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「“プリンス”と言われ続けてきた福井氏の総裁就任だけに、日銀内部は沸き立っている。しかし、武藤敏郎前財務事務次官の副総裁就任には大きなショックを受けている人たちが多いのではないか。武藤新副総裁が今後どのような動きを見せるのか、注意して見守る必要があるだろう」
日銀中枢幹部が、一連の日銀トップ人事をこう評してみせる。
手前みそながら、福井俊彦氏の日銀総裁内定については、当コラムの読み通りの展開となった。しかし、筆者にとって意外だったのは、武藤氏の副総裁就任だ。
今回の日銀トップ人事に対して、「サプライズ(驚き)のない人事」とシタリ顔で解説するムキもあるが、“スーパー財務次官”の異名をとる武藤氏の副総裁就任については、まさに“サプライズ”と言えるだろう。
そのことは、海外の金融関係者の反応を見ても明らかだ。
実を言うと、筆者の携帯電話は、昨日から今日の朝まで海外ヘッジファンドや外資系証券会社の運用担当者たちからのコールで、鳴り止まない状態にあった。
電話の大半は、「ミスター・武藤とはどんな人物だ? ミスター・武藤の副総裁就任によって、日銀の金融政策はどの様に変化すると見るか−」という質問によって占められていたのである。
“首相側近”ともいうべき官邸中枢スタッフがしてやったりの口調で言う。
「非常にバランスのとれたよい人事でしょう。武藤副総裁に関して言えば、“次期総裁含み”と考えてもらっていい−」
そもそも官邸サイド−ズバリ言ってしまえば“小泉首相とその周辺”は、早々に“福井新総裁”を決めていたと見ていいだろう。
実を言うと筆者が“福井新総裁”を予想できたのも、この官邸サイドの動きをつぶさに検証したからだった。
ならばなぜここまで総裁人事の正式決定が遅れたのかというと、副総裁人事を巡るさまざまな思惑が交差していたからだ。
小泉政権発足当初、同政権の政策面を裏方から全面的にバックアップしたのは、武藤財務事務次官(昭和41年入省)−竹島一彦内閣官房副長官補(40年大蔵省入省、現公正取引委員会委員長)のラインだった。
「小泉首相も、この“武藤−竹島ライン”にはまさに全幅の信頼を置いていました」(官邸中枢スタッフ)
武藤氏は財務次官時代、戦後最長となる2年7カ月の間そのポストにあったが、「それも小泉首相サイドからのたっての慰留があったため−」(官邸中枢スタッフ)
その武藤氏は今年1月、財務省顧問に退いたが、この中途半端な時期の退任劇も、今回の日銀副総裁就任の布石と見ると、すべて合点がいく。
今回、武藤氏を副総裁に就任させる案は、塩川正十郎財務相が小泉首相に提示したとされるが、それはあくまでも形式的なことだと見るべきだろう。
その実態としては、官邸サイドによって入念な根回しがあったことは間違いない。
「今回の一連の日銀トップ人事に関して言えば、財務省サイドの実質的な全面勝利ということになるだろう」(日銀中枢幹部)