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この1年半の小泉改革とは、危機をより深刻にしただけではではなかったのか。
私は昨年4月21日、自民党総裁選候補者の勝手格付けを私のHPに書き込んだ。小泉氏はシングルAマイナス。S&P風の定義をもじって言えば、債務を履行(公約を実現)する能力は高いが、情況の変化・環境の悪化からより影響を受けやすい、というところだ。小泉氏は資産デフレや過剰債務問題にほとんど理解がなく、日本の構造改革という公約の目玉である国債発行30兆円枠が自縄自縛となり、橋本内閣の大失政を繰り帰すリスクを指摘したのである。デフレの時には、名目にかかる税収は減るのだから、歳出を目標とした財政政策をとらなければならないのだ。
勝手格付けは、本年10月の改造内閣発足時に、僭越ながら、2段階引下げ、BBB(トリプルB)とさせてもらった。即ち、状況の変化・環境の悪化などにより、公約実現能力が低下する可能性がより強くなった、ということである。見通しはネガティブ・ウォッチだ。
歌舞伎の舞台がドンデン返しになるような、明確な政策大転換の仕掛けが発動されない限り、投資不適格のBB(ダブルB)格に落ちるのは時間の問題である。その時は日本経済も更に沈んでいるであろう。
「政策強化」の問題点
小泉内閣が「政策強化」と称する一連の新機軸の問題点を指摘しよう。まず第1に、2兆8000億円程の予想される歳入欠陥を埋め合わせを主体とする補正予算のピンボケさである。トータルで5兆円の追加国債発行でころげ落ちる日本経済を支える力は、まるでない。公共事業にしてもセーフティーネット支出にしても、質・量ともに平時の発想から脱却できていないのだ。兵力逐次投入の悪しき伝統が未だに生きているのかと思うと情けなくなる。
第2に、規制改革と称して導入する「特区」構想は、細川内閣時代に失敗したものの焼き直しである。当時は農地転用などの土地利用規制が主であったが、失敗の理由は簡単で、財政支援を抜いたからだ。橋本内閣でも規制緩和によって景気をよくしようとする試みが行なわれたが、山一証券、北拓銀行、長銀破綻に至る金融不安の中でもろくも頓挫してしまった。この種の政策は、デフレ下においては、税制や歳出による支援をつけないと強力な景気対策にも構造改革にもつながらないことを、残念ながら銘記すべきだ。これほど疲弊したデフレのもとで汗をかく人には、ビールぐらい飲ませてあげなければ元気は出ないのである。
第3に、アメリカンDNAの散りばめられた竹中金融再生プログラムは、不安心理を逆なでする一方、金融サイドにのみ特化するハードランディング手法を全面に出したため、危機を加速させてしまった。今まさに泥縄式でコンティンジェンシー・プラン(非常時対応策)を作らざるを得なくなっている愚を犯したと言える。竹中プログラムは、日本経済をクラッシュさせて、IMFによる第2の占領統治を企んでいるのではないか、と勘ぐりたくなるような打ち出し方であった。
第4は、竹中プランの迷走ぶりにあわてた財務省筋が突如もち出した「産業再生機構」構想である。まず、小泉首相を本部長とする「産業再生・雇用対策戦略本部」を作り、預金保険機構のもとにRCCと並列で産業再生機構を創設し、民間人主体の産業再生委員会が債権の買い取り価格から企業の再生の可否まで判定する仕組みだ。これは渡辺案の一部パクリにほかならない。どうせパクるなら全部まとめて採用してほしかった。政府原案は渡辺案に比べてとてつもなくスケールの小さなものになってしまった。産業再生を通して過剰供給構造の是正を行っていこうという趣旨は褒められるものの、具体策が的はずれだと問題銀行・問題企業の相互延命策に陥りかねない危うさをはらんでいる。これは後に詳述する。
産業・金融一体再生アプローチ
私の発想の基本は、産業サイドの過剰債務アプローチとでも呼ぶべきものであった。昭和恐慌以後、準戦時体制下で確立した土地担保融資制度や、マッカーサー時代の「新旧分離」勘定による産業再生から始まった株式の持ち合いが、小さな資本で大きな負債をレバレッジする戦後日本資本主義の土台にあった。この構造的過剰債務は、借金が自己増殖していく今日のデット・デフレーションの温床となっている。今や大企業の特定業種や中小企業においては、債務残高がキャッシュ・フローによって返済不能のレベルにまで高まってしまっているのだ。
