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きった週間リポート 1月27日号
● 日本経済のデフレ対応策として政界を中心に導入が叫ばれた「円安誘導策」が消滅し、さらにデフレ対策の切り札とされた「インフレ目標」の採用も慎重論が高まってきた。その背景は何か●
昨年後半、熱病に冒されたかのような騒ぎを呈したデフレ対応策の「円安誘導策」はいつともなしに消え、その後、政界を中心に巻き起った「日銀に一定の物価上昇率達成を義務づけるインフレ目標」も導入に慎重論が高まってきた。小泉首相は予算委員会で、日銀によるインフレ目標について「本格的に導入したら批判の大合唱になる」と導入に慎重な姿勢をみせた。
政府与党内でも最近、導入反対論が高まりをみせており、小泉首相も「物価上昇率をゼロ以上にいかに早く変えていくかが重要である。政府と日銀が一体となって考える必要がある」として、今までの方針を繰り返している状況である。
小泉首相が年初に「デフレ克服に向けて日銀と一体となって政策を総動員する」との考 えを強調したことが、「首相は日銀によるインフレ目標を導入する考えがあるのではな いか」との思惑を強めることになってしまったようだ。「デフレ克服が今年の最重要課題である」と小泉首相は発言したものの、その具体策はまだ不透明なままである。
2003年度予算案が成立するまでは、財政・税制面で新たな対策は打ち出せない状況にある。また、一部の政治家が求めている新たな財政出動については「これだけ大量の財政出動 をし、減税をし、ゼロ金利政策を続けているのに、なぜその効果が出てこないのか。
これは構造に問題があるからではないか」と新たな財政出動を否定して、自ら財政に足かせをはめている。新たな財政出動ができない以上、次にとるべきデフレ対応策は政府と日銀が政策目標を共有することがどうしても重要だということで、竹中経済財政・金融担当相が中心となって提唱する、日銀によるインフレ目標の導入案が浮上してきた。
しかし、猫も杓子も集まりがあれば唱えてきたインフレ目標の導入には、最近、慎重論が高まってきた。与党内ではすでに慎重派が大勢を占め始めてきている。宮沢元首相は首相官邸に乗り込んで「国債の暴落につながるインフレ目標は導入すべきでない」と首相に直談判した。自民党内でも「日銀にとんでもない無理をさせることになるインフレ目標は導入すべきでない」などの声が高まってきた。
このように一転して導入に慎重論が高まる中で、竹中経済財政・金融担当相は25日、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で討論会と記者会見に出席し、日本のデフレ対策について「金融的現象で、マネーサプライ(通貨供給量)の増加が絶対不可欠である。それを全体として統御するのは日銀の仕事であり、様々な資産を購入できる」と日銀に非伝統的手法を含む金融緩和を要求した。また、インフレ目標値の設定に関しては「それ自体が重要ではなく、目標を決めたからマネーサプライが増えるわけではない。
要するに重要なことは、日銀はマネーサプライを増やすことである。その強い意志を日銀が持てば、インフレ目標が役に立つ場合もある」と指摘した。さらに日銀の次期総裁人事に関しては「小泉首相は積極的な金融政策の重要性を理解している。新総裁の任命にあたり、これは大事な要素である。日銀はデフレ解消など共通の政策目標を共有し、新しい関係を確立すべきである」と政府・日銀の協力体勢の確立を提唱した。
竹中経済財政・金融担当相が日本国内での導入慎重論を考慮してかどうかは定かではないが、インフレ目標値の設定については、それ自体はあまり重要なことではなく、重要なのはマネーサプライ(通貨供給量)をいかに増やすかということだと発言している。インフレ目標を導入しても、その政策が実行されなければ、先週号の当レポートで指摘したように目標導入は「絵に描いた餅」になってしまうからである。
政治的シンボルとなった「インフレ目標」という言葉について小泉首相は、世間でインフレ目標導入が慎重になったのをみて、「私はインフレ目標という言葉は使ったことはない」と釈明しているが、記者会見の会話の中で、「物価上昇率をゼロ以上にする」というセリフが出たことをみても、首相も導入にはやはり前向きであると言えよう。
