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道路公団民営化の欺瞞
先週号で話をしたように、小泉政権は何もやっていない。財政支出を渋って日本経済を萎縮させ、このため経済は疲弊し、税収は減少する。しかし税収減を賄うための増税や歳出のカットは行わないから、経済が最悪の状況には到らない。つまり財政再建は掛声だけで、累積債務だけがどんどん増えて行く。このようなスローパニックの一連の流れを、小泉首相はただ眺めているだけである。
しかし小泉首相は「もっと重要なことがある」と開き直っている。どうも重要なこととは、特殊法人の改革と称するもののようだ。中でも目玉は「道路公団」と「郵便局」の民営化らしい。そこで今週はこれらを取り上げる。
「道路公団」の民営化のための委員会は大いにもめた。委員長が最後に辞任すると言ったハプニングもあった。当時はマスコミも大きく取り上げていた。しかしこれが法案となるのは来年の話である。それまで小泉政権が続いている可能性はほぼゼロである。次の政権は、小泉政権で決まった事柄を見直すはずである。
つまり「カンカンガクガク」議論した民営化策もどうなるか分らない。実際、国土交通省は、民営化策を事務レベルで協議する作業チームを設置し、民営化会社の形態などを再検討する方針である。もっとも最終的な結論は国会で決めるのであり、どうして民営化の委員会の様子をマスコミが大きく報道していたのか不思議でならなかった。
筆者は、一連の民営化論議で過去に一度だけクレームをつけたことがある。想定している金利が異常に高いことである。本四架橋の通行料収入が少なく、利息も賄われないと言う話は有名である。しかしこれは建設に際して借入れた当時の郵便貯金の金利が異常に高かったことが影響している。もし今日の長期金利を適用すれば、交通料が極めて少ないと言われている本四架橋でさえ、利息ぐらいは払える。ただ財務省が借換を認めないだけである。しかし今日の郵便貯金の金利の推移を見ていれば、将来、金利負担が激減することは間違いない。
一方、「道路公団」の民営化の方は驚くことに、40年間の想定している金利がなんと年4%である。まさかこのような高金利を前提に議論されていたとは驚きである。「人をばかにするのもいい加減にしろ」と言いたいほどの金利である。30年国債の利回りが1.3%など、今日、低金利が定着している。生保の予定利率の引下げも話題になっている。
最近、富士通の年金の会社負担の現在値を計算する割引率が3%台であることが大きな問題になった。他の会社は1%台からせいぜい2%台である。割引率を大きくすれば、今日用意する引当金はそれだけ小さくて済むからである。
金利は道路公団民営化推進委員会事務局が想定した。彼等の言い分は「将来金利上昇の可能性を見込んだ」と言うことである。たしかに将来のことであるから、誰もはっきりとしたことは言えない。しかし筆者は、これはトリックと認識している。自分達の都合に合わせて、予想が難しい数字を現実離れした形で想定しているのである。しかし世間の常識と言うものがある。このような常識を大きくはずれた金利を想定すること自体が大問題である。そして借入金が40兆円と巨額であるから、わずかの金利の差が莫大な収益の差となる。しかし不思議なことに年4%の金利が妥当かどうかと言った、最も重要と思われる事項については、全く民営化委員会で議論された形跡がない。
ところで月刊「現代」にジャーナリストの加賀孝英氏が「民営化委員の最終案」はでたらめと指摘している。新会社は大赤字でスタートすることになり、10年後に高速道などの資産を買取ることなどできるはずがないと言うのである。しかしこの人物の引用している資料と言い分も奇妙である。40兆円の返済を元利均等で返済すれば、最初は利息ばかり払うことになり、大赤字になると言うのである。個人の住宅ローンの返済じゃあるまいし、企業会計の収益計算を支払ベースで行うのが本当に適当なのか大いに疑問である。
したがってこの人物の資料によれば、金利が4%から5%と1%高くなっても、民営化一年目の赤字額が2,300億円から3,900億円と1,600億円しか増えない。普通の考えなら40兆円の1%で4,000億円の悪化と計算されるが、これも元利均等払いがベースになっている関係だろう。
さらに奇妙なことは、最終案の元となったJR東日本の会長の松田氏の試算結果は全く公開されていない。なおこの試算は松田氏がエクセルを使って個人で作成したと言う話である。どうもこれが加賀孝英氏が引用している試算に近いものと推測される。とにかく民営化委員の議論は何がなんだかさっぱり解らないのである。まず試算結果を細かく公表すべきである。