過剰債務がある限り土地や株の投げ売りが続き、資産デフレに拍車がかかる。借金返済第一主義の結果、リストラが止まず、投資が抑制され、生産性は落ちる。企業間信用は収縮し続け、経済活動は停滞しっぱなしだ。過剰債務こそは、日本の潜在成長率まで押し下げた「失われた10年」の元凶なのである。徳政令的モラルハザードを回避しながら、民間過剰債務をカットしていく枠組を作る必要があるのだ。
一方、金融サイド・アプローチの論者達は、銀行の引当不足と繰延税金資産などによって不当に水増しされた資本勘定の不健全ささえ解消されれば、不良債権問題は市場原理を通じて自然に解消されていく、とナイーブに語る。引当不足さえなくなれば、中小企業は助かると極論する人もいた。資産査定の不充分さや税効果会計のデタラメな使い方は大問題だが、金融機関の治療だけで解決できる段階は、とっくに過ぎてしまったのだ。
オフバランス化の過程においても、不良債権や問題債権をビジネスとして扱う人達は、公的関与の排除を唱える。彼らの言い分は一見もっともらしく聞こえるが、民間任せにした場合は恐らく、商売上「おいしい」部分だけの問題解決に終わる可能性が高い。残りは銀行の都合で延命されるか、裁判所に放り込まれて、民事再生法のように度を越した再生認可(なんと3分の2が蘇り、そのうち7割が単独再生)を受け過剰供給構造の是正につながらないことになる。一方、それとは逆に、今のような経済の下落トレンドの過程では連鎖破綻のクラッシュのリスクさえ考えられるのだ。
昨年のテロの前に小泉総理に提案した私の「産業再生委員会と平成復興銀行」構想は、まさに以上のような問題認識に立って、過剰債務問題企業の倒産隔離と破綻前処理、産業再編を考えたものである。その結果生じる金融サイドの大穴に対しては、手順を踏んで、公的資金を投入し金融再々編を行うべきことを説いた。残念ながら渡辺案は責任回避本能を剥き出しにした霞ヶ関の反対に会い、お蔵入りとなった。
昨年秋には金融サイド・アプローチが勝利し、特別検査が始まった。同時に市場による「タリバンの公開処刑」が行われるようになった。しかし、果敢な政治決断がなされないと現実は次々と理屈を越えて歪んだ方向に行ってしまう。ダイエーのような大口問題債務者の延命に手を貸した小泉内閣は、大手銀行の虚飾の健全性を増長させた。そのツケが今来ているだけのことだ。
ダイエーの延命措置以降、金融サイドの危機が高まることを察知した私は、株価が当時のバブル後最安値であるトピックスで920をつけた翌日、本年2月7日に保岡興治、塩崎恭久、近藤剛氏らとともに官邸に乗り込んだ。大手銀行の毀損の許されない公的資金と、繰延税金資産を引いた2002年3月末の予想実質自己資本比率は、平均0.53%という数字を小泉総理に示した。首相は「この部屋から外に出たら、システミック・リスクの恐れがある、などとは絶対に言わないで欲しい」とおっしゃったのであった。その翌日、柳沢大臣が2回も官邸に出向き、何も起きなければ何もしないという危機待ちの姿勢から「危機は起こさせない」という実力行使に方針を転換したのである。
カラ売り規制を目玉とした政府のデフレ対策に対し、私は、産業・金融一体再生アプローチとでも呼ぶべき処方箋を書いて、再び官邸にもっていった。3月13日のことである。
金融サイドは一般貸倒れ引当金の緊急引当ルールを導入すること(デフォルト率を再考し、要注意先は20%等、引当率を上げる)、自己資本比率の再チェック(税効果を1年分又はティアTの1割のいずれか少ない方を前提として算出)、保全担保のダブルチェック(金融庁検査と日銀考査、収益還元法及び低金利継続の前提条件を見直した上で算出)、その上で資本再注入の必要性を再考察する。剰余金枯渇の場合は既注入優先株を普通株に転換、資本準備金も底をついたら減資、自己資本比率が8%を割り込んだら、早期是正措置を発動。株主としての政府が普通株式による第3次資本注入を促す。その上で、銀行のビジネスモデル変更をも視野に入れた金融再々編を断行、というものであった。
