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日本の物価が下がっている。モノの値段が安くなるのは良いことでは。だが、政府は「こりゃいかん。デフレだ。わざと物価を上げないと」と言いだした。景気対策の“最終手段”としてブームになっているインフレ目標策だ。さて、デフレ生活に妙な愛着すら感じ始めた庶民は、“人為インフレ”を受け入れるのか。 (中山洋子、市川千晴)
■“部分的”ならばやってほしい!?
「インフレを誘導できるっていうなら、すぐにでもやってもらいたいよ」
量販店や牛丼店がひしめくJR新橋駅前で、座り込んでいた男性(38)がため息をついた。失業中というこの男性は「物価が安いという実感は全然ない。経済の底辺にいるもので。デフレの恩恵なんて、決まった収入がある人だけのものでしょう」となげやりだ。
金融機関で働く女性(40)も「いつ仕事がなくなるかと思うと不安です。確かに今は生活費を抑えることができているけど、これっぽっちの“お得”よりも、不安を取り除いてもらうことの方が先決だと思う」と、景気対策としてのインフレ効果に期待気味だ。
港区で貸しビル業を営む女性(55)は「更新のたびに家賃を下げ続けているけど、もう限界ね。節約して何とかやりくりしているが、これ以上は無理よ」とこぼす。では、インフレを歓迎するのかと思いきや「あら、だめよ」と拒絶する。
■下手打つのならやらないほうが
さらに「輸入物の三万九千円のセーターが二万八千円で買えるし、お弁当が五百円ですむ。食べ物も安くなっている。デフレのおかげかしら。やっぱり食べ物は困るわ。何でもかんでも値段が上がるんじゃなしに、ぜいたく品だけ高くなるっていうのじゃダメかしら」と“部分的インフレ”を提唱する。
「そんなにうまく行くもんかな」。量販店の前でたばこを吸っていた男性会社員(48)は、物価のコントロールに懐疑的だ。「可能性があるならやってみてもいいけど、それで給料が上がらなかったら踏んだりけったり」
コンピューター会社に勤める男性(52)も「収入は減るわ、物価は上がるわとなると最悪だ」と疑問視する。さらに「デフレといっても、現状で耐え切れていないわけじゃない。安いモノを買ってなんとかなっている。下手を打つくらいなら何もしない方が…」とも。
■『今のデフレ、物価も品質も下落』
量販店から手ぶらで出てきた五十代の男性は「ダメダメダメ」と首を横に振った。「だいたい、今のデフレはインチキだ。値段が下がっているんじゃなくって、値段に値しないものを売っている。一万円のモノに一万円の価値はない」と言い放つ。「インフレ目標策なんてもってのほか。もっと物価が下がってやっとまともになるくらい」
新宿区で食品関係の仕事を営む稲川豊さん(52)も「物価が下がっているんじゃなくて、品質が下がっているだけ。輸入ウナギなんてひどいもんだよ。一串百−二百円で出てるが、薬品づけの悲惨な代物だ。こんなのちょっと前まで消費者は許さなかった」とこぼす。同時に「今までやったことがないことをいきなりやるっていうのも危険だ。失敗したら取り返しがつかない」と不安げだ。
横浜市の中小企業経営者(60)は「ゆったりしたインフレは悪くない。だが、そんな小手先の策では何の解決にもならない。まずは税制を変えることだ。ちょっと利益をあげると根こそぎもっていく税制が問題。もうけることは悪いことなのか。懲罰的な法人税をどうにかしないかぎり、中小企業の意欲はなくなる一方だ」と怒りが止まらない。
■バブルの時期に物が上がりすぎ
杉並区の会社員(55)は、もっとはっきりとデフレを支持する。「高度経済成長のとき、バブルのとき、いろんなものが急激に高くなりすぎた。今は散髪が千円ですむし、今日の昼飯だって三百八十円のラーメンだ。これで普通と思う。失業率が10%くらいになると、『自分は大丈夫か』と不安になるだろうが、まだ何とかやってる。それだったら、物価は安いにこしたことがないでしょう」
やはり庶民たちは、突然沸き起こったインフレ目標策に懐疑的だ。こんな声に押されるように量販店は、“デフレ・ワールド”で生き抜く決意を披露する。
安売り店のドン・キホーテ渋谷店店長代理は「もちろん高く売りたいのが本音だが、激安店という触れ込みがお客さまに好感を持たれているのでこの看板を下ろすわけには行かない。政府が何をしてもウチは安売りを断行する」と言い切る。
■やっと適正価格近づいたのに…
ユニクロを経営するファーストリテイリングは、「愚策だ」(同社広報チーム)と切り捨てた上で「今はデフレではない。ようやく適正価格に近づいてきただけだ。民間企業は人件費の安い中国などで生産し、安くて高品質の商品を世界中に提供できる工夫を重ねている。弊社もそれを維持する自信もある」(同)。
■『日銀総裁以下やり遂げよ』
専門家はインフレ目標策をどう評価しているのか。
まず学習院大学経済学部の岩田規久男教授は「日銀が長期国債を大量に買うと通貨が市中に出回るので、一部が株式などに回り資産デフレが止まる。モノへの支出にもつながり通常のデフレも止まる。今必要なのは日銀総裁以下、策をやり遂げる体制づくりだ」と推奨する。
実は積極的な賛成論者は少数派だ。日本証券経済研究所主任研究員の紺谷典子さんは「やらないよりはやった方がいい程度」と言いながら続ける。「物価下落だけでなく昨年からは給与所得の下落が目立ち、サラリーマンもデフレの影響を受けている。インフレ目標策をしても将来に不安があるので人々は購買行動に走らない、と日銀は警告しているがその通り。不安をなくすためには、財政出動など景気浮揚策が必要だ」
みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストも導入に慎重だ。「通貨の供給量を増やそうという意味では既に昨年三月から日銀が量的緩和を実行している。それにインフレ目標策を導入したカナダや豪州はインフレを抑制するために行ったもので、今の日本のデフレとは条件が全く違うので参考にできない」
第一生命経済研究所の熊野英生主任研究員も慎重派だ。「たたきやすい日銀の金融政策に矛先を向けただけだ。インフレ目標策を導入しても、ない袖は振れないから消費には結びつかない。何より、どうやって物価上昇を起こすのか具体的な方策を示されていない今の状況では、『念じよ、さらば実現せん』という神がかりのようなものだ」
経済学者の野口悠紀雄氏も手厳しい。「そもそもデフレは、一様に物価が下落することで何の問題もない。深刻なのは地価や株価の下落だが、これはデフレとは意味合いが違うし、特別な債券を発行することで対処できる。中国の工業化といった現実の問題に対応できない民間企業対策に、金融政策を打っても解決できない」