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http://www.foreignaffairsj.co.jp/intro/0208brooks.html
アメリカの覇権という現実を直視せよ-単極構造時代の機会と危機
American Primacy in Perspective
ステファン・G・ブルック/ダートマス・カレッジ助教授
ウィリアム・C・ウォールフォース/ダートマス・カレッジ準教授
論文の要旨
国力を構成するすべての領域で、アメリカは支配的な優位を確立しており、われわれは、アメリカの覇権による単極構造の世界にある。今後数十年にわたって覇権抗争を展開できる国が出現する可能性はほとんど無いし、アメリカへの対抗バランスを形成するというレトリックも全く実体に欠ける。
単極構造下の覇権国は、世界、そして自国にとっての長期的な視野に立った利益を模索するゆとりを手にしている。このゆとりを利用し、世界の問題が深刻化してから状況に対応するのではなく、そうした問題が出現しないように先手を打つやり方をとることこそ、世界、アメリカ双方にとっての利益となろう。
単極構造の時代?
政治コラムニストのチャールズ・クラウサマーが「単極構造時代」の到来をこの誌面で宣言したのは、いまから十年以上前のことだ。彼は、単極構造を、アメリカという唯一の超大国が国際社会の一頭抜きんでた存在として君臨する秩序として描き出した("The Unipolar Moment," America and the World 1990/1991, Foreign Affairs)。その後、一九九一年には(冷戦期のライバルである)ソビエト連邦が崩壊し、ロシアの経済的、軍事的衰退は避けられなくなった(かつて経済的にアメリカを脅かした)日本もリセッションに陥っていた。そして当時のアメリカはといえば、史上最も長い躍動的な経済成長の時代を謳歌していた。
しかし、『フォーリン・アフェアーズ』の読者ならご承知のとおり、九〇年代末までには、われわれは単極構造の崩壊を指摘する声を耳にするようになる。政治学者のサミュエル・ハンチントンは「すでに単極構造は『単=多極構造』に取って代わられつつある」と指摘し、早晩、曖昧模糊とした多極構造時代へと秩序は変貌していくという見方を示した("The Lonely Superpower," March/April 1999 「孤独な超大国」、『フォーリン・アフェアーズ傑作選』所収、朝日新聞社、二〇〇一年)。この時期、アメリカの政府官僚たちは、あたかも単極時代にあるかのようなレトリックを用いていたが、一方で、ハンチントンの見解に同意する人々も少なくなかった。当時の世論調査でも、「アメリカはたんに主要国の一員であるに過ぎないし、しかも、そうした主要国の数は、近年とみに増大している」とみなすアメリカ人は四〇%に達していた。
アメリカのパワーが明らかに拡大していたのに、多くの人々は、なぜ単極秩序論にはそれほど説得力がないと考えたのか。その理由は、秩序の目的そのものが変化したからだ。秩序に一つの極しか存在しないとみなすクラウサマーの単極構造論は、二極構造によって成り立っていた冷戦が崩壊した直後にはそれなりの妥当性を持っていた。人々は、アメリカを向こうにまわしてライバル役を演じる大国がいない世界は、さまざまな意味でこれまでの秩序とは大きく違うものになると直感した。だが、その十年後に次第に明らかになったのは、純然たるライバルが見あたらないというよりも、むしろ、ワシントンだけでは対処できない問題が増えているという現実だった。
ハンチントンが考える単極構造は次のようなものだった。「そこに存在するのは、一つの超大国、数多くの小国であり、手強い大国は存在しない。超大国は単独で重要な国際問題をうまく解決する力を持ち、他の諸国には、こうした超大国の試みを阻止する力がない」。だが、実際には、アメリカにはそのような力がなく、よって、単極構造の担い手としての資格はない。これがハンチントンの言い分だった。
確かに、二〇〇一年秋に起きた米同時多発テロは彼の言い分を実証してしまった部分がある。テロ攻撃は、アメリカの脆弱性だけでなく、アメリカへの強い反発が世界的に高まっていることを露呈してしまった。テロによって、世界はこれまでよりもはるかに危険な場所と化してしまった。街角のいたるところに危険が待ち受け、市民的自由を犠牲にしてまでも警戒態勢をとらざるを得なくなった。しかし、アメリカがたとえテロ攻撃に脆いとしても、それによって、伝統的な国家間関係における強さが損なわれることはない。この事実は、アフガニスタンでの軍事作戦の成功からも明らかだろう。テロへの対応は、ワシントンが世界の複数の地域にほぼ単独で戦力を展開できる能力を持っていること、そして、いとも簡単に国防予算を五百億ドルも増額できることを世界に見せつけ、アメリカが希有な立場を手にしているという見方を強めることになった。
現在のアメリカが持つ、他国に対する圧倒的な優位を持ってしても、それが単極構造ではないというのなら、今後単極構造が現実になることはほぼあり得ない(いまや単極構造にあるのは間違いなく)、むしろ議論すべきは、アメリカを頂点とする単極構造がどの程度長続きするか、それがアメリカ外交にどのような意味合いを持つか、である。