである。公表されていないので不明だが、政府専用機を1回飛ばせばいくらの税金がかかるのか、半端な金額ではないだろう。外遊そのものを否定するわけではないが、巨額の税金を使うことや、日本の首相が尻軽に動くことが返って日本の威信を害する場合もある。国にも格や上下関係があるから必要なら先方に来てもらうことも大事であろう。自分が暇だから、自国の税金を使えるから政府専用機を無駄に使っていると言わざるをえない。

小泉氏は、自分に対してだけでなく政治家に対しても甘い。政治改革という言葉さえ今や死語になっているくらいで、議員の定数を減らすとか、政治家の給料を下げることなどは頭の片隅にもない。汚職やスキャンダルを起こした政治家に対しても、ただ傍観するだけだ。汚職問題で議員辞職した加藤紘一氏の再出馬については、彼を応援するなどスキャンダルも政治家の勲章くらいにしか考えていないのではないだろうか。
小泉氏はまた、官僚に対しても大甘である。官邸主導の人事権を誇示する一部の例外を除いて、役人の天下りも好き放題にさせている。人事院ですら「小泉政権は、各省庁に天下りの自粛を要請しなかった」と説明しているくらいで、小泉政権になってから7年ぶりに天下りが増えている。スキャンダルで退任した官僚が、特殊法人のトップに就くことも小泉内閣になってから復活している。特殊法人改革も名ばかりで、二つの法人を合併させて数を減らしたように見せるか、名前を変えるだけのものだ。一方で、政府系金融機関のようにデフレを理由に焼け太りすることを許し、関西国際空港のように民間ではとっくに倒産している組織でも、空港着陸料の値上げや税金の投入で救済している。役人の給料削減も名ばかりで、リストラの不安もないから、役人にとってはこれほど良い時代はないと言える状況なのだ。

政治家に対して甘いのは、自分も同類ということだろう。そして、官僚に対して甘いのは、永田町では評価されないので霞ヶ関の官僚に持ち上げられていい気分になりたいといったことだろう。ゆえに、小泉氏は自分に対してだけでなく、身内とも言える政治家と官僚に対しても非常に甘いのである。訪朝時に金正日より送られた最高級マツタケ(トラック2台分)を外務省や総理官邸の役人たちに配ったことは、彼らを身内として扱うからできることであって、ゆえに世間に対しては秘密にしなければならなかったのである。

ところが、その小泉首相が国民に対しては、「構造改革なくして景気回復なし」という訳の分からない標語の下、不景気も仕方ないので我慢しろ、痛みに耐えろ、と言っている。「米百表」の話しまで持ち出して、国民に倹約と我慢を説いているのである。
普通の人の神経であれば、自分が豪勢な生活をしていると後ろめたくて、とてもこんなことは言えないだろう。しかし小泉氏は、自分の生活を後ろめたいとも考えていないし、むしろ自慢して憚らないのである。
自分の支持者である高齢者や主婦層には打撃が及ばないよう手加減しているから人気が落ちないと高を括っているのか、自分は特殊な特権階級の人間だから下々の国民とは違うと本気で思っているからとしか考えられない。


<経済政策は財政再建のみ>

いまや周知のこととなったが、小泉氏は国会議員に成り立ての時から財務官僚に教育されてきた。また、議員になる前も、大蔵官僚出身の元首相福田赳夫の秘書を勤めていた。そのため、金融・経済・財政問題に対する彼の発想は財務官僚とほとんど同じである。
財務省の役人がケチなのは構わない。隙を見つけては税金を食い物にしようと企んでいる輩が民間にも一杯いるからだ。誰かが、財布の紐を締めなければならないからだ。
しかし、財務省の役人が、国の最高権力を握って、財務省の論理だけで政治を行えば、国家経済が行き詰まるのは当然だろう。すなわち、税の徴収増と支出の切り詰めしか行わなければ、経済そのものの活力がなくなるからである。大蔵官僚出身の首相は数多くいるが、バブル処理を誤ったA級戦犯であるあの宮沢元首相でさえ、それゆえに首相になってからは財政の論理一本槍ではなかった。

ところが、小泉首相は自分が大蔵官僚出身の首相ではないので、自分の考えは財務省に近くても財務省の考えとは違うと思っている。しかし、彼の知的レベルは財務省のノンキャリア並のもので、議論をしてもキャリア官僚には太刀打ちできない。結局は、財務官僚に言いくるめられる。そして政治家や財務官僚以外の官僚と議論する時には、今度はその財務官僚の主張を自らの主張にするのである。それゆえに、小泉首相にはむしろ財務官僚的発想が凝縮して頭の中に入り込むこととなり、あのような極めて性質の悪い考え方をするようになったのではないかと推測される。

加えて、反小泉勢力がひどすぎる。自分を際立たせるために憎まれ役を仕立てるのは古来からの常套手段だが、小泉首相も守旧派議員を抵抗勢力と呼び、悪役を演じさせている。そして、この守旧派議員がまた官僚や業者と結託して私利私欲で動く人たちだから、格好の悪役となっている。そこで、小泉首相の「構造改革」という名の財政再建一本槍の軽薄な経済政策でもまともに見えるという始末に悪い状況が生まれているのである。
ケチでも哲学があるならまだ良いが、市場や米国から脅されると震え上がって金を出す。
しかし、その場凌ぎで出すだけだし、出す金さえもケチるから、景気対策も結局はみみっちいものにしかならない。従って、景気対策に使う財政資金も死に金となり、返って財政を悪化させるという悪循環に陥っているのである。
ゆえに、国民としては、そうした財務省のノンキャリア的な首相が国の最高権力を握っているということを、肝に命じておくべきだと思う。


<経済を知らない法律屋の集まり>

そもそも、霞ヶ関でも永田町でも、法学部出身者は経済学部出身者を見下している。出世競争でも法学部出身者が圧倒的に強い。考えてみれば、霞ヶ関、永田町ばかりでなく、大手銀行や大企業もトップは法学部出身者、特に東大法学部の出身者が極めて多い。政治家や高級官僚に友人がたくさん居ることと顔やコネが物を言うからだ。
本人は語るべき内容を持ち合わせていないが通訳をさせれば英語を流暢にしゃべれる人のことを英語屋というが、成すべき政治理念を持ち合わせていなくても法律を作らせれば隙のない法律を作れる人は法律屋とでも言えよう。下積みを経験してきた人ならまだしも、新人の時からエリートとして持ち上げられてきた人や、法律を作ること、法律を都合のいいように解釈することにのみ長けた法学部出身者が実に多く、また彼らが実権を握っているのが日本の現状だ。

