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2003/01/31 海外市場動向:過熱感を和らげるショート(カラ売り)の存在 (☆☆) [住友ゴールド]
投稿者 あっしら 日時 2003 年 2 月 01 日 15:56:26:


国連によるイラク査察活動の報告(27日)、ブッシュ大統領の一般教書演説と当
面の金融政策を決めるFOMC(連邦公開市場委員会、ともに29日)、10−1
2月期米国GDP(国内総生産)速報値の発表(30日)と、今週は注目材料が目
白押し状態だった。

金市場の方は、NY市場で6連騰の後、1月29日に4.7ドルとややまとまった
下げを見せたものの、翌30日には2.3ドル高とすかさず反発し、結果的に37
0ドル台を固める値動きとなっている。

じつは昨年12月5日にテクニカル上の重要ポイント325ドルを終値ベースで上
回って以降(いわゆる「三角保合い上放れ」)、金価格は連騰しては下げ、連騰し
ては下げというパターンで推移している。そして、それぞれ4〜6ドルの下げを1
〜2日で回復したあと、さらに上値を追うという展開を続けている。下がったとこ
ろは空かさず拾われるという強い展開である。この間、NYの先物市場に主導され
る展開も、今ではその他の市場も交えての全員参加型の展開となってきた。

なぜ多くの専門家が指摘するように、利食い売り(利益確定の売り)を交えた下げ
局面が訪れることなく、金市場は上げ続けているのだろうか。

それについて、少し細かくなるが、市場内部の要因を取り上げると以下のような分
析ができる。

「いまの金市場は買われ過ぎ」などと表現されるのは、NYベースのデータによっ
て指摘されている。以前何度か取り上げたが、商品先物取引委員会(CFTC)と
いう米国の政府機関(日本では「SEC、証券取引委員会」の方が有名)により発
表される取引主体別の週間データがある。それによると、ファンドの買い越し(ネ
ット)が1月21日現在で61,682枚(1枚=100オンス≒3.1キログラ
ム)重量ベースにして史上最高レベルの191トンにも上っている。一般的に6万
枚超えの買い越し状態は、価格のピーク時に現れることが多く、したがって過熱気
味と指摘されるのである。

ただし、この数値を全体(グロス)でみるとファンドのロング(買い)は95,0
13枚(約294トン)、一方、ショート(売り)が33,331枚(約103ト
ン)に上っていることがわかる(その差から191トンの買い越しとされる)。注
目したいのは、このショートの存在である。そこで90年代の代表的な価格上昇期
のそれを調べると、93年4〜8月の価格のピーク時が12,479枚(約38ト
ン、93年8月3日)、95年8月〜96年2月のピーク時で6,284枚(約1
9トン、96年1月30日)とそれぞれショートが減少しているのがわかる。価格
がピークを打つ前後にショート(空売り)の枚数も底打ちしているのである。すな
わち、足元のショート(空売り)のレベルは、かなり高水準であると言えるわけ
だ。ショートとは、言うまでもなく、この先価格が下がることを前提にした取引で
ある。年始7日の配信号の最後で、予想外に「値動きが速くなる可能性」としたの
は、このショートの存在があった。なぜなら、取引参加者のほぼすべてが強気、と
いう価格がピークアウトする時に往々にして見られる状況に至っていないのではな
いかとの判断である。

それでは、なぜそうなのか?と考えると、湾岸戦争時の価格展開に思いが至るので
ある。91年1月の湾岸戦争開戦時、金市場はそのニュースに反応し上昇したもの
の、それはほんの束の間で、その後、急落状態となった。前年の7月にイラク軍が
クウェート国境に終結した時点から価格が上げ基調にあり、いわゆる“織り込み済
み”となっていたことも、この背景にはあったろう。いずれにしても、この時の価
格展開を経た市場参加者の中には、その学習効果とでもいえる“警戒感”が強いの
は事実である。学習効果というよりもむしろトラウマと表現したほうが適切である
かも知れない。

株にしろ債券相場にしろ為替にしても、すべからく相場というものは、全体が同じ
方向を向いたときに反転するとされるが、それからすると今の金市場は、この警戒
感が(そしてその証としてのショートの残が)相場の息を長くしていると言えるの
ではと思っている。専門的にはオプションというデリバティブ取引などもからんで
くるため、それだけで判断するのもリスクはあるが、ひとつの目安としてショート
(売り残)の動向にプロの関心が集まる理由である。

今回は、金市場の内部要因の分析となったが、私自身の認識としては、昨年来の金
価格上昇の背景は、世界の金融と経済の大きな枠組みの変化のなかで起きているも
のと捉えている。NY株バブルの崩壊と信用リスクの上昇、「強い」から「強過ぎ
る」状態に至ったドルのソフトランディングの指向、米国一極集中の“歪(ひず
み)”の表面化等々…・。つまり、「イラク攻撃」は市場が見守る材料であり要素
としては大きいものの、金市場にとっては数ある要素のひとつということになる。
なお、前回「攻撃中止シナリオ」を取り上げたが、そうした方向性が模索されてい
るとの報道も増えてきた。ただし、そうした中で事態は開戦に向けて進んでいるの
は否めない。2月下旬が有力視されているとの情報がある。(1月31日記)


金融・貴金属アナリスト
亀井幸一郎
※本レポートは執筆者の個人的な見解を述べたものであり、実際の投資にあたってはお客様ご自身にてリスクをご判断ください。

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