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BNPパリバ証券会社・経済調査部チ−フ・エコノミストの河野龍太郎さんは、前回の「Weekly Economic Report」では、経済に外的なネガティブ・ショックが加わったとき、プラスのインフレ率の下では比較的スムーズに行える実質賃金の引き下げが、90年代のゼロインフレやデフレの下では困難となったため、マクロ経済全体で 大幅な数量調整が発生したと述べた。そして、週40時間労働制導入に伴う労働時間 短縮が与えたショックが大きかったと述べた。
<時短で実質賃金は90年代前半年率1.3%上昇> 87年に年間1933時間であった所定内労働時間は、94年には1772時間となり、この間で8.3%も減少している。「実質賃金は90年代前半に年率で1.3%上昇したが、時間当たりでみると、企業にとってはさらに年率で1.2%上昇した計算になる」と語る。こうした河野さんの主張に対して、「80年代末から90年代前半にかけての週40時間労働制導入に伴う労働時間の短縮(時短)の影響は、供給ショックであり、むしろ物価押し上げ要因として、作用したのではないか」、との質問を読者の方からいただいたので、それについて説明する。
<不況下、実質雇用コスト上昇を製品価格に転嫁できなかった> ここでマクロ経済と物価の関係を分析するAD-ASモデル(総需要・総供給モデル)を前提にすると、時短は(右上がりの)総供給曲線を上方にシフトさせるため(AS-1→AS-2)、指摘のあったとおり、本来はGDPの低迷とインフレ率の上昇をもたらしていたはずである。しかし、実際に生じたのはGDPの低迷とゼロインフレあるいはデフレであった。これは、「総供給曲線の上方シフトと同時に、(右下がりの) 総需要曲線の大幅な下方シフト(AD-1→AD-2)が生じたためである」と言う。総需要曲線の下方シフトは、バブル崩壊後の設備のストック調整が大きく影響しているが、資産価格の下落などによる景気抑制的な金融状況も大きく影響していた。「インフレ予想が極めて落ち着いている中では、あるいは深刻な不況の下では、企業は時短に伴う実質雇用コスト上昇を製品価格に転嫁することができなかった」のである。つまり、ゼロインフレのもとでの供給ショック(=時短)による時間当たり名目賃金の上昇は、そのまま実質雇用コストの上昇となり、企業業績を大幅に悪化させたのである。企業業績の悪化は、設備投資支出のさらなる落ち込みをもたらし、乗数メカニズムを通じて、生産、雇用に悪影響をもたらした。
<実質賃金調整の潤滑油に2-3%インフレ率必要> アカロフ論文の指摘するとおり、実質賃金の調整をスムーズにするために、潤滑油としてある程度のプラスのインフレ率が必要である。「2-3%のインフレ率が維持されていれば、時短による時間当たり名目賃金の上昇はかなり吸収され、実質雇用コストの上昇はそれほど大きくならなかったはずである」。マクロ経済の縮小もここまで大きくならなかっただろう、と言う。