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破たん前の生命保険会社が契約者に約束している運用利回り(予定利率)の引き下げ問題をめぐる政府・自民党の議論が始まった。金融庁は破たんを防ぐために制度導入は必要との考えで、今国会での関連法案の成立を目指している。しかし、世論の強い反発を招くのは必至で、制度が創設されただけで大規模な解約が起きかねないなど不測の事態も予想される。金融庁は政治主導での具体化を期待するが、与党内には慎重意見が根強く、生保業界にも賛否両論がある。思惑が入り乱れる予定利率引き下げ問題の現状を点検した。 【小林理、中村篤志】
●まとめ役不在
長引く超低金利で運用難に陥っている主要生保は、総額1兆2000億円余りの「逆ざや」(運用利回りが予定利率を下回った額)を抱えている。さらに、株価急落が追い打ちし、各社の経営体力は限界に近づいている。このため、何らかの経営支援策や救済策が必要との見方は、金融庁と政界、業界でほぼ一致している。しかし、具体策となると意見はばらばらで、まとめ役もいないのが実情だ。
引き下げ制度創設の動きは、今回が初めてではない。01年にも金融庁が金融審議会(首相などの諮問機関)を通じて「容認」の結論を出したが、契約者の反発で「封印」した。しかし、最近の株価急落は生保の経営難に拍車をかけ、業界に約2・5兆円の資金を提供している銀行にもダメージを与える恐れが出てきた。「3月危機を起こさせない」ことが至上命題の金融庁にとって、放置できない事態になっている。ただ、「封印」を解いた金融庁の動きは鈍く、先月30日にようやく論点をまとめたメモを自民党に示しただけだ。
自民党のある有力議員は、金融庁の動きについて「(同庁は)以前の失敗に懲りて、反発を浴びるのが明らかな法案を自分の責任でやりたくないと考えている。引き下げに積極的な一部の議員に乗って実現させようとしているが、党内の空気が読めないのであいまいな案しか出してこない」と解説している。
●業界にも賛否
金融通の相沢英之・元金融再生委員長(自民党)らは、今国会での法案提出に意欲的だが、本格的な党内調整はできていない。「年内の衆院解散・総選挙」がささやかれる中、「国民負担の増大につながることは言い出しにくい」(同党議員)事情があるからだ。同じく与党である公明党の神崎武法代表は、「政府の考えを聞きながら、党内でしっかり議論していく」と、慎重な言い回しに終始している。
生保業界では、以前から前向きだった日本生命保険に加え、今回は第一生命保険、明治生命保険も引き下げ容認に傾いている。一方、横山進一・生命保険協会会長(住友生命保険社長)は「経営努力で乗り切るべきだ」と慎重姿勢を崩していない。他社にも「生保の経営を苦しめているのは株価下落だ。利率引き下げは、抜本的な経営改善策に結びつかない」などの意見が強い。議論が迷走するのは避けられそうにない。
予定利率引き下げについての現時点の金融庁案は、(1)逆ざやに陥っている生保が金融庁に引き下げを申請(2)資金流出を防ぐために解約を一時停止(3)生保は人員削減や首脳陣退陣による責任明確化などを盛り込んだ経営健全化計画を策定(4)計画の妥当性を外部機関でチェックした後、総代会(株主総会に相当)で審議――という手順だ。総代会で4分の3以上の賛成と契約者からの異議申し立てが1割を下回れば、引き下げが認められる。
問題は、自主的に申請する生保が現れるかどうかだ。「経営難を自ら認めれば、一斉に解約され、新規契約も取れなくなる」と、申請をためらう可能性が大きい。
与党内には、全社の予定利率を一斉に引き下げるべきだとする主張もあったが、憲法で定めた「財産権」の侵害にあたる疑いがあり、困難視されている。このため、自主申請を軸にしながら、経営状況が一定基準を下回った生保に引き下げ申請を半強制的に求めることを併用する案が浮上している。
【予定利率引き下げ】
80年代後半から90年代初めに加入した生命保険の予定利率は年5〜6%だが、実際は1・5〜2%の運用実績しかない。現在、この差は内部留保などで埋め続けているが、限界に近づいている。契約時に約束した「5〜6%」を大幅に引き下げることで経営負担は軽くなる。契約者は、死亡保険金や満期受け取り金額引き下げなどの損害を被る。ただ、破たんの場合も、利率引き下げはあり、引き下げ幅がより大きくなる可能性が高い。
■更生手続き(破たん時)と破たん前の予定利率引き下げの比較■
更生手続き 予定利率引き下げ
責任準備金の扱い 最大10%削減 削減なし
引き下げ率 下限なし 下限を設定
(3%を検討)
解 約 更生計画認可 手続き終了
までは凍結 までは凍結
営業活動 新規契約締結 手続き中も
は原則禁止 営業活動可能
処理期間 6カ月程度 3カ月程度
(金融庁の資料などから)
[毎日新聞2月2日] ( 2003-02-02-01:44 )