小泉首相が閣僚の中で一番信用しているのが竹中経済財政・金融担当相であると言われている。竹中氏はインフレ目標の導入には一番の積極論者である。小泉首相も結局は同調せざるを得ないであろう。
しかし、このところインフレ目標導入については慎重論が主流となってきている。先週号の当レポートでも「インフレ目標の導入は日本経済に恩恵があるのだろうか」という見出しで、目標導入によるデメリットを掲載した。その中で金利の上昇、特に国債バブル崩壊のリスクを指摘した。日銀の速水総裁も記者会見で、一定の物価上昇率達成を日銀に義務づけるインフレ目標について「経済を著しく不安定化させるなどの副作用やリスクが大きいし、必ず達成できるという自信も持てない。無謀な賭けをするようなものである」と強く導入を否定した。
政府与党内ではインフレ目標の是非を巡る論議が過熱しているが、日銀は現時点で導入する考えがないことをきっぱりと示した。「現時点」という総裁の発言について、一部では速水総裁の在任期間中という点をはっきり示したのではないかとの見方もある。現日銀総裁はインフレ目標の問題点について「国債価格が下がり、長期金利が上がるようなことが起ったら大変なことになる。賭けに頼らずともデフレは必ず克服できる。日本経済はそうした力を持っている」と強調した。
さらに金融システム問題については「昨年後半、政府が提出した銀行の不良債権処理策の提案以来、銀行の姿勢が変化し、ここに来て待ちに待った大きな動きが銀行側から起ってきた」と評価し、3月の金融危機説を否定した。また、長期国債金利低下についても「行き過ぎの面もあるものの、銀行の預金量も拡大しているので問題はないのではないか」との考えを示した。日銀総裁の記者会見の内容をみると「私の総裁任期中にはインフレ目標の導入は何があっても認めはしない」という悲壮な決意が満ち溢れている。ところで、政府与党がデフレ対応策の切り札として唱えてきたインフレ目標の導入がここへ来て導入慎重に傾いてきた背景は何であろうか。それは次期日銀総裁レースと深く関わり合いがある。
● 次期日銀総裁人事はサプライズ的な人でなく、金融に精通した穏健な人。徐々にインフレ目標導入へ●
当初、政府は政権支持率のV字回復、自民党は3月危機乗り切り、4月統一地方選勝利の切り札として、「サプライズ的な新日銀総裁人事」を考えていた。新総裁に正真正銘のデフレファイターを起用し、改革的な金融政策の発動により景気を好転させたい考えであった。そうした政治的思惑が、いまだに総裁レースの終盤の混迷に拍車をかけている。当初、自民党はサプライズ的な人を推挙し、本命視していた。しかし、財界ではこうした人が総裁になれば竹中金融担当相による金融政策混乱と同じ轍を踏みかねないという危惧感を強く持った。
改革の名の元で功名を急ぐあまり、手法に粗削りのきらいがある竹中氏の金融相兼務で株価は暴落。特に大手銀行は昨年10月に存亡の危機に見舞われた。こうしたクラッシュも辞さない粗削りの政策に懲りた財界が、竹中氏のようなサプライズ的な人物を重要ポストに据えるリスクを改めて認識し、ここは老練で日銀に精通した人を財務省とともに推挙する動きが強まった。日銀に精通した人となれば、当然インフレ目標の導入には反対する。財界がサプライズ的な人選を求めなかったのは、日銀のサプライズ政策の導入によってデフレが進展する中でさらに大きな経済の混乱が起きることを避けたかったからにほかならない。
竹中氏が金融庁のトップに就任した結果として経済に混乱を招いたとの教訓から、次の日銀総裁人事は絶対に金融政策に精通した人でという要請が財界から強まっている。
経団連の奥田会長も「政策に精通した人が一番」と言っている。小泉首相はサプライズ的な人を頭に描いていたが、今回ばかりは事情が違う。道路公団改革では、今井新日鉄会長を悪者にしてしまった。小泉首相が抵抗勢力だけでなく、財界も敵に回すと改革は進まなくなる。かつての細川政権時のように、財界が非自民政権を支持し始めるリスクも排除できないという見方を、情報誌のジャパン・エコノミック・パルスは指摘している。さらに、ジャパン・エコノミック・パルスによれば、今年、経団連は政治献金の復活を検討している。そうした点からも財界の意向は無視できないのではないかということだ。
