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AIMAC 会長兼社長
柏谷 光司 氏
聞き手 編集局長 島田 一
――中国へ投資したいと考えている日本人は多い。しかし、必ずしもうまくいっていないのが実情だ。
柏谷 どちらかというと、失敗している企業のほうが多いのではないか。特に、日本の大企業が中国へ直接投資して利益を得ている例は少ない。それだけ難しいということだ。ところが、意外といっては失礼だが、中小企業は割と成功例が多い。大企業だと中国側が警戒し、国や政府があの手この手で儲けさせないようにしたうえで、ただでノウハウを吸収しようとするため、双方の思惑のバランスが取れず、うまくいかない。中小企業の場合は、お互いに金銭面で余裕がないため、ただ技術の移転だけをやるのが良いのかもしれない。
――投資には直接投資と証券投資の二通りあるが、現状では直接投資が圧倒的に多い…。
柏谷 その通りだ。直接投資はすでに様々な試みが行われたが、証券投資はこれまで例が少ないといえるだろう。その理由としては、中国のマーケットが未成熟であることが挙げられる。中国経済は拡大したが、四大銀行もマーケットも、まだ国が支えている。中国ではいまだに四大銀行が独占していて、それぞれ総資産の半分以上が大きな不良債権といわれている。政府が国営企業に対する支援に国営銀行を使っているためだ。将来のBIS規制導入などを考えた場合、これは相当大きな問題になるだろう。
――金融マーケットは…。
柏谷 債券市場はないに等しい。つまり、国債はあるが、日本でいう事業債がない。株式市場も値動きが激しく、ディスクロージャーが不十分なため、健全な投資には向かない。もし、日本の投資家が中国の株を買うのなら、よほど中国の個々の企業の事情に詳しくない限り、取引をすべきではないと思う。
――では、なぜ中国に外国投資が集まるのか…。
柏谷 それは、ある意味で中国の資本市場が発達していないからだ。本来、中国人は貯蓄率が四割前後と高いが、ボンドや株式といった資本市場が発達していないため、そのお金がうまく投資に回っていない。中国政府もそれに気付いており、早い時期に国内の貯蓄をベンチャーキャピタルなどへの投資に回したいという思惑がある。現に、少しずつだが、ベンチャーキャピタルについては外国人への開放が始まっている。それから株式については、マーケットが二つに分かれており、Aシェアは中国人だけ、Bシェアは外国人だけ、という枠組みがあったのが少し緩和され、Bシェアを中国人も買うことができるようになった。これから近い将来、もしかしたら年内に、Aシェアを外国人も買えるようになるかもしれないと言われている。中国のマーケットは現在、政府のコントロールがあまりにも強いため使い勝手が悪くなっているが、今後は規制緩和が進むとみている。
――規制緩和のほかに、投資を呼ぶ動きは…。
柏谷 そのほかでは、コーポレート・ガバナンスの意識が高まってきたということが言える。以前は帳簿もつけておらず、投資に際して信用できるものは何もなかった。しかしここ数年で、アメリカ留学の経験者が増加した背景もあり、だいぶ改善されたようだ。世界的にみればまだまだ水準は低いが、ディスクロージャーの制度なども少しずつ整備されている。これらが整備されれば、中国企業への信用力は格段に高まる。
――最近は日本をはじめとして、人民元が安いという声が高まっている。
柏谷 80年代初頭と比較して、人民元は六割切り下げられ、四割程度になっている。この間、日本円は上がった。中国の元安と、生産力・品質の向上により、メキシコ製の靴が売れないなど、日本だけでなく、世界中に影響を及ぼしてきている。つまり、中国が安いものを投げ売りすることが、日本をはじめ、世界中のデフレーションの原因のひとつになっている。日本は、安いもので対抗できなくても、ハイテク技術で稼げるからまだ良いほうだ。東南アジアをみると、まともに影響を受けており、それに代わる商売が見つからず、職を失う人が多い。これらのことから、国際的に元の切り上げを求める圧力は強くなると予想される。
――中国の問題点は…。
柏谷 政府が制度をころころ変えることも問題のひとつだ。約束が守られないという点で、投資リスクが大きい。わたしの運用しているアジアインフラストラクチャー投資ファンドの、今までで一番ひどい例を挙げると、元本の85%しか返ってこなかったことがある。上海で低所得者向けのマンションを建てるというので投資したのだが、途中でバブルが起こったため、予定を変更し、結局建設を中止したということだった。かろうじて元本の85%は回収できたが、このような約束違反が平気で起こる。
――それは、共産主義ということにも関係しているのか…。
柏谷 それもあるだろう。共産主義は面白いもので、契約や道徳に縛られず、共産党の幹部のためなら嘘をついても構わないと思っている。つまり、人間に対するコントロールが利かない。人間の信義を大切にする華僑の子孫とは対照的だ。ただし、中国がこれから経済的な面で国際競争力をつけるためには、直さなければいけないだろう。共産主義と市場主義の原理は対立するものだが、WTOへの加盟は、共産主義を犠牲にしても市場原理を優先するという、中国政府の意思の表れではないか。
――改善の方向へ向かっていると。
柏谷 道徳や制度は、簡単に変わるものではないが、改善はするだろう。中国のトップは優秀で、一生懸命努力している。それから、中国の一番の問題は、人口の七割を占める農民が仕事を求めてどんどん都会に来ていることだ。現時点ではそれらを輸出企業が吸収しているが、もし吸収できなくなれば、暴動が起きるだろう。重厚長大産業で有名な東北部では、今でもときどき、そうした暴動が起きている。歴代の中央政府は国民に飯を食わせているうちは文句を言わないが、飯を食わせられなくなったときが怖い。WTOに加盟をしたことで、中国にアメリカやオーストラリアから安い穀物が輸入されるようになった場合などだ。いくら中国産が安いといっても、機械を使って作ったアメリカ産などとは比べ物にならない。
――暴動が起きて、政府が転覆してしまうリスクを常に内包している。中国にはビジネスチャンスはあるが、いろいろと注意しないと、投資は難しい…。
柏谷 否定的なことばかりを言ったが、今の不況の世界経済の中では、高度成長している東アジア、南アジアへの投資が利益になる。しかし、投資の仕方でいえば、中国だけに集中するのはリスクが高い。中国へラッシュすると、バブルに火がつく危険性がある。リスクヘッジの面からは、投資をアジア全体へ分散させるほうが良いと思う。例えば、インドなどは中国より賃金が安く、これから魅力的な国になるのではないか。制度の面では難しい問題もあるし、中国と比べて、良い面も悪い面もある。しかし、インド以外の国に対しても、分散投資を日本の企業は真剣に考えるべきではないだろうか。 (了)
【柏谷氏略歴】
昭和14年生まれ。東京大学法学部卒業、ハバートロースクール修士課程修了。世界銀行副総裁、大蔵省国際金融局審議官を歴任。現在、AIMAC会長兼社長。