産業サイドは当面RCCの再生機能を拡大しつつ、再生委員会構想につなげる。そして危機回避と産業・金融一体再生のため、官邸主導を確立する。まず、総理が議長となって経済安全保障会議を創設し、経済危機管理担当補佐官を任命する。過剰債務問題を所管する役所が存在せず、無責任体制が危機の根源にある以上、真の政治主導で問題解決を図ろうとしたものである。
何が欠けているのか
今回こうした私の案が「竹中プログラム」と「綜合対応策」という2つの政府原案の中に大幅に採り入れられているかのように見える。では何が問題なのか。第1に2つの原案は別個バラバラに作られており、整合性がまるでない。例えば産業再生機構を創設しながらRCCの再生機能は残す、という具合に、である。RCCの再生機能は回収のためのものであり、産業再生とは別だ、と言う。何たる縄張り根性か。
第2に、「機構」を預金保険機構の下に置くことは、法案作成や予算要求の都合上便利であっても、全く筋が通らないし、スケールも小さくなってしまう。私は責任をとるべきトップが政治家の独立行政委員会方式を主張している。また、平成復興銀行という日銀の第2別口(リコバンク)を唱えており、不良・問題債権のみならず、事業会社の保有する銀行株も含めたダブルギアリングの持合株式等の、資産買い取り資金として150兆円から200兆円を見込んでいる。
第3に、すべてが緊急を要するのに、金融プログラムが一般引当でなく、個別引当の精致化にはまり込んでいる結果、大量・一括・強制買い取りがまるで不可能な点だ。「機構」の買い取り価格や買い取り債権の選別は極めて煩雑になる。ここでも両案の不整合性が顔をだしている。今回の政策決定過程が真の政治主導でなく、専門家や役人に丸投げしてしまった結果起きる弊害の見本みたいなものだ
第4に、小泉首相が本部長となって作られた「産業再生・雇用対策戦略本部」の産業再生担当の谷垣大臣は国家公安委員長との兼務、本来なら事務局長役の根本副大臣に至っては4人の大臣を支えている有り様だ。事務局は内閣官房の役人だけ、民間の常勤スタッフは入らず、露骨な官僚主導体制になっている。
第5に、竹中プログラムが繰延税金資産の水増分をティアTの1割にまで圧縮をはかろうとした。これは正しかったが、その後の逆戻りコースは情けなかった。有税引当と繰越欠損金、株の減損処理等でふくらんだ繰延税金資産は、まさしく大銀行と監査法人と監督当局がグルになった会計疑惑と言われかねない問題をはらんでいる。監査基準報告第66号4項の原則では、税務上の繰越欠損金を出している銀行には、黒字の見込める翌期1年分の繰延税金資産しか計上を認めない、連続欠損4年目には計上ゼロになるのである。頭取達のハネ上がりを許したのは、ペイオフ延期という最後に使うべきカードを最初に使ってしまったからである。
「基本指針」には明確な基準を
このように問題点があまりにも多い両案だが、これからの具体策をすべて役人まかせにしてしまったのでは再び不作為の罠にはまってしまう。戦略のミスマッチを具体策作りの過程で修正していかなければならない。「基本指針」には以上の点を盛り込むべきだ。
まず第1に、盛り込むべき事項は「機構」の入口での買収債権の範囲(企業・事業の再生可能・不能の判断基準)、買い取り価格の算定方法、中間で再生不能と判定された企業・事業の全部または一部のふるいわけ基準、出口での売却・譲渡の基準、産業再生の基準、である。これらがピンボケだと問題企業とメイン行の相互延命策に堕する恐れがある。
第2に、過剰供給構造の是正というからには、右基準を産業再生法の支援措置に適用することはもとより、政府調達・公共工事の入札資格要件審査にも入れるべきである。
第3に法的整理手続きとの相違を明確にすべきである。法的手続きは破綻処理だが、産業再生手続きは破綻前処理手続であり、そのためには「機構」に緊急融資等の倒産隔離機能を付与しなければならない。また、民事再生法や会社更生法では、生産性の向上や競争力の強化を目指した産業再編は審査の対象外だが、産業再生手続きはまさにそれを行うのだ。当然、単独再生は認めないことが大原則である。
