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News ID : NAA2660 12/26 12:15 1. こうした動きを察知し、欧米の債券相場は上値重く推移し始めた。それにも拘らず、日本の債券相場は堅調な推移が続いている。その根本的な理由は、国債発行額が市場コンセンサスの下限に収まったからでも、不良債権処理で金融機関に資金が滞留しているからでもない。債券市場が、小泉内閣による「聖域なき構造改革」という名の魔術にかかり、一種の催眠状態にあるからだ。そもそも構造改革と債券相場の関係は、税率と税収の関係であるラッファーカーブに近いものがある。構造改革を強引に推進し過ぎると、デフレ対策の拡大や流動性危機の発生などのリスクが高まり、相場は不安定化する。逆に、改革が頓挫してしまうと、トリプル安が発生する。小泉首相は「改革なかりせば成長なし」を連呼し、表面上、改革姿勢をアピールし続けている。その姿が多くの国民にはウケが良く、支持率は高止まる。他方、与党の抵抗勢力が、その実効性を骨抜きにする。その姿が特定の支持基盤から感謝され、選挙も盤石になる。こうした均衡状態が、程よい湯加減の構造改革テンポをもたらしており、その結果、債券市場の買い安心感を醸成している。 2. 3. クイックより
QUICK債券クオンツ情報VOL.4 BNPパリバ証券会社 チーフストラテジスト 島本
幸治氏02/12/26
【トピックス 】世界がリフレ政策へ転換するなか、日本では改革路線が継続
【マーケット動向 】年末年始の債券相場は、人災で振らされる可能性が高い
【イールドカーブ分析】超長期セクターに対して、時代の追い風が吹き続ける公
算
【スプレッド分析 】小泉魔術による催眠状態を前提とした投資戦略が有効
トピックス:「小泉魔術に幻惑される国内債券市場」2003年には、世界の政策当局のキーワードが「リフレ政策」となろう。既に、米国では、2年後の大統領再選を睨んでブッシュ政権の新経済チームが発足している。産業界出身のスノー財務長官とウォール街出身のフリードマン大統領補佐官のコンビが、減税を軸とした経済対策を打ち出してくる見込みである。また、欧州でも、安定協定の見直し論が浮上している。通貨統合のために設けた財政赤字のキャップを柔軟に解釈することで、短期的な財政政策の余地を拡大させる方向になろう。日本でも、既に、政府は事業規模14兆円の経済対策を打ち出している。更に、3月には、一層の金融緩和策を模索すべく、新たな日銀総裁が誕生することになる。
マーケット動向:「年末年始は三つの人災に留意の要」短期的に展望すると、年末年始の債券相
場は、人の動きで振らされる可能性が高い。その第一が、次期日銀総裁人事を巡る思惑である。
既に、日銀のバランスシートを見ると、資産サイドに株式が計上され始めた。日銀券のなかに株
券が染み込んでいることになる。新日銀総裁は、例えば、株式の買取り上限の拡大や外債の他に、
RCC、産業再生機構に対する融資や出資、更には、REIT、ETFなどまでバランスシートに載せ
るかもしれない。こうした日銀に対する不信感は、先ず、時間軸効果の不安定化を招来するにな
ろう。第二が、米国の経済閣僚である。スノー氏にしてもフリードマン氏にしても、就任当初は
その発言や評判が必要以上に重く受け止められることになろう。また、スノー氏であれば、企業
会計問題や巨額報酬問題などが足を引っ張る可能性がある。フリードマン氏であれば、減税に
してきた経緯や、民主党を支持してきたという経緯が蒸し返される可能性がある。更に、ハバー
ドCEA委員長の去就も注目される。いずれにせよ、新閣僚のスキャンダルは、突発的なドル安
要因となる可能性があり、留意が必要である。第三が、国内の政局である。永田町がざわついて
きた。小泉首相にしてみると、9月の党総裁選で苦戦する可能性が高いことや、有事法制や個人
情報保護法のみならず、北朝鮮との国交正常化交渉まで行き詰まっている状況、更には、崩壊に
近い野党の惨状などを勘案すると、2003年の通常国会中に解散総選挙に打って出る可能性は、
あながち否定できない。仮に、政局が流動化すると、小泉魔術の催眠効果が揺らぐことになり、
長期〜超長期セクターの撹乱要因となる。
イールドカーブ分析:「超長期セクターへの投資は時代の潮流」小泉魔術が続く限り、今後、よ
り多くの機関投資家の関心は、超長期セクターに向かう可能性が高い。そう考える背景には、国