1月19日、英フィナンシャルタイムズ紙は、次期日銀総裁候補の一人である中原伸之氏が「5〜10兆円規模の日銀による国債直接引き受けとインフレ目標導入の急進的リフレーション策を提案」と報じた。すでに次期日銀総裁レースは、サプライズ的な政策から穏健的な政策に精通した人事へと流れが変化してきている。あとは2月に向けて小泉首相が政策支持率の回復にこだわってサプライズ的な人事をとるか、財界の意向を汲んで金融に精通した人事をするかにかかってきた.。
しかし、たとえ日銀出身の総裁が誕生したとしても、自民党はインフレ目標検討の委員会設置で政治的圧力を強めていくと考えている。ジャパン・エコノミック・パルスによれば、2月に発表される次期日銀総裁人事は総裁に福井俊彦元副総裁、副総裁には黒田前財務官と大田弘子政策研究大学院大学教授の二人が候補に上がるのではないかとみている。
私もこの人事の可能性は高いとみているが、インフレ目標はいずれにしても導入しなければならないものと思っている。あとは導入する時期である。現状ではデフレを止める手立ては見つかりそうにない。国債の増発も避けられない。いずれ中原氏が言うような、日銀による国債の直接引き受けで通貨供給量を拡大しなければならない時代が訪れると思う。
しかし、こうした政策を導入するには、時間をある程度かけて徐々に進めていかなければならない。円安導入についてもはっきりと円安誘導策とわかるような政策をとるのではなく、デフレ対策を色々実施することによって自然体として円安になっていくような政策を進めるべきである。
福井元日銀副総裁は金融に精通しており、昔から日銀総裁候補と言われた俊才である。民間に出られ、富士通総研理事長として財界で活躍され、ここ数年、民間企業の経営の苦しさを肌で実感してこられた。これからの日銀の在り方を十分理解している方であると思っている。インフレ目標導入だけでデフレ退治はできない。色々のデフレ対応策を総合的に実施していくしか景気回復の道は開けないと思っている。まず自然体の政策で円安になることだ。
●米国景気はこれから本格的な地政学的リスク時代を演出する。イラク戦が3〜4ヵ月の短期戦となれば、年後半には株価とドル相場は急回復しよう。株とドル相場は2〜3月が底に●
先週、ダウ平均株価は5%強下落し、ドルは売られ、金や原油が買われる局面が目立つなど、以前から言われていた「地政学的リスク」に対する警戒感が本格化する様相となってきた。24日のNY株式市場は、別に目新しい経済悪化の材料が出たわけでもないのに急反落した。株安を受けて安全志向から米国債に資金が向かい、債券相場は上昇した。また、外為市場では円高・ドル安が進んだ。NY株式市場では、ダウ平均株価は前日比238ドル46セント安の8,131ドル台で取引を終え、昨年10月16日以来ほぼ3ヵ月ぶりの安値水準に下がった。ナスダック総合指数の終値は46ポイント強安い1342ポイント強と昨年末以来の低水準になった。この日の下げは、国連のイラク査察報告期限を27日に控え、米国がイラク攻撃に踏み切りかねないとの警戒感が高まって、早期攻撃のリスクを懸念する投資家がとりあえず保有株を売ったことによるものである。
ダウ平均構成銘柄がすべて下げるなど、この日の米株式市場はほぼ全面安の展開となった。28日にはブッシュ大統領の一般教書演説、29日には国連安保理事会が非公式会合の開催を予定、31日には米英両国首脳がキャンプデービッドで会談し、イラク問題の対応を協議する予定である。
イラク情勢を巡って緊迫した局面が続くことは必至である。27日の国連査察報告の結果によっては、米国単独で対イラク即時攻撃に及ぶ可能性も否定しきれないだけに、株式市場はそうしたリスクを一足先に取り入れた形である。株式市場では、もしも米国が国連の支持を抜きに戦争を始めれば、株価は昨年10月のダウ平均の安値7,286ドルを下回る可能性もあるとの悲観的な見方が強くなっている。
また、24日には外為市場でも有事のドル売り的な見方が強まり、ドルが対ユーロで一時3年ぶりの安値水準に下落した。こうしたドル安傾向が続いていることを受けて、市場では海外投資家の資金がドル建て資産から流出する動きが加速しているとの思惑を呼び、株式も売られるという悪循環が生まれてきている。
