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「産業空洞化対策と企業再生ファンド」「強い企業をより強く」
http://www.asyura.com/2003/dispute8/msg/486.html
投稿者   日時 2003 年 2 月 26 日 21:31:45:

第12回「産業空洞化対策と企業再生ファンド」(その1)

(経済産業省経済産業政策局産業構造課長
石黒 憲彦氏)

最終更新日時: 2003/02/26
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 我が国経済の主たる構造問題が「需要不足」にあることは既に何度も述べた。バランスシート調整と期待成長率の低下から設備投資は低迷し、将来不安から個人消費は不振を窮めている。設備投資が手控えられるから、設備ビンテージ(設備年齢)は長期化し(製造業平均71年6.8年→2000年11.1年)、鉄鋼、化学など素材系の場合で、最も短かった71年代冒頭と比べてほぼ倍(鉄鋼71年7.7年→98年13.8年、化学5.8年→10.9年)、技術革新の激しい電子電機産業ですら、90年代は長期化している(91年5.3年→98年6.8年)。これでは競争力が落ちるとともに、需要を喚起するようなイノベーティブな商品、サービスが生まれにくく、個人消費の低迷も打破できない。
 世界との競争に勝てる先端投資は税制で優遇

 今回の改正産業活力再生特別措置法(産業再生法)には、空洞化対策としての設備投資減税が盛り込まれている。我々はこれを「実証1号機税制」と通称している。趣旨は、研究開発と一体となって最初に実証1号機として国内に設置される製造ライン一式を特別償却制度で優遇する。早い話が、シャープが三重に大規模な液晶工場を建設するという発表を行ったが、こうした最新鋭工場や製造ラインを国内に建設する際に、税制でも優遇しようというものだ。

 特別償却の税率は、前回説明した共同事業再編の場合(例えば総合電子メーカー複数社が事業統合して設立した半導体会社の場合)なら初年度投資価額40%の加速償却、事業再構築計画や経営資源再活用計画の場合(個社がリストラ、グループ内組織再編などやりながらコア事業について設備投資する場合や誰かの経営資源を買収して、若しくは独立して事業を行う場合)に設備投資する場合は、30%の加速償却、こうした事業再構築、事業再編を行なわずに単純に設備投資を行う場合は24%の加速償却が認められる。要件としては、研究開発と有機的に連携していること、新商品・新サービスの提供のためや生産性の著しい向上が見込まれるだけの設備の革新性があること、当該事業者にとっての1号機であって、生産システムの形成に開発要素があること、10億円以上の投資であること、同業他社との関係で陳腐でなく、過剰供給構造の助長につながらないことである。

 事業化への「死の谷」をいかに越えるか

 狙いは二つある。第一は、イノベーション促進である。国内に新たな需要を喚起するようなイノベーティブな商品、サービスを増加させていくためには、研究開発の強化も不可欠だが、それと併せて事業化段階のてこ入れが不可欠である。米国商務省においても「死の谷」という議論が行われている。日本においては特にそうだが、米国においても研究開発段階までは、資金も比較的小規模ですむために、要素技術等は開発済みであっても、事業化段階になると、とたんに資金も莫大になり事業リスクも大きくなるために、あと一歩というところで技術は活かされないまま、死蔵退蔵される。この税制の狙いは、ここに橋をかけて事業化、企業化のステージにもっていく「死の谷越え」である。研究開発税制が大幅に拡充されたが、この税制と併せて利用することで、研究開発段階から事業化段階まで連続して優遇税制が用意されたことになる。

 第二は、研究開発拠点と製造拠点との有機的な連携である。近年、半導体、液晶などの先端分野の技術領域でもアジアシフトが見られ、さらに、量産拠点のみならず、研究開発拠点までがアジアに展開する動きが見られる。日本が研究開発拠点としての機能を高めることは必須だが、これに加えて量産は別として少なくともマザープラント、マザーファクトリーの機能だけは日本に確保していく必要がある。研究開発と実証1号機の最初の製造ラインはともに開発要素があり、互いにフィードバックしあう関係があってはじめて研究開発も、製造技術の実装も円滑に進む。実証1号ラインは、2号ラインとは比べものにならないほどべらぼうにお金がかかる。なぜならそれ自体開発要素があるからだ。試行錯誤の結果、実証1号ラインはものになる。そこに焦点を充てて優遇税制を講じようというものだ。

