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多国籍企業R&Dセンターの中国における展開 [中国経済新論]
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投稿者 あっしら 日時 2003 年 2 月 20 日 00:10:34:


南開大学多国籍企業研究センター 張岩貴

中国は多国籍企業にとって、技術集約型産業の投資先として浮上しつつある。そのハイライトの一つは、多くの多国籍企業が研究開発センター(略称・R&Dセンター、以下同)を中国に設立し始めていることである。「2001年世界投資報告」によると、世界多国籍企業トップ500社の中の400社は中国において2000以上のプロジェクトに投資し、100以上のR&Dセンターを設立している。その中の40は相当な規模に達しており、主にコンピュータ、通信、電子、化学、自動車と医薬などの業界に集中している。それとは別に、さらに数多くのカスタマーサービスセンターも存在している。投資の主体には、Dupont、Microsoft、 Motorola、GM、Siemens といった世界的な有名企業が含まれている。

多国籍企業が中国に設立したR&Dセンターの特徴

第一の特徴は、こうしたR&Dセンターは、主に製品開発に携わり、関連製品の国際競争力を高めることを目的としていることである。例えば、Motorola、GM、Lucent、Samsung、IBM、Dupont、P&G、Ericsson、Nokia、Siemensなどは相次ぎ中国に対する投資プロジェクトを展開している。2000年、中国における外国企業のハイテク製品の輸出は298億ドルに達し、中国ハイテク製品輸出総額の81%を占めている。数年前に、Motorolaは、中国にすでに18カ所のR&Dセンターを設立した。そのいずれにも親会社の先端技術と一流の製品が導入されていた。それは中国が世界一流の製品を生産するための堅実な基礎を築き上げた。現地での研究開発の最も成功した例は、Motorola が開発、そして生産した天拓A6188型の携帯電話である。今後、中国におけるMotorolaのR&Dセンターは25か所に、そして研究開発への投資は1.8億ドルまで増大する見込みである。一方、基礎研究あるいはグローバル市場に参入するための研究成果を提供することを目指して、中国にR&Dセンターを開設する多国籍企業もある。Microsoft、Intel、Bell Labsがその好例である。

第二の特徴は、一部のR&Dセンターは、その親会社の体系の中で高い地位を持っていることである。例えば、ノキアは北京で世界レベルのR&Dセンターを設立し、Motorola の中国におけるソフトウェアセンターもCMMのレベル5という世界トップレベルの認証を受けている。Intelが1998年11月に北京で設立した「Intel中国研究センター」は、同社の世界での四大チップ研究実験センターの一つである。それは、Intelがアジア・太平洋地域に設立したはじめての研究センターであり、5年の間に5000万ドルの投資が見込まれている。また、1995年設立された「Microsoft中国研究開発センター」は、Microsoftにとって、海外における三つ目の研究センターであり、1998年には、Microsoft本社直属の海外研究センターに昇格したのである。

第三の特徴は、こうしたR&Dセンターは、現地の中国の研究開発機関と緊密な業務上の協力関係を持っていることである。例えば、P&G(宝潔)は清華大学と連携し、大型研究センターを設立した。そして清華大学に1070万元の資金援助を行い、世界最先端の実験設備を導入し、大学の教育と実験設備の改善及び両者の共同研究プロジェクトに協力している。また、上海GM自動車公司は設立後まもなく、上海自動車集団公司と提携し、5000万ドルの共同投資(それぞれ50%)によって、汎アジア自動車技術センターを設立した。IBMの中国における研究開発機構の名称は「中国大学協力部」であり、清華大学と北京大学にIBM大学院を設立させることに加え、復旦大学、浙江大学との共同研究プロジェクトにも取り組んでいる。

第四の特徴は、こうしたR&Dセンターで採用している研究スタッフの大部分は、中国人あるいは華僑であり、しかもその人員の現地化がさらに加速していることである。例えば、Microsoftの中国研究院は3年以内に100名の優秀な研究者を採用する計画を立てている。そして、国際研修と交流を提供することによって、人員の本土化を図ろうとしている。

