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和光大学経済学部 教授
三宅 輝幸 氏
聞き手 編集局長 島田 一
――日本経済を立て直すためにはどうしたら良いかという提言を、今度はマンガ本(「日本経済が一目でわかる本」こう書房刊)で出版なさった。
三宅 日本経済の問題点を指摘した本は山ほどあるので、何をどのようにしたら良いのかということを皆に解るような形で出版できないかと企画しているうちに、結果としてマンガスタイルになった。それでも初めのころはマンガと本文を半分ぐらいずつの割合にしようかと考えていたところ、解り易さに力点を置くうちにマンガの比重が増えてしまった。これならば大学生が読んでも解るかなといった内容になったと思う(笑)。
――本では種々の提言がされているが、ずばり、今の日本経済に必要な対策は…。
三宅 日本経済の捉え方としてかなりの人が、景気が良くないのは銀行が不良債権を抱えているためだ、とみておられる。しかし私は、それよりも基本的に日本経済のパターンが変わってきたことが抜本的な原因だと考えている。
――日本経済のパターンが変わった…。
三宅 日本経済は戦後、非常な高度成長を遂げて、国際的に見ると成熟した。高度成長期は、人間の成長で例えると壮年期で、種々の技術を開発して日本的経営でうまく企業を育てて力をつけてきた。このなかで特徴的なのは、物づくりが盛んになり海外に輸出し貿易黒字が溜まっていった。その貿易黒字は世界でもほぼ一人勝ちといった状況であったというのが二十世紀後半の日本の姿だ。そして、その山のように溜まった貿易黒字が市場に出ていくことで、一ドル三六〇円が七九円までの円高となった。
――製品輸出で高度成長を遂げ、貿易黒字が溜まり円高となった…。
三宅 円高となると、輸入する原料は安く手にはいるが、物づくりをする日本人の人件費は高くなる。しかも、日本人の生活水準も高くなり給与水準も高くなったため、国内でのコストも高くなり、円高によるコスト高に上乗せされる。そこで生産が徐々に海外移転し、初めはシンガポール、次にマレーシア、タイに行き、今は中国で製造業が盛んになっている。そして、日本では製造業では稼げないというのが二十世紀から二十一世紀初頭にまたがる日本経済の現状だ。
――二十一世紀は日本で物づくりができなくなる…。
三宅 ほとんどの製造業が海外に移転してしまう。そうなると貿易黒字が減ってくるので、これをどのようにカバーし、経常収支の黒字を維持していくかが二十一世紀の日本経済の課題だ。それには、貿易収支以外の、サービス収支や所得収支で埋めていかざるを得ないが、これまでのところサービス収支は日本人が大挙して海外旅行に行くため大赤字だ。このため、やはり、技術を開発し、知的財産を海外に売ることで貿易黒字の減少を埋めていくことにつきる。
――知的財産とは…。
三宅 例えば、次世代携帯電話とか、燃料電池による自動車、ナノテク技術によるカプセル型飲み薬のような胃カメラなどの超最先端技術の特許に加えて、「千と千尋の神隠し」のようなアニメを含めた映像ソフトや音楽などもサービス収支として期待できる。
――物づくりからサービス産業へのシフトが大切だ。
三宅 そして、それを育てるには、そうした技術のあるベンチャー企業をいかにして育てるか、資本を投資するかが大切だ。また、もうひとつは外国に移転した工場が稼ぎ出す収益、つまり所得収支をうまく管理してもらい日本に還流してもらう。そうすると、サービス収支と所得収支で貿易黒字の減少をカバーし、経常収支は引き続き黒字を保つことができる。
――つまり、サービス収支や所得収支で黒字となるよう日本経済の産業構造を変えるべきだと…。
三宅 そのとおりだ。そうなれば日本の景気は良くなる。また、それに関連して不良債権の処理を進めることが大切で、今までのように引当金を積むだけの間接処理では産業構造は遅々として変わらない。引当金を積むだけで古い体質の企業を存続させていては、こうした右下がりの環境では、不良債権がますます拡大しまた引当金を積まなければいけなくなる。このため、悪い企業は直接処理をすることで早く退場してもらうことが、銀行の体質改善、産業構造の変革の両方で大切なことだ。
――古い産業に早く見切りをつけて、新しい産業に投資をしなさいと…。
三宅 その意味では債務免除というのは最悪の選択だ。悪い企業が生き残るということで産業の構造転換を遅らせるばかりか、債務免除された不良企業が不当に安いコストで優位に立ってしまうという事態も起こりかねない。
――実際にゼネコンなどではそうした現象が指摘されている。
三宅 古い企業が淘汰されれば、そこに相当な失業者が出てきて、新しい産業へと労働力が吸収されていく。こういう形を早く作ることが大切だ。その過程では「血」が流れるが、これは新しい産業構造を作るために仕方のない「血」だ。それを恐れていては構造改革はできない。それを恐れてこれまで何もしなかったからこそ、失われた十年となってしまったのであって、この先も何もしなければ失うものはより大きくなる。新しいものを育てながら、古い企業は切り捨てることを同時並行的に行えば、日本経済は五年で立ち直れるのではないか。
――銀行界では政府のデフレ政策とも言うべき無策が不良債権を増殖させているのであり、デフレを直さなければ不良債権問題は片付かないという意見も多い。
三宅 デフレは銀行がお金を貸さないことが原因だ。新しい企業があり、これにお金を貸せば伸びると思っても、万が一失敗したら不良債権が増えると思って貸さないことがデフレの原因だ。見込みのある企業を探して、今は赤字だがこの経営者を信用して貸していこうという姿勢を今の銀行経営者は持っていない。今の銀行経営は、自分のメインバンクとしての経営責任の追及を恐れて経営不振の大企業が倒産しないようにつなぎ資金を供給しているだけで、新しい企業に投資しようという意欲が全く窺えない。このため、ここに至る銀行の経営責任は極めて重いと思う。だから、銀行に厳しい竹中財政・金融担当大臣や木村剛氏の意見にも尊重すべき点は多い。
――最後に、為替の円安介入を続けた結果、その残高が四十兆円に上っている。これは、いわば輸出産業への補助金あるいは米国政府への支援金と見ることができる。今や日本の財政赤字や不良債権の問題を勘案すると、そうした介入をやめ、米国債を売却するべきだとの議論も出てきているが…。
三宅 為替介入をしないで円相場が八〇円になっても良かったのかというと、その場合はもっと工場の海外移転が加速していたのではないか。そうなっていたら、まだ多少残っている物づくりが今の段階で全く無くなっていて、国内総生産も大幅に減少していただろう。このため、為替介入は国内産業の空洞化にブレーキをかけるスムージングオペレーションとして有効な措置だと思う。今後、大幅な円安となった時の対抗策としてとっておけば良いのではないか。 (了)