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転載 <1>迫られる決断/のしかかる関連施設処理 【山陰中央新報】
http://www.asyura.com/2003/hasan22/msg/732.html
投稿者 hou 日時 2003 年 3 月 01 日 08:04:49:

(回答先: <1>迫られる決断/のしかかる関連施設処理 【山陰中央新報】 投稿者 hou 日時 2003 年 3 月 01 日 06:49:23)

1、迫られる決断/のしかかる関連施設処理

淡水化中止後の取り扱いが焦点の中浦水門。


 「地元負担の軽減が何よりも重要だ。厳しくても、そこを何とかしてもらいたい」


 島根県の澄田信義知事は二十五日、東京・永田町のホテルで急きょ、農水省の太田信介農村振興局長と会談。

宍道湖・中海淡水化事業を中止する前提条件について、地元の事情をあらためて説明した。

再開は事実上不可能

 同事業は延期から十四年が経過。事業再開を求める声は、関係自治体の中にもほとんど聞かれない。

農業用水の最大受益地である平田市の太田満保市長は言う。「再開は事実上不可能」と。

 淡水化延期当時、国や県に対して

「だまされた気持ち」

と怒りをあらわにした農家も

「県が凍結の理由にした水質悪化の懸念がなくならないのに、再開を求めようがない」(土江達雄平田市土地改良区理事長)と、あきらめに変わった。


淡水化中止は、受益農家にさえ”既定路線”として受け止められている。

 農水省が今年八月を中止決断のタイムリミットにするのは、中浦水門など淡水化関連施設の処理という現実的課題がのしかかっているためだ。

 同水門の一日の交通量は約一万五千台。

実質的には島根県八束町と境港市を結ぶ重要な生活道路の役割を担ってきた。

ところが、目と鼻の先で建設が進む

江島大橋(仮称)

が二〇〇四年春に開通すると、淡水化施設の同水門は

「全く必要のない施設になる」(島根県土木部)。


 江島大橋の完成後は同水門の管理費を予算要求する理由がなくなるだけでなく、河川法上は撤去を求められる。

農水省は、江島大橋の完成時期から逆算すると、水門の処理に関する調査費などを来年度予算で確保しなければならない。

 お家の事情は島根、鳥取両県にとっても同じだ。


 中浦水門など淡水化関連施設では九二年以降、

年間約七億円もの管理費


を国と両県で折半している。両県分のうち、特に島根県は、受益面積に応じて83%を負担。

仮に江島大橋完成後も水門を現状のままにしておけば、今後十年間でさらに

数十億円が必要になる。

その管理費負担について、島根県の島田一嗣理事は「県民の理解が得られるか疑問」と強調。淡水化事業の”落としどころ”を必死に模索している。

 だが、山陰両県一万四千人余りの農家の同意を得て始めた事業を中止するには、淡水化を前提に干拓地へ入植した農家や、関連する農地整備を行ってきた農家の三分の二以上の再同意を得て、新たな水源対策の計画や受益者負担に理解を得る必要がある。

