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「"ハイテク衰退" アジアは異常な供給過剰」 みずほ証券 チーフエコノミスト
佐治信行氏02/12/11
1.景気見通し:「米国経済が足許で持ち直すも、日本経済は先行き楽観許されない」
ここへ来て米国の個人消費関連指標に明るさが見え始め、クリスマス商戦も事前の悲観的な予想よりは楽観的な見方が出始めてきている。きっかけになったのは、10月個人支出が前月比0.4%増加、小売売上高(乗用車除く)が同0.7%増加、11月消費者信頼感指数が84.1(前月79.6)へ上昇、などである。7〜9月期に軟化し始めた米国住宅価格は10月以降、更に需給軟化が目立ってきているところであった。そこに50bpのFFレート引下げ。住宅ローンのリファイナンスが家計部門の支出増加につながった。
折りから、米国小売業は在庫管理を徹底してきており、突然の小売販売増加に供給サイドが反応、1〜3月期にかけての経済活動は従前の予想よりは堅調な展開にあろう。ただ、こうした動きが長続き可能なものか否かは検討を要する。金利低下の効果は永遠且つ無限でもない。2000年問題で実施された情報関連の買い替え需要は2003年半ばには一巡する。足許、明るさを取り戻してきている海外景況感は持続可能なものではないようにみられる。
一方、国内需要については個人消費の動きがポイントになる。GDP統計に現われているように7〜9月期までの個人消費は意外に検討している。ただ、家計調査で消費支出の詳細をみると、所得上分位層の節約疲れから来た消費増加にすぎないことがわかる。少なくとも家計部門の所得の増加を伴った個人消費の堅調さではない。以上、この先3ヵ月間の景況感は堅調さを保つとみられるものの、その先は不透明感が増す。
2.金融環境:「量的緩和継続、円安ドル高」
日銀は11月の金融経済月報で景気判断を下方修正してきており、量的緩和政策は継続される。企業資金需要の停滞、欧米での利下げ観測の強まりから、債券市場は堅調な展開を続けよう。ただ、3月期末にかけて金融機関からの益出しの売りが出される可能性も。
ドル円相場は本邦通貨当局の円安誘導発言を受けた海外勢の円売り仕掛けなどから、上値を試す展開が予想される。中東情勢緊迫下で米当局は財政赤字拡張から金利上昇期待が高まるリスクを抱える中、ドルは高く放置したいところ。ファンダメンタルもドルをサポートする。
日本政府の金融システム安定化策の策定は佳境を迎える。不良債権の査定・引当厳格化と企業再生が柱となる。金融システム安定化には日銀、財務省、金融庁の協動が鍵を握る。日銀は9月に銀行保有株買取りスキームを発表、実行に移してきている。金融庁も目先、特別検査の追加実施に動く姿勢だ。ただ、財務省は金融機関の不良債権処理に絡む税制改正に積極的姿勢で臨む気配はみられない。産業再生機構スキームも買取り価格など不透明要素が多く残されている。不良債権の金融機関からの切り離しが滞るようであれば金融市場に波乱を生むリスクは高まる。
3.注目点:「日本のハイテク産業の競争力は着実に衰えてきている」
中国の国内物価は前年比1%前後の下落が続いている。8%経済成長している国の物価が大幅に下落することは異常なほどのアジアでの供給過剰が存在しているからだ。その中国に韓国は価格引下げを武器にして輸出攻勢をかけている。韓国の全輸出に占める中国向けのウエイトは02年14%に達しており95年の7%から倍増している。韓国の輸出物価は前年比10%で低下しているから、韓国は明らかに中国を意識した価格設定で戦略的な輸出ドライブをかけている。特にコンピュータ、電気製品、AV・通信機器の価格下落が激しい。
その中国は韓国以外の国からの輸入を増加させているが、日本からの輸入の伸びは他アジアの国に比較すると劣る。中でも、加工組立型産業においてわが国の中国向け輸出の伸びは韓国、台湾に劣っている。わが国製品の優位性は輸送機器(自動車など)、化学製品、プラスチック製品、金属・同製品に限られている。電気機械、精密機械、一般機械といったハイテクと呼ばれてきたセクターでは明らかにわが国は衰えを見せ始めてきている。むしろ、中国市場を通じてファインケミカルを中心とした素材産業でのわが国の製品競争力が見直され始めてきている。
【景況判断】現状(3ヵ月前比):やや悪い 先行き(3ヵ月後):やや悪いGDP予測:02年度0.8%(0.3%) 03年度▲0.5%(0.2%)
【金 利】短期:横這い TIBOR3ヵ月 0.10%長期:やや強含む10年
物新発国債1.20%
【円 相 場】円安130円/1ドル【株 価】株安 日経平均9,000円*GDP予測
値は実質GDP成長率、前年比%。カッコ内は直近10回分の平均値*長短金利、円
相場、株価は3ヵ月後(03年3月末)の予測値
<佐治信行氏略歴>1958年生。82年関西学院大学法学部卒。日興證券入社。日興リサーチセンター投資戦略部長、興銀証券チーフエコノミストなどを経て、2000年10月から現職。エコノミスト人気調査ランキング1位(2002年3月25日付日経金融新聞)。