 産業再生法の理念は「強い企業をより強く」

 産業再生法は、不良債権処理と一体で語られることが多いために、過剰債務企業救済のための法律であるかのような印象をもたれがちであるが、本来は「強い企業をより強く」というのが理念である。その証拠に現在まで180件余の企業がこの法律を利用しているが、債権放棄を受けた企業は5社にすぎない。トヨタ自動車、ソニー、日産自動車などの優良企業が事業再編の際に登録免許税の軽減などを受けるために使っている。この税制も不良債権処理という後ろ向きの話ではなく、優良企業が前向きな設備投資を行おうとする場合に支援するものである。キヤノン、シャープなどの利益率の高い企業が国内に設備投資を行う場合には、生産性基準や財務体質基準といった基準を云々する事業再構築計画、経営資源再活性化計画、共同事業再編計画の認定を受けなくても、前記の設備投資減税の要件に合致さえすれば「革新設備導入計画」の認定を受け、初年度24%の加速償却が受けられる。微力ではあるが、政策担当者としてこの税制に質の高い製造拠点は国内に残したいという政策的メッセージを込めた。投資余力のある強い企業にこそ、この税制を最大限利用してもらいたい。


企業再生の新たな担い手としての再生ファンド
 過剰供給構造解消、過剰債務是正、空洞化対策のほかに今回の産業活力再生特別措置法(産業再生法)の改正でもう一つ込めたタマがある。企業再生の新たな担い手として期待される再生ファンドの事業環境整備である。

 再生ファンドによる再生というと日本人には馴染みが薄いが、身近な典型例はスポーツ用品販売のヴィクトリアだ。同社はバブル期の不動産投資に失敗し過剰債務を抱えていた。しかし、本業のスポーツ用品販売は営業黒字を計上している。過剰債務から切り離せば十分再生可能だ。結局、ベンチャーキャピタル投資を長年やってきたジャフコが、スポーツ用品部分を営業譲受で買収し再生させる一方、抜け殻の本体はその売却益を元に清算した。不幸にして会社というどんがらは清算され、株主、債権者にはかなりの損害が発生したが、人材、営業網、販売ノウハウといった経営資源は新たな会社に引き継がれ活用されたわけだ。

 過剰債務に陥った企業は実質債務超過だから、債権放棄を受けるか債務の株式化などして過剰債務の重荷を外す一方、自己資本が毀損しているからフレッシュ・キャピタルを注入し、さらにニューマネーを提供してリストラを促していかない限り再生しない。再生ファンドに明確な定義があるわけではないが、私は、こうした状態に陥った企業に新たな資金を供給し、併せて経営トップの交代や経営ノウハウの提供などマネジメントを通じて再生支援し、最終的に株式公開や他の事業会社へのM&A(企業の合併、買収)によって収益を上げるビジネスを再生ファンドと考えている。また、再生ファンドの一類型でベンチャー投資に近いものが、マネジメント・バイアウトである。これは企業のとってノンコアの事業部門を切り出して、従業員を経営者に仕立てるなどして独立を図るものである。

 ミドルリスク、ミドルリターンを取る

 ベンチャーキャピタルとの明確な違いは、投資先がスタートアップ企業ではなく、既に長年実績を上げてきたものの何らかの理由により経営が傾いた企業であることだ。この世界の関係者はEXIT(出口)というが、再生ファンドはそうした企業を買収し、再生を通じて企業価値を増した後に株式公開や売却によって利益を得ることをEXITとする。そうした企業の場合、スタートアップ企業でない分成功した場合のアップサイドのリターンは大きくないが、経営資源や財務状況が明確だからリスクはベンチャー投資よりはるかに少ない。いわばミドルリスク・ミドルリターンを取るのが再生ファンドと言えよう。

 現状では、外資系ファンドが目立つが、ジャフコのようにベンチャーキャピタルの新たな事業として展開されるものや再生ビジネス専門でファンドを立ち上げ事業展開している独立系ファンドも育ってきている。かつてこうした企業再生に長けていた旧興長銀、大手都銀の人材がこうしたファンドのゼネラル・パートナー(業務執行組合員)の担い手となっている。

