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l 銀行「国有化」を探る(1)公的資金の損失2兆円超、政治問題化も
【NQN】大手銀行に対し、株式相場低迷による保有株式の含み損や、
不良債権処理の加速に伴う損失などが拡大し、自己資本が大きく傷むこ
とへの懸念が強い。銀行債の国債に対する上乗せ金利の上昇傾向が続く
など過小資本への疑念がくすぶり、「厳格に資産査定し資本性の低い繰
り延べ税金資産を自己資本から差し引けば、大半の大手行は実質国有化
状態にならざるを得ない」との見方も出始めた。現行制度での「大手銀
行の国有化」について、可能な手法、不明な点、市場への影響などを探
った。
最初に考えられるのは、「実質国有化」と呼ばれるケースで資産超過
ながらも、国の銀行経営への関与をさらに強める手段だ。
方法としてはまず、国が保有している優先株を議決権のある普通株に
転換する手法がある。これまでに大手銀行6グループ(みずほHD、U
FJ、三井住友銀、りそなHD、三井トラスト、住友信)の優先株に注
入した公的資金の総額は6兆円あまりだが、転換時期が到来した銘柄か
ら順次、普通株に転換する。銀行にとっては、負債性の強い優先株から
返済義務のない普通株に切り替わることで、資本を強化できる利点があ
る。
この場合、問題になるのは、普通株に転換した場合の損失が大きいと
いう点だ。株価が急落して、優先株の転換価額を大きく下回っているた
めだが、HSBC証券の推計では、その額は約2兆3100億円に達する。
過去に投入した公的資金に穴が開き、国民の税金で穴埋めする必要が出
てくる。世論に配慮して、政治や行政の責任論に波及するのは必至で、
政治問題に発展することが予想される。
加えて、現時点で転換できる優先株数が銀行ごとにばらばらなことも
難点だ。21日時点で普通株に転換した場合、国の議決権比率は、最大で
三井トラストの54.3%から最も小さいみずほHDの1.4%まで開きがあ
る。UFJや三井住友銀も20%台にとどまる。「10%を超える大株主が
いない状況では20%以上の議決権比率でも実質国有化と言える」(スタ
ンダード・アンド・プアーズの根本直子ディレクター)との見方もある
が、大半の銀行が過半数に程遠く、自己資本の充実策としては不十分だ
と言える。
銀行「国有化」を探る(2)株式減資リスク、竹中氏の構想次第
「実質国有化」の次のケースとして、公的資金の再々注入による普通
株購入に焦点が移る。現行制度では、大手銀行が自己資本不足に陥り、
金融システムの維持に重大な支障が生じた場合には、預金保険法に基づ
いて小泉純一郎首相が金融危機を認定し、金融危機対応会議を開催する
。会議は首相を議長とし、メンバーは官房長官、金融担当相、財務相、
日銀総裁、金融庁長官の5人で、預金保険法に基づいて過小資本に陥っ
た銀行への公的資金の注入申請を促すことになる。
今のところ大手銀行各行は資産超過状況にあるとみられているため、
同法102条第1項の第1号措置が適用される。この場合、「銀行は通常
通り業務できる」(預金保険機構業務管理室)ため、預金や債券につい
ての取り扱いに変化はない。
ただこうした「実質国有化」の議論が先行することで、市場は大規模
な株式価値の希薄化や、減資などの株主責任が生じることを懸念し始め
た。「金融再生プログラムの作業工程表が明らかにならなければ、公的
資金の注入がどの程度になるのか検討がつかない」こともあって、市場
関係者は手探り状態に陥っている。大量に公的資金を注入して国の普通
株の持ち株数が75%を超えた場合、東京証券取引所の上場廃止基準に抵
触する恐れも出てくる。減資リスクについては「竹中平蔵経済財政・金
融担当相の頭の中次第で明確に答えられない」(金融庁の金融危機対応
室)のが現状だ。
最悪のケースは、98年に破たんした日本長期信用銀行や日本債券信用
銀行と同様に、銀行が債務超過に陥った場合に適用される「一時国有化
=破たん処理」となった場合。預金保険法102条1項の第3号措置の適
用がこれに当たる。市場では「破たん処理コストが膨大になるため実現
性は乏しい」との見方が支配的だが、株価の低迷が続き、内外での資金
繰りが悪化する銀行が出てくれば、政府は該当する銀行の「一時国有化
」に踏み切る可能性が高くなる。
l 銀行「国有化」を探る(3)自力での資本調達の道、一段と険しく
破たん処理のケースでは、株式はほぼ無価値となるが、加えて債券の
取り扱いについての懸念が生じる。金融再生法に基づいて98年に特別公
的管理となった日本長期信用銀行と日本債券信用銀行のケースでは「劣
後債務は債券・ローン、期限付き・永久を問わず、すべて受け皿銀行に
承継され、結果的に劣後債務保有者が直接損失を負担することはなかっ
た」(BNPパリバ証券の成田恭子クレジット・リサーチ部長)。
倒産法などの規定に従えば普通社債と預金の財産順位は同格となって
いる。こうした経緯から、債券は全額保護されるとの見方が多いが、こ
れは長銀・日債銀のケースを参考にした議論で、不透明感もつきまとう
。「日債銀、長銀の時でも、全額保護に至る過程は決して透明なもので
は無かった」(成田氏)という。「護送船団的な奉加帳方式で処理した
過去の例は参考にしにくい」との声もあり、金融庁は「(劣後債などの
取り扱いについては)明確には決まっていない」と説明している。「破
たん処理すれば、これまで公的資金として注入した税金が毀損(きそん
)するにもかかわらず、債券が保護されるのは疑問だ」との声もある。
市場で見方が分かれているのが、優先出資証券の行方だ。利払いが優
先株への配当を根拠としているため、剰余金が枯渇すれば、商法の規定
に従って自動的に優先出資証券への配当も見送られる。ただ同証券は、
海外の特別目的会社を通じて発行しているケースがほとんどで「国内法
は適用されない」との見方もある。
大手銀行は自力で自己資本を拡充しようと、有力な取引先や親密な企
業を受け入れ先とする増資の検討に乗り出している。ただ、増資は持ち
合い解消の流れに反するとの見方が多く、増資に伴って相手方の株式を
引き受けると、2004年9月中間期までに達成を迫られている保有株式規
制のハードルが高くなる事態も想定される。加えて、これまで発行して
きた劣後債などの国債に対する上乗せ金利は上昇したままで高止まりし
ている。年度末までに劣後債などの償還時期を順次迎えるため、新たな
起債という悩ましい問題も抱えている。銀行の自力調達の道は、ますま
す厳しくなっているのが現実だ。(永井洋一)