日本の国内問題は、バブル崩壊の認識を筆頭に、高コスト体質、失業問題、株価の低迷、不良債権問題、デフレ問題、社会保障制度の崩壊、ゼロ金利、円高問題、貿易黒字問題、財政破綻、金融危機、あるいは高速道路問題も、その根底は経済問題である。しかしながら、政・官・業の利益とその癒着関係の温存を最優先する政治が、常に幅を利かせている。特殊法人など、政治が政治の論理を優先させて経済に嘴を入れた結果として存在する最たる物だろう。すなわち、政治的配慮を優先するために経済理論や経済合理性が無視されて、経済が犠牲にされるということが横行しているのである。

しかし、経済にツケを払わせることができる間は何とかなっても、経済がコケレバ如何なる国家も(家庭も社会も)成り立たないという事実が、彼らには十分に認識できない。政治や法律を得意とする者が実権を握っているがために、政治が経済をコントロールできると考えているのか、政治を優先するのが当たり前と考えているのか、最後には下部構造(経済)が上部構造(政治や社会)を規定するという認識が疎かにされている。ゆえに、経済問題が、経済の観点から真剣に議論されることはほとんどない。また、政治にばかり気を取られて経済を論ずる能力が軽視されているから、経済問題として処理すれば解決できるのにそれが理解できず、問題をドロドロにしてしまうのである。

すなわち、政治は知らなくても経済(経営や家計)はできるが、経済を知らずして政治はできないのである。小泉氏は経済学部を出ているが、政治家の三代目として嫌でも政治を意識せざるをえず、そこから逃避するために観劇や音楽そしてグルメなどの趣味に生き甲斐を見出してきた人であるから、経済などほとんど勉強していないだろう。政治家になってからも、郵政改革などは自らの政治的パフォーマンスのために主張してきただけであるのは、最近の小泉郵政改革の顛末を見れば一目瞭然である。自らを「政局の小泉」と呼んで憚らない小泉氏では、経済問題の解決は不可能といえよう。


<国家権力の増強には異常な関心>

経済問題にはあまり関心を示さない小泉首相も、国家権力の強化といった右翼的・国家主義的な問題には異常な執着心を見せる。しかしながら、靖国神社への参拝問題やイージス艦の派遣問題など、国民への説明は極めていい加減である。イージス艦の派遣問題をみると、自衛官の勤務環境を理由にして本質的な集団的自衛権の問題を避けるなど、誠実さにも欠ける。むしろ詭弁を弄し、結果として自分が望むことが実現できればそれで良しとする態度は非常に傲慢であり、それゆえに国家を危険な方へ導きかねない。
個人情報保護法案や有事法案そして住基ネットの導入などにおいても、正面から議論をすることも、国民を説得することもせずに、法案が通って実施できさえすればそれで良いとの態度に終始している。民主主義は言論の戦いでもあるが、まともに説明することもできないのに数の論理だけで通そうとするのは、それが自分の野望だからであろう。
すなわち、国民の権利や自由な発言を制限し、国民を国家のコンピューター・システムで統一的に管理することと、統治する側の政治家や官僚は責任逃れが出来るようにして、国家権力を強化することに首相は躍起になっているのである。

国家の最高権力を肌で実感できる政府専用機に乗ることが大好きなのは、こうした小泉氏の政治思想の表れでもあるのだろう。新しい総理官邸も、小泉氏以上に国家権力志向の強い安部官房副長官が担当している「小泉内閣メールマガジン」では、その快適性を自慢して隠さない。
国民への監視を強化する一方で、自分たちは権力の蜜を楽しんでいることを隠そうともしないのは、どういった精神構造から生まれるのだろうか。通常では理解に苦しむが、小泉氏や安部氏、そして福田官房長官のように、親の代から国家権力を持つ自分たちは特別な存在だということなのだろう。
ゆえに、自分たちは一般国民とは別な特別な存在なのだということを態度で示して、国民を教育しているつもりなのかも知れない。


<スローガン政治>

「構造改革なくして景気回復なし」や「財源なくして減税なし」は、今後も構造改革と増税(財源)はやっていきますよということだが、問題は構造改革や増税の中身であり、分かったようで本当は訳の分からない標語になっている。一方、あれほど強調していた「一内閣一閣僚」、「国債発行30兆円枠は厳守」、「ペイオフ解禁は予定通り」といった公約は、全て破棄されてしまった。そこで、「小泉改革は微動だにしていない」とか「構造改革は着実に進展している」となるのだが、こうなると誰も評価してくれないから自画自賛するしかないのか、自己暗示をかけているのか、負け惜しみで言っているとしか思えない。
しかし、「どんな問題も賛否両論がある」といったフレーズで、それ以上の議論を封じてしまうのは極めて不誠実であり危険である。小泉政治に理念がないことを隠すために議論を避けているなら笑って済ませられるが、前述したような国民に対して説明できない自分の野望を通すために議論を避けているとすれば危険この上ない。いずれにしても、小泉氏は真面目で誠実な論争をしないのである。

そこで、小泉氏から出てくる言葉は、スローガン的なものばかりとなる。中身がない上に上手く説明できないから、訳の分からないスローガンの繰り返しになるのだが、ところがこれが国民には意外と受けがよい。スローガンの繰り返しは、小泉氏がぶれていないように見えるし、聞き慣れてくると、そのスローガンが一人歩きをするのである。
ただし小泉氏は、「嘘でも百回繰り返し、自信たっぷりに言えば信じてもらえる」という詐欺師が使う常套手段が、政治でも非常に有効だということを十分に自覚しているに違いない。彼の思想の根底には、大衆には詳しい説明をしても無駄で、スローガンを繰り返して頭に叩き込むのがよいという愚民政策があるからだ。
野党第一党の民主党党首に菅直人氏が就任したので、今後の国会論戦は見物である。弁の立つ菅氏が、小泉スローガンの中身を明らかにすることを楽しみにしておきたい。


