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【バンコク小松健一】タイ大使館やタイ系企業を焼き打ちするなどしたカンボジアの暴動で、タイのタクシン首相は31日、カンボジア政府から、事件の真相究明と損害補償額算定のためタイと合同委員会設置の提案を受けたと述べ、「カンボジア政府は迅速に対応している」と評価した。
カンボジアでは東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議(6月)、総選挙(7月)を控えており、フン・セン首相は治安回復とタイとの外交、経済協力関係修復に努める方針だが、暴動を誘発したカンボジア国内のナショナリズム高揚は今後、首相の舵取りに微妙な影を落としそうだ。
暴動の発端は、18日付カンボジア紙ラスメイ・アンコールが、タイの有名女優、スワナン・コンジンさんが「(世界文化遺産の)アンコールワットはもとはタイのものだった」と発言したと報じたことだった。その後、フン・セン首相がスワナンさんを「アンコールワットを盗もうとする『泥棒スター』だ」と酷評し、一挙にカンボジア国民の反タイ感情に火がついた。
カンボジア警察は31日までにラスメイ・アンコール紙の発行人や、ラジオでタイを批判したFMラジオ局経営者ら150人以上を逮捕。同紙の報道の経緯を調査するカンボジア情報省職員は「発言は虚報の可能性が強い」と明言している。
複数のカンボジア人記者によると、半年ほど前から何者かが複数の新聞社に対し、スワナンさんがテレビドラマなどで問題の発言をしていたと指摘し、掲載するよう求めていたという。ラスメイ・アンコール紙の発行人も逮捕前、AP通信に「新聞社を訪れた3人のカンボジア人から話を聞いて記事にした」と語った。
フン・セン首相はかねて「タイの女優は肌を露出し、若者に悪い影響を与える」とタイの娯楽文化の流入を懸念。テレビ各局も政府の指示で昨年からタイのドラマや映画の本数を減らしたが、スワナンさんの報道で首相はタイの映画、番組の全面禁止を決めた。
バンコクに逃れたタイのチャチャウエ駐カンボジア大使は「警察に救援要請しても無関心で、暴徒は組織化されている印象を受けた」と述べ、意図的なナショナリズム扇動があったと示唆する。
カンボジア首相府筋は「フンセン首相は治安を重視し、総選挙にも自信を持っている。また、暴動は大きな痛手となる」と語り、首相が暴動の背後にいるとの見方を否定した上で「新聞報道に過剰反応した首相の信頼回復が急務だ」と語った。野党勢力は一斉摘発を「反体制派の弾圧」と批判。連立与党からも暴動を防げなかった首相の責任を問う声も出ている。
■15世紀にタイ侵攻 カンボジアのクメール族は9世紀初頭、インドシナ半島のほぼ全域を版図にし、アンコールワット建造などクメール文化を発展させた。だが15世紀にタイの侵攻でアンコールワットを中心とした都を放棄。その後もタイ、ベトナム両軍の攻撃を受け、アンコールワットのあるシエムレアプやバタンバンなどのカンボジア西部がタイの実効支配下にあった。
カンボジアは1863年、フランスの保護国となり、フランスによる交渉で領土を回復したが、インドシナへの軍進駐でタイとの友好を求めた日本の調停で1941〜47年の間、再びタイ領に編入された。暴動を招いた新聞報道は、領土問題で不満を抱えていたカンボジア民衆の反タイ感情を刺激したようだ。
[毎日新聞2月1日]
●やっぱり誰かがあおったんだ…