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会社を辞めるな
2002年11月25日号
一色清編集長おすすめの記事
|バックナンバー|
社内のムードが暗い。仕事が単調だ。上司が気に入らない……。そんなささいなことで会社を飛び出してはいけません。転職市場は超氷河期。再就職できても年収激減の現実が待っています。今は足元をきちっとみつめた方が良さそうです。
編集部 各務 滋
首都圏に住む大島哲夫さん(46)は毎朝、スーツにネクタイを締めて家を出る。しかし、行き先はいつもハローワーク(公共職業安定所)か書店だ。近所の人には、失業中とは言っていない。
3年半勤めた写真関係のベンチャー企業を、6月に辞めた。3度目の勤務先だった。写真印刷一筋に職歴を積んできたのを買われたのか、経営企画マネジャーとして迎えられていた。が、インターネット経由でデジタルカメラのプリントを提供する新規事業に、
「近所の写真店の方が速い。ビジネスモデルとして無理がある」
と、異論を唱えたのがいけなかった。東京・新宿のカメラ量販店の派遣販売員に飛ばされた。ハッピ姿で店頭に立った。1日10万円のノルマが達成できない。もともと無理な数字だ。なのに、客やアルバイトの面前で罵倒された。
「売り上げが伸びないのはお前のせいだ」
ふさぎ込む日が続き、大学病院を訪れた。診断はうつ病。仕事を辞めた方がいいと忠告された。
あとさきの青写真を描く余裕もなく、会社を辞めた。
82歳の母親がいる。アルツハイマー病で介護が必要だ。医者の往診や、タクシー通院の費用に毎月7万〜8万円かかる。親の介護は当然。負担とは考えていない。だが、住宅ローンの返済も8万円。月額14万2千円の雇用保険はそれだけで消えてなくなる。
この5カ月間に、ネット検索とハローワークで見つけた計70社に履歴書を送った。少ないようだが、このほかに無数の門前払いがあった。面接にこぎ着けたのは25社。茶飲み話の後に、交通費を差し出されるとダメだと分かる。
●出発直前に断りメール
8月、ネットで良い求人を見つけた。日本から進出した北京のスーパーマーケットの広告制作だ。最初に勤めた会社で経験がある。
メールで応募すると、
「ぜひ早めに来て下さい」
との返事。ビザと航空券を1週間で手配した。が、出発を2日後に控えた日。またメールが来た。
「あの後、北京語に堪能な人の応募が多数ありました。今回は見合わせさせて下さい」
11月から、県の緊急再就職支援訓練に通い始めた。金型製作コース5カ月間だ。再就職先がなければ、旧型カメラの修理部品作りで独立しよう。そんな算段をした。
企業回りの際、職歴のブランクの長さの説明もつく。本来は年末で切れる雇用保険の給付が、受講中は延長される。助かると思う一方で、人さまの税金の世話になっている、との意識をぬぐえない。
知人から転職の相談を受けたら大島さんは言うつもりだ。
「辞めるな。社内で踏ん張れ。外の風は厳しいぞ」
大島さんの言うように、転職市場は氷河期のただ中にある。
総務省や厚生労働省の統計では、9月の完全失業率は5・4%。失業者は365万人。前年同月より8万人増えた。不良債権処理が加速すれば失業者400万人も現実になりかねない。ハローワークでの就職率(1カ月間の就職者数を新規の求職申込者数で割った数)は25・7%。仕事が見つかるのは4人に1人の計算だ。
なかでも、ホワイトカラーはこの1年の冷え込みが著しい。
ホワイトカラー専門のハローワーク「東京人材銀行」(東京・有楽町)では求職者の登録が連日200人に及ぶ。10月末には、一部上場の建設会社が一挙に40人のリストラ対象者を送り込んできた。
ここでは10月、求職者は前年同月より5割増えたのに、求人は6%減。深刻なのは技術職の悪化ぶりだ。従来は事務職より有利だったが、同月の求職者は3200人と、1年前の1・8倍に増えた。逆に求人は約4千人で、200人減った。
「IT不況と、企業に余裕がなくなっていることの表れ」
担当者はそうみる。
事務系管理職の厳しさは、今さら言うまでもない。求職が求人の4倍もある。昨年は3倍だった。
ある財閥系中堅商社の元営業マン(50)は6月、人材紹介会社への「出向」を命じられた。出向先での仕事の内容を聞くと、
「自分の職探しがあなたの仕事」
要するに首切り。「東京管理職ユニオン」(新宿区)に入り、会社との闘いを始めた。
●同じ仕事で給料が半分
「社の規定には『出向先の業務に従事する』のが出向とある。職探しは、職務ではない」
もっとも、思い当たるフシがなくはなかった。昨年まで4年間任されていた新設の営業所での実績が思わしくなかったのだ。得意先の開拓は、自分で掲げた目標に達しなかった。自己評価申告書には正直にそう書いていた。本社に戻されてまもなく役員に呼ばれ、早期退職への応募を求められた。断った。応じればどうなるか、分かっていたからだ。
年上の同僚が早期退職した。なのに翌日、いつも通りに出社してきた。人材派遣会社に再就職した上で、元の職場に「派遣社員」として戻されたのだ。仕事は従来通り。給料は半分以下にされた。
元営業マンは5カ月間抵抗を続けたが、11月初め、辞令を受け入れた。業務命令に逆らったことを理由に、解雇されることだけは避けたかった。1年たっても転職先が見つからなければ、会社に戻すという条件も得た。人材紹介会社で良い転職先が見つかれば、前向きに考えるのも手か。そんな心境にもなっている。