<主役でいたい為に首相を続ける>

国民には我慢を強いるのに、政治家や官僚といった身内には甘く、そして自分は豪勢な生活を続ける小泉氏を見ていると、この人は何のために総理をやっているのかと心底疑問に思う。
自分の写真集を出すという感覚や、ましてやその中で主婦層を対象に「あなたが私のファーストレディーです」といった歯の浮くような文句を平気で言える感覚は、国家を率いるリーダーの重責を担う人のものでは決してないだろう。仮に、そうしたことで人気を得て、その人気を背景に国民のために何事かをなしたいというなら許すことも可能だが、国民に対して何をやりたいのかすら語らないのだから、人気を得たいという背景も理解できない。

ましてや政治家なのだから、人気は政策や政治の結果で得るべきであるのに、芸能人のファン・サービス的な方法で人気を得ようとしている。また、自分の人気を背景に長男を芸能人にするくらいだから、人気を得ること自体が自己目的化しているとしか考えられない。

突き詰めれば、主婦層などからの人気を背景に総理の座を続けたいだけなのであろう。そして、総理を続ける目的は、国家の最高権力者という地位に憧れ、その地位がもたらす役得を享受したいということだけなのではないだろうか。
自分を中心に世の中が回るのは、たまらない快感であろう。一会社の社長ですら、自分を中心に会社が回っていることの快感を捨てられないためにトップに居続けるという事例が多々ある。要は、世の中の中心人物、主役でいたいだけなのである。そして、主役であれば下々の人間とは別格の存在で居られ、いい気分になれるということだ。

そうでなければ、国民に我慢を強いながら自分だけが豪勢な生活を続けて、それを隠そうともしないという態度は理解できない。少なくとも、小泉氏が描く日本の首相は、一般の国民とは違う特殊な人間で豪勢な生活を続けても何ら構わない人であるはずだ。
そして、自分はその日本の首相に相応しいと思っているに違いない。橋本内閣誕生の時から、勝ち目がなくても小泉氏は自民党総裁選挙に出馬していたが、今にして思えば日本のために何かをやりたかったからではなく、単に自分が日本の首相に相応しいと思っていたからであろう。

首相として何をやりたいのか、国民の生活向上に向けて何をするつもりなのか、そして日本をどうしたいのか、そのために自分はどういった努力をするつもりなのか、といったまともな政治理念を語ってくれない限り、小泉氏をもはや信用することはできない。単なる財政再建や国家権力の強化といったことは、国民は望んでいないのである。
さもなければ、他人には我慢を強いて、自分だけは豪勢な生活を続け、身内には甘いという最悪のケチで、最低の人間との烙印を押されても仕方ないであろう。


3、本年の金融市場の動向

2003年前半の金融市場を左右する要因は、以下のような点に集約されるだろう。
(1) 次期日銀総裁に誰がなるか
(2) 日銀がどこまでインフレ目標策に踏み込むか
(3) 自民党総裁選挙とそれに絡む解散・総選挙の動向
(4) イラクと北朝鮮情勢の行方
(5) 世界経済、特に米国経済の動向
(6) 国際一次産品価格の動向
そして、今年の後半からは、2004年危機をどれくらい意識し始めるかによって、その後の相場が左右されるのではないかと見ている。

小泉内閣の経済政策はこれまで見てきたように、増税や社会保険料の値上げと歳出削減による財政再建策だけである。そして不良債権問題や資産価格下落に対する対策は、追い詰められてやっと動き出すという危機の先送りでしかない。その結果、日本経済は土俵際で辛うじて踏みとどまっているという状況だが、これを可能としてきたのは、各種のPKO(価格維持策)政策である。公共工事を使った雇用のPKOなど、金融市場以外でもPKO政策は使われているが、小泉内閣では金融市場のPKOが最重要視されている。

その中で最も重要なのが国債相場のPKOだが、これは全てのPKOの大本だからである。株価のPKOをするにしても、為替のPKOをするにしても、あるいは景気のPKOをするにしても、全てに先立つのは資金である。そして、この資金は最終的には国債の発行によって賄われている。財政破綻も、国債を増発できるから表面化していないだけである。
従って、政府は国債発行で資金調達しながら、国債発行が増えると国債相場が下落するので、相場下落を防ぐために国債PKOを行う、という綱渡りを続けている。そのために、国債PKOの担い手たる日銀、郵貯、簡保、銀行、生損保、といった官民の金融機関を総動員して、彼らに国債を買わせているのである。
ところが、金融機関は官民を問わず、もはや青息吐息だ。国債の発行残高も臨界点を超えようとしている。従って、財政を使ってPKOを行うのは限界にきている。この状況が、小泉首相をして「政府と日銀が一体となってデフレ退治に取り組む」と言わせている。首相の意図は、「政府に出来ることは少ないので日銀に頑張ってもらう」であることは言うまでもないが、これは首相なりに本音なのである。


<次期日銀総裁決定後から動き>

そこで、次期日銀総裁は、この首相の意を受け入れることが出来る人ということになる。それが、首相の言う「デフレ退治に積極的に取り組んでもらえる人」や「インフレ目標策を導入する人」であり、それを受け入れる人なら誰でもよいというのが小泉首相の気持ちであろう。
日銀がデフレ退治に積極的に取り組むとは、デフレが解消されインフレが起こるまで日銀が資金をジャブジャブに供給するということだ。具体的には、日銀が株式や土地をどんどん買って株価や地価を上昇させることであり、人によっては米国債も買ってドル高(円安)にすべきだと主張する人もいるが、いずれにしても非伝統的なインフレ政策を日銀に採らせるということだ。
従って、政府は何もせずにデフレ対策は全て日銀にやらせようとする小泉内閣の意図が明確なだけに、一部の我の強いインフレ論者を除いて日銀総裁候補と呼ばれている人たちは全員が逃げ回っている。そのために人選に時間がかかっているが、日銀総裁の任命権は内閣にあるから誰であれ小泉内閣の意を受け入れる人になろう。
日銀内の官僚も正論を振りかざしてインフレ政策に対する予防線を張っても、追い詰められている小泉首相の神経を逆なでするだけだし、逆に小泉首相の受けを狙ってインフレ政策導入に向けて動き始めても、小泉首相が嵩にかかってくるだけだから、先走って動いて得になることはない。
そこで、日銀は次期日銀総裁が決まるまでは何もできない。逆に言えば、次期日銀総裁が決まれば、日銀は新総裁の「新」方針のもとにインフレ目標策の導入に向けて具体的に動き始めることになると推測される。

