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転載元:http://www.foreignaffairsj.co.jp/intro/0212telhami.htm
Does Saudi Arabia Still Matter?
テルハミ、ヒル、アルオスマン他/メリーランド大学政治学教授、ブルッキングス研究所研究員、サウジ・アラムコ渉外担当役員他
二〇〇一年九月の米同時多発テロ事件以降、サウジアラビアとアメリカの関係は政治的に微妙となり、流動化している。加えて、アメリカのサダム・フセイン追放作戦をめぐる米・サウジアラビア関係のきしみも取りざたされる。こうしたなか、世界でクローズアップされているのは、イラク侵攻後の中東情勢、サダム後のイラク再建、さらには、石油の価格と安定供給がどうなり、それが世界経済にどのような影響を与えるのか、シーレーン防衛が見直されることになるのか、そして、これらが世界の安全保障地図にどのような影響を与えるのか、という大きな問題だ。これらのすべてにおいて、サウジアラビアが重要な鍵を握っている。
「テロ後の世界が、ロシア、アメリカ、石油輸出国機構(OPEC)にとって、まったく新たな地政学の見取り図をつくり出していること」を踏まえた戦略をとることの必要性を説いた「石油をめぐるロシア対サウジの最終決戦」(The Battle for Energy Dominance, Edward L. Morse, James Richard, Foreign Affairs 2002 March/April,「論座」二〇〇二年五月号)は、世界で、また石油の九九・七%を輸入に依存する日本でも大きな話題となった。論文の筆者であるエドワード・L・モースとジェームズ・リチャードは、ロシア政府がテロ後の「エネルギーをめぐる新たな地政学状況を政治・経済的に立ち直る好機」ととらえていること、ロシアの石油企業が国際化、市場経済化しつつあることに注目し、ロシアとカスピ海周辺地域などの旧ソビエト地域における市場経済型の石油開発計画が実現すれば、「今後四年のうちに旧ソビエト諸国からの石油輸出の合計は、サウジアラビアの輸出にほぼ匹敵する規模になる」と指摘した。ここに掲載するのは、「石油をめぐるロシア・ファクターを考慮した、テロ後の石油戦略及び地政学の見直しの必要性」を説いた同論文に対する反論と、筆者たちによる再反論。
<目次>
・サウジはいまも死活的に重要だ 公開中
・安定供給者としてのサウジの価値を評価せよ 公開中
・サウジの石油政策をめぐる神話
・石油をめぐる戦略地政学に目を向けよ
サウジはいまも死活的に重要だ/シブリー・テルハミ、フィオナ・ヒル
安定を保ってきたアメリカとサウジアラビアの関係も最近では広く議論の対象とされている。なかには、米外交の基軸にサウジアラビアとの関係を置き続けることに疑問を表明する専門家もいる。こうした現状は、一つには、二〇〇一年九月十一日のテロ実行犯の多くがサウジアラビア人だったという事実に関連している。テロ事件をきっかけに(何がテロリストを誕生させたのかを解明しようと)、サウジアラビアの社会や政治制度が広く検証されるようになり、テロリストを育んでしまったのはサウジの硬直的で時代遅れの社会、政治体質のせいだと考えられるようになった。フォーリン・アフェアーズ誌上でも、エリック・ルーロー元駐トルコ・フランス大使は「いまやサウジアラビアでは重大な危機がふつふつと煮えたぎっており」、大衆のリヤドとアメリカに対する怒りが、両国の関係に重大なリスクを突きつけることになる、状況をうまく管理できなければ、戦略的同盟関係が引き裂かれることになる、と指摘した(“Trouble in the Kingdom," July/August 2002.「サウジ王国の苦しみ」、「論座」二〇〇二年八月号)。一方では、石油市場の動向の変化、新たな石油のサプライヤーとしてのロシアの台頭が、サウジとの関係に対する異なる角度からの疑問を投げかけている。事実、モースとリチャードは「ロシア対サウジの最終決戦」をつうじて、「湾岸の石油は今後もアメリカにとって死活的に重要だ」という前提そのものに大きな疑問を表明した。
たしかに、モースとリチャードが指摘するように、昨今の情勢からみて、サウジアラビアが踏み込んだ政治・経済改革を必要としているのは明らかだし、これが実現すれば、王国の安定だけでなく、グローバル経済の繁栄も支えられよう。しかし、アメリカにとっての湾岸諸国、サウジアラビアの重要性や価値が低下しているという指摘は、多くの点で間違っている。