内機関投資家による運用額の増加(パッシブファンド、カタカナ生保、責任準備金区分の増加)や、
財務省による国債発行政策の変化(国債の年限多様化、キーマチュリティーの分散化、流動性改
善に向けた市場整備)といった市場環境の変化だけでなく、投資尺度そのものの潮流変化も重要
である。現在、量的緩和下で時間軸効果が浸透しており、中期以降のイールドカーブは総じてス
ティープな状態が継続している。こうしたなか、多くの投資家は10年債を1%とは認識してい
ない。ローリング効果(=保有する間、残存期間が短くなることにより金利が低下し、その分価
格が上昇することで得られるキャピタルメリット)を含めた期待リターンで捉える見方が多い。
一般に、ローリング効果を含めた期待リターン・カーブは、イールドカーブから算出されるフォワードレート・カーブと一致する。フォワードレートは、一定年限以降のフラット化する傾向がある。将来の短期金利の期待形成は、均衡金利水準に収斂するからである。具体的に言うと、10年セクター以降の期待リターンは概ね2%台半ばで同様のレベルにある。これを見ると、同じ期待リターンなら、価格変動リスクが少ない10年セクターのバランスが良いように映る。しかしながら、同じ期待リターンの内、表面利率の部分は確約されているが、ローリング効果の部分は確約されていない。確約された割合が多いに越したことはない。また、実際には、相場は上下に変動することになり、イールドカーブが全く一定と言うことは有り得ない。その際に、超長期セクターにはコンベキシティーのメリットが発生する。これまでは、時間軸効果の長期化というブルスティープ相場のなかで、キャピタルメリットを積極的に享受する投資戦略が主流であった。しかしながら、このブルスティープには限界がある。寧ろ、日銀が何を買うか分からないという状況は中期セクターに対してネガティブな影響を及ぼす可能性がある。今後は、如何に安定的にインカムメリットを享受するかという投資戦略が主流になる。その際に、超長期セクターは欠かせない存在になる。
4.
スプレッド分析:「催眠状態継続が現実的な投資戦略」現在の債券市場は、マクロの催眠術にか
かったことで、ミクロの相場材料に対して麻痺している状態にある。この様子を如実に表してい
るのが、クレジットスプレッドである。下期に入り、竹中金融担当大臣が新たな不良債権処理の
促進策を打ち出したにも拘らず、寧ろ、動きは乏しくなり、次第に膠着感が強まっている。スワ
ップスプレッドも全く同様である。財投機関債の対国債スプレッドに至っては、ジリジリとする
展開が続いている。メディアでは小泉改革の構造改革路線に対する賛否両論が激しい攻防が展開
されていたが、その間、金融市場は、極めて冷静に中庸にある現実的パスを見切ったとも言える。
今後の債券投資戦略を考える上で重要なのは、こうした状況が続くか否かの見極めである。2003
年の干支は「癸羊(みずのとひつじ)」である。前回の癸羊は60年前の1943年にあたる。この年
は、第二次大戦の真っ只中で日本軍がガダルカナルから撤退し、多くの日本国民が違和感を覚え始めた年である。2003年は年金再計算が大きな論点となろう。その議論を通じて、日本の
システムがこのままでは立ち行かないという事実が、多くの国民に意識されることになろう。こ
こで重要なのは、その時間軸である。実際の敗戦は、2年後に当たる1945年であった。つまり、
違和感が台頭してから、本当の意味で覚醒するまでには時間がかかるとみるべきであろう。結局
の所、来年1年を展望するならば、催眠状態を前提とした投資戦略が現実的であり、有効なので
ある。
<島本幸治氏略歴>
1990年東京大学教養学部基礎科学科(理論物理専攻)卒、日本興業銀行入行。同年、興銀投資顧問運用部に配属。年金・特金のトレーダー兼アナリスト業務を担当。
1991年、同行証券投資室調査班に配属。イールドカーブを中心とする国内金融市場分析を担当。1996年、同行調査部経済調査班に配属。シニアエコノミストとして日本のマクロ経済調査を担当(GDP総括、企業部門、金融・財政政策、他)。2000年3月より現職。日本アナリスト協会検定会員。日経公社債情報2002年(2002年3月11日号)債券アナリスト・エコノミストランキング債券アナリストの部第5位。主な著作・論文「日本経済はこう変わる」(日本興業銀行調査部編、NHK出版)等。