しかし、その人材紹介会社や再就職支援会社も当てにならない。
埼玉県の元損害保険会社員(52)は退職して1年半になる。が、会社にあっせんされた新宿の再就職支援会社からは、就職先の紹介が1件もない。自宅から新宿までの往復交通費1500円がもったいなくて、顔を出さなくなった。
「退職者と会社は関係が切れている。だから、会社は支援会社の実態を知らない。そこが落とし穴」
ある職安の担当者も、求職票に「再就職支援会社の紹介」と書く人が最近目立つと感じる。自社でもてあました人材を、職安に回してくるらしい。
リストラや倒産でほかに選択肢のない人はしかたない。それ以外の人にとって転職は得か、損か。
化粧品会社を6月末で辞めた神奈川県の30歳代半ばの女性は、ネットで求人情報を検索していて、こんなことに気づいた。
「採用条件が月給30万円以上と10万円台に分かれている。真ん中の20万円台はほとんどない」
専門を持っているかどうかで、待遇の差が極端になっている気がする。なければ扱いはアルバイト並み。しかも、35歳を超えると働ける場所はすごく少ない。
●相場は七五三
彼女の直感は、現状を言い当てているようだ。
厚生労働省関連の「日本労働研究機構」(JIL)が今年初め、約2700人を対象に、転職後の収入を調べた。結果はこうだ。
25〜34歳。「増えた」40%、「減った」37・9%。
35〜44歳。「増えた」33・3%、「減った」47・5%。
45〜54歳。「増えた」22・2%、「減った」57・9%。
55歳超。「増えた」6・6%、「減った」78%。
「3割以上減った」人が、35〜44歳で1割、45〜54歳では2割弱もいる。
「リクルート ワークス研究所」(東京・銀座)が正社員約1万1000人を対象に行った2000年夏の調査でも、45歳から転職後の年収が減少に転じ、50歳を超えると2割収入が減る。
JILの調査は「過去1年以内」、リクルート ワークスは「直近5年」の転職者データ。いわば過去の実績である。転職市場は00年から今年にかけて、急速に悪化している。
人材紹介業界の現在の実感は、これらの調査よりさらに厳しい。
「七五三が相場だ」
転職した場合の年収は、良くて転職前の7割。普通で5割。悪くすると、3割に減る。そういう意味だ。
●「自分から動くな」
政府の不良債権処理と産業再生計画の成否によっては、もっと悪化しかねない。
人材の評価と開発を手がける「市場価値測定研究所」(東京都目黒区)の藤田聰社長(40)は、転職の相談に訪れた人たちにこう忠告している。
「自分から動くな。いい商品にはお声がかかる」
いい商品とは、顔の見える個人。突出した専門性や能力だ。それも、なまじの要求水準ではない。
例えば、藤田社長が11月に入って相談を受けたある男性(42)。国立大を出て、大手都銀から外資系生保にスカウトされて転職した。新支社の立ち上げを任されて50人の部下を統率、本社から表彰を受けた実績がある。その後、本社の経営企画部門へ。さらに別の会社に転職して営業企画ディレクターを務めたが、家庭の事情でやむなく退職。その時点の年収は1200万円だった。
実績は申し分ないようだが、
「彼に1200万円出す会社を探すのは難しい」
藤田社長の採点は辛い。極めて優秀には違いないが、経歴を見るとオールラウンドプレーヤーに見えてしまう。売りづらいという。
自分の実力に見合った給料が出たら、年収は今より上がるか、下がるか。同研究所には、それを測る「市場価値測定プログラム」がある。受験者の6割強は、年収が下がる。現状維持が2割。上がるのは、たった2割という。裏返せば、会社員の8割は会社にとどまった方が得か、無難といえる。
●「残ってできた勉強」
かつてキャリアアップをめざす若手には、外資系企業という受け皿があった。だが、ITバブルの崩壊などで、人材紹介各社に寄せられる外資系のポストは、前年の7割から3割にまで落ち込んでいるという。仮に転職できても、個人の能力にかかわらず、部門丸ごと切り捨てに遭うリスクもある。今年初め、個人向け部門の社員1700人を500人に削減したメリルリンチ日本証券が良い例だ。
自ら動かなければ人生は変えられない、とは限らない。
あるメーカー社員(57)は2年前、早期退職に応募した。受付開始の10分後に届け出用紙を提出しに行ったが、希望者が殺到して締め切られていた。知人に送別会まで開いてもらっていたのに、会社に残るはめになった。周囲の人たちは、その落胆ぶりを覚えている。
しかし、人生、塞翁が馬というべきか。その後、IR(株主・投資家向け広報)部門に異動。有力アナリストたちと知り合う。彼らとの充実したやりとりは手ごたえがあり、楽しい。彼はこう語る。
「定年後、転身するにもいま吸収している知識を生かせる。この会社に残ったからこそできた勉強と経験。退職できなくて結果的に良かった」
政府は、不良債権の債務者区分を大きく下げたり、公的資金注入や優先株の普通株転換で銀行を国有化したりする可能性を臭わせている。伴、野崎両氏とも、今回の対応策で、銀行は決定的な裁量権を政府に握られたとみている。
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