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北朝鮮から中国に脱出した日本人妻（６４）が、２９日にも帰国する見通しとなったことで、政府は、脱北者問題への早急な対応が必要としている。日本国籍のある人や元在日朝鮮人の保護をどうするか、さらに、かつての「ボートピープル」のように避難民が大量に上陸したらどう対応するか――日本政府は様々な課題を抱えている。
◆秘密に限界◆
政府は２８日、外務省の藪中三十二アジア大洋州局長を中国に派遣した。北朝鮮から中国に脱出した日本人妻（６４）の帰国問題と今後の対応について協議するのが目的と見られる。
藪中局長によると、政府の保護した主に日本国籍の脱北者は「何十人という単位」だという。
政府は、ひそかに協力を得ている中国政府への配慮などからこれまで脱北者についてほとんど情報を明らかにしなかった。それを公の場で表明した背景には、朝鮮半島情勢の不安定化で今後、大量の脱北者が日本を目指す可能性があり、従来の「個別」「秘密」の対応では限界があると判断したようだ。
外務省は、「これまでは様々な方々の協力を得てやってきているが、多数となると限界がある。日本に戻ってきた時、生活を再開するのに不便が生じる。それを支援するために知恵を出す必要がある」（竹内次官）として、法的な問題も含めて検討を急ぐ考えだ。
◆別の枠組み必要◆
外務省はすでに、脱北者保護にかかわった民間活動団体（ＮＧＯ）に対し、旅費などの形で費用を支出したことを明らかにしている。脱北者の生活をＮＧＯとも協力して支援する方針とされるが、こうした支援には限界がある。
昭和３０年代以降、北朝鮮に渡った日本人配偶者の場合、日本国籍を持っていれば、帰国すると生活保護の対象だ。元在日朝鮮人でも日本に永住権を持っていれば、日本人と同様に対応することが可能という。だが、政府は、「本人や北朝鮮に残る親族の安全確保のため、脱北者の帰国後の消息は一切明らかにできない」との方針だ。脱北者自身も身元を隠すため、住民登録がなく、生活保護も受けられないのが実情だ。
脱北者を放置すれば、「住民登録がなくても日本人であることに変わりない。最低限度の生活を保障しなければ、憲法違反」（総務省）となる。
このため、生活保護とは別の枠組みが必要と考えられている。
新法で支援するには、対象者の身元、人数を明らかにしなければならない。外務省内には「北朝鮮に渡った日本人妻の人数は特定されている。それを最大の枠として支援範囲を設定すれば、対象人数を特定しなくても法案は可能だ」との見方がある。だが、中国政府にとって、脱北者は不法入国者だ。現在は、人道上の理由から秘密裏に日本に送っているが、「法律に明記すると外交上の問題が生じるのではないか」（法務省幹部）との指摘もある。
◆難民の対策◆
政府が悩ましいのは、日本人と元在日朝鮮人以外の日本への脱北者の対応だ。
今月２０日、中国山東省から亡命を図ろうとした北朝鮮住民数十人が中国当局に拘束されたことが明らかになった。支援したＮＧＯが「半数が日本を目指していた」と公表し、日本政府をがく然とさせた。政府は、朝鮮半島情勢が緊迫した１９９４年、大量の避難民を超法規的に受け入れる特例措置を極秘に検討した。その際は、半島情勢が安定した後、避難民は速やかに帰国させるとしていたが、北朝鮮の体制が維持され、難民の上陸が相次いだ場合の対応は十分詰まっていない。
ベトナム戦争の激化で「ボートピープル」と呼ばれる避難民が大量上陸した７８年、政府はインドシナ難民の定住を認める閣議了解を行った。２０００年度まで約１万人受け入れた。
ただ、外務省は、特例措置のためには「国連などの国際機関が脱北者を難民と認定し、各国に協力を要請するのが前提だ」（首脳）としている。難民条約では、食糧難など経済的理由による避難民を「難民」と認定するのは困難で、受け入れるには国際機関などのお墨付きが必要というわけだ。
現在、国連難民高等弁務官事務所（ＵＮＨＣＲ）が中国に対し、拘束された脱北者との面会を求めているが、中国の返答はない。脱北者の難民認定については先行きは不透明だ。
(1月29日03:10)
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