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石油をめぐるロシア対サウジの最終決戦−エネルギー安保の分水嶺
The Battle for Energy Dominance
エドワード・L・モース/前米国務副次官補(国際エネルギー担当)
ジェームズ・リチャード/ファイヤーバード・マネジメント社ポートフォリオマネジャー
●「ロシア対サウジアラビアの抗争」
世間はアメリカの対テロ戦争にばかり気を取られているかもしれない。しかし、対テロ戦争と同じくらい重要な長期的意味合いを持つ、もう一つの抗争が水面下で密かに展開されている。それは、サウジアラビアとロシアという世界の二大原油産油国が、エネルギー支配をめぐって繰り広げている抗争だ。この抗争の行方が世界経済に大きな衝撃を与えるのは間違いなく、アメリカのエネルギー安保、ロシアの世界での役割、サウジアラビアの今後の世界での重要性、OPEC(石油輸出国機構)の影響力のすべてが、その行方によって左右される。
世界の二大産油国による抗争は予期せぬ形で唐突に具体化した。ロシアはこの二年間にわたって、年ベースで日産五十万バレル近くを直実増産しつづけ、世界の産出増を最も強く牽引してきた。一方、サウジアラビアとOPECのパートナー諸国は、世界経済の低迷によって石油需要が停滞するなか、一日あたり三百五十万バレルの減産に踏み切り、二〇〇二年一月には、原油価格の崩壊に歯止めをかけようと、さらに日産百五十万バレルの減産を決めた。モスクワも少しは歩調を合わせ、形ばかりの減産は行ったが、OPEC側は、ロシアはカルテルの裏をかく形で、利益を手にしていると状況を不快に感じている。
ロシアと旧ソビエトの後継諸国にとって、日産五十万バレル程度なら長期的に増産体制を続けても問題は生じない。一方で、こうした増産のあおりを受ける危険が最も高いのがサウジアラビア、クウェートその他、国際資本の導入を認めていない産油国、つまり、国営の石油独占企業が独占的に生産を行っている産油国だ。ロシアの増産によって危機にさらされる恐れがないのは、主要なOPEC中東諸国地域外で開発を行っている国際石油企業だけである。
OPEC諸国にとって、ロシアの増産はかなりの驚きだった。一九九六年というごく最近まで、旧ソビエト諸国の石油生産は一日あたり七百万バレル程度にすぎなかったし、多くの人々は、ソビエト崩壊前には、ソビエトの国営石油企業が、日産千二百五十万バレルという、国単位では世界最大規模の石油を産出し、世界の石油生産の五分の一を手がけていたことをすっかり忘れ去っていた。当時のソビエトの石油生産は、サウジアラビアの生産がピークに達した二〇〇〇年末の数字よりもさらに三三%も高かった。
だが、ソビエトの崩壊以降、目もくらむような大変化を経験したロシアの石油企業も、いまでは世界市場で活動するプレイヤーとして復活している。改善の余地はまだかなりあるが、ロシアの石油産業の指導者たちは、市場経済体制への移行期直後に見られた悪徳資本家体質を過去へと葬り去ることに成功している。彼らは、法の支配が整備されつつあることを背景に、新たに手にした富を守り、企業の株式上場を受けて金融市場が強いる新たな活動基準を満たそうと試みている。その結果、ロシア企業も、いまでは獲得した収益の多くを直ちに再投資に回している。民営化に成功したおかげで、いまやロシア企業は世界の石油産業でこれまでにない重要な地位を手にしつつある。