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BNPパリバ証券会社・経済調査部チ−フ・エコノミストの河野龍太郎さんは、「経済が低迷すると、全ての人々の所得が同じ割合で減少するわけではない」と語る。まず、 所得の減少は、失職者に集中する。そして、失職の可能性が最も高まるのは、スキルと経験の最も少ない若年層である。実際に若年層の失業率は90年代の早い時期か ら上昇している。「どこの国でも同じように、社会の最も弱い立場にあるグループ(若年層)に低成長のコストの多くが現れる」と言う。
<3年以内の離職割合は、96年卒で 33.6%に急上昇> 驚くべきことに、日本では若年層の雇用問題はそれほど深刻には考えられていな い。不況のせいではなく、若年層の就業意識が変わった、つまり構造変化が生じた から若年層の失業率が上昇したのだと説明されることが多い。自発的失業が多いこ とや転職率が高いため、摩擦的失業、つまり構造的失業が多いことが何よりの証拠 だというのである。確かに、若年層の自発的失業は増加傾向にあり、「大学新卒者 の3人に1人が3年以内に離職する」といわれるほど離職率は上昇している。新規大学卒就職者が3年以内に離職する割合は、92年大卒は23.7%だったが、96年卒では 33.6%まで急上昇した。
<若年雇用者の非正規雇用割合も、90年代半ばから急上昇> しかし、こうした離職率の上昇や(表面上の)自発的失業の増大は、長引く景気低迷によって優良な雇用機会が与えられず、満足感の得られない職に就いたことが一 番の理由ではないかと見ている。若年雇用者に占める非正規雇用の割合は、90年代半ばから、急激に上昇している。非正規雇用はもともと離職率が高い。したがって、「非正規雇用比率が上昇すれば、離職率は上昇する」。若年層の離職 率が高まっているのは、正規雇用者の離職が以前より増えたというよりも、「長期の経済停滞で優良な雇用機会が減少し、離職率の高い非正規雇用が増えているから」なのである。
<スキル劣化と失業の悪循環に陥る新規学卒者> どの国でも、企業は既存の労働者(インサイダー)を守るが、そのしわ寄せの多く は現在就業してない失業者や新卒者などの労働者(アウトサイダー)に向かう。一度失業すると、なかなか仕事が見つからないため、失業期間は長期化する。そうな ると、スキル(人的資本)の劣化によって、仕事を見つけることがさらに困難になる。特に新規学卒者の場合、事態は深刻で、「スキルがないから就業できない、就業できないからスキルが高まらない」、といった悪循環に陥る。
<制度的な欠陥だけで説明はできない> 河野さんは、若年層の失業問題を、「就業意識の変化のような構造変化として捉えるのは 大きな誤りだ」と考える。中高年の雇用確保のために若年層の雇用が奪われていると 指摘する論者もいる。その現象は確かに見られるが、インサイダーを守る雇用制度は昔からほとんどの国で見られる。「制度的な欠陥だけで現在の失業問題を説明することはできない」と言う。むしろ、日本の雇用制度は、春闘やボーナス制度を利用することによって、名目賃金と実質賃金を伸縮的に変動させることで、最も優れたマ クロパフォーマンスを示すシステムのひとつだったはずである。
<今の若年層が中核担う10、20年後に潜在成長率は低下へ> 真の問題は、「デフレによって総需要が長期にわたって抑制されている」ことである。 同時に、「デフレによって実質雇用コストが高止まりし、企業が採用を抑制している」ことである。これらは、極めてマクロ的な現象なのである。「プラスのインフレ率の下であればスムーズに進む実質雇用コストの削減が、ゼロインフレやデフレによっ て阻害されていることが問題だ」と指摘する。 ただし、こうした若年層における高失業状態が長引けば、それは別の形で構造問題 となり、いずれは社会全体がそのツケを払うことになる。10代や20代のうちに長期 の労働経験を持たないと、人的資本を高めることは難しく、30代、40代の生産性の最も高まる時期に、十分な能力を発揮することができなくなる。ある世代の一定割合の労働者のスキルが向上しなければ、それは潜在成長率の低下を意味する。現在の若年層が労働の中核を担う10年後、20年後に、「我々は新たなデフレの害悪が顕在化するリスクを抱えている」