第五の特徴は、毎年何百億ドルという外資導入の実績と比べると、こうした多国籍企業R&Dセンターは、数量、投資額及び中国での展開はまだ初期段階にすぎないことにある。今後、より多くの多国籍企業が投資を行い、それらのR&Dセンターを中国に設立する見込みである。しかし、多国籍企業の技術開発と研究は、伝統的に親会社とその国内における機関で行われていることを、われわれは忘れてはいけない。1992年の資料では、アメリカ多国籍企業の研究開発費用のうち、87%がアメリカ本土で使われており、海外にある機関と研究センターで使われたのは、13%に留まっている。こうした現象は現在も根本的に変化していない。

近年、R&Dセンターの中国での展開をはじめ、多国籍企業がこれまで本国に集中していた研究開発活動を海外展開へと方向転換したのは、いくつかの要素の相互作用によるものである。

第一は競争の圧力である。競争によって、国境を越えた知識、専門知識を備えた人材と技能に対する需要がますます拡大している。経済移行期にある諸国、そして多くの発展途上国には多くの科学技術の人材が存在している。こうした人材の存在が、多国籍企業の研究活動のグローバル化を促しているのである。発展途上国にとって、大量で人件費の安い科学技術の人材を抱えていることに加え、多くの先進諸国で現地の研究人員が相対的に不足していることも、多国籍企業の研究活動の海外への展開を促している。

第二は技術進歩である。通信と情報技術の進歩により、研究と開発を多くの独立した部分に分解することが可能となった。こうした研究と開発活動は、別々の所で行っても、協力で最後の段階でまとめることが技術的に可能になったのである。

第三は、多国籍企業の研究活動を受け入れる対象国の要素、つまり外資管理体制の変化である。外資管理体制の自由化、外国企業の研究開発へのインセンティブ措置、持ち株比率に対する規制緩和、外国企業と現地の大学との産学連携の許可、知的所有権保護措置の強化など、様々な要素が多国籍企業の研究開発活動のグローバル化を促している。また、中国政府が展開しているサイエンス・パークなどの政策作りも、こうした研究開発活動を海外へと展開する意思決定に対し、積極的に誘導する働きを果している。

このように、多国籍企業は最先端技術の主な持ち主であり、技術革新のリーダーでもある。今日の世界経済の中、自らの競争能力を維持し、そしてそれを増大させるためには、異なる国での研究開発におけるコストの違いを生かし、対象国の科学技術能力を利用することによって、研究開発の規模の経済性と範囲の経済性を獲得できる。多国籍企業にとってはそのR&D活動を地理的に展開するメリットは非常に大きい。R&D活動のグローバル化は、多国籍企業が自らの技術優位性と相手国の技術能力を結合させることによって、新しい技術に転換し、自らの競争力の向上をもたらす。しかし、このプロセスを遅らせるいくつかの要素が働いている。例えば、その母国にすでに展開されたR&Dと競合する可能性や、異なる場所でのR&Dを組織展開するコストなどである。そのほかにも、多国籍企業がR&Dセンターを設立させる前提条件として、相手国における裾野産業と川下産業の存在は不可欠である。

多国籍企業のR&Dセンターが与える中国への展開の影響は、その母国と中国という二つの側面から見る必要がある。まず、その母国に対する影響はプラスである。多国籍企業R&Dセンターが世界的に展開する趨勢が見られたにもかかわらず、大量の研究と開発は依然としてその本土にて行われている。間違いなく、こうした本土で行われた研究開発の活動は、多国籍企業の経営生産の効率及び総体的な生産性の向上に積極的な働きを果している。研究開発活動の海外への展開は、グローバル的な活動の合理化を通じて、多国籍企業の競争能力の向上と収益性の拡大をもたらす。そして、労働生産性の向上も、母国に利益をもたらしている。仮に研究と開発の海外への展開により、その本土に存在しない技術を導入することができれば、研究と開発のグローバル化は、その本土における技術の範囲を拡大させ、技術総量の拡大に貢献する。

