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「反米」下地に謀略説 公式説明の不信突く フランス
(2002年8月13日付 朝日新聞 連載コラム『テロに襲われた世界1』から)
米国での同時多発テロの犯人はイスラム原理主義者ではない。実は、米軍内の右派勢力と軍需産業が国防費増額をねらって仕掛けた謀略だ−−。
そう主張する本がフランスでベストセラーになった。インターネットのニュースサイト代表、チエリ・メサン氏(45)の「恐るべきペテン」だ。
米国防総省(ペンタゴン)に激突したのは旅客機ではなく米軍のミサイルだ、という途方もない話から始まる。ニューヨークの世界貿易センターに突っ込んだ2機にもテロリストは搭乗しておらず遠隔操縦だった可能性がある、と続き、公表資料などから、自説の裏付けと見える部分をつないでつづっている。
ビンラディン氏自身が犯行声明に近い発言をしているではないか、とメサン氏に聞いてみると、「彼も米国側の手先で、いっしょになってイスラム・テロ説をでっち上げている証拠だ」と答えた。自説への反証さえ補強材料にしてしまう。
3月の出版以来、22万部売れた。時事問題の本としては異例で、スペイン語などの翻訳の売れ行きも快調という。アラブ首長国連邦のシンクタンクに招かれ講演もした。
人気の理由を、本人は「高慢な米国の公式説明では、すべてを知らされていないと人々は感じていた。私の本はそこを突いた」と説明する。
大事件に「謀略説」はつきもの。持ち合わせの知識で理解できない複雑な出来事を前にすると、人は「情報機関の仕業」といった安易な説明に引かれる。
だが、「フランスで謀略説がこれほどヒットしたのは初めて」と、週刊誌ルポワン記者のジャン・ギネル氏(50)はいう。反論の書「恐るべきウソ」を記者仲間と出版した。現場に出向きペンタゴンに激突する旅客機の目撃者たちにも会って証言を集めた。
「仏大統領選で極右が伸びたのと同じ背景がある。政府やメディアなどのエリートたちへの不信感だ。彼らの説明は信じられない、というわけだ。フランス特有の反米感情もあるだろう」
パリ第8大学講師(社会学)のパスカル・フロワサール氏(34)は「広告の効果」と見る。新聞でこの本への批判記事が相次ぎ、テレビ番組は著者インタビューまでした。「宣伝効果は絶大」。その結果、人々はスパイものの娯楽小説として「消費したのだ」という。「読者は本の内容を信じているわけではないと思う」
テロ以降、アフガン空爆を経て今度は対イラク攻撃へ。どこからも納得のいく説明がないまま引きずられているような感覚。読者は「結局、悪者は米国だった」という筋書きの物語で留飲を下げているのかもしれない。(パリ=大野 博人)