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l 会計不信の余震、来年も――日経金融スクランブル
日米欧の株式市場は2003年早々、「会計」に揺れるだろう。震源は保険だ。
会計の世界統合を進める国際会計基準理事会(IASB)は1月22日からの会合で、保険会社への時価会計導入を最終調整する。
世界の保険監督当局で構成する保険監督者国際機構はIASBの議論を参考に、統一自己資本規制の策定を急ぐ。IASBと一線を画す姿勢が強い日本や米国にも影響が出る。
注目点は二つ。一つは養老保険など貯蓄性の高い保険を金融商品と見なし、株式や債券と同様の時価評価をする点。
もう一つは将来の保険金支払いに備えて積む責任準備金も時価評価し、積み立て不足が生じた時には保険会社に追加拠出を求める点だ。
責任準備金は運用益を見込んで積むから、時価評価の影響が特に大きい。適用は当初予定の2005年から先延ばしされる可能性もあるが、デフレが止まらず低金利・株安が長引けば、積み立て不足はいつか表面化する。
例えば日本の大手生命保険会社は現在、平均して3.5―4%の予定利率で責任準備金を積んでいる。それを時価評価、すなわち市場金利をもとに再計算したらどうなるか。
ロンドンでは「国債利回りが約1%の状況なら、積み立て不足の処理で債務超過に陥る大手生保がある」と公然と語られている。ドイツの保険関係者は「もし責任準備金の時価評価が導入されれば、株式など価格変動の激しい資産には投資できなくなる」と気をもむ。
貸借対照表の負債の9割を占める責任準備金が時価評価で変動するうえに資産の部まで増減する状態は、安定を是としてきた保険経営者には耐えられないからだ。
欧米の生保は資産の約3割を株式投資に回している。英国では株式運用の比率が5割に達し、自国の株式相場を支える役割を果たしてきた。
保険の時価会計が導入されれば、こうした相場の底支え機能は否定される。
日経QUICKニュース社が市場関係者に聞いたところ、2002年のトップニュースは「米国の会計不信問題」だった。
米財務会計基準審議会(FASB)やIASBは市場の声に押される格好で、特別目的会社の基準強化や株式購入権(ストックオプション)の費用化などで素早く手を打った。
特別目的会社やストックオプションを今年の株式相場の表舞台のテーマとするなら、水面下の緊迫した話題が保険会計だった。
ロンドンで開かれるIASBの会合には日本の大手生保の英国駐在員たちが毎回、傍聴に押し寄せ保険会計の議論に耳を傾けた。
今年春の会合ではIASBの事務局が「保険会計の採決をとりたい」と言い出す場面もあった。日本代表の理事が「十分な議論を重ねているとは言えず、時期尚早だ」と押し戻した時、ある大手生保の傍聴者は周囲に聞こえるほどの安どのため息をもらした。
エネルギー大手エンロンや通信大手ワールドコムが破たんした直後に比べれば、米国の会計不信は和らいだように見える。
メリルリンチの調べでは「米企業業績が他の国・地域よりも信頼できる」と答えた運用者の比率が10月の25%から12月には34%と急上昇している。
世界の機関投資家で構成する国際コーポレートガバナンス・ネットワ―クのアリスタ・ロスグービー会長は「会計操作が減っただけで会計不信が遠のいたと判断するのは早計」と指摘する。
合法的な会計処理でも企業の実態を正しく映しているかどうか疑問であり、「会計不信を払しょくするため、さらに切り込むべき分野がある」という。
今年の株式市場で話題になった会計の課題はストックオプションのように、決算操作を封じる個別の対症療法に主眼があった。来年は企業実態をより適正に反映させるための大胆な試みが目白押し。その先陣を切るのは保険会計のほか、純利益に代わって包括利益という新しい損益概念を導入するための議論だ。影響の大きさゆえに反対論も高まりそうだが、最終的に是非を判断するのは会計士でも業界関係者でもなく市場。「脱・会計不信」の試みは来年も続く。
(ロンドン=小平龍四郎)