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2月3日から、3月10日発行分の個人向け国債3月債の募集が始まりました。郵便局では予想通り、500億円の枠が正午過ぎには完売。新聞によれば個人向け国債を扱った392の民間金融機関のうち約90機関が初日に販売枠を売り切ったそうです。
個人向け国債なるものができると発表されてから、頻繁にマスコミに取り上げられました。商品内容は個人にとってきわめてデメリットの少ない、久々の“万人向け注目金融商品”として、松井秀喜選手のNYヤンキース入団よろしく鳴り物入りの募集開始といった感じでした。販売する側も盛り上がった――かどうかは知りませんが――3月債の3300億円という発行額に対して総額3兆円の販売希望を申請したとのこと。これに気を良くした――かどうかは知りませんが――財務省は、平成15年度の民間金融機関を通じた発行枠1兆2000億円の倍増計画を検討中とか。さしあたって来年度後半に発行予定の6000億円を、前半の4月債と7月債(それぞれ3000億円)に上乗せして発行したいのだそうです。つまり年間発行額を前半で消化してしまい、後半は新たに増発するということです。
まあ、買う側も売る側も、そして発行側もみんなハッピーでめでたいことですが、手放しで喜んでいる場合でもありません。郵便貯金に預けたおカネの多くが国債に流れていますし、運用先(つまり貸し出し先)に頭を悩ませる銀行も、集めた預金を国債に投資しています。焦げつくリスクのない運用です。そこへ持ってきてさらに個人向け国債です。このご時世、自分のおカネを減らしたくない人が「ペイオフ解禁で預け先を分散」と言って個人向け国債を買い、安全第一で郵便貯金という人が預入限度1000万円を超えたおカネを中期国債や個人向け国債に振り向ける。直接間接問わず、気が付いたら国債まみれです。預貯金を通じて国債を買っている場合は、国債の価格変動リスクを金融機関が丸ごと負ってくれているわけだし、個人向け国債の中途換金は財務省が額面で引き取ってくれることになっています。直接国債を買ったにしても、評価損益が関係ない個人にとってはデフォルトがなければそれでいいというのも納得のいくところではありますが、結局、国債に集中投資することになる。首を傾げてしまうのは私だけでしょうか……。
個人向け国債、額面で引き取った後、財務省はどうするのでしょう? 通常の国債のように、投資家が市場で売買している分にはおカネを返す必要はありませんが、個人向け国債は発行元が引き取っておカネを返すことになるわけです。国債発行は言うまでもなく資金調達。借りたおカネを期限前に返さなくてはならないわけですから、新たに調達しなければなりません。将来、金利が上昇した場合、個人向け国債を持っている個人はそれを換金して固定金利のものに預け換えるでしょう。大量の換金が起こります。そこで通常の国債を買ってもらえば、財務省の描くシナリオどおりということなのでしょうか……。将来金利が下がると予想されるときに、変動金利の個人向け国債が売れるとも思えませんし。
募集開始前に明らかになった、個人向け国債の中途換金の条件はもうご存知の方も多いでしょう。購入後1年を経過したら額面で財務省が引き取ってくれるのですが、その際に直近2回分の利子相当額が差し引かれるというもの。しかも保有者に支払われる利子は20%源泉徴収後の金額であるのに対し、換金時に差し引かれるのは税引き前の利子相当額です。さらに、金利が上がったといって換金することを考えると、差し引かれる直近2回の利子相当額は、いずれも所有期間中に支払われた利子のうち金額の多い方から順に差し引かれるようなものです。結局、所有者の所有期間利回りは大幅に下がってしまうことになりかねません。前回の利払い時から換金時までの経過利子は手にすることができますから、タイミングが許せば、せめて換金は利払い日直前が望ましいということになります。
あえて国債暴落危機を唱えることはしませんが、どうも“今さえ良ければ”的な感がぬぐえない個人向け国債の船出です。もう少し時間を線でとらえることをしないと、思わぬ落とし穴にはまり込むかもしれません。
ワイズマネジメント 伊藤 裕