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【モスクワ9日=古本朗】米露戦略核兵器の削減に関するモスクワ条約(今年5月調印)の発効後、露軍が、奇襲攻撃能力に優れ、冷戦期に西側から「サタン(悪魔)」のコードネームで恐れられたSS18を含む各個誘導多核弾頭(MIRV)搭載大陸間弾道弾(ICBM)を、170基余も配備する見通しであることが、露政府の政策決定に大きな影響力を持つ露研究機関により明らかにされた。配備の背景には、同条約が、本来、禁止の運命にあったMIRV搭載ICBMを容認したことがあり、「冷戦思考の清算」を掲げる条約が、冷戦の亡霊のような奇襲用兵器復活を許す皮肉な現象を生みつつある。
この見通しは、モスクワの「軍縮・エネルギー・環境問題研究センター」(アナトーリー・ジヤコフ所長)が、軍上層部からの情報に加え、進行中の露軍核戦力再編の方向性や、今後、核兵器部門が獲得し得る財源規模などを踏まえて行ったもの。米露の配備核弾頭数を各1700―2200発まで減らすモスクワ条約の履行が完了に近づく2010年時点の、爆撃機搭載以外の露軍戦略核兵器の配備状況を予測している。
それによると、地上配備のICBM、潜水艦発射弾道弾(SLBM)の総数は404基、配備弾頭総数は最大で1804発となる。この中には、SS18(搭載弾頭10発)、列車積載型SS24(同10発)、車両積載型SS27(同3発)のMIRV搭載ICBM3機種が最大で172基も含まれる。専門家や軍部関係者の間で、この見通しは極めて確度の高いものとされる。
MIRV搭載ICBMは、敵ICBM基地などを迅速に破壊する能力が高いため、第一撃で報復戦力を根絶やしにしてしまう奇襲攻撃用兵器と目される。このため、極めて危険な兵器として第2次米露戦略兵器削減条約(START2)(1993年調印)で禁止が決定。だが、START2は米側で未批准のため発効しないまま、モスクワ条約が結ばれた。同条約は、削減幅では、各3000―3500発への削減を目指したSTART2より大幅だが、露側の要請で、MIRVには制限を設けていない。
露側が、MIRV化ICBM復活を望んだ理由のひとつは、米国が推進中のミサイル防衛(MD)計画にある。複数の弾頭を敵の頭上に降らせるMIRVの方が単弾頭ミサイルよりも、MD網突破の可能性が高いからだ。
また、古いICBMの寿命延長は、財政難のロシアにとり、より負担が少ない。セルゲイ・イワノフ露国防相は8月、SS18の使用年限を延長し、配備し続ける方針を表明した。無論、米国も、MIRV戦力を保持する。
こうした状況について、ある外交筋は、「将来、米露関係が複雑化した場合、双方が奇襲用核兵器を配備する状況は緊張を一層高め、コンピューター誤作動などによる偶発的な核発射の危険を高めかねない」と懸念を表明した。