知的な資源をいかにグローバル的に獲得するか、これはすでに国境を越えた競争の主要な要素となっている。Bell Labsアジア太平洋地域の総裁である許浚博士は、仮にBell Labsが中国に研究開発機関を設立せずに、別の会社に先手を打たれたとすれば、われわれの知的資源が奪われたに等しいと語っていた。では、中国の角度から見ると、多国籍企業がR&Dセンターを中国に開設したことは、果たして中国の知的な資源を奪い、中国企業の競争力の向上を妨げたと意味するだろうか。このような結論はあまりにも短絡である。多国籍企業のR&Dセンターの中国展開が中国に与えた影響を論じるには、多国籍企業と中国の企業、研究開発機関との技術連携の中身を見る必要がある。こうした連携と協力や共同研究によって、中国が本来であれば殆ど入手不可能とされる専門の技術を獲得することが可能となっている。また、出資を伴わない外部企業関係との関係も、多国籍企業から技術を獲得する重要な手段である。従って、中国は、技術ライセンス契約とその他の契約を通じて、海外の技術を獲得することができる。技術移転のプロセスのうち、いくつかの要素が中国企業の技術ライセンス契約の取引に対する意思決定(外国による直接投資の受け入れ以外の選択肢として)に影響している。その要素には、技術成熟度と複雑度、産業の特徴、特定産業企業の発展戦略、技術と人力資源のレベルなどが考えられる。

最後に、仮に独自の技術と研究活動が一貫して多国籍企業の内部に温存されても、多国籍企業の中国におけるR&Dセンターと生産は、その外部への波及効果を通じて、依然として中国企業の技術能力に対してプラスの影響を与えることに変わりはない。というのは、経験があり、訓練を積んだ人材の流動は、技術波及の重要な源泉でもある。海外では、こうした例は非常に多く、最も明らかなのは、最初に多国籍企業での業務に携わった人員の流動率は非常に高く、一部の国々では、企業の経営管理者のうち、多国籍企業の研修(多国籍企業のR&Dセンターでの研究を含む)を受けたことのある人員の比率が非常に大きい。それ以外でも、関連製品の商品化、専有技術及び特許技術ライセンスの売買を通じて、多国籍企業の海外にある機関のR&D活動は、現地における企業家の育成を促す働きを果している。

中国における多国籍企業R&Dセンターでの斬新な商品の展示及び技術へのアピールは、中国国内企業も見習い始めている。異なる技術を使用する外国企業との直接あるいは間接的な接触は技術に関する情報の伝播を刺激し、中国国内企業による模倣及び技術の向上にも有利である。

結局、多国籍企業が中国にR&Dセンターを開設するといった直接投資と、そして出資以外の形での参入を積極的に吸収することは、中国の技術能力の向上につながる。技術資産、技術能力そして技能が非常に欠けていた中国の一部の地域にとって、こうした貢献は特に重要である。多国籍企業のR&Dセンターの参入によってもたらされた技術と開発能力の向上は、中国における新しい製品の開発と生産性の向上や産業の高度化を促している。こうした影響の範囲及び中国経済に対する長期的な影響は、R&Dセンターの種類、R&D技術を吸収し、それを自前の技術に転換する中国企業の能力、さらに現地の中国企業と外国企業の経営と政策によって決定される。また、外国企業の中国における駐在機関とR&Dセンターと現地の中国企業との連携、中国の人的資本や現地のインフラ設備にも関連している。こうした要素の多くは、受け入れ国の発展水準に密接な関係を持っている。従って、より発展段階の高い発展途上国また地域は、多国籍企業のR&D活動と生産活動を通じて、自らの科学研究の能力を増強させる点で大きな優位性を持っている。そのため、多国籍企業が中国の沿海地域にR&Dセンターを設立すれば、中部や西部に設定するよりも、大きなプラスの影響を与えるであろう。

出所:「国際経済合作」2002年第12期
※和文の掲載にあたり国際経済合作雑誌社の許可を頂いている。

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