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帰国に対する声明
私たちの三人の娘たちが帰国して一年余の歳月がすぎました。彼女たちはアルバイトでしか職に就けない日本で生活することの大変さを肌で感じ、また「北朝鮮帰国子女」「よど号の娘」に対する政治的な風当たりの強さ、厳しさも体験しました。ピョンヤンで生活苦、政治的迫害という言葉すら知らずに育った彼女たちにとっては、苛酷な一年でありました。しかし彼女たちは一様に言います。「帰国して本当によかった」と。
彼女たちに続き、昨年9月に帰国を果たした金子恵美子は「よど号の妻」というだけで保釈はおろかいまだ接見禁止、長期裁判といういわれのない拘留生活を 強いられています。しかし彼女は、手錠姿の車窓から見た富士山に一句を詠み、鉄格子を通して見える木々のそよぎに短歌をしたため、囚人生活でも祖国の懐に抱かれた喜び、同胞とともにいるぬくもりを伝えています。
私たちにとって、冷たい風が吹いても日本はたったひとつの祖国、渡朝以来32年の歳月、私たちを支えてくれた愛する祖国なのです。青雲の志を抱いて祖国を後にしたのも、長い異国生活も、ただ日本のためにの一念を心の柱としてのことでした。
今日、私たちの帰国問題は、「日本人拉致容疑」という攻撃がかけられ、私たちが「北朝鮮のテロ工作員」とされることによって、朝鮮民主主義人民共和国(以下、共和国と略す)が「テロ支援国家」であるという世論がつくられ、かつてなく共和国への敵対的感情が煽られています。こうしたなか、米ブッシュ政権の「悪の枢軸」論など、共和国への「反テロ戦争」画策と連動して、わが国では周辺事態法につづき有事法制化が進み、朝鮮半島を焦点にした戦争体制確立へと急速に事態が進展しています。
私たちを「北朝鮮のテロ工作員」に仕立てることは、これまでわが国の共和国敵視政策を促進させる常套手段になってきました。1988年には「ソウル五輪テロ工作員」として私たちの一員である柴田が日本で逮捕され、1996年には「似ドル工作員」として田中がカンボジアで逮捕されタイに連行されました。これらがまったく根拠のないデマ宣伝であったことは、すでに法廷などで実証されています。
今回、私たちにかけられた「日本人拉致容疑」も、これまでの「事件」と同様に私たちには身に覚えのないものであり、その背後に邪悪な政治的企図を感じるのもまたこれまでと同様です。
私たちを利用した「北朝鮮テロ工作」事件は、米国の共和国孤立、抹殺政策があり、そしてわが国をその先兵にしようとする米国の企図がある限り、今後とも手を変え品を変えさまざまな形でつくられていくことでしょう。
こうした事態を考えたとき、私たちはこれ以上、帰国問題を遅らせることはできません。元来、私たちの帰国問題さえ解決していれば、このような「事件」がわが国の世論を騒がせることも、わが国がこの種の「世論」にふりまわされて共和国と敵対させられることもありえませんでした。
特に今回の私たちに対する「日本人拉致容疑」は、米国の「反テロ戦争」、第二次朝鮮戦争へのわが国の参戦と一体のものであるだけに、この「容疑」を晴らすことは一刻の猶予もならないものと考えています。
私たちが共和国にいることが「テロ国家」攻撃に利用され、それが日本の将来を誤らせるなら、これほど胸痛いことはありません。それを私たちは最も危惧します。わが国の将来を誤らないためにも、私たち全員の帰国問題の速やかな解決が、今、切実に問われていると考えます。
ところが、日本政府、司法当局の対応は、私たちの帰国の道をふさぐことによってむしろ日朝間の緊張、対立激化の火種をかきたてているとしか思えません。これが日本の利益を考えての対応なのか、私たちは大いに疑問を感じています。
「よど号裁判」での田中義三への懲役12年という長期刑の適用、そして金子恵美子への旅券不返納罪、有印私文書偽造罪という本来、事情聴取だけで終わる「罪」に対する、すでに10ヶ月に及ぶ面会もできない異常な長期拘留、これらはその証左です。田中について言えば、ハイジャックについて自ら非を認め、乗客、乗務員に謝罪し、二度と同じ過ちを繰り返さない自らの決意と後世への教訓をこめ、当時の私たちの思想を根本から総括しました。にもかかわらず、司法当局はこれに一顧も与えず、「考えうる最大の懲罰」を加えています。
また金子裁判で本件と無関係の「拉致証言」が公安検事によって組織され、帰国した娘たちには「拉致集団の子」という政治的迫害にさらされる生活が強いられています。
帰国した彼らの境遇を見て、どうして安心して子供らを祖国に送り、私たち全員が帰国できると言えるのでしょうか。
日本政府の私たちへのこうした理不尽な対応の基礎には、私たちを「北朝鮮テロ工作員」と」見なす先入観があり、またその背景には「反テロ戦争」を要求する米ブッシュ政権の政治的偏見、共和国敵視があります。
私たちは帰国するにしても日本人として日本のためになる帰国になることを願っています。今、それは、私たちへの「北朝鮮テロ工作員」という先入観、偏見を解き、わが国が米国の「反テロ戦争」に参戦する危険をなくす帰国です。
私たちは、これまでも日本政府に合意帰国のための協議を呼びかけてきました。しかし、いま、その要求はさらに切実です。私たちは日本政府が私たちに対する認識を正すことなしには、帰国問題の正しい解決はないと考えます。日本人として互いに顔を合わせ協議すれば誤解も解け、日本のためにという共通の利益が両者の納得のいく解決策を生み出すと私たちは信じます。
私たちは、わが国が米国の「反テロ戦争」、第二次朝鮮戦争の矢面に立たされる危険を回避し、そのための口実を米国に与えないためにも、そして日朝間の緊張状態を緩和し、日本とアジアの平和と安定に寄与するためにも、日本政府が勇断をもって、私たちの全員帰国問題解決の協議の場を速やかに設けることを心から願うものです。
最後に私たちの帰国問題解決について祖国の皆様方の暖かいご理解とご声援をいただくことを願ってやみません。
2002年7月10日 代表 小西隆裕
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