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雇用・所得環境が厳しい中、個人消費は底堅い動きを続けてきた。2001年度の実質国内総生産(GDP)成長率は前年度比1.4%減と大幅なマイナス成長であったが、実質家計消費支出は1.3%増と踏ん張りをみせた。2002年度に入ってからも消費は堅調で、7─9月期には前年比で2.5%まで伸びを高めている。
物価の大幅な低下が、実質ベースの消費の伸びを高めていることはいうまでもないが、所得のうち貯蓄に回す割合を示す「貯蓄率」の低下(=消費性向の上昇)が消費を下支えしていることも見逃せない要因だ。
統計改訂で下方修正された貯蓄率
昨年末に内閣府から公表された2001年度国民経済計算確報における注目点のひとつは、家計の貯蓄率が前年度の9.3%から6.6%へと2.7ポイントも低下したことだ。雇用者報酬、利子所得の減少などから可処分所得は3%減と大きく落ち込んだ。それでも名目ベースの消費支出が前年度とほぼ同水準でおさまったのは、家計が貯蓄に振り向ける割合を減らし、その分を消費に回したためであった(図1参照)。貯蓄率は2000年度も1.7ポイントの低下となっており、この2年間の家計消費を押し上げる最大の要因になっている。
従来、日本の家計貯蓄率は諸外国と比べその水準が極めて高く、かつバブル崩壊以降は、長引く景気低迷や社会保障制度に対する将来不安の高まりなどから生活防衛的になり、やや上昇傾向にあるというのが定説であった。しかし、このような見方は旧基準の国民経済計算(68SNA)に基づいたものである。国民経済計算は2000年秋に新基準(93SNA)へと移行し、その際新たな概念の導入や項目の定義変更などが行われたため、GDP統計の計数はさかのぼって全面的に改定された。これにより、家計の貯蓄率は旧基準とは異なった動きを示すようになった。
新・旧両基準の統計が存在する90─98年度について両者の動きを比較すると、旧基準の貯蓄率は緩やかに上昇しているのに対し、新基準ではバブル崩壊以降90年代半ばにかけて急速に低下している。水準でみると92年度までは新基準のほうが高かったが、それ以降は新基準が一貫して下回っている(図2参照)。これは、統計の定義変更により家計の貯蓄額が92年度までは上方改定、93年度以降は下方改定されたためである。
2002年度はさらに低下も
新基準の貯蓄率が下方修正されたとは言っても、99年度までは依然10%を超える高水準であることに変わりはなかった。しかし、2000、2001年度の低下幅が非常に大きかったため、日本の貯蓄率は国際的に見て高水準とは言えなくなってきた。2002年4─6月期以降の貯蓄率(SNAベース)はまだ公表されていないが、所得の減少幅が拡大する中、消費が堅調であることから判断すれば、引き続き低下傾向が続いていることが予想される。7─9月期まで発表されている雇用者報酬、家計消費支出の動きなどをもとに2002年度上期の貯蓄率を推計してみると、2001年度よりも2ポイント近く低い4.7%となった。
90年代までは日本の家計貯蓄率は米国を常に大きく上回っていたが、ここ数年でその乖離(かいり)幅は急速に縮小した。2002年の米国の貯蓄率は4%前後で推移しており、足元の日米の家計貯蓄率はほぼ同水準となっている可能性がある(図2参照)。
日本の貯蓄率がこれほど急速に低下している理由は何だろうか。2002年4月以後について言えば、景気底打ちに伴う消費者マインドの改善により、消費性向が上昇(貯蓄率は低下)したことも考えられる。確かに内閣府「消費動向調査」の消費者態度指数は2001年末を底に上昇しており、消費者マインドの改善が足元の消費増加にある程度寄与してきたと言えるだろう。
しかし、貯蓄率は消費者マインドが冷え込んでいた2001年度も大幅に低下しており、マインドだけですべてを説明するのは無理がある。貯蓄率の急速な低下が始まった2000年度以降、可処分所得の落ち込みが続いていることから判断すれば、最近の貯蓄率低下は、「一時的な所得の減少に対して、家計は過去の消費水準を維持しようとして消費性向を引き上げる」という、いわゆる「ラチェット効果」が働いていることが大きいと考えられるだろう。
今後は厳しい個人消費
企業の人件費削減意欲は依然として強く、所得の減少が続く可能性が高いため、所得面からの消費下支え効果は当分期待できない。頼みの綱は貯蓄率の低下だが、米国並みにまで低下した貯蓄率がここから更に低下するかは疑問である。また、ラチェット効果はあくまでも一時的な所得の減少に家計が対応しようとするために生じるもので、所得の低迷があまりに長引くようだと、家計は将来の所得減少に備えるために貯蓄水準の維持、引き上げを図ろうとする可能性もある。所得が減少している中では貯蓄率の低下が止まっただけでも消費は減少してしまう。2002年度下期以降、個人消費がこれまでのような底堅さを維持するのは厳しいと言わざるを得ない。