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「調整局面近し」という大方の市場関係者の予想を跳ね返すように金価格が強含み
で推移している。
本日の東京を含めたアジアの時間帯でも現物の取引で360ドル接近という場面も
見られている。97年2月以来の高値となってきた。
引き続きイラク問題とそれに絡む原油価格の動向に影響を受けた展開である。原油
のほうはベネズエラのストが長期化しており国連事務総長まで登場して国際的な問
題に発展してきた。
NY株式は、ダウ30種平均で年初から8500〜8800ドルで安定的に推移し
ていたが、今週に入り21日(火)の取引で8500ドルを割ってきた。日本円に
して総額80兆円にも上る減税や配当課税の撤廃を特徴とする景気対策の発表を受
け、堅調に推移することが期待されていたが、イラク問題など目先の不透明要因と
企業部門の先行きに対する不安に押し戻された格好である。もっとも、対策自体は
発表されたものの、議会を通ったわけではないし、効果を表すのに時間のかかる政
策なので無理からぬことではある。ただ、注意したいのは、以前なら、これほどの
規模の対策であれば金融市場は心理的な効果からある程度は浮上したはずである。
それがそうならない環境に入っていることは認識しておいた方がいいだろう。日本
国内の米国マクロに関するニュースは、暗い見通しがダイレクトに日本株などの動
きに影響するため、証券、銀行系のレポートには、現状(あるいは見通し)を伝え
る際にトーンダウンするものが目立つのではと思うのは考えすぎであろうか。
米国景気は、あいかわらず予断を許さない展開が続いている。以前も書かせていた
だいたと記憶しているが、一国で世界の25%をも占める規模の経済である。急に
冷えることはない。熱いところ冷たいところと混在するのが、当たり前である。そ
れを熱い部分を報じるニュースには上げ、冷たいところを報じるニュースには下
げ、と一喜一憂しているのが、この1年余りのNY株式市場ではないかと思う。だけ
ど結局は徐々に冷えているのが、米国景気というふうに捉えている。したがって株
価の方も、下値切り下げ型で推移してきたのである。2002年11月29日配信
号で、その時の株式市場の状況を「大嵐のなかの凪(なぎ)」と表現したが、まさ
に日本はそうだったが、米国市場もその可能性が高まっているのではないだろう
か。
先週1月15日に米国の中央銀行であるFRB(連邦準備理事会)が、地区連銀経済
報告を発表しているが、全米12の地域に分けたこの調査では「停滞」、「弱含
み」という表記が大半を占めたと伝えられている。そのレポートの色から通称「ベ
ージュ・ブック」と呼ばれているが、今回の調査対象期間が昨年11月後半から今
年1月7日なので、11月6日の大幅利下げ(0.5%)は、こうした状況を予測
して先手を打ったということなのだろう。続いて先週末には、同じくFRBから鉱
工業生産指数も発表になっているが、2002年の指数は前年比で0.6%の低下
と2年連続のマイナスを記録している。マイナス幅は前年の−3.5%から改善し
ているものの米国政府が想定した“個人部門(個人消費)が元気なうちに企業部門
の立ち直り”は2002年も実現しなかったことになる。
もちろんいい数値もある。
1月21日に発表された12月の住宅着工件数は、前月比で5.0%の伸びとなり
86年6月以来の記録的水準を続けている(年率184万戸)。ただし、低金利を
追い風にしたブームがさらに拡大すると読む向きは、さすがにここに至っては少な
いだろう。ゼロ金利に背中を押されてきた(実質値引き)自動車販売もピークを打
っている。発表待ちの10−12月期GDP速報値での個人消費の動向が注目され
る。
さてそうした中でイラク開戦へ向けて準備が進んでいる。ここで問題にしたいの
は、そのマーケットに対する材料性についてである。
開戦後の戦闘期間による経済への影響度合いは、様々な分析が既になされている。
不確定要素は多いが、いずれにしてもこの戦争は米国にとっても、やはりいい話で
はなさそうだ。戦費の負担は既に赤字に陥っている財政をさらに悪化させるのは必
須であるし、11月の貿易赤字は10月の港湾スト明けという特殊要因はあるもの
の単月で400億ドルという空前の規模となっている。つまり、すでに復活してい
る「双子の赤字」状態を戦争行為は財政面からさらに加速させることになる。為替
も株も債券も、また金も原油もこの悪化傾向を前提に進んでいる。
取引商品は何であれマーケット参加者の予測の前提を大きく変えてしまい、急激に
価格の流れを変えてしまう「材料」をサプライズと呼ぶ。
その意味でいま足元の最大のサプライズは、イラク攻撃の中止だろう。
大きな不確定要因が一気に無くなり、株式市場はNYはもとより世界的に急反騰
(日経平均も1万円台回復)、為替もドル高、債券市場は急落(金利上昇)、金、
原油も急落となる。本来的にバブル崩壊つまりは“資産デフレの急激な進展”でも
たらされた景気後退なのだから、金融市場全般の好転は今の景気にとって短期的で
はあれ大きなプラスとなる。この状況は、開戦に向けての緊張がぎりぎりまで高ま
り、同じ方向を向いたときに発表されればされるほど効果を発揮する(市場心理に
働きかける方法なので持続力が問題ではあるが)。
もちろんリスクはある。それはブッシュ政権の政治的リスクであり、一気に高まる
だろう。民主党は、この機をとらえ政策的ミスとそれに伴う損失を具体的に挙げ攻
めるだろう。それを避けるには、相応の状況変化が必要となる。それが、フセイン
大統領以下イラク重臣の祖国放棄、政治亡命ということだろう。そして、その方向
は水面下で探られているのではないか。
いま頭の中にあるシナリオのひとつであるが、可能性は低い。けれど、こうした可
能性もシナリオとして持っておくことは、ポートフォリオ上必要と捉えている。ク
リントン政権時のルービン、サマーズ路線であればそういう選択はあったのかも知
れない。現実は、独、仏反対のなか新たな国連決議を経ないまま米英軍の攻撃が始
まりそうだ。3月に入ると、かの地は砂嵐のシーズンとなるという。開戦は近いの
か?金価格の高値更新はそれを映している。
(1月22日記)
金融・貴金属アナリスト
亀井幸一郎
※本レポートは執筆者の個人的な見解を述べたものであり、実際の投資にあたってはお客様ご自身にてリスクをご判断ください。