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福井日銀 多難な船出
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投稿者   日時 2003 年 2 月 28 日 13:26:15:

斎藤教授のホンネの景気論
第18回「『福井日銀』の多難な船出」
(立教大学 教授 斎藤 精一郎氏)

最終更新日時: 2003/02/28
 注目の日銀総裁人事は財界が一致して推す本命の福井俊彦氏で決着した。小泉流の奇をてらう「意表人事」ではなく、世間にはホッとした安堵感が漂っている。筆者も個人的に福井氏の考えをよく知っているだけに、日銀を奇策や暴走に追い込む危険は回避できたと評価している。

 福井氏は基本的にインフレ目標策に疑念を抱く、オーソドックスな金融政策論者だ。柔軟でありながらも芯や筋を毅然として通す点で金融市場の日銀への信頼性は高まるものと期待もできる。しかし、「福井日銀」は未曾有の難題を抱え込む点で茨の道を歩まざるをえない。

 「福井日銀」が抱える難題は大別すると二つに集約される。第一はデフレ克服に向け実効性のある金融政策をどう展開していくかだ。第二は第一とも関わるが、「日銀の独立性」を果たして担保していけるかどうかである。

 第一は極めて難しい政策課題だ。すでに伝統的な金融政策はほぼすべて出尽くしているから、デフレ克服には一歩も二歩も踏み込んだ非伝統的金融政策を求める声が内外で強い。福井新総裁を含む9名の日銀審議委員はインフレ目標策の採用については現時点ではおそらく6対3(2名の新副総裁と1名の審議委員)で当面は否認されるとみられるが、「速水日銀」よりも急進的な金融政策には踏み込まざるえまい。具体的には日銀の国債買い取りの増額、同買い取り制限の撤廃さらにETF(上場投資信託)の購入などで、外貨資産購入による円安誘導策も政策課題に上がってもこよう。

 これは「金融政策のなし崩し的な非伝統化」であり、「インフレ目標策への接近化」だ。

 核心は日本の平成デフレにとってこうした金融政策が決定的な効果を持ち得るかどうかという論点である。インフレ目標論者に限らず、内外のマネタリストに近い論者さらに単純な政治家たちは日銀のさらなる金融緩和策や非伝統的金融政策がデフレ脱却にとって不可欠だと主張して止まない。本当にそうなのだろうか。平成デフレが70年前の古典的デフレと異なって「マネー不足」という「金融現象」を根因とせず、冷戦終焉に伴う世界的供給構造の激変や国内バブルによる過剰供給のしこりを根因とする以上、現状以上の金融政策は異常なヘリコプターマネーの供給以外の何物でもなく、日本経済を結局は「投機経済」に誘うか「国債暴落」を現実化させ金融危機を招くだけではないのか。

 この点で「福井日銀」は平成デフレの解剖図をまず国民に提示し、非伝統的手段を含む金融政策でどこまでデフレ脱却が可能か不可能かを明確にしておく必要がある。そうでない限り、デフレの罠からなかなか抜け切れない日本経済の状況をみて政治家や企業そして国民から日銀の金融政策に過重な期待が集中し、日銀も奇策に追い込まれかねないからだ。 第二は上記の第一とも関係するが、「日銀の独立性」への圧力の高まりだ。今回の日銀トップ人事は総裁人事としてみれば、常識的というか順当な仕上がりといってよいが、意外で看過しえないのが二名の副総裁人事である。二名の副総裁が「霞ヶ関」から堂々と送り込まれてきたからだ。政府・日銀一体化でのデフレ克服体制の確立といえば、聞こえがよいが、内実は財務省(武藤敏郎氏)と内閣府(岩田一政氏)が日銀意思決定機構に巧妙に布石を打ったものといえる。1998年4月に施行された新日銀法では日本銀行の政策決定・遂行上の独立性が法的に担保されている。これが政治家だけでなく、霞ヶ関にとって次第に我慢できなくなりつつある。政府(内閣府)にとっては政策の手詰まりからデフレ克服の決定打が見当たらない。そこでインフレ目標策など異例の金融政策を日銀に押しつけ当面のデフレ圧力(不良債権処理加速策など)を緩和させたい。だが、新日銀法のもとでは、日銀は頑として動かないし、妥協する必要もない。とすれば、政府の意向を日銀中枢に浸透させるには布石(副総裁)を打つしかない。そこでインフレ目標論者の岩田一政氏が送り込まれたわけだ。竹中戦略の一環か。

 財務省はデフレ克服策としてこれ以上の財政出動はしたくない。財政破綻が現実化しつつあるからだ。だから、不良債権処理加速策に伴うデフレ圧力に対して、財政出動ではなく非伝統的な金融政策で対応してもらいたい。しかも、公的債務残高が700兆円を越え、返済は不可能に近い。口には決して出せないが、将来のインフレでこの巨大債務の返済問題も解決したい。それには日銀に輪転機を気前よく回してもらいたい、インフレの可能性を醸成することだ。

 デフレ深化を前にしていまや構造改革も効果が少ないことが判明しつつある。しかし、財政政策のさらなる出動はもはや無理。となれば、頼るのは日銀のプリント・マネーとインフレ目標策しかない。だが、デフレ克服にこれら非伝統的金融政策は実効が期待できないことは前述した通り。つまり平成デフレとは「金融現象」ではないからだ。現実の政治経済学的なパワーゲームでは日銀を「スケープゴート」にして日銀に「丸投げ」するのが最も大衆に分かりやすいし、誰の腹も痛まない。だが、これは極めて危険なやり方でまさに政府や政治家の「丸逃げ」以外の何物でもない。この危険性を法的に回避させているのが新日銀法の「日銀の独立性」なのだ。霞ヶ関が巧妙に打った布石を「福井日銀」が毅然として排除できるかどうかわれわれは冷徹に見守っていかねばなるまい。

■第17回「3つのデフレ圧力と決定打欠く政府」
■第16回「インフレ目標策の『危険な誘惑』」
■第15回「2003年 日本経済は戦後初の真性デフレか」
■第14回「濃くなる『世界デフレ』の影」
■第13回「日本経済は静かに深く『真性デフレの海』に」
■第12回「『竹中デフレ』か『長期衰退症候群』か」
■第11回「小手先デフレ策を繰り返す『懲りない面々』」
■第10回「グリーンスパン神話が消えるとき」
■第9回「薄氷の日本経済を襲うか『米国の傲慢』のツケ」
■第8回「不良債権はデフレの『原因』であって『結果』ではない」
■第7回「日本の景気回復は“小春日和”で終わる?」
■第6回「信じていいのか『米国経済の回復』と『日本経済の危機回避』」
■第5回「オーバーカンパニー状態の解消なくして真のデフレ対策はない」
■第4回「大失業時代の到来か? 『失業率5.6%』は序章に過ぎない!」
■第3回「2002年どうなる日本経済?! 円安戦略の危うさ」
■第2回「”小泉補正”を斬る! 危機脱出へ『小泉国債』発行を」
■第1回「米景気”来年秋回復”に待った!」

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