首相が焦っている背景は、自民党総裁としての小泉氏の任期が9月末までで、このままでは再選される可能性がほとんどないからだ。何故なら数で圧倒する橋本派と江藤・亀井派、そして堀内派が結束して小泉再選を阻止しようとしているからだ。
そこで、再選を狙う小泉氏としては、自民党総裁選の前に解散・総選挙を行って、選挙に勝利したことをもって自民党総裁選を行わずに再選されるというシナリオを考えている。民主党の分裂が回避された現在では、小泉氏が首相を続けられるのはこのシナリオくらいしかない。
ゆえに、9月までに解散・総選挙が行われるのはまず間違いない。また、その前に4月の統一地方選挙があって、これにも勝利しなければならない。となれば、今後は内閣の総力を上げて国民の人気取り政策を行っていかざるを得ない。すなわち、金融危機が起こらないよう不良債権処理促進策を先送りし、株価のPKOにもあらゆる手を使う。そして、財政を使わずして景気も何とかテコ入れしたいということである。

これが、次期日銀総裁にインフレ目標策を採用させる最大の動機である。小泉首相を重宝している財務省は小泉再選を全面支援するだろうし、霞ヶ関の他の官庁も自民党政権が継続するよう協力するはずである。ゆえに、次期日銀総裁の人選問題や解散・総選挙が予定されていることは、株価や景気にとってはプラス材料になるであろう。

<対外要因は改善の可能性も>

不安材料となるのはイラクと北朝鮮情勢だが、米軍のイラク攻撃はもう既に十分に予想されている。北朝鮮情勢も昨年の12月以降、かなり悲観的なシナリオを想定してきた。そこで、もしサプライズがあるとすれば、イラク攻撃の半年延期とか米朝対話の再開といったグッド・ニュースになる可能性の方が高い。また、仮に軍事衝突が起こったとしても、日本にテポドンが飛んでくるような事態にでもならない限り、想定の範囲内として一時的なショック安で終わる可能性も高い。

世界経済の見通しについては、世界同時デフレを心配する声も多い。しかし、2000年春にITバブルが崩壊して約3年が経過しようとしている。中長期的な景気後退を今後も想定しているとしても、そろそろ中間反発する時期でもある。また、景気とは前年との比較で判断されるから、4年続けて悪化する可能性は確率としてもそう大きくはない。
加えて、日本以外の先進国はいまだ財政が健全であり、日本のように安易な景気対策を行わないが、いざとなれば大胆な対策を打てる財政的余裕がある。
年初にブッシュ大統領が打ち出した10年間で総額80兆円の景気対策がその典型だが、やる時は大胆に実施する。ブッシュ政権の場合は、2004年の大統領再選を狙った景気浮揚策であるが、必要なら対策を打てるということだ。また、日本に比べれば欧米ともに金融緩和の余地もまだ残っている。
確かに一段の景気後退を心配しなければならない面もあるが、悪い時には悪いことばかり気になるものだ。日本のように資本主義市場経済の根幹が壊れているわけではないし、政治も民主主義も機能している。ゆえに、世界経済についてはそれほど悲観する必要はないと見ている。


<2004年危機とは>

しかし、2003年も後半になると日本の金融市場を取り巻く情勢が急速に悪化していく可能性がある。それは、先送りしてきた危機の多くが2004年にやってくるからだ。

先ずは、不良債権処理先送り策(竹中プラン)の破綻である。9月末の自民党総裁選での再選を何よりも優先する小泉首相は、それまでは大きな金融破綻や不良債権処理が行き詰まらないよう竹中大臣を使って金融危機を封じ込めるつもりだ。銀行も、会計上の利益を捻出するためだけに持ち株会社設立や合併といった組織変更を行ってまで、この3月期決算を乗り越えようとしている。だから、今年3月期は波乱もなく過ぎる可能性は高い。
しかし、銀行にはもはや何らの蓄えもない。むしろ、まだまだ過少引当である不良債権や有価証券の含み損問題が再燃して、実質的な債務超過の実態が露になってくる可能性が高い。そこで、小泉氏が再選されるかどうかに関わりなく、今年の9月が過ぎ2004年3月期の決算を意識し始めると、竹中プランの破綻が明確になってくると予想される。

第二は、不良債権問題にも大きな影響を及ぼすが、オフィスビルの賃貸料が今後大きく値崩れしてくる可能性が大きいことだ。これは、一般的には「オフィスビルの2003年問題」といわれ、オフィスビルが2003年に続々と完成し、供給が大量に増えることである。国内最大の六本木ヒルズが春に完成するのを始め、都内だけでも汐留、丸の内、品川、秋葉原と2003年だけで28棟の超高層ビルが登場する。そして2004年以降分も含めると、今後70棟もの超高層ビルが完成を待っているのだ。これらは最新ハイテク設備を持ち、これまでにない好環境なので、新しい超高層ビルが完成した後は既存のビルから移転するテナントが続出するのは間違いない。ゆえに、テナントを失ったビル・オーナーは、新たなテナントを誘致するために賃料を下げざるを得なくなるのだ。こうした動きが、新しい超高層ビルが完成する今後、一段と強まってくるのである。

第三は、上記2つと関連するために再び実施延期論が出始めているが、固定資産の減損会計が2004年3月期から適用開始になることである。減損会計とは、将来に得られる収益から逆算して資産の現在価値を算出し、帳簿価格との差を損失として処理する会計である。要は、賃貸料が下がってくると土地・建物の時価も下がることになり、その値下がり分を損として認識しなければならないというものだ。これは、日本ではまだ一般的ではない不動産評価の収益還元法と同じ考え方である。
ということは、減損会計が適用され始めると、不動産の時価は有無を言わさず収益還元法で行われるようになり、取引事例法などで過大な「時価」を維持していた不動産の含み損が一挙に出てくることになる。加えて、オフィスビルの2003年問題でオフィス賃貸料が下落し始めると、加速度的に地価が下落することにもなる。そうすると、不良債権の担保価値も大幅に下がり、引当不足が露見して不良債権処理問題の再燃へとつながる可能性も大きいのだ。

