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最近、塩川財務大臣を始め、日本の金融当局者が中国に対して人民元の切り上げとともに資本移動の自由化を求める発言が相次いでいる。80年代半ば頃、米国が「円ドル委員会」や「プラザ合意」を通じて日本に要求したことを、今度は日本が中国に求めるようになった。しかし、現在の中国経済の実力は80年代半ばの日本にはまだ遠く及ばず、金融の対外開放に関連するファンダメンタルズは、80年代半ばよりもむしろ70年代初めの日本の状況に対応していると理解すべきである。すなわち、日本が固定相場制から変動相場制へ移行したのは71年のニクソン・ショック後のことであり、資本取引の本格的な自由化も、これよりおよそ10年遅れて、1979年の外為法の改正(80年12月に実施)まで待たなければならなかった。中国においても、為替の切り上げを先行させ、資本移動の自由化は中長期の目標に留めるべきである。
1997〜98年のアジア通貨・金融危機が示しているように、脆弱な金融セクターを持つ途上国は資本取引の自由化を慎重に進めていかなければならない。中国は危機を免れることはできたが、それは国内経済・金融市場が健全であったからではなく、むしろ依然として資本取引規制が厳しかったことや、政府保証によって銀行が守られていると預金者が信じていたことによる部分が大きい。実際、非常に高い不良債権比率に象徴されているように、中国の銀行セクターが危機に見舞われたアジア諸国と同様に脆弱であることは、もはや周知の事実である。WTO加盟に伴い外資系銀行が本格的に参入し、これを受けて銀行部門における競争はますます激しくなり、国内銀行の経営は一段と厳しくなるであろう。
中国が国内金融システムの脆弱性に注意を払わず、資本取引の自由化を急ぐことは非常に危険である。特に、短期資本の移動が自由になれば、海外から足の速い資金が大量に不動産市場や株式市場に流れ込むため、バブルが発生しやすくなる。その後、何らかの理由で外資が逃げ出し、バブルが崩壊してしまうと不良債権が一挙に増え、中国が日本型の金融危機に陥ってしまうということも考えられる。一方、WTO加盟に伴う外資系銀行の本格的参入などで国有銀行の優位性が徐々になくなってくる中、国有銀行において取り付け騒ぎが起こる可能性が一段と高くなる。このような問題に対処するには、大量の貨幣を増発して悪性のインフレを起こすか、厳しい条件を受け入れ、国際機関や先進国に支援を求めるしかなくなってしまう。いずれの場合においても、計り知れないコストを払うことになってしまうのである。
金融安定を保ちながら、資本取引の自由化を進めるには、次のような前提条件を整えておかなければならない。まず、企業の銀行への過度の依存体質を是正するため、直接金融を通じて資金を調達できるように、資本市場のさらなる発展が必要である。また、民営化と組織改革を通じて銀行自身のコーポレート・ガバナンスの確立を急ぐ一方、借り手である国有企業の改革もスピードアップさせなければならない。そして、政府は預金をある程度保証しながら、モラル・ハザードの問題を最小限に抑えるために、銀行の監督体制や金融システムの規制を強化しなければならない。
これまで、中国は経済改革と対外開放を同時に進めてきた。今後、金融分野において改革を精力的に推し進めなければならないが、対外開放に関してはより慎重にならざるを得ない。もしこの順序を間違えば、金融危機が起こりかねないのである。貿易や直接投資を通じて中国と経済関係が深まっている日本にとっても、こうした事態は決して対岸の火事ではすまされない。このように、中国に対する資本取引自由化の要求は必ずしも日本自らの国益に沿っているとは思われないのである。
(関連記事:2002年11月11日 「世界の中の中国」欄掲載 「WTO加盟で金融開国を迫られる中国」):http://www.rieti.go.jp/users/china-tr/jp/021111world.htm
2003年2月28日掲載