米国株式市場における現状の最大の関心は、米国がイラク攻撃に踏み切ることは間違いないのか、その場合に戦闘が短期で終るのか、それとも長期化するのかどうかということである。短期終結の展望がなされれば、逆に株価はこれを好感するであろうというのが一般的な見方である。米国では株バブルの崩壊の後、18ヵ月経ってドルバブルの崩壊が起っている。そうした一方で、金と石油が暴騰している。先週末、金価格はNY先物相場で1トロイオンス=368ドル強と約6年ぶりの高値引けとなった。これはイラク情勢の緊張に加え、ドル相場や米国株の下落で資金の逃避先として金が買われていることによるものである。
世界経済はデフレが進展して各国とも悩まされており、通貨安の競争が進みそうな気配で、信頼して投資できる通貨がない状況である。今回の金高騰はイラク開戦という理由だけで説明しきれない要素を内包しているので、一時的な金上昇では終りそうになく、長期化する気配である。株を売り、ドルを売った資金はその逃避先として金を選考している。
金は若干の調整を繰り返しながらも先行き着実に上昇していこう。先週号でも指摘したが、モノ投資の時代が訪れていると言えよう。米国ではイラク開戦を睨んで石油などのエネルギー価格が上昇して、景気に悪影響を及ぼす恐れが出てきている。
イラク情勢の緊迫化による石油価格の高騰に加えて、ベネズエラのゼネストがさらに長期化する気配が高まったためである。ガソリンの平均小売価格は6週続けて上昇し、1年4ヵ月ぶりの高水準にある。米国では一家で平均3台の自動車を持っており、さらに厳冬下での灯油の使用量も増加しているので、家計への影響は甚大で消費の縮小につながり始めている。
ガソリンや燃料などのエネルギー関係の支出は、米国家計支出の1割程度を占めているだけに、エネルギー価格の高騰がこれ以上続くと、ブッシュ政権の減税を柱とする経済対策もその効果が吹き飛びかねない状態である。ブッシュ政権の減税を中心とする経済対策が実施されると、2003年の米GDPを0.4ポイント押し上げると見込まれているが、原油価格がさらに1バレル10ドル上昇した状態が続くとGDPを1.0ポイント押し下げる可能性があると言われている。そうなれば減税の効果は相殺される恐れがある。
また、米国ではブッシュ大統領が提案した総額6,700億ドル(日本円換算約80兆円)の景気対策について、最近、共和党内からも財政赤字が拡大しすぎることや、配当二重課税撤廃についても恩恵を受けるのが株式を大量に保有する富裕層に限られることへの懸念などから、修正すべきだとの意見が高まっている。大統領が早く減税法案を議会で承認してほしいと要望しているものの、審議が進んでいない状況で、景気回復への不安が増してきている。昨年10〜12月期の企業収益は前年同期と比べて3・四半期連続で増益を確保したものの、雇用回復には遅れが見られ、「雇用なき景気回復」の様相を呈している。
今年の米経済は予想外の高成長を遂げるよりも、低成長で人々を失望させるリスクの方が依然として大きい。その結果、米国の金利は現行の魅力のない超低金利水準からほとんど脱却できないというリスクが生じるであろう。ドルには地政学的な不安定要因によるリスクがある。米国資産は国際政治や戦争のリスクに対して安全な逃避先とはならないであろう。戦争が長引けば勿論のことであるが、イラクとの膠着状態が長引けば外国からの資金需要はさらに落ち込み、米国の経常収支の赤字問題は米国にとって国の基本を揺るがす大きな要因となろう。
イラク開戦となれば、米国株価はダウ平均が7,000ドルそこそこ、ドル・円相場は一時的に110円近いところまでドルは売られよう。日本の株価はこうした米国の影響を受け、イラク開戦で日経平均株価は7,500円程度まで下落、新発10年物国債利回りは0.7%前後まで買われよう。イラク戦争が短期的なものとなれば、今年の夏以降、米国景気は上昇に転じよう。一方、日本の景気は最低でも今年いっぱいは痛みの多い年となり、回復の気配は2004年後半となろう。従って、円相場は2〜3月頃に110〜115円の高値をつけ、年後半には120〜125円時代に入っていこう。イラク開戦は、2月後半との見方が有力となってきたようである。
(終)
(東短リサーチ 特別顧問 橘田昭次 記 )
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