第四は、2004年に到来する年金制度の改革だ。厚生年金や国民年金などの公的年金は5年毎に制度変更されるが、それが2004年にやってくる。前回の1999年までは小手先の制度変更に終始してきたが、2001年度から年金の積立金残高が減少してきているので、今度は小手先の変更では済まない。因みに、2003年度の年金収支は、政府からの国庫負担金や楽観的な運用収益を含めても収入額が31兆5千億円であるのに対し、年金受給者への給付額は34兆8千億円と3兆3千億円の赤字になる。そして、この赤字額は年金資金運用の悪化や少子・高齢化の進展もあって急拡大している。また、世代間の給付と負担のアンバランスも、制度を維持するには放置できないところにまできている。
そこで、政府は2004年の年金制度改革では年金給付額を削減する一方、現役世代の保険料は大きく増やすことが難しいので消費税を段階的に増税していって、その増税分を使って年金への国庫負担金を増やすという案を検討している。すなわち、年金受給者である高齢者は年金給付金を削減され、主婦は消費税を増税されるので、彼らが反小泉(政府)に転向する可能性も高が、2004年には衆議員の解散・総選挙は終わっているので強行される可能性が極めて高いのである。

第五は、2004年春に新紙幣が発行されるので、旧紙幣との交換に絡んで国民の中に疑心暗鬼が生まれてくる可能性が高いことだ。本人確認された金融機関の口座の中でしか、旧紙幣を新紙幣に交換できないとすると、アングラ・マネーを持つ人は困ることになるだろう。また、新旧紙幣の交換時に、政府が何パーセントかの特別税を徴収するといった噂も出てきている。
加えて、住基ネットの本格稼動により2003年8月からはICカードが住民に配布される。また、財務省と国税庁は、2004年1月から電子納税をスタートさせる。すなわち、政府がコンピューターによって国民を統一的に管理する基礎が出来上がるのだ。また、これらに合わせて納税者番号制度が実質的に出来上がる可能性も高いのだ。そこで、こうしたスケジュールが認識されてくれば、不安を感じない人は少ないであろう。従って、2004年を前に本格的なキャピタル・フライトが起こる可能性も否定できないのである。


<円相場の見通し>

イラク情勢の緊迫化により戦争当事者である米国の通貨ドルが売られる、というのが最近のドル安・円高の原因だと言われている。しかし、直近では北朝鮮情勢も緊迫化してきたにも関わらず、円高の流れは止まらない。こちらの方は、韓国の戦場化や日本本土へも被害が及ぶ可能性、あるいは北朝鮮からの難民流出問題など日本が被る被害は計り知れず、イラク戦で米国が受ける損害とは比べ物にならないから、大きな円安要因であるはずなのに、外為市場では無視されているという。そこで、イラク円高説を唱える人たちは、実際に戦争になる可能性の違いを理由にしているのだが、どうも違うのではなかろうか。
本当のところは、昨年の9月初めの116円台(対米ドル)から12月初旬の125円超えまでの円安は、日本が本気で不良債権処理を進めるならご褒美をあげよう、という意味での円安だったということではないだろうか。ところが、あれほどまでに大風呂敷を広げた竹中プランも、結局は不良債権処理の先送り策でしかないということがはっきりしてきた。それなら、円安で日本を助ける必要などないと、米国の姿勢が変わってきたのである。

そこで、日本側は12月の始めころからしきりに円安論を展開しだした。円の購買力平価からすると150円から160円が妥当とする説や、中国人民元は安すぎるだとか東南アジア諸国も円安の方が都合がよい、などと必死の形相だ。年末にかけては、日本の金融当局が円の大幅切り下げ宣言を出すとか、1ドル=150円の固定相場制に復帰するなどの噂も飛び交っていた。
しかし、こうした円安論は日本にとって都合の良い円安論である。やるべきことをやらずして、円安で景気回復を図ろうとする魂胆が見え見えだからだ。ゆえに米国も、日本が本気で不良債権処理やデフレ脱却に取り組むならご褒美として円安を容認するが、いつもと同じで危機の先送り策でしかないのなら円安も容認しないとなるのである。
従って、小泉政権が危機を先送りする間は、特に衆議員の解散・総選挙が行われるまでは、日本にとって都合の良い円安(125円〜130円程度の円安)は期待できそうもない。よって、今年前半の円相場は、120円を挟んで上下5円程度のレンジ内で推移する可能性が高いと見ている。

日本国内では、政府だけでなく民間のエコノミストなどの間でも円相場を大幅に下落させるよう誘導すべきとの主張が増えてきている。ただこれは金融・財政の両面から打てる手がなくなってきたので、円相場の大幅下落に最後の望みを託す人が日本の主流になってきたということであろう。しかし、日本の金融当局が本当に恐れなければならないのは円の下落に歯止めがかからなくなることである。
さすがに財務省は、日銀が米国債などの外債を購入するような大胆な円安誘導策に踏み出すことには反対している。日銀が外債を購入し始めると円安に歯止めがかからなくなり、引いては日本国債が暴落する恐れが強まるからだ。日銀と財務省が一体となって円の大幅切り下げを誘導するとすれば、日銀は日本国債も大量に買うだろうが、それを何時まで続けられるかは甚だ疑問だ。

日銀は、米国債(米ドル)を買いながら日本国債(円)も買うという政策は続けることが出来るが、円安を止めるために日銀がドルを売らなければならなくなると、日本国債を買う(円資金の供給)という方も止めなければならなくなる。何故なら、日銀は円を防衛するためには、投機筋がドルを買うための円資金のコストを上げるために金融引締めを行わなければならないからで、基本的には日本国債も売る側に回らなければならないからだ。更には、日銀が売ることの出来るドルは、外貨準備高と海外からのドル建て借入額の合計までで、限界があるのである。ゆえに、円暴落を仕掛けるドルの買い手は日銀が売るドルを思い切って買っていくことができる。
ドルを購入するための円資金は今ならゼロ金利で調達できるし、必要ならあり余る日本国債を借りてきて市場で売却して円資金を作ることも可能だ。すなわち、日銀が日本国債を買い続けてくれるのなら、日銀に日本国債を売って、その資金で日銀からドルを買い続ければよいのである。日銀に売れるドルがなくなれば円が暴落するし、日銀が投機筋への円資金供給を止めるために日本国債を買わなくなれば国債が暴落する。投機筋は日本国債の買い戻しでも利益を得られるのだ。
円防衛のための最後の手段は外為市場と日本国債市場の閉鎖だが、こうなれば実体経済は大混乱に陥るだろう。貿易に伴う為替決済もできなくなる。また、自由に売買できない円など誰も欲しがらなくなるから、日本の外為市場を閉鎖しても円暴落は止められないだろう。すなわち、日銀には円防衛では打つ手がないのである。従って、円暴落を仕掛ける投機筋に狙われた場合には、1992年の英ポンドと同じ運命にならざるをえない。

