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★ 話題にもなっており、私自身が現在読んでいる本の書評が「中国経済新論」に掲載されていましたので転載します。
ちょうど今日から読み始めましたが、狭い個室にいるときのみ読む対象としているので読了にはしばらくかかります(笑)。
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中国は計画経済の時代に、平等を追求するあまりに、効率が犠牲になり、経済発展が挫折した。この反省に立って、1970年代末に、ケ小平の指導の下、一部の地域・人々が先に豊かになることを認める「先富論」を旗印に、平等より効率を優先させる市場改革路線への転換が図られた。その結果、中国が目覚しい経済発展を遂げたが、その一方では、腐敗の蔓延、貧富格差の拡大、地域経済の不均衡、モラルの喪失といった問題が深刻化してきた。『中国現代化の落とし穴』は、これら経済発展の影の部分に焦点を当て、その原因を「権力の市場化」に求め、さらに、政治体制の改革を排除した跛行型の改革が中国に悲惨な結果をもたらしていると警告し、民主化の必要性を訴えている。
ここでいう「権力の市場化」とは、現在の中国社会では、「機会の平等」と「ルールの平等」が十分に保障されていない中で、「権力」が経済の利益を得るために乱用されることである。著者が指摘しているように、一握りの国有企業の責任者と特権階級は、国有企業の資産を横領することによって、簡単に富を蓄積できたのに対して、社会下層部の普通の人々が取り残された今日の中国の状況は、まさに「資本の原始的蓄積の段階」にあった17世紀のイギリスの状況に類似している。
本書は、著者である何清漣女史がジャーナリストという経験を活かして、豊富な事例をベースに持論を展開しているだけに、内容が具体的でわかりやすい。例えば、国有企業の幹部に絡む腐敗について、(1)国有資産の移転、売却などに伴って賄賂をもらうこと、(2)公金を遊興に使うこと、(3)閨閥人事により独立王国を構築すること、(4)自ら別会社を作り会社に国有企業の所得と資産を移転する(父母が官僚で、子女が商売をするという「一家両制」を含む)といった手口が暴露されている。その上、官僚の汚職や、マフィアの暗躍、そして農民の窮状についても生々しく描かれている。
改革のあり方について、経済面での「公平」と政治面での「民主化」を主張する何清漣女史は「効率」と「権威主義」を強調する主流派の経済学者と対極の立場に立っている。反主流派の代表格として、彼女は常に弱者の立場に立って当局の政策を批判しているため、庶民の間で人気を博しているが、その反面、政府からは必ずしも歓迎されていない。現に、98年に中国で出版された本書の元となる『現代化の陥穽』が、反体制の作品と見なされ、やがて発売禁止となってしまった。何氏本人も、迫害を恐れて、2001年に米国への亡命を余儀なくされた。
このように、本書は効率を優先するこれまでの発展戦略の限界を明らかにし、警鐘を鳴らす意味が大きい。しかし、改革の光の部分を一切認めようとしないため、中国経済の全体像を客観的に捉えることができていないように思う。例えば、中国経済が直面する諸問題が旧ソ連崩壊後のロシアと類似しているのに、なぜ中国だけが高成長を続け、ロシアが停滞してしまったのかについて、十分な説明がなされていない。中国とロシアのもっとも大きな違いは、まさに前者で共産党の一党独裁が維持されているのに、後者は民主政治に移行した点ではないかということを考えると、民主化を急ぐことは本当に中国の危機回避につながるかどうか、疑問が残る。
そもそも、何氏が目指している社会の公正と民主化についての具体的な内容やその実現までの道筋が一切提示されていない。現代化に向けて中国が、落とし穴に陥らないように、どういう戦略を取るべきかについて、公平と効率の間でバランスの取れた政策提案がほしいところである。
マスコミの論調では、中国経済を巡って楽観論が支配的になっているなかで、悲観論が売り物であるゴードン・チャンの『やがて中国の崩壊が始める』に続いて、本書もベストセラーになっていることは何を意味するのだろうか。マスコミに左右されずに、「中国の真実」を理解しようとする読者もいるだろうが、その一方では、中国が崩壊するなら、日本が頑張らなくでも大丈夫だという安心感を求めるものも結構いるのではないだろうか。しかし、このような考え方を持つと、改革の努力を怠ることとなり、日本はいつまでも「長期停滞」という落とし穴から脱出することができないだろう。
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何清漣著『中国現代化の落とし穴』、草思社、2002年
著者の何清漣(He Qinglian)女史は1956年、中国湖南省生まれ。湖南師範大学で歴史を学び、上海・復旦大学で経済学修士取得した。湖南財経学院講師、深せん市共産党委員会宣伝部勤務ののち、『深せん法制報』記者、編集者となった。2001年に米国に渡り、現在、ニューヨークに在住し、言論活動を続けている。