第4に、産業・金融一体再生の観点から、メイン行の貸し手責任を明確にすべきである。政府原案は非メイン行の要管理債権等の買い取りを目指しており、メイン行の体力の範囲内で行う逆算方式の不充分な債権放棄では、破局のエネルギーを蓄積するだけである。非メインの売却損以上のカット率で債権放棄を求めるべきだ。また、メインからの買取りも可能にする。なお、再生計画の策定過程で明らかになった追加ロスは、メイン行の負担とすべきである。最終ロスは極力回避しなければならないが、万が一生じた場合は国民負担とする。
第5に、中間・出口のそれぞれの過程で同業他社や民間事業者・金融機関などのスポンサーが見つかった場合、または、投資ファンドやサービサー等の再生事業を手がける者が出現した場合は公正透明な手続きのもとに売却を促進する。なお、入口において非メイン行が「機構」にではなく、民間への売却を行うことを妨げるものではない。
第6に、それら民間の協力も得ながら機構が買収債権の証券化を促進すべきである。証券の優先部分は市場で売却、劣後部分はメインが引き受ける。メザニン部分は機構の一部保証で市場売却を目指す。
第7に、「戦略本部」事務局は民間から常勤スタッフを迎え、ポリシー・ユニットとする。「戦略本部」は一定の大口債務者については再生計画査定・認可から再生業務終了に至るまで実質的最終決定権を有する。なぜなら、大口債務者の過剰債務問題は金融サイドのシステミック・リスクの恐れと密接な関係があるからだ。ノン・バンクから地銀や生保等への負の連鎖を引き起こしてはならず、総理直属の危機管理が必要となる。
第8に、中小企業にも再生手続きを適用すべきである。金融庁がRCCを活用した破綻懸念先以下の中小企業再生型信託スキームを発表したが、問題の一部解決にしかならない。中小企業は全業種に渡って過剰債務状態(有利子負債が営業キャッシュフローの約15倍)にあり、温泉旅館など業種によっては地域ごと沈んでしまっている。都道府県ごとに「機構」の支店を作る必要があるのだ。
第9に、再生支援の法制として、@DIPならぬ破綻前ファイナンスへの優先弁済、A債権を株式に、株式を引受権に強制転換(優先・劣後関係のシフト)を可能にする事、B減資手続きにおいて株主総会の特別多数決議を不要とする、C担保処分の規制、D過去の繰延欠損金と債務免除益との通算、などを「産業再生委員会」の認定において可能とする。
終わりに
債務デフレ下の危機対応には4段階ある。第1ステージは、金融サイドの治療で済むが、第2ステージは、産業サイドの治療を同時に行う大手術が必要となる。当然、麻酔として大手銀行の国有化や、強心剤として財政出動、輸血としてのリフレーション政策が求められる。この段階で問題解決ができないと、第3ステージは、より厳しい治療法、即ち、バンクホリデー、預金封鎖、為替管理、国民総背番号制、財産税(マイナスの金利)、新円切り替え(預金引き出しの制限)、銀行国有化の拡大、といったおどろおどろしい手法が必要になる。市場が暴力的調整に陥るがための対応策だ。そして第4ステージは、国債のデフォルト、IMF管理、強制預金切り捨て。そう、国家の破綻である。
今は第2ステージの末期である。第3ステージの処方箋を緩和して、先取り、2005年のペイオフ開始時に、デノミ(新円切り替え)を断行すればアングラマネーはあぶり出されよう。財産税の代わりに死亡時の特別財産税(例えば、1000万円超の金融資産から1割微収)を創設(年間約4兆円)すれば、贈与が促進されるし、受益と負担の歪んだ世代間構造(65歳以上は生涯受益が生涯負担の倍以上あり、負担は若い世代ほど重くなる)の是正に貢献できる。
日本の真の問題は、銀行や企業経営のガバナンスなどではなく、国家経営のガバナンスなのだ。年中行事化した金融危機に預金保険法一〇二条を発動し、大手行への資本注入を決めてみたところで、ワンパッケージの総合戦略を欠いていれば、危機が次のステージに進むだけである。
政治モデルの変換を私達は小泉総理に託したが、もはや風前の灯火だ。政策大転換のメッセージもなく、ましてや総理の頑ななメンツにこだわる「性格転換」はもっとありえないとすれば、「政権転換」しかなくなるであろう。