従って、150円程度までの円安は日本にとっては都合の良い円安論と言えても、これは日本が再生すると期待して待つことができる間だけの一時的なものでしかない。しかも、現在のようにやるべきことを先送りしている間は、その円安も許してくれないのである。ところが、衆議院の解散・総選挙後、あるいは遅くとも自民党総裁選挙の9月以降は、小泉氏が続投していればなおさら経済・金融危機が高まる可能性が強まるので、日本にとって都合の悪い円安局面に移行していく可能性も高い。そしてその場合には、これ以上円が下落すると日本売りとなる円の暴落が待ち受けているのである。


<株価の見通し>

恐らくは、昨年の夏休み頃から首相は2003年9月の自民党総裁選挙のことが気になりだしたのだろう。改革を演出するネタもつき、自民党内の小泉反対派も盛り返し、支持率も下がり始めていたから、総裁再選に黄信号が灯りだしたのだ。電撃的な北朝鮮訪問で国民からの支持率回復には成功したものの、ブッシュ大統領及び株式市場からのプレッシャーは厳しさを増すばかりだった。この二つを放置しておいては政権の命取りになりかねないが、どちらも基本的には不良債権処理が進展しないことからきていると首相には思われたので、これを何とかしようとなった。そこで、柳沢金融相を更迭して竹中氏に兼務させ、大胆に不良債権処理を進めるとの大芝居を打ち始めたのである。
ところが、竹中氏による不良債権処理促進策は、国内でこそまだ完全には化けの皮が剥がれていないが、海外では直ぐに見向きもされなくなった。従って、外人投資家の日本株売りは止まらず、円相場も反転上昇しだした。11月以降の小泉首相を見ていると、一段と空威張りをする一方、補正予算の編成や先行減税の規模を大きくするなどで反小泉勢力に歩み寄り、また一発逆転を狙ってロシアに擦り寄るなど焦りの度を深めている。年が明けても、改善の兆しは見られず、ロシア訪問でも何らの成果もあげられなかった。円高は一段と進み、株価も9千円割れが定着しそうな雲行きである。そして、国会議員からだけでなく地方の自民党員からも小泉内閣の経済政策に対して怒りが噴出しだしている。

そこで、小泉首相はいまや完全に追い詰められてしまった。9月の自民党総裁選挙の前には4月の統一地方選挙もあるから、時間的猶予もない。統一地方選挙で自民党が負ければ、衆議院の解散・総選挙も難しくなり、小泉氏の自民党総裁再選戦略にも赤信号が灯る。それゆえに「デフレ克服」を合言葉に、株価を上げるための対策をなりふり構わずに行うことを決めたようだ。
その筆頭が次期日銀総裁にインフレ目標策を飲ませ、インフレ目標策の名の下日銀に株や土地を大規模に買わせることだ。それと同時に銀行の自己資本不足問題や不良債権の処理促進策も棚上げし、大型の企業破綻も出ないよう銀行に債権放棄もさせる。また、空売りが横行しているネット証券に圧力をかけたり、厚生年金基金が代行分を国に返還する場合でもTOPIX型のETF(株価指数連動型投信)での現物返還を認めるなど、株価の下落要因は全て封印するつもりである。例年なら3月決算対策としての株価PKOだが、今年はその後の4月の統一地方選挙や9月の自民党総裁選挙を意識しているために、短期的には大きなインパクトがなくても比較的息の長い効果を期待できる株価PKOを打ち出してきていると言える。
ただし、衆議院の解散・総選挙が終了するか遅くとも自民党総裁選挙がある9月を過ぎると、状況は一変するだろう。小泉首相が再選されていればなお更だが、再選されていなくても、上記に述べた2004年危機が迫ってくるからだ。もしも、小泉氏が総理・総裁に再選されて彼に新たな時間的猶予を与えると、再び「構造改革」という名の財政再建が復活し、国民にはこれまで以上の大きな負担を回すようになるに違いない。今度は消費税増税や年金給付金の削減も行われるだろうから、さすがに高齢者や主婦も裏切られたことに気づくようになるだろう。従って、今年の後半以降は、経済・金融面だけでなく政治的にも大混乱に陥る可能性もあると見ている。

株価の見通しを述べるレポートでは、通常は企業業績の動向がメインとなるが、ここではそれには触れない。確かに、ハイテク株や薬品株あるいは食品株の中に、業績好調で株価上昇が期待できる銘柄もあるから、個別に投資することは可能だろう。しかし、日本経済全体および企業業績全体は、日本の構造要因とそれに対処する政府の姿勢でそのほとんどが決まる。また、ETFや裁定取引が登場して以来、指数連動型の取引を行う機関投資家の影響力が圧倒的に大きくなったので、個別株の良し悪しは二の次になっている。加えて、政府がその指数連動型商品の特徴を利用して株価PKOを行うから、新たなETFの組成が予定されるだけでこれまで見向きもされなかったバブル企業の株や、時価総額の大きい通信株や銀行株といった業績不振の株がむしろ買われるということが度々起こるのである。ゆえに、個別の企業業績動向や個別株の推薦はここではしないのでご了承いただきたい。

小泉氏の総理・総裁再選戦略の要は、国民にデフレが克服されつつあると感じさせることだが、景気や地価は見えにくいので、どうしても株価を上昇させることを中心にせざるを得ない。従って、今年の前半はあらゆる手段を動員して株価PKOに必死に取り組むと予想される。そこで、今年前半の株価は日経平均株価で8千円から1万1千円程度のレンジを予想している。しかし、総裁選終了後の今年後半以降は、上述したように事態が一変する可能性もあり、ゆえに7千円割れとなっても不思議ではないと見ている。

<国債相場の見通し>

金融商品の中で一人気を吐いているのが国債相場だ。国債バブルはもう何年も前から言われているが、バブル破裂を見越して国債を売ってきた人はことごとく討ち死にしている。そして、異常と言われながらも何年も持ちこたえている国債相場だから、まだ2年や3年はもってもおかしくないとの諦めもでている。
しかし、バブルの規模を見ると、破裂間近であることは間違いない。時期の予想は難しいが、今年そのバブルが弾けても何ら不思議ではない。針の一突きで破裂するからだ。その針の一突きが何であるかが問題だが、その候補は出てき始めている。その筆頭は、日銀が踏み出すであろうインフレ目標策に向けた動きだ。ただ、次期日銀総裁が小泉首相の意を受けてインフレ目標策に踏み出す可能性は高いと見ているが、日銀が「インフレ目標策をこれから導入します」とおおっぴらに宣言することはないだろうと見ている。

