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『日経新聞』9月1日付 朝刊
【同時テロ1年 識者に聞く】
サウジ知識層募る「反米」
英王立国際問題研究所 マイ・ヤマニ氏
▼英王立国際問題研究所(チャタムハウス)の中東問題研究員。ロンドン大学のイスラム・中東法律研究センター、米ジョージタウン大の現代アラブ研究センターなどにも所属。父はサウジアラビアのヤマニ元石油相。45歳。
●昨年九月の同時テロから一年、サウジアラビアの対米世論はどう変化してきたか。
「十代の若者たちの間で、携帯電話の待ち受け画面にウサマ・ビンラディン氏の映像を入れるのがはやっている。彼をテロの首謀者ではなく、イスラムの尊厳の救済者と受け止め、そう考える自分たちがゆがんでいるとは思っていない」
「これまでサウジは米国の同盟国であり石油の供給源だった。しかし、同時テロ犯のうち九人がサウジ出身と分かったとたん、米国はすべてのサウジ人をテロリスト扱いし、サウジも感情的になった。大勢の若者が米国留学を切り上げて帰国している」
●学者、弁護士などサウジの知識層の反応はどうか。
「保守からリベラルまで様々な立場の人が、アルジャズィーラ(カタールの衛星テレビ)でパレスチナの惨劇を見て反米感情を募らせている。米国が世界の警察官として米国のルールを押しつけるたびに、アラブの尊厳、イスラムの自由といった理念が強まっていく」
●米国はイラク攻撃の準備を進めている。
「米国のイラク攻撃はサウジに二つの影響を与える。一つは大衆の怒りだ。同じイスラム国家でも、心情的に遠いアフガニスタンと隣のイラクでは衝撃度が違う。大衆の怒りだ。同じイスラム国家でも、心情的に遠いアフガンと隣のイラクでは衝撃度が違う。大衆や宗教指導層は、サウジの基地から飛び立った米軍機がイラクを爆撃する事態を許さないだろう」
「二つ目は、サウジと米国を結びつけてきた石油貿易の変化だ。フセイン政権が倒れたあと、イラクに親米政権が誕生するかもしれない。サウジに次ぐ石油埋蔵量を持つイラクを押さえ込めば、米国にとってサウジは重要な国でなくなる」
●サウジ王室はテロ後にどう変化したか。
「分裂の度合いを増し、権力構造があいまいになった。ファハド国王の後継者として、アブドラ皇太子、(ファハド国王らを輩出してきた)スデイリ一族などがせめぎ合っている」
「問題は七十九歳のアブドラ皇太子を筆頭に、後継者候補がみな七十代であることだ。人口の半分が十五歳以下の国で、これらの人々がビジョンを持って改革を進められるのか。豊かな時代に生まれ、高度な教育を受けた若い世代は改革を求めている。望みが満たされなければ、失望が怒りに変わり王室にぶつけられる。今はインターネットも衛星放送もある。王室批判がタブーだったのは昔の話だ」
●米国とサウジの関係改善は可能か。
「テロ撲滅を目指すブッシュ米政権の中東政策は理解できるが、アメリカ化することが改革ではない。サウジ、シリア、ヨルダンといった中東の親米国はいずれも国内に反米勢力を抱えている。透明性と説明責任がないと大衆は納得しない」
「サウジには真の意味での民主化改革が、いますぐ必要だ。それを成し遂げるには米国の後押しがいる。改革の手を緩めれば、サウジは暴発しかねない。残された時間は少ない」
(ロンドン=大西廉之)