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防衛白書――脅威の列挙はよいが
なるほど世界はひどく不安定で、日本もおちおちしていられない。300ページに及ぶ防衛白書をめくっていく
と、各地の軍事情勢の解説にそんな気にさせられる。
だが、あれだけ騒ぎになった防衛庁の個人情報リスト作成問題が、282ページ目に申し訳程度のコラムでしか登場
しないご都合主義を見ると、読む方もちょっと用心深くなろうというものだ。
今回の白書は昨年の米同時多発テロ後初めてだけに、「新たな脅威」を強調するのは分かる。このテロで「人々は新
たな『不安な時代』に生きていることを認識することになった」とし、テロとの戦いは「新しい種類の戦争」なのだと
書いている。
その認識も間違いだとはいえまい。だが、そんな言い方も含めて、多くを割いた米国の動向についての記述を読む
と、これは「米国の白書」かと思うほどだ。
たとえば「この闘いを通じて米国は唯一の超大国としての圧倒的な国力を国際社会に示している」とのくだり。ある
いは「第2段階では、米国は、各国に自国内のテロとの闘いに取り組むよう促すとともに、必要があれば各国の軍隊を
訓練や装備などで支援する方針である」との書き方だ。
米国が唯一の超大国になったのはその通りだが、それゆえ目に付く単独行動主義の危うさには、欧州などから強い懸
念が示されている。なのに、そんなことにはほとんどお構いなしである。
核政策についても、米国は「包括的核実験禁止条約の批准に反対する一方で、核実験のモラトリアムを継続すること
としている」と、日本がこの条約を推進しているとは思えない書きっぷりだ。
対テロ戦争では米国の呼びかけに日本が応じたことを細かく紹介し、インド洋への自衛艦派遣は「国際社会に対する
責任を果たすものとして国民の多くに支持されている」と胸を張る。が、憲法解釈の悩ましさや、割れた世論には触れ
ずじまいだ。
テロの一方で、朝鮮半島情勢の不安定さや中国国防費の「不透明性の増大」にも警戒感を強調した。日本はいわば新
旧の脅威にさらされている、と言いたげだ。
しかし、極東ロシア軍の変化については「冷戦時代のソ連軍のような規模・態勢に戻る可能性は低い」とする程度
で、脅威の圧倒的な削減による防衛政策の見直しには踏み込まない。これはどうしたことか。
防衛庁は防衛大綱の見直しに向けて「防衛力のあり方検討会議」を重ねてはいる。必要なのは、北海道に手厚い冷戦
時代の部隊配置をやめ、警察などとともに、テロやゲリラ上陸に機敏に備える態勢を早急に整えることだ。発想の転換
である。
真に国民の自衛隊として、新たな脅威から国民を守るにはどうすべきか。継続審議になった有事法案のように、古い
発想ばかり前提にしていては、国民の理解は得られまい。
http://www.asahi.com/paper/editorial.html