ゆえに、何をどこまで日銀がやるかが焦点で、それによっては国債相場暴落の引き金を引くことにもなりかねない。日銀が「インフレ目標策」として打ち出す可能性が最も高いのは、TOPIX型のETFを購入することだろう。次いで、REIT(不動産投資信託)の購入、そして米国債(外債)の購入と続くのではないだろうか。ETFやREITはいろんな株や不動産がパッケージされたものだから、日本経済全体を買うという名目が使える。しかし、 外債の場合は国債といえども、何で外国のものを買うのかという問題が生じてくるのと、日本国債の下落を懸念する財務省の反対で難航する可能性が高い。ただ、民間への資金供給を劇的に増加させるという趣旨には合致しているし、円安誘導も「インフレ目標策」に含まれるというのなら外債購入は最有力候補にすらなる。
そこで、日銀が外債購入にまで踏み込む可能性も十分にある。しかし、その場合には日本国債のバブルが弾ける可能性も格段に高くなるだろう。日銀が外債を購入する時には日本国債も無制限に購入するようになるだろうが、為替のところでも述べたように、円の下落が止まらなくなると日本国債を買い続けることは出来なくなる。円暴落を仕掛ける投機筋が出てくると、日銀に勝ち目がないからだ。ゆえに、日銀の外債購入は、ルビコン川どころか三途の川も越えるに等しいと考えている。

もう一つの焦点は、国際一次産品価格が不気味に上昇していることだ。確かに、世の中は日本だけでなく欧米でもデフレが懸念されている。そして、日本の10分の1以下の賃金で生産される中国製品が世界中に輸出されていることを考えると、物価なんか上がりようがないというのが主流にはなっている。しかし、それは製品価格に関しては言えても、一次産品価格には当てはまらない。何故なら、中国人の生活水準が急激に上昇しているからである。
すなわち、中国の経済成長により中国人の生活が豊かになってきて、エネルギーの消費が急増し食生活も急速に向上しているのである。家庭内でも電化が進み、車社会にもなってきているから石油消費量が急増して、数年前から中国も石油輸入国になっている。また、1kgの食肉を生産するには5kgの穀物を家畜に与える必要があると言われるように、食生活が向上すると穀物消費量も急増する。そしてここでも、穀物増産のためにエネルギーや水、そして農薬などの資源が大量に消費される。すなわち、世界の人口の5分の1を占める中国人が資源を大量に消費するようになってきているのである。
従って、国際一次産品価格には大きな上昇圧力がかかってきており、これが2年程前からスタートした一次産品価格上昇の真犯人なのかも知れない。日本は、エネルギーも食糧も鉱物資源も自給自足できないから、国際一次産品価格の上昇に対しては打つ手がない。そして、これに円安が重なると日本が輸入する資源価格は急騰して、日本のインフレ・マグマに火がつく可能性も出てくる。もしそうなれば、これが国債相場にとって針の一突きになるのは言うまでもなかろう。
ゆえに、今後「国際一次産品価格の上昇は中国の経済成長によるものだ」といった説が広まってくるようだと、国債バブルも終焉を迎える可能性が高いと見ている。

以上のことから、国債バブルが今年も弾けずにもつ可能性も十分にあるが、最早いずれにしてもバブル崩壊は時間の問題だと見ている。日銀が大胆にインフレ目標策導入に向けて動き始めればそれが契機になる可能性が高まるし、そうでなくても円の下落や国際一次産品価格の上昇を抑制できなくなると、国債バブルに対して赤信号が灯ると見ている。
時期の予想はこれも非常に難しいが、衆議院の解散・総選挙後または自民党総裁選挙後には秒読み段階に入ると予想しておきたい。


4、日本は自力では変われないのか

これまで見てきたように、小泉内閣を支えているのは高齢者と主婦層が中心だ。これに対して、必死に働かなければならない現役世代は、小泉離れを起こしている。しかし、全体の4分の1しかいない現役世代は、政治勢力としては半分を占める高齢者や主婦層には到底勝てない。そして、高齢者と主婦は人数だけでなく経済力や発言力でも益々パワー・アップしている。小泉首相は、こうした高齢者や主婦層を非常に上手く取り込んでいるのである。
一方、マスコミは骨抜きにされたままで、批判をしても国民の不満をガス抜きするような報道しかできない。いまだに記者クラブ制度に安住して、政治家や役所の発表を垂れ流して恥じない。マスコミによく登場するエコノミストや評論家も、当り障りのないことを言うだけで差し迫った危機を国民に伝えることもない。更には、野党の体たらくは目を覆うばかりで、民主党議員もその大半が自民党議員と大差がなく、国会議員でいられるなら政党を変わっても恥じないような人たちばかりだ。
そうした現実を見ると、小泉政治および自民党政治は非常に巧妙である。それゆえに、国民の総意が自民党の方がまだましで、そして自民党内では小泉の方がまだましとなっているのも不思議ではない。ゆえに、国民が選挙で自民党政権を退場させることは、当面期待できない。従って、小泉内閣やその後の自民党内閣が本当に危機感を持って、抜本的な行政改革や自分たちの利権構造を壊すために自らが進んで本物の構造改革を行うようになるとは到底思えない。


<国債暴落は避けられない>

しかし、日本の危機は日一日と迫っている。あらゆるPKO政策で何とか持ちこたえているが、株価、地価、国債価格、失業率、給料、年金制度、健康保険制度、銀行決算そして財政赤字と全てが土俵際である。そして、それら全ての鍵を握るのが国債相場だが、その国債バブルが弾ける日が刻々と近づいている。すなわち、自民党総裁に再選され首相を続けることしか頭にない小泉氏が、その再選戦略の要として日銀にインフレ目標策を導入させようとしているからだ。昨年の「経済展望」では、国債の暴落阻止が小泉内閣の最重要課題であることを書いたが、今年はその国債問題を二の次にしてでも「デフレ克服」の名の下でインフレ目標策導入に躍起になっている。

小泉氏とすれば、首相続投さえできればその後に再び国債の暴落阻止に向けて全力投球するつもりだろうが、日銀によるインフレ目標策の導入が明確になるともはや制御できなくなる可能性も高い。世の中はデフレ・デフレと騒いでいるが、インフレ・マグマに一旦火が付けば国債相場は暴落する。国債相場が暴落するとどうなるかは昨年も述べたので省略するが、財政破綻、金融破綻、円暴落、そしてハイパー・インフレとなり国民生活も破壊されてしまうのである。