しかし日経新聞の記事によれば、民営化推進委員会事務局の想定では新会社は、金利4%なら40年間で累積利益が6兆円、金利5%なら利益がほぼゼロになると言う話である。こちらの話の方が納得できる。それなら金利3%なら12兆円、2%なら実に18兆円の累積利益になると言う計算になる。現実的な金利を一応2.5%とすれば、15兆円の利益が出る。儲からない本四架橋を国に渡し、不採算の地方の高速道路は造らないとしたなら、莫大な利益が出るのは当り前である。またおそらく事務局の行ったこの試算でもかなり甘く、もっと合理化できる余地があるはずである。つまり15兆円の利益が20兆円以上にもなることも考えられる。さらにこれだけ儲が大きければ、想定より借入金の返済が進み、金利負担はそれだけ小さくなる。したがって新会社は、想像もつかないほどの超高利益企業として出発するのである。
このように金利の想定や金利の計上の仕方一つで大赤字になったり、大黒字になるのである。このような場合は常識で判断する他はない。日本の高速道路の料金は世界一高い。また相当混雑もしている。さらに金利は世界的にも、歴史的にもないほどの超低金利である。このような状況で、いくら借金が大きいと言っても、赤字になりようがない。ましてや今後不採算の高速道路は建設しないと言っているのだ。
民営化委員会の猪瀬氏は「国民のために借金を早く返し、通行料も一割引下げる」と言っている。筆者に言わせると「ふざけるな」の一言である。これだけ利益が出るのなら通行料をもっと下げるべきである。猪瀬氏は「国民のため」と言っているが、民営化委員会のやっていることは、明らかに「新会社の職員」のための民営化論議である。「道路公団」の関係者は、民営化し、誰からも干渉されない高収益の新会社を作りたいのである。
国民にとって一番良い方法は、国債を0.8%で40兆円発行し、国が道路公団の資産を全部買取ることである。これをやれば、日本の高速道路は明日からでも、信じられないほどの大黒字になり、これで発行した国債は簡単に償還できる。償還が終われば、通行料は無料にする。しかしこのような考えには、郵貯の使い道がなくなるため、財政当局が「うん」と言わないだけである。
筆者は、不採算の高速道路を国費で建設することに賛成である。しかし既存の高速道路については無料にすることが筋である。「通行料を一割引下げるから良いだろう」とは「ふざけた話」である。「国民のため」と言う美名のもとに、とんでもないことが行われようとしているのである。
郵便局の民営化
もう一つの小泉特殊法人改革の目玉は、郵便局の民営化である。まず郵便局は公社化されることが、以前から決定している。それをさらに民営化しようと言うのである。日本の郵便局の業務は、郵便事業、郵便貯蓄、そして簡易保険である。しかし小泉首相が念頭に置いている改革の柱は、何と言っても郵便貯蓄である。
小泉首相を始め、郵便貯蓄を問題にする経済学者やエコノミストは多い。この人々の言い分は、「巨大な郵貯があるため、特殊法人などの非効率的な分野に大きな資金が流れる」と言うことになっている。このため郵貯を民営化すれば郵貯、道路公団の高速道路建設など、非効率な事業には資金が流れなくなると言う論法である(高速道路は儲からないと国民を洗脳している)。つまり郵貯を民営化し、資金がより生産性の高い分野に配分されたなら、日本経済はうまく行くと言うのである。
しかし今日の資金の流れを見れば、このような話は事実無根である。肝腎の民間の銀行は、民間企業への貸出しを減らし、国債ばかり買っている。このような状況で、一体、民営化した郵貯はどこに金を貸すと言うのだろう。結局、政府系金融機関への貸出しと国債の購入しか考えられない。まさか郵貯が、民間の企業へ事業資金を融資する事態は考えられない。
民間セクターが資金不足の状態で、郵貯ばかりに資金が集まっていて、うまく資金が民間に流れていないのなら問題であろう。しかし今日、少なくともこのようなことはない。むしろバブル期には、郵貯の大きな資金が土地融資に向かわなかったことが幸いしている。また「バブル期の土地投機」や今日の「貸し剥がし」を見ていると、どうしても民間の銀行がいつも「善」とはとても言えない。民営化すれば、何でも解決すると言う単純なばかな発想こそが問題である。
しかし筆者は、将来の郵貯の縮小は避けられないと考えている。住宅金融公庫の廃止、道路公団の民営化など、特殊法人の資金需要は減少する。一時的には、郵貯の国債購入が増えることはあり得るが、全体としては郵貯の必要性は低くなる。さらにもし筆者達が主張しているような「政府貨幣の発行」や「国債の実質的な日銀引受け」が実現すれば(信じられない人も多いと思われるが、可能性は大きくなっていると思われる)、郵貯資金のニーズはさらに低下することになる。