国との最終調整へ


 「一万人ものはんこがつかれなければ計画変更はできない」(澄田知事)。

同県は水源対策に伴う地元負担の軽減を受益者対策の最重要課題として位置付け、国との最終調整に入ろうとしている。


 一方、鳥取県側は、米川水系の水利権調整で代替水源を確保しようという同県の方針に対し、彦名、弓浜両干拓地の

受益者が反発。

片山善博同県知事は「国のスケジュールにはこだわらない」と慎重な姿勢を示すなど、地元調整の進み具合に両県の微妙な違いが垣間見える。 

2、二十年償還の受益者負担金を滞納する農家も出てきた

 島根県内最大の穀倉地帯、斐川平野。

春麦を収穫した
後の畑は、夏大豆が一面に広がっている。

ここでは宍道湖・中海淡水化事業を前提に、

農地を三十アール単位に区画整理する県営ほ場整備事業が既に終わっているものの、40%を超す減反で、

水田として使うのは数年置きだという。


 この地で農業を営む古川吉郎さん(75)=島根県斐川町黒目=は、かつて県農青連委員長を務めた農民運動家。

淡水化凍結が決まった十四年前、

凍結反対

を唱えて島根県庁に乗り込み「水の必要性」を訴えた。


 一九七七年に同町で始まった県営ほ場整備では、先頭に立って土地改良区を組織。

「湿田を乾田に変えれば、米だけでなく何だって作れる」と周囲を説得した。

 だが、今では

二十年償還の受益者負担金を滞納する農家も出てきた。

それでも古川さんは、かつては幾度となく洪水に見舞われた斐川平野の土地改良に役立った同ほ場整備を「有効な事業だった」と評価する。

「夢」は「幻」に変わった。

 宍道湖・中海の淡水化事業は、

「昭和の国引き」


と言われた国営中海干拓事業とセットで、

一九六三(昭和三十八)年に事業採択。

土地改良は六八年度から沿岸既耕地で順次着手された。

総受益面積は、七三年夏の異常干ばつを機に約九千三百ヘクタールに拡大され、受益者一万四千二百人(島根七千六百人、鳥取六千六百人)の壮大な夢が描かれた。


 斐川町の場合、これまで淡水化を前提に町内約二千ヘクタールで農地整備を実施。

農業用水を供給する末端のパイプラインが町内に張り巡らされ、淡水化に対応する用水供給システムがすべて整った。

 ところが、宍道湖の水を斐川平野の中流域にくみ上げる幹線パイプを整備する前の八八年、淡水化が延期。

「夢」は「幻」に変わった。

「番水」で分け合う

 淡水化延期後、斐川町では

暫定対策
として地区内の川から水をくみ上げるポンプ場の設置や、国営かんがい排水事業で斐伊川からの用水路整備を進め、何とか水源を確保してきた。

 もともと水量の少ない斐伊川からの分水を、慣行水利権に基づく「番水」によって分け合っているのが実態だ。

が、古川さんは「こういう状況が今後も続けば、農業に意欲を燃やす農家がいなくなる」と指摘する。

 かつて淡水化論議が白熱したころ、故永田恵十郎島根大学名誉教授(元日本農業経済学会長)は言った。

「宍道湖西岸地域では明治、大正時代の大干ばつ期も、農家の知恵で小さなため池をいくつも造り、農業用水を確保してきた。新たにため池を造り、小さな河川から水を引けば渇水はしのげる」と。

新たな農家負担困難

 淡水化延期から十四年、永田氏の指摘と同じ対策が現実のものになろうとしている。

淡水化中止を想定した島根県の代替水源案は、整備済みのパイプラインや用水路に、ため池など新しい水源から水を引いてくる方法が主な内容。

 しかし、関係自治体の多くは、この代替水源案を条件付きで了承。「新たな個人負担を農家に負わせるわけにはいかない」(本田恭一斐川町長)との意見が強く、クリアすべきハードルは高い。