そこで小泉再選後には、高齢者や主婦層を敵に回してでも国債の暴落を阻止するために「財政再建」の名の下で消費税の大増税や年金受給金の削減を行うだろうが、そうなったらそうなったで景気が底割れする可能性が高くなる。加えて、2004年危機が近づいてくるから、不良債権処理が行き詰まって金融破綻が懸念されるようになり、これに株価や地価の大幅下落が重なると円も暴落する可能性が強まり、やはり国債の暴落へとつながる。
逆に、景気の底割れを恐れて国債の日銀引受などで大規模な景気対策を打つようになれば、小泉内閣でも財政再建を放棄したとなって財政破綻が懸念されて国債が暴落する。現実的にはその中間になる可能性が高いが、それでは過去の自民党政権と何ら変わらなくなるので、いずれにしても国債の暴落は時間の問題であろう。

二進も三進もいかなくなっても、政府が本当の危機感を持つようになり政治家や役人の数を半減させるとか高速道路の無料開放などの大胆な特殊法人の廃止に踏み出せばまだしも、我が身第一だから、追い詰められればむしろより強権的になって最後の悪あがきに出る可能性の方が高い。
すなわち、資産税や預金税といったものが導入される恐れも出てくる。しかし、現在は命だけでもあったのが幸いと思っていた終戦後直後の状況とは全く違う。多くの国民が小金を持っている現状では、もし政府が抜本的な行革も行わずにそうしたことを強行すれば暴動さえ起こりかねない。
一方、仮に個人金融資産1400兆円に消費税程度の5%の資産税をかけても70兆円程度であり、これでは新規の国債発行額の2年分程度にしかならない。すなわち、これを強行してもたかだか2年延命するだけなのだ。しかし、ここまでに至ればさすがに国民も、暴動は起こさなくてももう黙ってはいないだろう。自民党政権は崩壊するだろうし、国や政府に対する国民の信頼も完全に消え去ろう。
そうなれば預貯金や国債からのキャピタル・フライトが本格的に起こり、ここでも国債の暴落は避けられない。国債の元利払いの繰り延べなど日本国債が実質的なデフォルトになる可能性もある。そして、円も暴落してハイパー・インフレへと突入し、国民の生活が破壊されるというシナリオへ進むのである。

すなわち、今年の後半以降はあらゆるものが行き詰まり、政治的にも経済的にも大きな混乱が生じてくる可能性が非常に高い。それゆえに国債バブルが弾けないようあらゆる手が使われるとは思うが、もはやどんな国債PKOも大きな反作用を伴う。また、国債発行残高の規模と国債利回りの異常な低さという本来なら相反する両方ともが同時に臨界点を越えようとしているのだから、何時までもバブルを維持することなど決して出来ないのである。
国債相場の行方が日本の将来を暗示していると言わざるを得ない。


<最後に>

小泉首相には日本を再生させようとする強い意思も、国の最高責任者としての覚悟もないことははっきりしている。あったとしても、財政再建という財務省のキャリア官僚に教育されたケチで軽薄な考えだけである。ゆえに、首相は「どんな問題も賛否両論がある」とのフレーズで議論することからも逃げている。
国民の中には、小泉氏が他の政治家と比べて私利私欲が少ないということで評価する人もいるようだが、これは小泉氏が他人の面倒を見るのが嫌で自分さえ良ければそれでよいという人だから、他の政治家ほど多くの金を集める必要がないからであろう。それでいて、首相の地位がもたらす権力の蜜や役得を小泉氏ほど貪っている人はいない。ゆえに、私は小泉氏を戦後最悪・最低の首相と断定するのだが、それでも歴代の首相の中で最も支持率が高いのだから、本当に始末の悪い首相である。

小泉氏を支持している層が高齢者や主婦であることは再三述べたが、彼らにも2004年以降は年金受給額の削減や消費税増税などのツケが回されるのが確実だ。すなわち、衆議院の解散・総選挙が終われば、彼らも小泉氏に見捨てられるのである。また、小泉氏でなくとも日本の権力者は伝統的に、元気のある者まで引き吊り下ろして「一億総玉砕」になるまで自分の地位や欲望を捨てないのだ。だから、高齢者も主婦もいずれは政府に見捨てられるのである。
ゆえに、高齢者や主婦層も、日本の将来を憂えて小泉内閣に対して今から厳しく対処すべきだと思う。そして、必死に働かなければならない現役世代への遠慮や気配りももう少ししてもらいたいと希望する。しかし、彼らは我が世の春を謳歌し、むしろ自分たちが日本経済に貢献している位にしか思っていない。
現役世代も、小泉氏が国民を分断して多数派工作をしているという現実をもっと認識するべきだと思う。そして、小泉政治に対して怒っているのなら、選挙を通じてその怒りを明確に示すべきだ。投票したい候補者がいなくても、投票には行って白票を投じるなど、最低限の意思表示はするべきだと思う。選挙以外でも、ゼロ金利政策や銀行救済に不満なら、預金を引き上げるなどの行動を起こすべきだろう。しかし、現役世代も仕方ないと諦めているのであろう。

ただ、国民もそうした意思表示をしないで不満を言うだけなら、小泉政治や自民党政治の延命に手をかしている共犯者である。すなわち、国民は所詮自らに相応しい政治家しか持てないということなのだ。
バブルが崩壊して13年が経過した今日でも、国民の中に本当の危機感があるとは思えない。そして、国民の中に危機感がないゆえに、政治家や官僚がいまだにのうのうとしていられる。こうした現実を見ると絶望的になるが、どうしようもないのであろうか。
日本は暴力的にしか変われないと覚悟するしかないのかも知れない。

                                  2003年1月21日
                              プライオール投資顧問(株)
                                                                                
                                      齋藤利男


掲載されている事項は、証券投資一般等に関する情報の提供を目的としたものであり、勧誘を目的としたものではありません。最終的な投資決定は、ご自身の判断でなさるようにお願いいたします。


http://www.priore.com/pdf/forecast2003.pdf

 次へ  前へ

国家破産23掲示板へ



フォローアップ:



 

 

 

 

  拍手はせず、拍手一覧を見る


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法
★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/  since 1995
 題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
掲示板,MLを含むこのサイトすべての
一切の引用、転載、リンクを許可いたします。確認メールは不要です。
引用元リンクを表示してください。