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BNPパリバ証券会社・経済調査部チ−フ・エコノミストの河野龍太郎さんは、年末年始の推薦図書として3冊(先週号の週刊東洋経済の「2002年ベスト経済書100 冊」で、河野さんが推薦)を挙げる。推薦図書とコメント(ほぼ原文通りは次の通りーー。
(1)『経済論戦は甦る』竹森俊平著、東洋経済新報社
寸評:デフレと共存することは不可能である。デフレを除去しなければ、不良債権、財政赤字など日本の抱えるあらゆる問題が解決不可能になることを改めて示唆。経済政策に対する対立軸を明確かつ平易に解説。
竹森俊平先生の「経済論戦は甦る」は、私のレポートでも何回か引用しましたが、 アメリカの大経済学者アーヴィング・フィッシャーとオーストリアの大経済学者のヨゼフ・シュンペーターの思想を比較することで、現在の日本における経済政策論戦を評価したものです。フィッシャーは、不況は経済社会にとって極めて有害であり、財政金融政策を使わないでそれを放置すると、経済システムはデフレ・スパイラルによってメルトダウンするリスクがあるとする、デット・デフレーションの理論を提唱しました。シュンペーターは、不況は経済の新陳代謝を促す、欠かすことができない調整プロセスで、それを財政金融政策で押え込まないことが「創造」の促進のために必要だと考えました。 大規模な為替介入による円安誘導を提唱する私は、フィッシャーの立場を支持しています。表面的には、業績が悪く失業を生み出す衰退産業の存在が長期停滞の原因のように見えますが、単にそのように見えるだけであって、真実は、デフレによる総需要低迷によって成長産業の出現が抑制されていることが長期停滞の問題だと考えています。衰退産業の存在ではなく、総需要低迷による成長産業の不在が問題なのです。構造調整についても、景気回復によって成長産業が成長するから、衰退産業から排出される経済資源が吸収され、結果として構造調整が進むと私は考えています。不況が続いたままでは、衰退産業から雇用が排出されるだけで、構造調整は一向に進まないでしょう。
(2)『先を見よ、今を生きよ』齋藤誠著、日本評論社
寸評:その場しのぎではなく、長期的にも望ましい政策を選択するにはどうすれば良いか。目標値から逆算して得られた、将来を見据えた(フォワードルッキング な)経済政策の選択の重要性を説く。
齋藤誠先生の「先を見よ、今を生きよ」も、ウィークリーレポートで何度か引用しましたが、そこでは、「先を見据えた」経済政策の重要性が強調されています。数学でダイナミック・プログラミング・アプローチというのがあるのですが、目標(ゴール)を目指して最適な経路(あるいは経済政策)を選択する場合、時間の経過に従って環境も変わってくるので、最適な経路も当然変わってきます。改めてゴールまでの最適な経路を見つけだし、その経路から外れていれば、軌道修正するわけです。常にゴールまで見通した経済政策を行うことが望ましいのです。デフレを放置するとゴールからドンドン遠ざかっていくことになりますが、だからと言ってデフレ脱却のために公共投資をドンドン行うと(きっと日本海をコンクリートで 埋め尽くすことになりますが)、それは長期的には到底望ましい政策とは思われません。 (→Aにつづく)
▼BOOKS/年末年始の推薦図書3冊A [Yen Dokki!!]
BNPパリバ証券会社・経済調査部チ−フ・エコノミストの河野龍太郎さんは、年末年始の推薦図書として3冊(先週号の週刊東洋経済の「2002年ベスト経済書100 冊」で、河野さんが推薦)を挙げる。推薦図書とコメント(ほぼ原文通りは次の通りーー。
(3)『平成バブルの研究』上下 村松岐夫・奥野正寛著、東洋経済新報社
寸評:不良債権問題の大部分は過去に支出した回収不能なサンクコストの問題だ が、最大の失敗はコスト負担ルールを確立できなかったこと。なぜ、先送りが続けられたかを政治経済学的視点から分析。
「平成バブルの研究」は上下2冊の大ボリュームで、読み終えるには、結構根気が必 要かもしれません。私は勉強会のテキストとしていたので、何とか最後まで読み通すことができました。 3年前の本ですが、私が訳したアラン・ブラインダー(プリンストン大学教授)の「金融政策の理論と実践」(東洋経済新報社、前田栄治氏との共訳)も今後の金融政策を考える上で、非常にお勧めの一冊です。速水総裁の後任がマーケットのトピックの一つとなっていますが、「デフレ下での中央銀行の独立性」を考える上で大きなヒントを提供してくれる絶好の教科書です。ブラインダー教授が指摘するように、世の中の標準よりもインフレの嫌いな人物を中央銀行総裁として先進各国が選んできたのは、そうすることで、(インフレ時代における)インフレ昂進を回避する目的がありました。いわゆるケネス・ロゴフIMF調査局長の唱える「保守的な中央銀行総裁(Conservative Central Bankers)」理論を我々は実践してきたわけです。 保守的な中央銀行総裁を選んできたおかげもあって、各国のインフレ予想は低下し、今や日本など一部の国ではむしろデフレが問題になっているわけですが、インフレ時代における中央銀行総裁の選び方がデフレ時代にも妥当性を持つのかどうかが論点のひとつになります。
最近、再び政府と日銀のアコード(政策協定)の導入が論議されています。日銀の金融政策を政府の経済政策に組み込むという意味では、米国の中央銀行の政治的独立性をもたらしたアコードとは全く逆なので、正確には「逆アコード」と呼ぶべきだと私は思いますが、本書を読むと逆アコードの理論的な意味合いが見えてくるかもしれません。中央銀行の独立性が改めて問題になりますが、たとえばインフレ抑制に過度にこだわる中央銀行の決定を政府が覆すことで、より最適な状況を達成することができるかもしれないとするローマンの理論なども紹介されています。もちろん中央銀行の独立性を侵すような決定のコストは大きく、それは政府が支払うべきですし、真の異常事態への対応に留められるべきです。日銀の新総裁人事を考える上で、様々なアイデアを提供してくれるでしょう。
私自身はアラン・ブラインダー(プリンストン大学教授)とジャネット・イエレン(カリフォルニア大学バークレー校)の「良い政策・悪い政策」(日経BP社)をま ず一番に読む予定にしています。その後、積読状態になっているものをできるだけ消化したいと思います。著者の二人はクリントン政権下で大統領経済諮問委員会、FRBの要職に就きましたが、政策を担当した二人が「90年代の素晴らしい10年(=The Fabulous Decade ;これが原題)」を振り返り、どこにその秘密があるのかを分析したものです。その秘密とはかなり驚くべき内容ですが、素晴らしい10年の後にやってきたものを見ると、納得がいくかもしれません。90年代は「運が良かった」ことが大きいという結論のようです。