 こうしたファンドは、生保等の機関投資家や個人投資家の資金を募って組成する。問題は日本において出資者の有限責任と二重課税の回避を明確にした一般的な投資組合事業に関する法律がないことだ。中小企業等投資事業有限責任組合法が98年経済産業省によって提案され、成立しているが、これはベンチャーキャピタルを念頭においているために、投資先が一定割合中小企業であることが要求される。そのため、再生目的で規模の大きな中堅企業、大企業に投資しようとすると枠をはみ出してしまう。このため民法上の組合制度を使う場合があるが、組合契約によって出資者の有限責任を約定しても善意の第三者には対抗できない。また、ケイマンなどタックス・ヘイブンで外国法に基づいてファンドが組成される場合があるが、配当利益の扱いなど税法上の取扱いに懸念がある。いずれにせよ法的安定性を欠くために、日本では機関投資家の出資を募りにくい。

 本来であれば、法務省において速やかに民法の特例としての一般的な投資事業有限責任組合法が提案されることが望ましいが、このご時世に法務省の提案を悠長に待っているわけにもいかない。今回の産業再生法で特例を講じ、中小企業等投資事業有限責任組合の投資対象として産業再生法認定企業とその関係企業、認定企業に限らず欠損金のある企業や利益を減少させている企業などを広く投資対象とした。これによって投資家の有限責任が明確になり、再生事業を目的とした新たなファンドへの出資を堂々と募ることができる。

 また、これまでの中小企業等投資事業有限責任組合には債権の買取りは認められていなかった。しかし、再生ファンドの場合、産業再生機構がそうであるように、既存債務の買取りから再生支援が始まることが多い。このため、債権の買取業務を追加した。これで再生ファンドは、銀行から債権を買い取り、その後債権を株式化などをして過剰債務を減らし、バランスシートを健全にして事業を支援できる。

 民間再生ファンド資金を潤沢にする呼び水を用意

 こうした制度的基盤整備に加え、昨年末の今年度補正予算で実弾も用意した。かねてから日本政策投資銀行には、不良債権化した企業やRCCに債権が移行した企業支援のための事業再生ファンド1000億円という枠があって、民間再生ファンドへの出資を行っている。これに加えて、完全に不良債権化する前の段階であっても、過剰供給構造解消や収益率の改善、経営資源の早期再生に取り組むような産業再生法認定企業を支援するため、民間再生ファンドへの新たな出資枠を創設した。これは当面400億円程度を想定している。政策投資銀行の資金が呼び水になって、広く民間資金を集まり、民間再生ファンドの資金が潤沢になることを期待している。

 民間再生ファンドの場合は、リスク分散を図る必要があるから、いかに1000億円を超える規模のファンドであっても、そう大物は扱えない。その場合には今般設立される産業再生機構が対応する。但し、産業再生機構は民間活力の活用を旨として運営される。様々なディールで民間再生ファンドの活用を積極的に行うとともに、人材もこうした経験を積んだ、或いはこれから積んでいこうとする人々を集めようとしている。うまく機能すれば、ここを核として企業再生市場が形成され、人材が育っていくことだろう。

 産業再生法と産業再生機構が車の両輪となって後押ししし、企業の自助努力による自力再生や民間再生ファンドの活躍を通じた他力再生が円滑に進み、日本の産業再生の槌音が響いてくることを心から願っている。

 次は、優良企業に見る経営改革の本質を論じたい。

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■第11回「『選択と集中』と『過剰供給構造の解消』」
■第10回「過剰債務と経営資源再生」
■第9回「不良債権処理と産業再生」
■第8回「90年代米国経済の軌跡と日本」
■第7回「夢と志と仲間」
■第6回「自分でコントロールする人生」
■第5回「大企業とベンチャーの新たなる共生」
■第4回「大学発ベンチャーの意義」
■第3回「シリコンバレーモデルの本質」
■第2回「ベンチャーを巡る日本の悪循環」
■第1回「ベンチャー振興に政策は要らないか」

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