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米ブッシュ政権が同時多発テロ(昨年9月11日)発生前に警告情報をさまざまなルートで得ていたことが発覚し、大きな問題となっている。とりわけ米連邦捜査局(FBI)は、「本部が現場情報を握りつぶしていた」と内部告発されて大揺れだ。連邦議会は4日から公聴会を開催して真相解明に乗り出す。「テロは防げたのか」。ブッシュ政権と民主党との間で11月の中間選挙もにらんだ攻防が始まった。【ワシントン佐藤千矢子】
◆大統領への報告
テロ警告情報は5月中旬以降、続々と明らかになっている。特に昨年8月、ブッシュ大統領が休暇先のテキサス州クロフォードで米中央情報局(CIA)から「ウサマ・ビンラディンの支援組織アルカイダが米航空機のハイジャックを狙っている」と報告を受けていたという問題は政権を直撃した。
民主党は勢いづいた。ダシュル同党上院院内総務は「なぜ(同時多発テロ後)8カ月も明らかにしなかったのか」と報告書の内容を公開するよう要求。ヒラリー・クリントン上院議員も「大統領は何を知っていたのか、選挙民は知りたがっている」とたたみかけた。
ブッシュ政権側は、ライス大統領補佐官が「分析的な報告で、具体的な時間や場所は示されなかった」と反撃。チェイニー副大統領が「新たなテロ攻撃はいつかは分からないが確実だ。昨年9月11日と同様に」と述べるなど、最近、閣僚が次々と新たなテロ警告情報を発したのは、昨年の大統領への報告も、現在と同様、具体的なものではなかったという意味が込められている。
問題の大統領へのCIA報告は97〜98年の古い資料に基づく。一連の警告情報はクリントン前政権時からあり、民主党も返り血を浴びる可能性があるが、日替わりで情報リークが続く中、ブッシュ政権が「爆弾」を抱えたのは確かだ。
◆FBI問題も深刻
米メディアは連日のようにFBI問題を報じている。FBIミネアポリス支部(ミネソタ州)の捜査官、コリーン・ローリーさん(47)が5月21日、モラーFBI長官あてに送った13ページに及ぶ内部告発書簡の内容が深刻だからだ。
同時多発テロ前の昨年8月に逮捕され、19人のテロ実行犯に次ぐ「20番目の男」と称されるザカリアス・ムサウイ被告=同時多発テロの共謀罪で起訴=のパソコンの捜査許可をFBIミネアポリス支部捜査官が本部に申請したところ、却下されたという内容で、「テロを完全に防げないとしても、パソコン情報から実行犯を事前に割り出せたかもしれない」と訴えている。
昨年7月、フェニックス支部(アリゾナ州)の捜査官が、同州の航空学校に通う中東出身の生徒の捜査を本部に求めたにもかかわらず、取り上げられなかったとのメモも暴露された。
元FBIテロ対策副主任で現在はマーシーハースト大学情報分析事業部長を務めるロバート・ハイブル氏は、毎日新聞の取材に「確実な情報がいくつかありながら分析に失敗したことは明らかだ」と語り、FBIが単なる捜査機関を脱し、情報と捜査を連携させたテロ対応型の組織に衣替えする必要性を強調した。
■同時多発テロ前の主な警告情報■ *いずれも2001年
2月 アリゾナ州の航空学校で教官が生徒(国防総省に突入し死亡したとされるハニ・ハンジュール容疑者)の言動に不審を抱き米連邦航空局(FAA)に通報
7月10日 ビンラディン氏が米国の航空学校でテロリストを飛行訓練させている疑いがあるとしてFBIフェニックス支部(アリゾナ州)の捜査官が中東出身の生徒の捜査を促すメモをFBI本部に送付
8月6日 ブッシュ大統領への定例報告で米中央情報局(CIA)がアルカイダによるハイジャックの危険について説明
8月16日 ミネソタ州の航空学校に通うムサウイ被告をFBIミネアポリス支部が移民法違反容疑で逮捕
8月後半 FBIミネアポリス支部の捜査官がムサウイ被告をテロリストと見てパソコン捜査の許可を求めるがFBI本部は却下
9月10日 大統領の外交政策チームがアルカイダ壊滅を目指す計画書を提出
■FBI捜査官による内部告発書簡の要旨■
2002年5月21日 FBI長官ロバート・モラー様
同時多発テロ前のテロリストの活動証拠について、FBIが取った反応に懸念を抱かざるを得ない。FBI幹部による事実の隠ぺいとわい曲が行われている。FBIミネアポリス支部捜査官たちはムサウイをテロリストと見て、その飛行訓練についての通報に極めて早い時期から対応していた。01年8月15日に移民法違反容疑(不法滞在)で拘束する決定をしたのは、その脅威に対抗するための計画的措置だった。
逮捕から数日後、フランス情報当局はムサウイがビンラディンと関係していることを確認。支部捜査官たちはムサウイのノートパソコンの捜査許可を求めた。(しかし)FBI本部は犯罪の確実な証拠について捜査官たちと論争し、捜査許可の請求を拒否した。同時多発テロ発生後でさえ、FBI本部はテロは偶然の一致だとして、ムサウイのパソコン捜査を妨害しようとした。
テロ直後にFBIの他の人々に経緯を話すと「なぜ本部は故意に捜査妨害したのか」と誰もが尋ねた。そして「本部はビンラディンのためにミネアポリス支部の努力を損なうよう働いている。二重スパイだ」と冗談を言い合った。FBI本部の管理職たちの逃避行動は、後に決定が間違いだと判明した場合にキャリアに傷がつくことを恐れているからだと私たちは推測した。
コリーン・ローリー