筆者は、郵貯の預入限度額の1,000万円を引下げることを提案したい。ただし地方は、金融機関が郵貯ぐらいしかない所が多いので預入限度額を据置くことにする。一方、都市部、特に大都市は300万円ぐらいには引下げるのである。都市部には郵貯以外金融機関があるので、問題は生じないと考える。
ただペイオフの問題がある。筆者は、日本ではペイオフを行わず、預貯金は全額保護すべきと考える。日本のように預貯金の額が大きい国でペイオフは無謀である。このように言うと必ず、観念論者が「預金者もリスクを考慮した行動すべきであり、ペイオフ実施で経営状態の悪い銀行は淘汰されるべき」と訳の分らないことを言う。しかし一般の人々に個々の銀行の健全性が分るはずがない。国でさえ銀行に特別検査を何回も行っても、経営実態が分らないのである。つまり一般の素人に銀行の経営状況を判断しろと言う自体が現実離れしている。
今日の政府のペイオフの対応もいい加減である。「大きな銀行は影響が大きいから、預金は全額保護する」と言っている。まずどの程度から「大きい」のか分らない。また大きな銀行は保護すると言うことになれば、経営状況は良いが規模が小さい銀行から、経営状況が悪いが規模が大きい銀行に資金が移動することになる。また現在、「定期預金」は依然ペイオフの対象となっている。このような中途半端な状況は早急に改善すべきである。
ペイオフを行わないと決めたら、銀行にとって預金保険料も必要がなくなる。これで民間の銀行は、郵貯と対等の競争ができるのである。郵貯は、民営化論議の以前に、縮小を検討すべきである。
小泉首相が公約違反を指摘された時の反論に持出した「もっと重要なこと」の実態は、このような「ていたらく」である。最近、小泉首相を持上げる政治家や論者はめっきり少なくなっているが、不思議なことに依然としている。彼等は「抵抗勢力のために小泉改革が進まない。これが経済停滞の原因だ。」といまだに小泉首相を擁護している。
しかし小泉改革の目玉である「道路公団の民営化」と「郵便局の民営化」の実態は、ここまで説明して来た通りである。このような政策で、どうして今日問題になっているデフレが解決すると言うのか。まず日本経済にとって必要なことは小泉首相の退陣である。これがない限り、何事も始まらない。
日本の経済政策にボタンの掛け違いが起ったのは、1980年頃からと筆者は考えている。ちょうど土光臨調が始まった頃である。このころの雰囲気が今日までずっと続いており、デフレ経済を長引かせる原因にもなっている。来週号はこの頃の経済を取上げる。
日本経済に関して、世の中の論調は確実に変わっている。中原伸之前日銀審議委員は「日銀の国債買入れによる、毎年10兆円程度の財政出動を3年程度継続する」と言っている。また元日銀理事の賀来景英大和総研副理事長は「日銀の国債引受けは必ずしもタブー視しなくてもいいかもしれない。経済の異常時には考え直してもいい種類のものだ」と発言している。
さらに日経編集委員の藤井良広氏は、さかんに米国での政府とFRBとの政策協定、つまりアコードの説明を行っている。連銀は第二次大戦中(1942年)から、ほぼ青空天井(利回りを2.5%が上限になるよう)で政府の発行して来た国債(財務省証券)を買入れて来た。このためインフレを心配するFRBは、1951年に政府との間で財務省証券の利回りの上限を撤廃する協定を結んだ。これが有名なアコードである。この協定でFRBは独立性を回復したのである。
しかし今日、日本で言われているアコード(協定)は逆に、日銀に政府の政策に協力を求めることを意味している。具体的には、「国債利回りが一定以上にならないように、日銀が市場から国債の買い切りを行う」などという協定である。その意味では「逆のアコード」と言える。
亀井前政調会長が、2月2日のテレビ朝日系の「サンデープロジェクト」で「政府紙幣発行しろと言う人がいるが、自分としては無利子国債の日銀引受けを考えている」 と発言していた。実はこの数日前、丹羽春喜大阪学院大学教授が亀井前政調会長に会って、一時間ばかり話をしており、当然、政府貨幣(紙幣)も話題になっている。なお筆者の知る限り、この時の亀井前政調会長の「政府紙幣」と言う発言は、「政府紙幣」と言う言葉が初めてテレビの電波に乗ったものである。
このように実質的な「セイニア−リッジ政策」への言及が色々な人々から出るようになった。一年前には考えられないないことである。世間は当時、「構造改革でデフレは克服できる」と言った、幼稚で荒唐無稽な意見で満ち溢れていたのである。