 事業中止の前提となる代替水源対策では、現在の営農実態と、将来的な農業情勢の変化に対応した水需要予測を基に、幅広い合意形成が求められている。 


3、地元農家「大本営発表に従うことはできない」片山知事「相当な激論覚悟」




 片山善博鳥取県知事は五月十三日の定例記者会見で、初めて弓浜(境港市)、彦名(米子市)の両干拓地の

代替水源案に触れた。


 「米川(米子・境港市)の水を大切に使い、みんなで分かち合う、という考え方を基本にしたい」


 しかし、この知事の提案に地元農家は反発した。


 「大本営発表に従うことはできない」

と、
米川土地改良区(六千二百五十人)の永見新一理事長

は、片山知事に私信を送り付けた。

 中海干拓地弓浜工区営農組合(八十八人)の辻仁徳組合長は「看板を
『暫定水源』から、
『代替水源』に書き換えたにすぎない」と反論。

 同組合は

「米川からの取水は机上の空論にすぎない。干拓地への農業用水の供給量には限界がある。県は全天候型農地として売り渡した

瑕疵(かし)を認めるべきだ」

と、農地の買い上げや土壌改良も含めた抜本的な見直しをするよう、県への要望書提出を求める陳情書を境港市議会に提出した。

「相当な激論覚悟」


 こうした地元の反応に、

片山知事は五月二十七日の会見で

「過去のような根回しや調整をしてから発表するという、大本営発表は、やってはいない」

と手法の違いを強調。

県案について

「それなりに自信はあるが、意見があればどんどん言っていただきたい」

と、是々非々の対応を地元に求めた。

 しかし、話し合いのたたき台となる

肝心のデータが、そろっていない。

水需要が一番多い夏時期に米川の水利調整でどれけの余剰水が確保でき、干拓地に回せるのか。

六月から八十五カ所の取水口ゲートを上下させ、調整テストを繰り返している。調査は八月中旬までかかる。


 そのため、県と地元との淡水化中止についての正式な会合は、まだ開かれていない。

 「水の扱いを間違えたら大変なことになる。

『暫定』ということで、これまでも米川の水を(干拓地へ)融通してきた。

恒久となると、相当な激論を戦わさねばならない。遺恨が残るようなことは引き受けられない」

 弓浜半島の農地二千ヘクタールの行方を左右する問題だけに、その対応に永見理事長は慎重だ。

8月にこだわらず
 七月一日、

鳥取県農林水産部は現地の米子地方農林振興局に

「弓浜地域農業用水対策本部」

を設置した。「ここ二、三カ月がヤマ場。臨戦態勢です」と岡森裕農水部長。本庁から職員二人を派遣、拍車がかかった。

 だが、辻組合長は

「半島には水をめぐる歴史的経緯や地下構造など特殊事情がある。米子空港の滑走路延長でJR境線が地下に潜ると、地下水脈に影響が出る恐れもある」

と指摘。

「(水問題で)十数年間も我慢してきたのだから、一、二カ月で折れるわけにはいかない」

と、長期戦も辞さない構えだ。

 片山知事も七月十五日の会見では「農家の合意形成にかかっている。国の予算スケジュールに合わせた”八月合意”にはこだわらない」と明言した。

調整に手間取る

 その裏には、地元合意に加え、彦名、弓浜両干拓地の水利権問題もある。これまで水利権なしに半島の地下水や米川の余剰水で農業用水を確保してきた干拓地。

しかし、
恒久的な代替水源を米川から得るには、

水利権が不可欠だ。

 これには米川の水利権を管理する国土交通省の同意が必要。だが、「調整に手間取る」と県農水部はみる。

片山知事は「

国営事業の後始末

なので、県任せにしないように」と、国に解決への協力を求め、強い働き掛けを始めた。
 
4、誰がどれだけ負担するのか。


 「国がやろうが、

県がやろうが、

(淡水化に)代わる水を手当てしてもらうのは当然の権利だと思うが…」


 平田市中央土地改良区(約千人)の土江肇理事(83)=平田市東福町=は、淡水化延期に伴い暫定的に設置されたポンプ場の前で、顔を曇らせた。

同市は、

淡水化事業で最大の受益地になるはずだった。


 斐伊川左岸の船川周辺。貯水量百トン以上の池だけで六百ともいわれるため池の数が、農業用水と格闘してきた、この地域の歴史を物語る。だが、淡水化計画に伴う県営農地整備事業に合わせ、宍道湖から水を引くパイプラインが敷設されると、

ため池に通じる用水路はすべてつぶされた。

「必要な水は確保」


 島根県は淡水化中止を想定した代替水源対策として、ため池や用水路の新設・改修、塩分濃度監視施設の整備などの対策を示し、「必要な水は確保できる」としている。

 では、新たな水源対策を実施するための財源を、

誰がどれだけ

負担するのか。

同県は、地元から要望のある負担軽減を

農水省に要請する

一方、地元にも「応分の負担は避けられない」との考えを伝えた。
 しかし、農家はこの方針に対し

「既に受益者負担は終わっている。二重負担だ」
と反発。財政負担をめぐる行政と農家の間の溝は深い。

国営での対応に難色
 代替水源対策について農水省は、島根県斐川町全域と平田市の一部、それに安来、揖屋の両干拓地は国が主体的に対応することを検討。そのほかの沿岸既耕地については「既存制度の枠組みを広げるのは難しい」(太田信介同省農村振興局長)という立場から、国営での対応に難色を示す。
 これに対し島根県は、国営事業の方向転換という経緯を踏まえ、事業中止後の代替水源対策も国の責任で実行されることを期待。地元負担の軽減に向け、国が制度を柔軟に運用しなければ農家の理解は得られないとみている。

新たな課題に直面
 しかし、

「国営事業の中止に伴う事後対策という特殊事情はあっても、すべて国が面倒を見るわけにはいかない」というのが

農水省の基本スタンス。


土地改良法に基づけば、国営事業でも国が三分の二、残りは地方負担−が原則だ。

また、そもそも淡水化事業の延期を要請したのは島根、鳥取両県であり、代替水源対策も地元が中心となって進めるべきだ、との認識が根底にある。


 事業

中止後の財政負担問題

が、最終決断へと踏み出すための、最も高いハードルであることは間違いない。

 淡水化の是非をめぐって迷走した後、代替水源の確保に伴う新たな課題に直面。ほんろうされ続ける農家の姿を前に、大型公共事業がどんな形で終着点にたどり着くのか、その行方が注目される。 (おわり)

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