安定供給者としてのサウジの価値を評価せよ/アブドラティフ・A・アルオスマン
エドワード・L・モースとジェームズ・リチャードは人々に誤解を与え、事実とは異なる数多くの指摘をしている。OPEC全体の産出能力が一九八〇年のレベルを下回っていると指摘する彼らは、傍目にはそうみえる現象の裏に複雑な要因や環境があることを見落とし、状況を過度に単純化してとらえている。
七九年に世界の石油需要がピークを迎えて以降、需要は八九年まで回復しなかった。世界が資源節約に走ったために、OPEC原油への需要も低下した。つまり、OPECの生産者は、産出を増やす必要もなければ、八〇年代初期に予想された高い需要を満たすために構築された既存の生産能力をフルに稼働する必要もなかったのだ。事実、サウジアラビアは八〇年代初頭には日産九百万バレルだった産出レベルを、八〇年代半ばには日産七百万バレルへと低下させた。また、イラン・イラク戦争、湾岸戦争期におけるクウェートの油田地帯のイラクによる破壊、イラクの石油に対する禁輸措置の継続、イランへの外国投資を制限する米国内法の立法化など、過去と現在におけるさまざまな要因がOPEC加盟諸国の生産能力の成長を阻んでいることも忘れてはならない。
モースとリチャードは、中東の産油国は、七〇年代に国有化される前、つまり国際企業が中東で実現していたレベルを上回る生産能力の拡大に、その後成功していないと主張している。しかし、こうした主張は、サウジアラビアが八〇年代以降、生産能力を七百万バレルから一千万バレルを超える規模に引き上げることに成功したという事実を無視している。サウジ・アラムコは、巨大な資源があるにもかかわらず、開発の難しかったシャイバ油田の開発にも最終的に成功し、九八年からはすでに原油を市場へと送り込んでいる。しかも、サウジ・アラムコはこのメガプロジェクトのすべて、つまり、計画の立案、施設の建設にはじまり、掘削、地質・資源埋蔵の調査、さらには開発と生産に至る流れのすべてをファイナンスし、管理して実現させた。さらに、サウジアラビア中央部に位置するハウタ油田をはじめ、その他多くの石油資源が最近発見されており、すでにサウジ・アラムコはこれらを開発している。最後に、サウジ・アラムコは、毎年五兆立方メートルの天然ガス資源を既存の備蓄に上乗せしているし、今後二年間で天然ガスの生産を倍増させていく予定であることも指摘しておく。
モースとリチャードは、サウジアラビアはこの二十年間、生産能力を強化できていないと主張している。だが、筆者たちも認めているとおり、サウジアラビアはすでに日産三百万バレル規模の生産調整能力を持っている。つまり、考えるべきは、なぜ生産調整能力を強化しないかではなく、サウジアラビアがなぜこれ以上生産調整能力を強化する必要があるのかだろう。
サウジアラビアがいかに生産調整能力を利用してきたかについて、モースとリチャードは彼らなりの解釈を示すことで、「サウジアラビアは、先進諸国の消費者の利益を考えるのではなく、OPEC内部での価格決定の主導権を再確立することに血道をあげている」という印象を読者に与えようとしているようだ。彼らが引き合いに出しているのは、割り当てを通じて公正なシェアの実現をめざした八五年のケース、他のOPEC加盟国による過剰生産を牽制しようとした九〇年代末のケースだ。だが、これら二つのケースとも、われわれの行動によって大きな利益を得たのは世界の消費者であり、サウジアラビアではない。さらにモースとリチャードは、サウジアラビアは生産調整能力を武器に、他のOPECメンバーに対してリヤドの意向に従うことの重要性を教訓として体得させようとしていると考えているようだ。だが彼らの論文は、これまでサウジアラビアが状況に配慮し、責任ある行動をとってきたという事実を見落としている。実際、サウジアラビアは湾岸戦争期に価格の安定化のための措置をとり、クウェートとイラクからの輸出を埋め合わせる形で、世界の需要を満たすという重要な役割を担ったではないか。
*全文はフォーリン・アフェアーズ日本語版でご覧になれます
Copyright 2002 by the Council on Foreign Relations, Inc. and Foreign Affairs, Japan
転載元:http://www.foreignaffairsj.co.jp/edit/QA0212/0212telhami.htm
論争:サウジ石油の政治・経済的価値とテロ後の戦略地政学(Q&A編)
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ロシアからの石油輸出が増える今後、サウジアラビアの重要性は本当に低下するのか?
(シブリー・テルハミ、フィオナ・ヒル「サウジはいまも死活的に重要だ」より)
A:石油市場の安定という点からも、戦略・政治的価値という点からもサウジアラビアとの協調が死活的に重要
長期的な石油価格のトレンドは、政治、軍事戦略よりも、むしろ市場の需給関係によって左右される。しかし、政治的計算や予期せぬ事態によって生じる短期的な原油価格の乱高下が経済に大きな影響を与えることも無視できない。こうした変動を緩和する生産調整能力(過剰生産能力)を持っているのはサウジアラビアだけだし、当然、アメリカが石油市場を安定させられるかどうかも、サウジアラビアとの協調次第ということになる。
また、この数年間に解禁されたアメリカの政府文書によれば、ワシントンの戦略の中核目的は「妥当な価格で石油の供給を確保すること」だけでなく、「敵対的な勢力が湾岸地域を侵略し、石油資源の管理権を確立するのを阻止すること」にもあった。イラクや、米国務省が「テロ支援に最も積極的な国家」と呼ぶイランが現在アメリカの利益を脅かしていると考えられている以上、両国が石油の富を拡大させ、パワーを増幅させていくような事態をワシントンが放置する可能性はほとんどない。
現在のアメリカの湾岸での安全保障利益からみて、今後も米軍がこの地域で大規模なプレゼンスを維持していく可能性は高い。そのためにもワシントンは、サウジアラビアとの良好な関係を維持していくことに高い優先順位を与える必要がある。
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サウジアラビアは石油の生産調整能力をなぜ行使するのか?
(アブドラティフ・A・アルオスマン「安定供給者としてのサウジの価値を評価せよ」
サイラス・サマセビ「サウジの石油政策をめぐる神話」より)
A-1:サウジアラビアは状況に配慮し、責任ある行動をとってきた。サウジアラビアの生産調整能力行使によって大きな利益を得たのは世界の消費者であり、サウジアラビアではない。(アルオスマン)
実際、サウジアラビアは湾岸戦争期に価格の安定化のための措置をとり、クウェートとイラクからの輸出を埋め合わせる形で、世界の需要を満たすという重要な役割を担った。
潤沢な石油資源を持つサウジアラビアは、今後数十年にわたって世界の需要増を容易に満たしていくだけの能力を持っている。アメリカのような石油消費国にとって、サウジアラビアが持つ現在、あるいは将来の生産調整能力は大きな安心材料だろう。必要なときに石油消費国との共有利益を基に生産調整能力を積極的に活用していく意思を持っていることも安心材料となるに違いない。
A-2:サウジの生産調整能力の行使を利他主義的観点から解釈するのはひどく間違っている(サマセビ)
サウジが生産調整能力を持つようになったのは、うまく練り込まれた計画の結果ではなく、サウジ側の石油需要の先読みが間違っていたことに派生する副産物にすぎない。
七〇年代末期から八〇年代初期にかけて、サウジの生産能力は日産一千万バレルという高水準に達していた。しかしその後、世界的なリセッション(景気後退)やイラン・イラク戦争の終結で、需要が減り、供給が拡大していたにもかかわらず、リヤドが石油価格を維持しようとしたため、サウジ石油への需要は日産三百万バレルにまで落ち込んでしまった。その結果、サウジアラビアは、その後長期にわたって過剰生産能力、つまり生産調整能力を抱え込むことになったにすぎない。
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なぜロシアの石油輸出は今後増加すると考えられるのか?
(エドワード・L・モース、ジェームズ・リチャード「石油をめぐる戦略地政学に目を向けよ」より)
A:国内外の石油企業の投資の増加、輸出インフラ整備の進展が見られるため
ロシアの石油企業が大きく変貌しつつある。ロシアは、どのタイミングでどの地域に投資すれば最大の利益を引き出せるかという、基本的投資ルールに基づいて積極果敢に石油開発への再投資を行っている。
ロシアからの輸出の障害があるとすれば、それは、資源基盤や生産能力というよりも、むしろ、パイプラインや港などの輸出インフラがうまく整備されていないことだ。だが、これらの輸出インフラの整備には今後外資が投入される可能性が高い。一方、ユコスとルクオイルというロシアの二大石油企業は、こうした制約を克服しようと、二〇〇二年にアメリカ市場への輸出を開始した。
いまや、時はロシアに味方している。二〇〇二年の四月以降だけをみても、ロイヤルダッチシェル、トータルフィナエルフ、BP(ブリティッシュ・ペトロリウム)が、今後五年間に、数十億ドル規模に達する新規投資を行うことを矢継ぎ早にロシアに約束している。こうした国際的石油企業が投資の約束をしたのは、ロシアで根づきつつある市場経済がますます躍動的になり、活況を呈しつつあるからだ。